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Element Magic Trinity

作者:緋色の空
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騎士と武士


「ティア嬢には、世界の破壊さえも願えるような力があるという事だ」

“天秤宮”パラゴーネはそう言った。
いろいろあって共に行動しているグレイとパラゴーネは、デバイス・アームズに見つからずにカトレーン本宅に行ける隠し通路を目指している。勿論、迷宮が壊れないと本宅には行けないが。
通路を目指す道中、グレイは血塗れの欲望(ブラッティデザイア)と(ここにいる事を彼は知らないが)災厄の道化(ミスフォーチュンクラウン)、そしてシャロンの企みを尋ねる。
そして、返ってきたのはこの答えだった。

「オイ、それって・・・」
「唯一安堵可能なのは、“願う”権利は巫女1人につき1回のみという点だ・・・その1回で何を願うかによっては、危機なのに変更はないのだけれど」

淡々と呟き、足を進める。
コツ、コツ、とブーツの音が二重に響く。

「私達はティア嬢を捕獲し、カトレーン一族の為に願わせる計画を立てていた。そして――――――願う権利を失ったティア嬢を、殺害する」
「!」

シャロンはティアを出来損ないと呼んだ。
唯一、願う権利を持つ事だけが救いだったのだろう。
が―――――シャロンからすれば、願う事が出来なくなった出来損ないなど、ただ使えないだけ。
だから殺す―――――という訳だ。

「3時間後・・・いや、正確には1時間47分51秒後に願う為の儀式が始まる。だからお前達に与えた猶予は3時間だった。儀式が終わり次第、ティア嬢はシャロン様によって殺害される」
「なっ・・・」

グレイは目を見開いた。
名家の当主が自らの手で孫を殺すとは思わなかったのだ。
しかも、あのシャロンは自分の手は汚さない主義に見える。
グレイの表情に気づいたのか、目も向けずにパラゴーネは口を開く。

「発言しておくが、シャロン様が係累を殺害するのはティア嬢が初めてじゃない。私が感知する限りでも、既に2人殺害しているぞ」
「2人!?どうなってんだ、あのばーさん!」
「それについては同意見だ」
「・・・」
「何だ」

サラリとした衝撃発言に更に目を見開くグレイ。
軽く頷くパラゴーネは、グレイがじっとこっちを見ている事に気づいて、目線を逸らす。

「いや・・・闇ギルドの奴って、誰が誰を殺そうが平気だーって感じがしてたからよ」
「それが強半だな。だけど、私は誰かを殺害したりしない」
「そうなのか?」

首を傾げたグレイを、パラゴーネは心外だと言いたげに見る。

「私はウルの弟子になる事を所望としてきた。が、私が誰かを殺せば、ウルは人殺しを弟子にした事になるだろう?それはウルの顔に泥を塗る、という事だ。失礼極まりないではないか」
「あ・・・なるほど」

不機嫌そうに眉を寄せるパラゴーネ。
答えに頷きながら、グレイは話が脱線している事に気づいた。

「で?シャロンが殺した2人ってのは誰なんだよ。クロスとクロノ、とか言わねーよな」
「肯定する。クロス殿は兄弟姉妹の中で唯一“正式なカトレーンの人間”であるし、クロノヴァイス殿は愛人の子ではあるが、評議院で隊長を務める立派なお方だから」

そういやアイツ、第一強行検束部隊の隊長だったか、と思い出す。
膨大な書類から逃げるようにギルドに来ては部下に連れ戻される、という光景ばかりを見ている為、どうやっても隊長なんて重要なポジションにいる奴には見えない。
ティアの話では部下から慕われているらしいが・・・。

「・・・ホントに慕われてんのか?アイツ・・・」
「ん?」
「いや、何でもねえ」

思わず呟きが零れた。
小さな声だったが、はっきりと聞こえていたのだろう。
パラゴーネが不思議そうな表情で首を傾げる。
それを適当にはぐらかすと、パラゴーネは先ほどの話を続けた。

「問いはシャロン様が殺害した係累2人は誰か、というモノだったな」

聞かれ、頷く。
塔の外から、鉄同士がぶつかる音やら銃弾が放たれた音や火薬のニオイがする。
そのニオイが嫌なのか、少し顔を顰めるパラゴーネは、2人の名を口にした。

「アスール殿と、セリア嬢」
「・・・誰だ?」

その問いに、パラゴーネは少し答えるのを躊躇う。
が、溜息を1つ吐くと、続けた。





「ティア嬢とクロス殿の御両親、クロノヴァイス殿の父君だ」













「刀が血を吸収している!?」

ムサシの愛刀、妖刀・村正が、赤い刀身を輝かせる。
その輝きが増すにつれ、エルザの斬撃によって流れる血が村正へと漂い、吸収されていく。

「ふぅ・・・まあ、このくらいにしておくか」
「お前・・・」

小さくよろめきながら、ムサシは村正を構える。
元々赤かった刀身は赤みを増し、光を受けて煌めいた。

「オレの妖刀・村正の秘技、“紅喰らい”。所有者の血を吸収する事で効果を発揮する」
「随分危ない手だな。ヘタをすれば出血多量で死ぬ恐れもある」
「だから自分から血を与える事はしない。相手の攻撃を受け、血が流れた時のみ発揮するんだ」

口角が上がる。
黒羽の鎧を纏うエルザが、剣を構えた。
ムサシも村正を構え―――――蹴る。

「!」

エルザは目を見開いた。
ムサシとの距離はそれなりにあったが、一瞬のうちに距離を詰められていたのだ。

(速い!)

村正が横一線に振られるのを視界の片隅に入れ、エルザは“飛翔の鎧”に換装する。
そこから後方へと跳び、村正を回避した。
右脚を床につけ、飛び出す。

「飛翔・音速の爪(ソニッククロウ)!」
「“連”!」

飛翔の鎧の素早さを生かした高速斬撃を、ムサシは村正で防いていく。
もちろん全ては防ぎきれず、頬や腕に切り傷が生まれ、血が流れる。

「“紅喰らい”!」

それを視界に入れたムサシが叫ぶ。
流れる血は皮膚を伝わず宙を舞い、紅刀へと吸い込まれる。
刀身が輝き、赤みを増し、徐々に切れ味を増していく。

「“斬”!」
「うああっ!」

鋭い一閃。
至近距離で攻防を繰り広げていた為回避出来ず、エルザは痛みに表情を歪める。
その姿が光に包まれ、エルザは“天輪の鎧”へと換装した。

「天輪・循環の剣(サークルソード)!」

舞う剣が、回転しながらムサシを狙う。
が、ムサシは慌てる素振りも見せず、ただ静かに村正を構えた。

「村正二刀・・・」

赤い刀身から光が放たれる。
その光は刀へと形を変え、ムサシの左手に収まった。
二刀を構えるムサシは、その場でくるりとターンする。

「“壁斬(へきざん)”!」

ターンしながら、刀を振るう。
目で追えないほどの速度で刀が振られ、循環の剣(サークルソード)を叩き落としていく。
結果、剣は1本も当たらずに全て床に突き刺さった。

「当たっていない!?」
「一刀、“斬”!」
「くっ」

ブォオン!と空気を切る音と共に、村正が振るわれる。
それをギリギリで避けながら、右手に持っていた剣でムサシの左肩を斬り付けた。

「“紅喰らい”」

血が宙を舞う。
赤い刀身が輝き、吸い込まれる。











「召喚―――――炎の投曲芸(ブレイズ・ジャグリング)!」
「ヴェルハルト、避けて!」
「グルアアッ!」

“処女宮”フラウの召喚魔法、三日月曲馬団(クレセント・サーカス)
それによって、炎に包まれたピンやボール、ナイフがサルディアと、彼女が召喚する飛竜(ワイバーン)のヴェルハルトへ襲い掛かる。
サルディアの声でヴェルハルトはそれを回避し、サルディア自身もすぐさま回避行動をとった。

「ふぅん・・・召喚系の魔法を使う人って術者が貧弱なコトが多いけど、貴女は違うみたいね?」
「貧弱じゃ、主も守れないからね。こう見えても、打撃系武器の扱いは得意だよ」

打撃系武器―――――所謂“ハンマー”。
サルディアはエルザやクロスのように換装系の魔法を使う訳ではないし、普段持っていると大きいし重いし邪魔なので、装備している事は少ない。今も持っていない。
が、ハンマーは基本的に重い為、それを持つ為のそれなりの力はある方だと自負している。

「フラウちゃん、だっけ。そこ、退く気になってくれた?」
「残念ね。私はここを退く気はないわ。さっきも言ったけど、倒れでもしない限りは」
「そっかぁ・・・それじゃあ、仕方ないね」

残念そうに俯くサルディア。
その右手が小さく動き、ヴェルハルトの足元に魔法陣が展開する。
ヴェルハルトは魔法陣に吸い込まれ、消えた。
フラウの顔から、笑みが消える。

「・・・どういうつもり?まさか、退いてもらえないからお終い、とか言わないでしょ?」
「当然だよ。私はこんなトコで終わってられないんだから」

サルディアの顔に、笑みが浮かぶ。
それと同時に、床に現れる魔法陣。
そこから、飛竜(ワイバーン)が現れる。

「あんまり時間をかけたくないの。だから―――――この子に任せる」

サルディアの言う“この子”は、黒い鱗を持っていた。
黒い鱗に銀色の複雑な模様が走り、鋭い爪は先端だけが赤く塗られ、僅かに開いた口から、低い声と吐息が零れる。
ゆっくりと開かれた瞳の色は――――――赤。

「力を貸して!召喚―――――」

相棒、というには少し違う存在。
唯一無二の、強いて言うならば親友のような。
迷いも躊躇いもなく、サルディアは叫ぶ。




「アイゼンフロウ!」




呼ばれたのは、黒飛竜アイゼンフロウ。
飛ぶのは上手くないが防御力の高いクエレブレという種族と、高速で飛ぶ風の飛竜(ワイバーン)ティフォーンという種族の混血―――――通称クエレフォーン。
クエレブレの防御力とティフォーンの高速飛行、両者の長所だけを得た、サルディアの唯一無二の友にして最強の飛竜(ワイバーン)が、戦場に放たれる。












「あぐっ!」

ムサシの斬撃が、エルザの右肩に直撃した。
痛みを堪えながら剣を振るうが、軽い動きで避けられる。

「“紅喰らい”によって村正は威力と切れ味を増す。そんな鎧では防げない」

天輪の鎧は、翼の部分が壊れていた。
籠手やブーツ、ガントレットもヒビが入ったり壊れたりしており、もう戦えないのは明らかな状態。
傷だらけになりながらエルザは立ち上がり、その身を光で包む。

「雷帝の鎧!」
「無駄だ」

緋色の髪を三つ編みに結わえ、槍を構える。
雷属性の魔法に対して耐性を持つ雷帝の鎧に換装したエルザは、両手で槍を構え、鋭い突きを繰り出した。
が、ムサシはそれに対して変わらず村正を構え、一閃。

「ああああああっ!」

凄まじい速度で5連続。
その攻撃によって槍が壊れ、鎧も破損する。
床を転がりながら、エルザは普段着として着ている鎧を纏った。

「うっ・・・ぐぅっ・・・」
「諦めろ。“紅喰らい”を5回行った村正に勝てるほどお前は強くない」

体中が痛む。
小さい呻き声をあげながらも、エルザは立ち上がろうとする。

「・・・まだ戦うつもりか。もう勝敗は決まったも同然だろう」

呆れたようにムサシが言うが、確かにその通りだ。
ムサシも傷を負ってはいるが、血が流れてしまえば村正に吸収させる。血を吸収すれば村正は強くなる。
一方エルザは村正のような武器はないし、ウェンディやルーの様に回復系の魔法が使える訳でもない。
力を増す事が出来る武器と、力の変わらない武器や鎧・・・勝敗は見えていた。

(奴の言う通りか・・・煉獄の鎧も破損中、“あの鎧”を纏う程の魔力もない・・・)

エルザの持つ鎧の中でも最強クラスの煉獄の鎧。
楽園の塔にて斑鳩に破壊され、未だに修理が終わっていないのだ。
もう1つ、勝てそうな鎧はあるが、それを纏う程の魔力が残っていない。

(ここまでか・・・)

一瞬、敗北を考える。
――――――だが。

(いや・・・諦めるものか・・・)

それは文字通り、一瞬の事。
ぐぐぐ・・・と力を込め、立ち上がる。
その目に闘志を宿して、不屈の精神で。

(皆が戦っている・・・それなのに、私1人が諦めるなど・・・)

光を纏う。
緋色の髪がポニーテールに結わえられ、体に黒い鎧を纏う。
両手で1本の剣を構えるエルザは、鋭くムサシを睨んだ。

「黒羽の鎧・・・一撃の破壊力を増加させる鎧か」

呟いて、村正を構える。
お互いが、お互いを睨む。
ムサシは目隠しをしている為、睨んでいるのか解らないが。






――――――どこかで、小さな音がした。






それを、合図に。
2人は、同時に駆け出した。

「ハアアアアアアアアアアアッ!」
「オオオオオオオオオオオオッ!」

エルザの剣が、動く。
ムサシの刀が、これで終わらせてやると言わんばかりに血を吸収した。
そして―――――――






「黒羽・月煌(げっこう)!」


「一刀・紅雨(こうう)!」






最後の一撃が、炸裂した。
言葉では表せないような一撃。
2人の立ち位置が入れ替わり、お互いに背を向け合う。

「・・・ぐあっ!」

先に動いたのは、エルザだった。
ブシュッ!とその右腕から血が流れる。
―――――――が、それは動いただけ。

「か、はっ・・・!」

先に倒れたのは―――――ムサシだった。
その手から村正を落とし――――――ドサリと、倒れ込んだ。











「シャロンが、ティアとクロスの親を殺した・・・!?」

エルザとムサシの戦いに決着がついたのと同時刻。
グレイとパラゴーネは長い廊下を走っていた。
こくっと頷いたパラゴーネは続ける。

「あの方はそういう方だ。自分の思い通りにならない者を厭い、係累であろうと殺害する。だからカトレーンの人々は、シャロン様に見限られる事を何より畏縮する」
「クロスから聞いてはいたが、身内殺すとか最低だろ!」
「同意する。が・・・シャロン様の意は絶対。抗命は不可能・・・というか、抗命しようとさえしない」
「はあ!?何でだよ!」

思わず声を荒らげる。
少し怖かったのか、パラゴーネはびくっと体を震わせた。

「・・・悪ィ」
「問題ない。続行するぞ」

頷く。
それを確認したパラゴーネは口を開いた。

「何故抗命しようとさえしないか・・・殺害されるから、だろうな」
「逆らえば殺されるから、って事か?」
「肯定する。自分が危険に陥るくらいなら被害を最小限に抑塞するんだ。だから、1人が被害を受け続ける」

その1人が、ティアだった。
誰にも助けてもらえず、ずっと1人で被害を受けてきた。
それはきっと暴力的な事ではない―――――精神的な面で、だろう。
だから、ティアはまず人を疑う。簡単に人を信じないし、長い間同じギルドで過ごすメンバーにさえ心を開かない(その分、ヴィーテルシアは異例だと言える)。
単独行動を好むのもそれ故で、誰かの力を頼ろうとしないのも、きっと。

「・・・ひでえ話だ」

無意識のうちに、グレイは呟いていた。
彼女のあの性格は、生まれ持ったものではなかったのかもしれない。
昔から誰にも助けてもらえず、救済を願っても届かず、ただ1人で抱え込むしかなかったのだろう。
だからこそ、誰かに頼る事を知らずにここまで生きてきた。
1人で生きる術を幼い頃から叩き込んで、極力人と関わるのを避けてきた。
もし、もしも、周りのティアに対する扱いが違っていたら―――――――。

「ティア嬢への扱いが違っていたら・・・ティア嬢も、変わっていたのかもしれないな」

グレイの思考を読み取ったように、パラゴーネが呟いた。
紅蓮の瞳は伏せられ、辛そうに表情を歪めている。

「!」

ぽすっ、と。
パラゴーネの頭に、グレイの手が乗せられた。
目線を上げると、微笑むグレイがパラゴーネを見つめている。

「・・・何だ」
「いや、お前って意外といい奴なんだなーと思ってさ」
「むぅ」

パラゴーネが小さくむくれた。
不機嫌そうに眉を顰める。

「意外は余計だぞ、師匠」
「お前の師匠になった覚えはねーぞ」
「私が気随に呼ぶだけだ。構うな、師匠」
「いちいち師匠ってつけなくていい。つか師匠って呼ばなくていいって」

ツッコむが、パラゴーネの師匠呼びは変わらない。
はぁ、と溜息をついて、グレイは諦める事にした。
変な所で意地っ張りなパラゴーネは折れないだろうと判断した為である。

「師匠」
「何だよ?」
「・・・返事をしてくれて嬉しいぞ」
「あーはいはい」

嬉しそうに微笑むパラゴーネを適当にあしらう。
それに少し不機嫌そうな表情になったパラゴーネは、ふいっと顔を背け口を開く。

「先ほどの、アスール殿とセリア嬢の件だが」
「!」

ティアとクロスの両親、クロノの父親。
パラゴーネはその2人の名を口にし、続ける。

「あの御二方は、シャロン様に殺害された」
「それは知ってる」

先ほど、パラゴーネがそう言ったのだから。
そう返すと、パラゴーネは躊躇うように瞳を揺らした。
その足が、止まる。

「パラゴーネ?」

足が止まったのに気づき、グレイも足を止める。
俯いたパラゴーネは、ゆっくりと呟いた。
―――――グレイを驚愕させる、一言を。




「あの御二方は―――――ティア嬢を殺害しようとして、シャロン様に殺害された」 
 

 
後書き
こんにちは、緋色の空です。
過去編が長い・・・敵もようやく減ってきた・・・。
くそぅ、このペースじゃ余裕で1年かかりそう・・・。
ペースアップしなければ!
・・・と思いながら先が進まない今日この頃です。

感想・批評、お待ちしてます。
次回はサルディアVSフラウかなー。
そろそろ究極のお姉ちゃんっ子も動き出す?

・・・最近いいサブタイトルが付けられないぃ・・・。 
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