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落ちこぼれの皮をかぶった諜報員

作者:木偶の坊
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 後日談 あいつの分まで……

 
前書き
勇人がその生涯を閉じた後、どうなったのかを書きました。 

 
「やあっ!!」

鈍器を持った男が自分に向かって鈍器で殴りかかってくる。

「よっと」

バキャッ!!

骨が砕ける音が響く。

「があああ!!!」

鈍器が自分の体に触れるより速く、右手にある軽量鉄骨で男を攻撃する。
これなら骨が砕けて当たり前だろう。


「ヒィ……」
「ビビんじゃねえよ!! 頭に鉛玉をぶち込めばこっちのもんだ!!」
男が一喝し、拳銃を構えて自分の頭に標準を合わせる。


「確かに俺だって頭を撃たれればお終いだ。当たればの話だがな」
懐からMK23を取り出し、男が引き金を引く前に発砲する。

ダンッ!!

男の頭には穴が開き、男はそのまま崩れ落ちる。


「隙を見せたな!! 化け物!!」
「――!」


後ろから声がして振り返るとナイフを持った男が刺そうと右手を振り下ろしてくる。
咄嗟に勇輝は左手をだす。

ザシュ!

左手にナイフが刺さる。

「さ、刺されてるのに……平気なのか……?」
「生憎、大事な神経が何本か取れてるもんでな。安心しろ俺は肉も分厚くてな……骨にすら届いてねーよ」


余裕そうな表情で言いながら、軽量鉄骨を地面に突き刺し、右手で男の首を掴んで持ち上げる。


「ぐあ……離……せ」
「嫌なこった」


右手に力を込める。


ブシャ!!


男の首を骨ごと握り潰す。血が物凄い勢いで吹き出し、体を赤く染める。

「ヒ、ヒィ……ば、化け物……」
「に、逃げるぞ!! こんな奴に勝てるわけなんてないんだ!!」
男たちが背を向け走り出すが――

ヒュン!!

「――!」

男たちは声を上げることも無く……体がバラバラになっていた。

理由は簡単だ。凄まじいスピードで飛んできた物体が当たり、衝撃に耐えきれず、体が千切れたのだ。


「やれやれ、軽量鉄骨で当たった程度で肉片と化すとはな……“裏”もずいぶん落ちたもんだ」



ポタッ……


「ん? 雨か……妙な雨だな」
突然雨が降ってきた。いつもと違う雨が……。

「勇人の奴、大丈夫か?」
ある男を追って自分に背中を預け、先へ進んだ最愛の家族を心配する。
自分を除き、ルール無用の殺し合いなら“裏”でも最上位クラスだ。経験差があるが、相馬にも十分対抗できるはずだ。


「これじゃ、親ばかならぬ、弟バカか……」
笑いながら勇人の通った道を歩く。








「――!!」


歩いていると、突然、何かが消えた感じがした。



(今のは……!!)


勇輝はたった1人の家族のもとへ走り出す。











(アレは――!?)



勇輝が辿り着いた先には……頭と首を刺され倒れている男と……壁を背に……眠るように座り込んでいる少年がいた。



「勇……人……?」


少年に近づきながら、弟の名を呼ぶ。しかし、何も答えない。
少年のすぐ傍へ来て、しゃがみ込み……肩を手で優しく叩く。 しかし、少年は反応しない。


「おい……こんなところで寝ていたら……風邪ひいちまうぞ……」


勇輝は水たまりに浸されている勇人の手を握る。


「………………」


勇人の手は冷たくなっていた。しかし勇輝には分かる。この冷たさは……水に浸ってたから冷たいわけではない……命の灯が消え、命の温もりが消え失せていた冷たさだったのだ。


「勇人……どうして……どうして……死んでんだよ……刺し違えでもしたのかよ……自分が死んじまったら……相手を殺しても意味なんてないだろうが……」


「普通……末っ子は……最後に逝くもんだろう……なんで……兄貴より先にくたばってんだよ……なんで……満足そうに笑っているんだよ……」


勇輝は微笑んで眠っている勇人に抱き着き、涙を流し始める。


「親父や母さんに……お前の事を……「守ってあげて」って言われてたのに……」





昔の記憶が頭をよぎる。






赤子の産声が響く。自分の弟となる子が生まれたのだ。すぐに母さんが抱いている赤子の顔を覗き込む。


「わあ……僕も生まれた時はこんな顔をしていたの?」
「ええ、そうよ……」
「勇輝もとうとうお兄ちゃんだな」
「うん!! 僕がこの子のお世話をする!!」
「ふふ……優しいお兄ちゃんだね……勇人」
母さんが泣き疲れて眠っている赤ちゃんに優しく語りかける。


「ゆうと?」
「そうよ、この子の名前だよ」
「漢字で書くとこうだな。勇輝の勇と同じだ」
父さんがペンと紙を取り出し、何かを書いて見せてくれる。


「ほんとだ……最初の字がおんなじだ……」
「それより、勇輝はこれからは大変だよ? 勇人を守ってあげないといけないんだから」
「うん!! 約束する!! 勇人は僕がずっと守ってあげる!!」
「ほんと? じゃあ、勇人と指切りをしないとね」
「うん!!」


眠っている勇人のとっても小さい小指に自分の小指を引掛ける。


「指切りげんまん嘘ついたら針千本飲ーます、指切った」


優しく上下に振りながら唱える。


「よかったね、勇人……お兄ちゃんが守ってくれるってさ……ゴホッ! ゴホッ!」
「母さん!?」
「もう休め、勇人を産んで疲れてるんだから」
「そうね……そうさせてもらうわ……お休みなさい」


そう言って母さんは微笑みながら勇人を抱いたまま眠った。


そして…………母さんが目を覚ますことはなかった。









「約束も守れずに……ごめんなぁ……勇人……ダメな兄貴で…………」


MK23の銃口を頭に当て、引き金に指を掛ける。


「…………」


目を瞑り引き金を引こうとした瞬間――


誰かに後ろから抱きつかれた。


(誰だ……? それに……温かいな……)


『兄さん……僕の分まで……生きてね』
「――!? 勇――」


勇人の声がして、振り返ると温もりは消え、声の主はいなかった。



「…………」



勇輝は立ち上がり、勇人の体を壊れ物を扱うかのように優しく持ち上げる。


「そうだな……ちゃんと、お前の分まで生きないとな……」




暗い裏の世界から明るい世界へ歩き出す。

















「勇輝……勇人……」
「よう……武敏」


路地を抜けるとよく知った顔が待っていた。


「勇人は……」
「ああ、帰ったよ。親父と母さんのところへな……それより……“裏”は?」
「ああ、もうじき消えるさ……何人か逃がしちまったがな……」
「そうか……まあ、残党の殲滅には俺も手を貸す。勇人も……そうしただろうからな」
「すまない……助かる……」
「いいって事よ……だが、その代わり……頼みがある」
「なんだ?」
「勇人を……きれいな景色が見える所に埋めてほしい」
「……分かった」
「頼む」

武敏に勇人の体を預け、俺は立ち去って行った。












「あ、勇輝さん……」
「ん? よう、香里」


クラスメートの立川香里、衛生科Aランクにして秘蔵っ子だ。衛生武偵は、現場で治療を施した相手に事後で高額な請求をすることができるが、彼女は高額な請求は一切しない。金をとるにしても働いていれば十分稼げる額しか請求しない。おまけにAランクなだけあって腕もいい。噂によればSランクにも届きそうとか……


「怪我してるじゃないですか……ちょっと見せてください!!」
「お、おい、ちょっと、俺は今無一文だぞ」
「請求なんてしませんから!!」
「それなら安心だ」

「あ……左手……刺されたんですか?」
「ああ、でも、痛みなんぞ感じねえから大丈夫だ」
「ちゃんとケアしないとだめです!! 傷口から菌が入ったら大変なんですよ!」


鞄から救急箱を取り出し、中から消毒液と綿棒を取り出す。


「ちょっと痛いかもしれないけど我慢してくださいね」
「はいよ」





「うん。後は包帯を巻いて……」
包帯を取り出し、丁寧に巻いてくれる。


「一応、応急処置はしましたけど、念のため病院で見てもらってくださいね」
「ああ、面倒を掛けたな。今度お返しでもさせてもらうよ」
「いいえ。私が好意でやったことですから……」
「そうか……んじゃ、またな」
「はい。お大事に」


香里と別れ、寮へ戻った。




プルルルルッ!

「ん? 武敏か」





「どうした?」
『明日、補修があったよな?』

 
そういえばあったなそんなもん。


「あるけどどうした?」
『学校行く前でも補修が終わった後でもいいから店に寄ってくれ。渡したいものがある』
「渡したいもん? なんだそりゃ?」
『とりあえず明日だ』
「お、おう。じゃな」
『ああ』









翌日――




「渡したいもんってなんだ? まあ。いってみりゃあ分かるか」


ガチャ



「おーい、武敏、来たぜ」
「ああ、渡したいものは2つある。いや、1つは頼みだな。届けてほしんいんだ」
「届け物なら運送会社にでも頼めよ」
「まあ、そう言うな」
「まず1つ、これを武偵病院に入院している石川っていう奴に持って行ってほしいんだ」
「石川?」

 
(確か強襲科でいたな。そんな奴)


「ああ、石川は勇人が中学の時からの友人でな。“裏”を出たばかりの勇人の面倒を見てくれた奴だ。勇人が亡くなったなんて言えるわけないだろう? 勇人からの差し入れってことで持って行ってやってほしいんだ」
「分かった。勇人が世話になったんなら礼ぐらいは言わないとな。で、あと1つは?」
「ああ、これだ。開けてみろ」


武敏から丁寧に紙に包まれた物を受け取り、紙を開いてみる。そこには……


「これは……」


紙の中から他の誰でもない、勇人が使っていたナイフが出てきた。


「勇人の奴、俺が“表”に出てきた祝いに贈ったナイフをまだ使っていたんだ。要するに、勇人の形見だ。お前が持っていた方が勇人も喜ぶだろう」
「……ありがとな……」
「気にするな。行かなくていいのか?」
「そういえば補修があったな。んじゃ、行くわ」
「ああ」












「やれやれ、本当に勉強なんてものは面倒くさいな。勉強を作った奴には中指を10回ぐらい連続で立ててやろう」



「さてと、石川って奴の見舞いに行かないとな」








病院――



「えーっとここか」

石川雄一とプレートに書かれている病室の戸にノックをする。


「開いてますよ」
「邪魔すんぞ」



「あなたは……空山先輩?」
「よう、石川雄一だっけか?」
「はい。どうしたんですか?」
「ああ、弟の勇人から差し入れを預かっていてな」
「そうですか。わざわざありがとうございます。って弟!?」
「反応遅いぞ」
「す、すみません。でもあいつにお兄さんなんていないはずじゃ……」
「勇人の出身を知ってるか?」
「はい、“裏”で生まれ育ったって……」
「そうだ。離れ離れになってな。つい、この間再開したんだ」
「そうだったんですか……」
「雄一君、具合どうって……空山先輩?」


女子4人が病室に入ってくる。こいつは確か……間宮だったか。


「え? どうして空山先輩がここに?」


こいつは火野だったか……


「あかりちゃん、知り合いですか?」
「お姉さまもご存じなんですの?」
「うん。強襲科の先輩だよ」
「あれ? 俺ってば有名人?」
「まあ、ある意味では……(落ちこぼれだからなんて言えねえよ……)」
「でも、どうしてここに?」
「皆、空山先輩は勇人のお兄さんだ」


「「「「ええええええ!?」」」」


 全員が驚きの声を上げる。


「あ~弟が世話になっていたようだな。礼を言わせてもらおう」
「そ、そんな……あ、勇人君はどうしたんですか!? あのあと、ずっと連絡がなくて……」
「勇人か? (やばい……どうしよう……死んだなんて言えないしな)」
「あ、あいつは追っていた奴を捕まえたんだがあいつも重症でな、今は腕のいい医療機関で治療を受けてるんだ。しかし、後遺症が残るそうでな、もう武偵はできなくなって、ここを退学することになったんだ」
「そ、そんな……でも、良かった。生きててくれて……あの時、本当に心配だったから、本当に良かった……」
「あいつもごめんって言ってたぞ。おっと、俺も行かないと、じゃな」
「はい。わざわざありがとうございました」








病院から出て、少し、散歩をしていると夕方になった。




勇輝はビルの屋上に立って勇人のナイフを取り出し、夕日に向ける。


「勇人、親父と母さんと一緒に……天国から見ていてくれ……必ず……お前の分まで生きて見せるからさ……」


すると、勇人のナイフが返事をするかのように光った。


 
 

 
後書き
あまり長くはしませんが続編をちょこっとやるつもりです。 
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