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落ちこぼれの皮をかぶった諜報員

作者:木偶の坊
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 最終話 勇は眠り、天は泣く 

 
前書き
とうとう最終話です。

と言っても後日談を書く予定なのでこれが最後ではないですが。 

 
相馬と勇人、両者ともに右手にナイフを構える。

相馬が先に距離を詰めてきた。踏み込むと同時にナイフを振るフェイントをいれ、左手で勇人の左腕を掴みにきた。

「!!」

勇人は相馬の掴みに来た左手にナイフを振るう。

しかし、勇人の攻撃に素早く反応し、相馬は左手を引っ込め、右手のナイフで勇人の首を狙うが
勇人はバックステップをして回避する。


「ほう……」


そう口にしたら再び相馬が距離を詰めてくる。


相馬がナイフを振ってくるが勇人は後退しながら相馬の攻撃を躱す。

「はあ!!」

相馬が回し蹴り放ってきたが、勇人はしゃがみ込んで回避すると同時に足を払って相馬の足を蹴る。
相馬がバランスを崩し、後ろに倒れ込むが受け身を取り、すぐに体制を立て直す。
そして、再び勇人へ攻撃を再開した。


(そう簡単に隙を見せてくれないか……)


「……!!」


相馬がナイフで刺そうと構える。


(!! いや、フェイントか……どう来る……?)


勇人が予想した通り、相馬はナイフで刺すフェイントを入れ、突然しゃがみ込む。


「君が先程、私にかけてきた技だ」


相馬がしゃべりながら、足を払い、勇人を転ばせようとする。

「……!」

勇人は口でナイフを咥え、その場でバク転をして攻撃を躱すと同時に相馬から距離を取る。


「今のは、危なかったかな……」


「大したものだ。では、これならどうかな?」


相馬は懐からもう1本ナイフを取り出し、両手にナイフを構え勇人に接近する。


「ちっ……面倒だな」


勇人は相馬の猛攻を後退しながら躱す。しかし相馬の手数が増え、流石に躱しきれない。

「そこだ!!」

「!!」




キン!! 


(躱しきれない攻撃はナイフで防御すれば問題ない)


「やるな」

「ずいぶん余裕なんだな」


2人の激しい攻防が続く。


キン!! キン!! キン!!



刃がぶつかり合う音が響く。







「さすがに飽いたな」

相馬はそう口にすると、大きく後ろへ下がり左手のナイフを投擲し、勇人に接近してくる。


キンッ!!


勇人は相馬の投げたナイフを自分のナイフで切り上げる。そして、弾かれたナイフは一旦上へ飛び、重力に従って落ちてくる。


パシッ!  


「こんなもん要らねえよ」


勇人は落ちてきたナイフをキャッチし、相馬の顔に目掛けて、ナイフを投げ返す。


「返されても困る」


しかし相馬は右手に持っているナイフで投げ返されたナイフを弾き、そのまま向かってくる。


「!」


相馬が切りかかってくる。勇人はもう一度バックステップをして回避したがその瞬間――


ダンッ!!


「ぐう!?」


勇人は腹部に重い衝撃がかかったのを感じた。相馬を見ると、彼は左手に拳銃を持っていた。
いくら防弾制服とはいえ、接近した状態で射撃されたら大きなダメージになるだろう。


(補修があったおかげで助かったな。しかし銃を落としたまま忘れていたのは失敗だったか……まあ、僕の射撃能力じゃ、あろうとなかろうと関係ないか)


勇人の体からはまだ腹部の痛みが消えていない。その隙を突くかのように再び相馬は銃を構え、勇人の頭部に標準を合わせる。


「くっ……。させるかよ!」


勇人は痛みを堪え、懐から投げナイフを取り出し、相馬に放ち、相馬との距離を詰める。
だが、相馬は放たれたナイフを体を反らし回避する。


(今だ!!)


「!!」

相馬がナイフから勇人へ意識を集中した頃には、目の前で勇人が蹴りのモーションに入り、相馬の左手目掛けて右足を振り上げる。


ガッ!


勇人の右足は相馬の左手にある銃を弾き、銃は宙を舞う。

「むっ……」

しかし、相馬は宙を舞っている銃を目で追わず、右手のナイフを右から左へ走らせ、勇人の首を狙う。勇人も相馬の反撃に素早く反応してバックステップをする。


しかし、相馬の方が一瞬速かったらしい。首から血が垂れていくのを感じた。


「諦めろ……これが力の差だ。安心しろ、仲間にもすぐにお前の後を追わせてやる」
「黙れ……。誰も死なせはしねえ。あんた1人で地獄へ落ちてろ」


(この男だけは“表”に出してはいけない、この男が生きている限りきっと“裏”は消えない。たとえ刺し違えようと、ここで消す……。)



両者は再び、右手にナイフを構える。
今度は2人同時に地を蹴り、距離を詰め合う。
相馬はナイフを突きだす。それに対し、勇人は姿勢を低くしてナイフを回避する。
そのまま勇人は左肘を相馬の鳩尾に決める。

「……!」

しかし、相馬は苦痛で顔を歪ませながらも再び、左手で勇人の左腕を掴む。


(――!! こいつ……はなからこれが狙いか! 反撃を受ける前に……)


勇人は相馬の反撃を阻止するため、下段蹴りを相馬の右足に入れる。


「!」


相馬は素早く反応し、バックステップを取る。


(スピードは相馬の方が僅かに上か……恐らく、パワーは最も大きな差だろう。おまけにカウンターもお手の物だ。面倒だな……隙を作らせ、一撃で仕留める!)


勇人は走り出し、相馬に接近する。今度は勇人がナイフを振るフェイントを入れ、左手で拳を握り、相馬の顎を狙う。


「そうきたか」


相馬は素早く反応して勇人の左手にナイフを振おうとする。


「かかったな!」


勇人は左手での攻撃を中止し、相馬の首に目掛けてナイフを右から左へ振る。
しかし、相馬は攻撃を中断して自身の首に迫ってきているナイフを自身のナイフで受け止める。



ガキィン!!



勇人のナイフと相馬のナイフが衝突し、鍔迫り合いの状態になる。


刃と刃のぶつかり合い。
勇人の額に汗が浮かび、徐々に押され始める。


(このままじゃ……押し負ける!!)


勇人は鍔迫り合いの状態を維持しながら、相馬の目を潰そうと左手を突きだす。
対する相馬は、自分の顔に向かってくる勇人の左手を掴む。
勇人の左手を掴んだ相馬は、すぐに勇人の左手を捻じる。


「くっ!」


勇人はナイフを握る指の力を弱める。


キンッ!


勇人のナイフは中を浮いた。


「何!」

「はあ!!」


勇人は懐からもう1本ナイフを取り出し、自分の左手を掴んでいる相馬の左手に突き刺す。


「ぐう!」


相馬が怯み、相馬の左手の力が弱まった瞬間、勇人は左手を引き戻す。
そして、すかさず下段蹴りを相馬の右足に放つ。


「ぬう!! だが、甘い!!」


相馬は痛みに耐え、そのまま勇人の胸へナイフを突きだす。
 



(しまっ――)








ザシュッ!!







「ぐう!?」



相馬のナイフが、勇人の胸に突き刺さる。




血が勇人の服を赤く染める。


だんだん視界が暗くなっていく……。


(くそ……ここ……まで……なのか? 結局僕は……皆を守れずに……)


意識が遠のいて行く中……うっすらと何かが見えてくる。


(これは……?)


(なんで……急に……皆の顔が浮かんで……ああ……これが……走馬灯ってやつか……)






足から力が抜け、勇人は倒れそうになる。



「…………」




『どうしたでござるか? 天原殿』





『何か悩み事なりや? 相談にのるなりよ』





『出会い頭にとんでもないことを聞くんだな……』





『ちょっとあんた!! 聞きたいことがあるんだから勝手にくたばんないでよ!!』





『あ、理子のこと知ってるんだぁー。キミ、理子のファンだなー?』





『全く、いつもお前らは騒がしいな』





『天原勇人……』





『天原様……自首するなら今の内ですわよ……』





『あの、天原さん、あまり無理はしないで下さい』





『ちょっと! 勇人君!? しっかりして!』





『よし、男同士の約束だ!!』





『もう3年か……早いもんだな』





『まあ、その、あれだ……でかくなったな、勇人』

















『勇人!!』




「……?」




誰かに呼ばれた気がした。




(今の声は…………? ……そうだ、まだ終わっちゃいない!! 僕はまだ生きている!!)




ガシッ!!



勇人の左手が相馬の腕を掴む。


「! 貴様……」


「はあ、はあ、痛え……だが、こんなところで死んでる場合じゃ……ないんだよ!!」


勇人は右手のナイフで相馬の右腕を渾身の力で刺す……否、ナイフを深く差し入れ、そのまま抉る。


「ぐあああ!!」


相馬は今までとは比べ物にならない痛みに大きく怯む。そして――
勇人は左手で相馬の襟を掴み、相馬を自分の方へ引き寄せ、ナイフを相馬の首へ突き刺す。



「ぁ、あぁ……」



勇人は相馬の首からナイフを引き抜く。






「これで、終わりだあああ!!」






言葉と共に勇人はナイフを逆手に持ち替え、両手で握りしめて再び、相馬の頭に振り下ろした。





ザシュッ!!





相馬の体が、魂が抜けたように崩れ落ち、二度と動くことはなかった。







「やった……のか……」




「…………ぐう!」


戦いが終わり、緊張が解けると胸の激痛が再び襲ってくる。
勇人は近くの壁に寄りかかり、手で傷口を押さえながら座り込んだ。


「…………」


自身の体からどんどん血が溢れ出す。





ポタッ





「? 雨……か……」


顔に水滴が落ちる。


突然、雨が降ってきた。勇人の血を洗い流すために降ったのか、勝利の女神が勇人の勝利に思わず嬉し泣きしたのか、それともその両方か、あるいはまったく違う理由なのか……。


「ああ……いってえ……くそ……あれ? 痛みが引いてきたな……さすが、頑丈が取り柄の体だ」


しかし、勇人は気づいていなかった。痛みが引いた理由を……。


「これで……みんなも…………大丈夫だな。兄さんも、今頃ほかの連中を叩きのめしている頃だろう」



「そういえば、旅行先は……沖縄だったな……僕は泳げないからあんまり行きたくないんだけどな……」


雨は強く降る。勇人に「寝るな」と訴えるように……。

しかし、勇人の体はすでに雨の冷たさを感じてはいなかった。


「帰ったらどうしようかな……雄一……あれじゃ、確実に入院だよな……よし、雄一の見舞いにでも行こうかな……いや、そのまえに僕も病院で治療を受けないと……いきなり、胸にナイフが刺さっている人が病室に入ってきたらびっくりしちゃうからな…………」





雨はさらに強く降る……。





「……? おかしいな……雨が降っているのに……音が聞こえない……それに………………何だか……眠くなってきたし…………早く……帰ろうっと……」



勇人はなんとか立ち上がろうと、体を持ち上げようとするが、なぜか力が入らない。




「あれ? なんでだろう? 体が、思い通りに動かないな……僕の体は……反抗期でも迎えたかな?」




「……………………」



勇人は不思議に思うがすぐに察した。





「そうか……もう…………。まあ、散々人の命を奪って来たんだ。文句なんて……言えないか……
裏で生まれて……裏で消える…………諜報員にぴったりの死に方だな……」





少しずつ……意識が遠のいていく……。





「…………みんなに会えて……よかったよ…………ありがとう…………旅行……一緒に行けなくて……ごめん…………兄さん……僕の分まで……生きて……ね……」






「さあて……寝る……か…………」






次第に視界が暗くなっていく……。







そして――








バシャ……









勇人の手は、水たまりができている地面に落ちた。



雨は先程よりもっと強く降る。まるで泣いているかのように。




しかし、天が泣いているのに対し、勇人は笑顔を浮かべ……静かに眠っていた。

 
 

 
後書き
ここまですごく長く感じました。

元々、暇潰しとして書こうって事で始めたんですが一回書いてみると中々楽しいものですね。
こんな文章力がない駄作を読んでもらった上に、感想まで下さってありがとうございます。
完結させることができたのも読んでくださった皆様のおかげです。
本当にありがとうございました!! 
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