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ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~

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DAO:ゾーネンリヒト・レギオン~神々の狂宴~
  第一話

 
前書き
 今回の話から今まで出番が完全に消えていたキャラたちがやっとこさ登場し始めます。あ、一応アリシ編が終わっている設定です。アリシ編はWeb版の設定を使っているので、もしかしたら今後の文庫版と相違が出てくるかもしれません。……ほとんど出てきませんがね、アリシ編関係の話し。 

 
「ぐ……ぁ……」

 本来ならばALOの世界で与えられるはずのないリアルな痛みに、キリトはうめき声を上げる。《ヨツンヘイム》の上空ダンジョンで手に入れた黄金の剣《聖剣エクスキャリバー》は傷つき、リズベットに鍛え上げてもらったもう一本の剣はすでに粉々のポリゴン片へと砕け散ってしまった。

 妖精郷(アルヴヘイム)の夜空は、鮮血の様な赤に染まっている。かつてエクスキャリバーの獲得クエストに失敗したら、《ラグナロク》が引き起こされるかもしれないと言っていたのは、いまやキリトとアスナの《娘》として存在するAI、ユイだ。今の夜空は、まさしく世界の黄昏が訪れた、といっても過言ではないだろう。

 永久に破壊されない《破壊不能(イモータル)オブジェクト》であるはずの背景は見る影もなく破壊され尽くされ、いたるところで炎が燃え盛っている。妖精郷の戦士たちの亡骸が、そこかしこに散らばっている姿も、世界の終わりを予見させた。

 そう、亡骸が残っているのだ。ほんらいならばALOでは、HPがゼロになったら《エンドフレイム》となってアバターは消え去るはずだった。だが、今のALOではアバターが消えない。しばらくたてば消滅し、以前と同じように復活するのはすでに分かっているが、しかしすぐにエンドフレイムとならずに肉体が残るのは、動かせないからだが1つ出来上がることであって、ぞっとするものがある。

 《アルヴヘイム・オンライン》は、ありとあらゆる全てを破壊され尽くされていた。世界樹《イグドラシル》ですらもその崩壊からは免れえない。世界樹がその葉を枯らし始めたのは、いつのことだっただろうか。

 それらありとあらゆる異常を、たった一人の少女が率いる軍勢が引き起こしたのだ。

 世界樹の頂点に、巨大な影が見える。大きなクマにも見えるその悪魔の腕に座っているのは、白いワンピースに、真っ白い髪、片方が緑でもう片方が()()色の眼をした、十二歳ばかりの外見の少女だった。スカートの部分が破れた様な装飾になっているため、幽鬼めいた印象のある少女だ。その周囲では、黄金のガイコツ兵士たちがあくせく働いている。

 彼女はこの世界に来た時、《エインヘルヤル・イクス・アギオンス・レギオンルーク》と名乗った。『エインヘルヤル』とは、北欧神話に登場する、主神オーディンの命によってワルキューレたちがあつめた、永遠の兵士たちのことだ。

 その名に違わず、彼女の率いる黄金のガイコツ達は、その一体一体がまるでかの浮遊城アインクラッドのボスモンスタークラスに強力だ。

 一週間前、全世界に同時に、《ノイゾ》と名乗る少女によって宣戦布告がなされた。レギオン《白亜宮》を名乗る彼女たちは、世界中のVRワールドに出没し、それらを蹂躙し出したのだ。ALOの惨状は特にひどく、また、エインヘルヤル自身も相当に強力な存在である。彼女が初めて姿を現したその日、キリトは仲間たちと共に、エインヘルヤルに挑んだ。

 結果は――――惨敗だ。彼女が何事かを口にすると、背後にあの巨大な熊の悪魔が姿を現し、その権能を発揮したのだ。その能力によって、キリト達はまるで重力を余分に押し付けられたかのように動けなくなり、その隙に次々と倒されていった。

 エインヘルヤル自身の物理攻撃能力は、外見の通りあまり高くないようだ。だが、問題は彼女の下が得させる悪魔。その剛腕からの一撃は、圧倒的なパワーを持ってキリト達を粉砕した。それだけではない。今はあの黄金のガイコツ軍団が彼女を守護しているため、キリト達はエインヘルヤルに近づくことすらできないのだ。

 今日も、黄金のガイコツ兵に吹き飛ばされたところである。あの敗北から、ほぼ毎日のようにガイコツ兵に挑んでいるが、いまだ一度も勝つことができない。今日にいたっては、剣まで破壊されてしまった。

「くそ……っ」

 思わず悪態が口をついて出る。

 アンダーワールドを守りきったことで、VR世界を守ったと思っていた。あの世界で、自分は何か一つ突き抜けた、と思っていた。だが、現実はどうだ。大切なVR世界一つを守れていないではないか。

「くそっ、くそっ、くそっ……」

 ガン、と、地面に自分の頭を叩き付ける。それで、頭が少し冷えたのか。多少冷静に考えることができるようになった。

 アンダーワールドで出会った親友は、何といったのか。君は、何度だって立ち上がれる。そう言ったではないか。

 ならば、彼の為にも、立ち上がるのだ。屈してはいけない。

「俺は――――《黒の剣士》キリトだから」

 キリトはエクスキャリバーを握ると、それを支えにして立ち上がる。見上げるのは、世界樹の頂上。純白の死者の支配者が待つ、偽りの玉座だった。


 ***


 《ガンゲイル・オンライン》のみならず、ほぼすべてのVRゲームにおいて、空気という感覚はほとんどない。そのため、呼吸をしたところでそれによる空気の乱れで気配を察知されることはほとんどないと言っていいだろう。

 それでも、『奴ら』にもそれが通用するとは思いづらくて、シノンは息を止めたまま動けない。

 GGOを惨劇が襲ったのは、丁度一週間前。第六回BoBが行われている最中だった。今度こそ自分の力だけで勝利を手にするために参加したシノンは、ゲーム内であの宣言を聞いたのだ。

 《ノイゾ》と名乗った少女による、レギオン《白亜宮》を名乗る組織の、VRワールド侵攻。その言葉に違わず、わずか数分後に、BoBの大会に何者かが乱入してきた。

 それは、たった二人の少女だった。

 片方は、水色がかったSFチックなデザインのパーカーを羽織る、金髪をポニーテールにした少女。強気な顔に、銀色のこれまたSFデザインのレーザーガンを備えていた。シノンはかなり古参のプレイヤーだが、あんな装備は一度も見たことがなかった。

 もう1人は、黒い長い髪と、全体的に赤いデザインの和服めいた服装の少女。武器はこの世界には存在しないはずの、《刀》。

 突如姿を現した二人は、あっさりとBoBのフィールドを蹂躙した。破壊不能のはずのオブジェクトすら粉々に吹きとび、切り裂かれ、プレイヤー達は瞬く間に全滅した。

 だが、BoBは終わらなかった。BoB決勝戦のフィールドはそのまま維持され、二人はそこを支配し始めたのだ。BoB決勝戦参加者約三十名あまりは取り残されたまま、この一週間、ログアウト以外のほぼすべての行動をとれないでいる。ログアウトしたまま帰ってこないプレイヤーも多い。ログアウト後に再ログインしてもこのフィールドに戻されるだけなのはすでに確認済みだ。

 リアルで調べたところ、GGO本来のフィールドでも、このように異変が起きているらしい。ロボットめいた異様に強い謎のクリーチャーが姿を現し、プレイヤー達を蹴散らしているとの事だった。

 恐らく、GGOの悲劇の元凶は、あの二人組だ。誰かが彼女たちに勝負を仕掛けてくれるのを待つ、という手もあるが、それでは一向に解決の兆しは見えないだろう。何より、シノンは誰かに頼ってずっと待っている、というのが嫌いだった。

 ここ数日で、かなり彼女たちの情報を集めた。

 まず、彼女たちはやはり仲間であるという事。

 次に、彼女たち自身の仲はそこまで良いわけではなさそうだという事。

 その次は、彼女たちの名前。金髪の方が《シャルルフォンシャルロッテ・イクス・アギオンス・サーティシックス》、黒髪の方が《サクリファイス・イクス・アギオンス・サーティセブン》という名前らしい。何か機械めいた口調で、報告の様なものを相手ではない誰かへしていたように見えた。あのノイゾという少女だろうか。シノンの見立てでは、彼女は表向き今回の主犯のようだが、その上に何者かがいる可能性があった。彼女は『私はレギオン《白亜宮》の一員』といったのだ。もし彼女がその《白亜宮》とやらのリーダーなら、『《白亜宮》のリーダー』だとか『王』だとかそう言う言い方をしそうなものである。

 あとは彼女たちの隙をついて、倒すだけ。彼女たちの強さは初日の襲撃の際にすでにいやというほど知っている。初撃で仕留めるしかない。

 実行に移す時を待ちながら、シノンは再び息をひそめたのだった。 
 

 
後書き
 今回は比較的短め。数か月ぶりのキリト君登場と、シノンちゃん初登場。
刹「GGO編完全に飛ばしましたもんね」
 銃とかよく分かんないからねぇ。忠実に従うの苦手なんだ。

 そんなわけで
刹「次回もお楽しみに」 
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