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ポルターガイストは使いよう

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第一章

               ポルターガイストは使いよう
 セントルイスからボストンに引っ越すことになったブラウン一家の家長トミー=ブラウンは業者に一つの古い家を紹介された、その家の値段と外観と内装、古いが立派な十八世紀のイギリス風のその家を見てそのうえで業者に言った。
「この安さでこの立派さとはね」
「いいと思われますか」
「最高じゃないか、嘘みたいだよ」
 その鳶色の目を丸くさせての言葉だ。
「詐欺とかじゃないよね」
「そんなのじゃないですよ」
「よし、じゃあね」
 ブラウンは意中の相手を見つけた顔で言った。
「この家にするよ」
「いえ、その家は」
 だが、だった。ここで。
 業者の人はだ、彼に難しい顔でこう言ってきたのだった。
「売りたくないですね、あまり」
「何でなんだい?」
「実はその家はですね」
「壊れかけとかかい?」
「丈夫ですよ、エイブラムズみたいに」
 アメリカ軍の主力戦車であるMー1の様にというのだ。
「頑丈ですよ。しかも冬は暖かく夏は涼しいです」
「じゃあ最高の家じゃないか」
「ところがね、この家は」
「何かあるのかい?」
「出るんですよ」 
 急に真剣な顔になって言ってきた業者の人だった。
「これが」
「幽霊がない」
「はい、ポルターガイストが」
 これが出て来るというのだ。
「出るんですよ」
「じゃあ急に家の中のものが動き回ったりするんだね」
「そうなんですよ、賑やかに」
「ああ、そうなんだ」
「それで買った人が次から次に出て行って」
「だからなんだ」
「売れないですよ」
 こうブラウンに語るのだった、困っている顔になって。
「一応お客さんには出しましたがね」
「それでもかい」
「はい、駄目です」
 売れないというのだ。
「これだけは。他にもいい物件は一杯ありますから」
「いやね、他の物件を見てもね」
 家のそれをだ、ブラウンは実際に他の物件を見つつ自分の向かい側の席に座っている業者の人に話した。
「これ以上のものはないよ」
「だからですか」
「そう、これにするよ」
 この家を買うというのだ。
「絶対にね」
「いいんですか?本当に」
 業者の人は眉を曇らせてブラウンに問い返した。
「ポルターガイストが出て来ても」
「ははは、それ位はいいよ」
「ポルターガイストはそれ位はですか」
「そう、いいよ」
 全く、というのだ。
「別にね」
「そうですか、そこまで言うのなら」
「それじゃあね」
「しかし。それにしても」
「それにしても?」
「お客さんももの好きですね」
 業者の人はブラウンに呆れつつも関心しながら言うのだった。
「ポルターガイストが出るっていうのに」
「この安さと立派さだからね」
「いいんですね」
「何度でも言うよ、いいよ」
 ブラウンは強い声でしかも笑顔で答える。 
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