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いがみの権太  〜義経千本桜より〜

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第三章


第三章

「権太の奴、どうしてるんだかな」
「相変わらずらしいな」
「相変わらずか」
「ああ、相変わらずだってな」
 その権太という者のことも話されていく。
「相も変わらず酒に博打にな」
「あと女か」
「勘当されてもそんな調子だよ」
 とりあえずこの権太は好意は持たれていないことがわかる。
「遊んで迷惑ばかりかけてな」
「昔からそんな奴だったけれどな」
「ありゃどうしようもないな」
 評判はこういった有様だった。
「たまに帰って来たらおかみさんから金せびってるしな」
「そんな奴は早く死んじまえばいいんだけれどな」
「全くだぜ」
 こうした話が為されるのだった。そうしてそんな時に店の中ではその弥助がお里と共に店仕舞いにかかっていた。しかしそこにある者がやって来た。
「よお、久し振りだな」
「えっ、兄さん!?」
 お里は彼の顔を見て思わず驚きの声をあげた。可愛らしい顔が彼の顔を見たことで強張ってしまった。見れば小金吾に絡んでいたあの男だ。
「どうしてここに」
「どうしたもこうしたも御前には関係ねえよ」 
 顔を強張らせる妹に対して悪びれず返す。
「それよりだ。そっちの若いのよ」
「私ですか?」
「あ、そうだよ」
 弥助を見ての言葉であった。
「あんたの顔な」
 ここで懐から人相見を取り出しちらりと見る。それからまた弥助の顔を見て確認する。そうして納得した顔でにんまりとするのだった。
「やっぱりな」
「やっぱり?」
 弥助は穏やかな調子で彼に返した。
「何かあったのですか?」
「いや、別に」
 弥助の問いには答えなかった。
「何もないさ。それより親父は何処だ?」
「お父さんがどうかしたの?」
「親父がいたら何かと面倒だからな」
 ふてぶてしい調子で妹に返すのだった。
「だから聞いたんだよ」
「勘当されたのは兄さんが悪いんじゃない」
 お里は怒ったような声で兄に返した。
「だからそんなにこそこそとして」
「悪いのかよ、それがよ」
「どうせあれでしょ?お金でしょ」
 今度は忌々しげな調子であった。
「お金が欲しくて来たんでしょ」
「へっ、御前には関係ねえ話だよ」
 やはり悪びれたものであった。
「わかったら早くお袋呼んで来い。いいな」
「そんなことばかりしていたらそのうち罰が当たるからね」
 そうは言っても弥助と共に店の中に入り母親を呼ぶお里であった。それから暫くして兄は金を受け取り意気揚々として店を後にしようとする。ところがであった。
 不意に物音が聞こえた。それで慌ててその受け取った金をそこにたまたまあった酢桶に隠すのであった。そうして彼自身も物陰に隠れる。すると店に戻って来たのはあの老人であった。 彼は店に入るとすぐに辺りを見回した。幸い誰もいなかった。それを見届けると懐から何かを取り出し酢桶の中に隠してしまった。それが終わるとすぐに弥助が店の中に戻って来たのだった。
「これは維盛様」
 彼は弥助の姿を認めると恭しく一礼してから述べた。
「どうされたのですか?」
「弥左衛門、その名はここでは」
 弥助は維盛という名前を出されると警戒する顔になって彼に告げた。
「何時何処に源氏の者が」
「それどころではないのです」
 しかし弥左衛門はそれでも恭しい態度を崩さず言うのだった。
 
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