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緋弾のアリアGS  Genius Scientist

作者:白崎黒絵
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イ・ウー編
武偵殺し
  26弾 ミッションコンプリート

 やられたッ!

 1階のバーで理子と会う前から既に、俺は理子がこの飛行機を操作しているだろうことを予想していて、それをあのバーで確認した。

 だから俺はアリアに指示し、コントローラーを弾かせたんだが……

 まさか、2個目があるとは思わなかった。

 ANA600便は、台風の雲の中を、恐るべき勢いで降下している。

 乗客達の悲鳴を聞きながら廊下を走り、階段を降りると――――

 理子はバーの片隅で、窓に背中をつけるようにして立っていた。

「この狭い飛行機の中――――どこへ行こうってんだ、親友」

 さっきの理子のセリフを少し変えて返してやりながら、俺はガバメントを向ける。

「くふっ。ミズキ。それ以上は近づかない方がいいよー?」

 にい、と理子が白い歯を見せて笑う。

 窓際には理子を取り巻くようにして、丸く輪のように粘土状のもの――――十中八九、爆弾――――が張り付けられてあった。

「ご存じの通り、『武偵殺し(ワタクシ)』は爆弾使いですから」

 俺が歩みを止めたのを見て、理子はスカートをちょこんとつまんで少しだけ持ち上げ、慇懃無礼にお辞儀してきた。

「ねえミズキ。この世の天国――――イ・ウーに来ない?1人ぐらいならタンデムできるし、連れて行ってあげられるから。あのね、イ・ウーには――――」

 理子はその目つきを鋭くしながら、

「お兄さんも、いるよ?」

 理子のその言葉はある程度、予想は出来ていた。

 俺はその言葉用にしておいた返答を紡ぐ。

「お断りだ。高2にもなって家族と暮らすとか、御免こうむるね。それに、武偵校に文を待たせてるんだ。俺はあの場所に帰る」

「そっか……じゃあ仕方ない。今回のところは諦めるよ」

 理子は少しがっかりしたような態度を取りつつも、すぐに切り替えて一言。

「ああ、そうそう。あたし、ミズキに謝らなきゃいけないことがあったんだった」

「謝らなきゃいけないこと?」

 何だ?心当たりが大量すぎてどれか分からないぞ?

 俺が記憶を漁って検索しているのはスルーで、理子はウインクしたかと思うと、両腕で自分を抱き締めるような姿勢を取り――――

「あたし、本当は知ってるんだ。ミズキの名前のこと。たぶん、ミズキ以上に」

「……は?」

 その言葉はさすがに予想外過ぎて一瞬、俺の動きが停止する。

 そしてそのタイミングを見計らったように――――



  ドウッッッッ!!!



 いきなり、背後に仕掛けていた炸薬を爆発させた。

「――――!」

 壁に、丸く穴が開く。

 理子はその穴から機外に飛び出ていった。パラシュートも無しで――――!

「りっ……」

 理子!と叫ぼうとしたが、できない。

 室内の空気が一気に引きづり出されるようにして、窓に向かって吹き荒れる。

 機内に警報が鳴り響き、天井から酸素マスクが雪崩のように飛び出した。

 バーにあった諸々の物が、窓の穴から吸い出されていく。

 紙や布。グラスや酒のビン。そして――――俺も――――

「――――!」

 床に据えられたスツールにしがみつくと、天井からは自動的に消火剤とシリコンのシートがばれまかれてきた。トリモチのようなそのシートは空中でべたべたとお互い引っ付き合い、理子が開けた穴に蜘蛛の巣を張るようにして詰まっていく。

 穴が塞がると、いきなり俺の白衣の中に付けてあった小型マイク――――おそらく戦っている時に理子に付けられたもの――――から声がした。

『じゃあしばらくお別れだね。神崎・H・アリアによろしく伝えといて。それじゃ、バイバイ。神代ミズキ』

「!?」

 さっきのセリフは、隙を作るための嘘じゃなかったわけか。

 『神代』。それが俺の旧姓だ。

 俺が遠山家に引き取られたのは随分昔のことで、俺も小さかったから前の家のことはよく覚えてないし、引き取ってくれた義父(とう)さんや、義祖父(じい)ちゃん義祖母(ばあ)ちゃんも何も教えてくれないから知らないんだが……

 俺の家が火事になってその時に両親と……妹が死んだことと、この『神代』の名前だけは知っていた。

 『神代』を知っていたことについては特段不思議なわけじゃないんだが……さっきの発言の後半。俺以上に『神代』のことを知っている?

 俺だって、『神代』については色々調べた。時には自分で、時にはミラの力を借りて。だがあの『人類最優』の力を借りても、わかったのは火事のことだけだった。

 それなのに、理子はそれ以上のことを知っているという。おそらくは理子が所属している組織――――イ・ウー関係だろう。

 アリアと共にイ・ウーと戦っていれば、『神代』の情報が入るかもしれない。

 これ以上は長くなりそうだったので俺は急いで思考をせき止め、手近な窓から外を見た。

 僅かな月明かりの差す、そこには――――

 くるくるくるっ、と宙を踊るようにして遠ざかる理子が見えた。

 ばっ。

 理子が背中のリボンを解くと、あのやたらと布量の多いスカートとブラウスが不格好なパラシュートになっていくのが見える。

 最後に見えたのは、下着姿になった理子がこっちに手を振りながら雲間に消えていく姿だった。なるほど。機外に脱出するつもりだったから、高度をこんなに下げていたわけか。

「――――!?」

 その、理子と入れ違いに――――

 この飛行機めがけて、雲間から冗談みたいな速度で飛来する2つの光があった。

 アリアと離れて本来の力を発揮できるようになった俺の眼が、それを捉える。

 ――――おい。ちょっと待て。

 流石に冗談じゃないぞ。

 ――――ミサイル――――!?

 ドドオオオオオオンッッッ!!

 轟音と共に、今までで一番激しい振動がANA600便を襲った。

 突風や落雷とは明らかに違う、機体を巨大なハンマーで2発殴られたような衝撃。

「――――!」

 俺は必死の思いで窓にしがみつく。

 そして、祈るような気持ちで翼の方を見た。

 悪夢のような連撃を受けながらも――――ANA600便は、何とか持ちこたえていた。

 翼は2基ずつあるジェットエンジンのうち、内側の1基ずつ破壊されていたが、外側にある残りの2基は無事だ。

 血のような煙の帯を引きながらも、辛うじて飛んでいる。

 さっきの急減圧のせいで、まだ少し目が眩む。

 だが、急がなければならない。操縦室に。

 何とか耐えたとはいえ、未だANA600便は急降下を続けているのだ。



 機長と副操縦士は、理子に麻酔弾を撃たれたらしく昏倒していた。

「――――遅い!」

 彼らから取った非接触ICキーで操縦室に入ったところらしいアリアが、やってきた俺に振り返りつつ犬歯をむいて叫んでくる。

 足元には、あのセグウェイの銃座にも似た妙な機械が転がっていた。これは理子が髪で隠したコントローラーで飛行機を遠隔操作するために仕掛けていたカラクリを、アリアが外した残骸のようだった。

 アリアはその小さな身体をスポッと操縦席に収めると、ハンドル状の操縦桿を握る。

「アリア――――飛行機、操縦できるのか」

「セスナならね。ジェット機なんて飛ばしたことない」

 言いながらアリアは、おい、大丈夫なのか、と思うほど大胆に操縦桿を引く。

 それに呼応して、ANA600便は目を覚ましたように機首を上げた。

「上下左右に飛ばすくらいは、できるけど」

「着陸は?」

「できないわ」

「――――そうか」

 機体が、水平になったのが分かる。

 豪雨が流れる窓に視線を戻すと、この機体がヒヤッとするほど海面近くを飛んでいたのが分かった。

 高度は。300メートルやそこらだろう。危なかった。

 俺はもう片方の席に入ると無線機を探し当て、インカムからスピーカーに切り替える。

『――――31――――で応答を。繰り返す――――こちら羽田コントロール。ANA600便、緊急通信周波数127・631で応答せよ。繰り返す、127・631だ。応答せよ――――』

 声が聞こえてきた。俺は計測器に備え付けられたマイクをONにする。

「――――こちら600便だ。当機は先程ハイジャックされたが、今はコントロールを取り戻している。機長と副操縦士が負傷した。現在は武偵2名が操縦している。俺は薬師丸ミズキ。もう1名は、神崎・H・アリア」

 俺の声に、羽田は安堵と驚きを混ぜたような声を上げた。

 よし。とりあえず関税等との通信は繋がった。

 俺は続けざまに、さっき機長の腰から拝借しておいた衛星電話を左手で操作する。形態とよく似たこの電話機は船舶通信などにも使われるもので、人口衛星を介しておよそ地上のどこからでも、どんな速度で飛んでいようと電話回線に接続できるのだ。

 コールを始めると同時に、電話機も、Bluetoothでスピーカーに繋いでおく。

「誰に電話してるの?」

 聞いてきたアリアに、新たに繋がった音声がスピーカーから答えてきた。

『もしもし?』

「俺だ武藤。変な番号からで悪い」

『ミ、ミズキか!?今どこにいる!?おまえの彼女が大変だぞ!』

「彼女じゃないが、アリアなら隣にいるぞ」

 武藤(むとう)剛気(ごうき)車輌科(ロジ)の優等生。

 こいつとの腐れ縁が役に立つときが来たようだ。

『ちょ……おまえ!何やってんだよ!……!』

「か……かの、かの!?」

 自分が彼女扱いされてることに、アリアはぼばぼぼぼ、とまた赤面癖を発揮していた。

 何か不平を言いだしそうな予感がしたので――――つ、とアリアの唇に人差し指を当てて止める。

「……っ!」

 アリアはますます真っ赤になっていくが、とりあえず硬直して黙ってくれた。後でボコられる気がするが、後のことは後で考えよう。

「――――武藤。ハイジャックのこと、よく知ってたな。報道されてるのか?」

『とっくに大ニュースだぜ。客の誰かが機内電話で通報でもしたんだろ。乗客名簿はすぐに通信科(コネクト)が周知してな。アリアの名前があったってんで、今みんなで教室に集まってたとこだよ』

 ――――俺は、羽田コントロールと武藤に状況を手短に伝えた。機がハイジャックされ、犯人が逃亡したこと。ミサイルをぶち込まれ、エンジンが2基破壊されたこと。

『……ANA600便、まずは安心しろ。そのB737-350は最新技術の結晶だ。残りのエンジンが2基でも問題なく飛べるし、どんな悪天候でもその長所は変わらない』

 羽田コントロールの声に、アリアが少しホッとしような表情になる。

『それよりミズキ。破壊されたのは内側の2基だって言ったな。燃料系の数字を教えろ。EICAS――――中央から少し上についてる四角い画面で、2行4列に並んだ丸いメーターの下に、Fuelと書かれた3つのメモリがある。その真ん中、Totalってやつの数値だ』

 さすが乗り物オタ。武藤の声はまるで計器盤が見えているようだった。

「数字は――――今、540になった。どうも少しずつ減ってるみたいだ。今、535」

 俺の応答に、武藤が舌打ちするのが聞こえてきた。

『くそったれ……盛大に漏れてるぞ』

「燃料漏れ……!?と、止める方法を教えなさいよ!」

 アリアがヒステリックな声を上げると、しばらくの間の後――――

『方法は無い。分かりやすく言うと、B737-350の機体側のエンジンは燃料系の門も兼ねてるんだ。そこを壊されると、どこを閉じても漏出を止められない』

「あ、あとどのぐらいもつの」

『残量はともかく、漏出のペースが早い。言いたかないが……15分ってところだ』

「さすがは先端技術の結晶(笑)だな」

 俺は一言、羽田コントロールに愚痴ってやる。

『ミズキ、さっき通信科(コネクト)に聞いたがその飛行機はそもそも相模湾上空をうろうろ飛んでたらしい。今は浦賀水道上空だ――――羽田に引き返せ。距離的に、そこしかない』

「元からそのつもりよ」

 アリアが武藤に返す。

『……ANA600便、操縦はどうしているのだ。自動操縦は決して切らないようにしろ』

「自動操縦なんて、とっくに破壊されてるわ。今はあたしが操縦してる」

 アリアが目で示した計器盤の一部ではAutopilotと書かれたランプが赤く点滅し、点滅と同じテンポで警告音が鳴り続けていた。

 詳しくはよくわからないが、まあ、そういうことなのだろう。

「――――というわけで、着陸の方法を教えてもらいたいんだが」

 羽田に尋ねると、

『……すぐに素人が出来るようになるものでもないのだが……現在、近接する航空機との緊急通信を準備している。同型機のキャリアが長い機長を探して――――』

「時間が無い。近接するすべての航空機との通信を同時に開いてくれ。できるな?」

『い、いや、それは可能だが……どうするつもりだ』

「彼らに手分けさせて、着陸の方法を一度に言わせるんだ。武藤も手伝え」

『一度にってミズキおまえ、聖徳太子じゃないんだから……!』

「おい武藤。俺を誰だと思ってるんだ?それくらい余裕だ。すぐにやってくれ。なんせもう、時間が無くてな」

 アリアが、驚きと信頼の眼差しでこっちを見ているのが分かる。くすぐったい。

 何か言い出しそうだったのでもう一度指を唇に当てて黙らせ、俺は正面に視線を戻した。

 雲の下――――暴風雨の中で吹き荒れる眼前には、黒い海の向こうに東京圏の光が見えていた。

 俺たちはあそこに向かって、突っ込むような形で飛んでいるのだ。



 一気に喋る11人の言葉をなんとか聞き取り、着陸の方法は理解した。

 今は計器も読める。

 現在の高度は1000フィート――――およそ300メートル。

 これはどう考えても危険な高度だが、あと10分しか飛べない俺たちは燃料を1滴たりとも無駄にできないので、1メートルも上げられない。

 横須賀上空に差し掛かった辺りで――――

『ANA600便。こちらは防衛省、航空管理局だ』

 羽田からのスピーカーから野太い声が聞こえてきて、俺とアリアは顔を見合わせた。

 防衛省……?何か、すっごく嫌な予感がする名前なんだが。ロクなことを言いださない気がする。

『羽田空港の使用は許可しない。空港は現在、自衛隊により封鎖中だ』

 ほら、やっぱりロクなこと言い出さなかった。

『何言ってやがんだ!』

 絶句した俺とアリアの代わりに叫んだのは、武藤だった。

『誰だ』

『俺ぁ武藤剛気、武偵だ!600便は燃料漏れを起こしてる!飛べて、あと10分なんだよ!代替着陸(ダイバード)なんてどっこにもできねえ、羽田しかねえんだ!』

『武藤武偵。私に怒鳴ったところで無駄だぞ。これは防衛大臣による命令なのだ』

 不穏な気配に、横へ振り向く。

 俺につられて窓の外を見たアリアが、息を呑むのが分かった。

 ANA600便のすぐ脇に――――F-15イーグル――――

 航空自衛隊の戦闘機が、ピッタリつけてきている。

「おい防衛省。窓の外にあんたのお友達が見えるんだが」

『……それは誘導機だ。誘導に従い、海上に出て千葉方面に向かえ。安全な着陸地まで誘導する』

 言われて、アリアが操縦桿を右――――海上に傾けようとした。

 俺は羽田との回線を切りつつ、アリアの手を上から握って止める。

「……海に出るなアリア。あいつは嘘を吐いてる」

「?」

「防衛省は俺達が無事に着陸できるとは思ってないんだよ。海に出たら、撃墜される。全財産賭けでもいいぜ」

「そ、そんな……!この飛行機には一般市民も乗ってるのよ!?」

「東京に突っ込まれたら大惨事だからな。背に腹は代えられないってことだろ」

 アリアの手を握ったまま、左に押して――――横浜方面へと、舵を取らせる。

「ミ……ミズキ?」

 指先を少し強張らせながら、アリアが不安げに……頼るように、俺を見上げた。

「向こうがその気なら、こっちも人質を取る。アリア、地上を飛べ」



 ANA600便は横浜のみなとみらいを飛び越え、東京都に入った。

 燃料は、あと7分ってところか。

「で、どこに着陸する気よミズキ。都内に滑走路なんてないじゃない」

「武藤。滑走路には、どのくらいの長さが必要だ?」

『エンジン2基のB737-350なら……まあ、2450mは必要だろうな』

「……今の学園島の風速は分かるか?」

『風速?レキ、学園島の風速は?』

『私の体感では、5分前に南南東の風・風速41・02m』

 狙撃科(スナイプ)の麒麟児、レキの声が少し遠くから聞こえる。

「じゃあ武藤。風速41mに向かって着陸すると、滑走距離は何mになる?」

『……まぁ……2050ってとこだ』

「――――ギリギリだな」

 低く呟いた俺に、アリアも、武藤も、一瞬黙る。

「ど、どこに降りるつもりなのよ。東京にそんな直線道路、無いわ」

「武偵校の人工浮島(メガフロート)の形を覚えてるか。南北2キロ、東西500メートルの長方形だ。対角線を使えば2061mまで取れる」

『お、おい……まさかミズキ、おまえ……』

「安心しろ武藤。『学園島』に突っ込むわけじゃない」

『……?』

「『空き地島』の方だ。レインボーブリッジを挟んで北側に、同じ人口浮島があるだろ」

『……お、おい。おまえってやつは……何でそんなとんでもねえ事を思い付いちまうんだ?天才か』

「ああ俺は天才だよ。おまえもよく知ってるだろ?」

『……そうだったな』

 それきり武藤が黙り込んでしまったので、俺はアリアに視線を合わせる。

「なあアリア。おまえ、俺を信用してるか?」

 これは、俺が想像している着陸方法に必要不可欠な質問だ。アリアが俺を信用してなかったら、この作戦は一発でアウトだ。

「な、何よ急に?」

 アリアは少し顔を赤くしてそっぽを向く。

「答えてくれ。大事な質問なんだ」

「信用は……してないわ」

 アリアのその言葉に、一瞬俺の脳が凍りつきそうになる。が、

「でも、信頼してるわ。ミズキ」

 アリアの言葉の続きで、ぎりぎり復活する。

「そうか。わかった、ありがとう」

 それでアリアとの会話も終了する。

 すぐ眼下に、渋谷、そして原宿の夜景が流れていく。

 街のみんなはビックリしてるんだろうな。

『……人口浮島に……か。理論的には、可能だろうけどよ』

 今まで黙っていた武藤が、溜息交じりに返してきた。

 固かったアリアの表情が、ぱ、と明るくなる。

『でもなミズキ。あそこはホンっト―にただの浮島だ。誘導装置どころか誘導灯すら無い。どんな飛行機であれ、最低の最悪でも誘導灯が無いと夜間着陸はできないんだ。しかも視界は豪雨で最悪、おまけに暴風と来てる。そこに手動着陸なんて――――』

「無茶なのは分かってる。だがな、武藤。今はそれ以外に手段が無いんだ。それに、一応策はある。だから安心しろ」

『策ってのは……絶対成功するんだろうな』

「絶対は無理だが……99.9%の確率で成功させてやるさ。もちろん――――」

 俺はそこで再びアリアに向き直る。

「――――アリアの協力が不可欠だ。やってくれるな、アリア」

 俺のその信頼度100%の発言にアリアは嬉しそうな顔で、こくこと頷く。

「というわけで武藤、当機はこれより着陸準備に入る」

『待て、待てミズキ、『空き地島』は雨で濡れてる!2050じゃ停止できねえぞ!』

「それは何とかするさ。俺を信じろ」

『……か……勝手にしやがれ!しくじったら轢いてやるからな!』

 叫ぶと、武藤はキレたのか――――教室のみんなにわーわーと怒鳴り、電話を切った。



 新宿のビル群をかすめるように、ANA600便は大きく右旋回を始めた。

 あと、3分。

 短い滑走路に着陸するためには減速しなければならなかったこともあり、600便は苛立たしいほどに悠然と東京ドームを飛び越え、東京駅、銀座と豪雨の街を渡っていく。

 その横に並んで飛んでいる改造セグウェイも、な。

 俺は今現在、改造セグウェイの『空中飛行モード』という厨二全開な機能を使って空を飛んでいる。この豪雨と暴風の中、生身で。

「アリア。この飛行機は東京タワーより低く飛んでる。間違ってもぶつけるなよ?」

『バカにしないで。あんたにぶつけるわよ』

 無線機越しに恐ろしいことを言いながらも、アリアは車輪を出して俺が伝えた着陸方法を実践しようとする。

 俺は改造セグウェイを全速力で飛ばし、『空き地島』に近づいていく。

 豪雨・暴風の中、誘導灯も無しで夜間着陸するにはどうすればいいのか。

 その問いに対する答えがこれだ。

 ようするに、誰かがナビゲートしてやればいい。

 俺は無線でアリアに進行方向などを伝えながら、下で光を照らすために高度を落とす。

 その瞬間。

 ピカッ……ゴロゴロゴロドンッッッ!!!

「ぐおっ……!」

 俺と改造セグウェイに、雷が直撃した。

『ミズキっ!?大丈夫!?』

 無線からアリアの焦ったような声が聞こえる。

 俺自身は白衣の絶縁性であまりダメージは無いが……セグウェイの方はモロにダメージを受けて――――

「墜落してるな」

 錐揉み状態でどんどん高度が落ちていく俺とセグウェイ。やばい。俺、死ぬかも。

 地面との接触が迫り、脳裏に走馬灯らしきものが駆け巡りかけた、その時。

「ミズキくん!」

 俺の親友の声がした。

 同時に、目の前に突如出現した物体に、頭から激突した。

 痛みに備えて目を瞑るが――――一向に痛みはやってこない。疑問に思った俺が恐る恐る目を開けると、そこには――――

「これは……」

 俺が落ちた場所は柔らかい、泡みたいなものの上だった。そしてこれは――――

「俺が、文と開発した衝撃吸収装置の……でっかい版?」

「その通りなのだ!」

 俺の言葉に対する返事は、下の方から聞こえてきた。

 そこにいたのは当然のことながら文だった。

「文!?何でここにって……」

 そこでようやく俺は気付く。ここにいるのは文だけではないことに。

「ミズキ、大丈夫か!?」「薬師丸先輩、無事ですか!?」「よく頑張ったな!」「後は任せろ!」

 そこにいたのは、大量の武偵校の生徒たちだった。

「よおミズキ!無事だったかこのバカ野郎!」

「……まさかおまえにバカ呼ばわりされる日が来るとは。そろそろ死に時かな?」

「会って早々失礼だなおまえ!改造したセグウェイで空飛んで雷に打たれて落ちてきた奴を、バカと言わずして何という!」

「……それもそうだな」

 近寄ってきた武藤との会話を遮ったのは、手に持った無線機からの声だった。

『ちょっとミズキ!大丈夫!?無事なら返事しなさい!』

 その声が少し涙声になっていたので、俺は慌てて返事をする。

「俺は無事だ、アリア。みんな――――いや、実際には文だけだけど――――が助けてくれた」

『みんな?』

 語尾に疑問符を付けたアリアに、俺は懇切丁寧に今の状況を説明してやる。

「――――というわけだ」

『なるほど。だから急に『空き地島』が光り出したのね。何事かと思ったわ』

「光?」

 俺は武藤に視線で尋ねる。

「おまえや神崎を助けようってクラスの連中が聞かなくてな。俺は車輌科(ロジ)で一番でかいモーターボート、平賀は装備科(アムド)懐中電灯(マグライト)を、それえぞれ無許可で持ち出してきたんだ。反省文はおまえが書けよ?」

「……わかったよ。ありがとな」

「いいってことよ」

 どちらからともなく笑い出した俺と武藤。そしてまた無線からアリアの声が聞こえる。

『ミズキ。聞こえる?ANA600便はこれより着陸を開始するわ。ルートのナビと誘導をお願い』

「了解」

 俺はアリアに決めておいたルートを伝え、自分も懐中電灯(マグライト)を貰って暗い夜空に明かりを灯す。

 アリアが操縦するANA600便は徐々に高度を下げていき……ついに地面に接触した。



 ザシャアアアアアアアア――――――――!!



 ANA600便は、雨の人工浮島に強行着陸を敢行する。

 凄まじい衝撃が足元の地面を通じて伝わってくる。アリアが、逆噴射をかける。

『止まれ、止まれ、とまれとまれとまれぇ――――っ!!』

 甲高いアリアの声にアニメ声に合わせて、機体がカーブする。

 雨の滑走路、2050mでは止まりきれない。

 それは武藤の言うとおりだ。

 だが、手はあった。

 ANA600便の翼が、風力発電の、風車の、柱に――――!!



 ガスンンンンンンッッ!!



 翼に風車の柱をぶち当てて、引っ掛けて、600便はグルリとその機体を回すように滑らせ――――

 ANA600便は無事、その動きを停止した。

「アリアっ!」

 俺は機体が止まるの見てコンマ1秒後にはダッシュで機体に駆け寄り、割れた窓から機内へと入る。

 おそらく大丈夫だとは思うが、着陸と風車の柱への接触で、機内にはかなりの衝撃が走ったはずだ。特に、1番前にある操縦室は。

 アリアの無事を確認するため、俺は真っ直ぐに操縦室を目指し、そのドアを蹴破る勢いで開ける。

 するとそこにいたのは――――

「お疲れ様、ミズキ。これでミッションコンプリートよ」

 ぐったりと機長の席へもたれかかったアリアが、笑顔で俺を迎えた。

 相当もみくちゃにされたのだろう、髪や服は所々乱れているが、見た限り怪我は無さそうだ。

「アリア……」

「ごめん……ちょっと、疲れちゃったみたい。だからあたし――――」

 そこで言葉は途切れ、アリアは眠りについた。

 俺はそんなアリアを、初めて会った日のようにお姫様抱っこしてやって、外に出す。

「お疲れ、アリア。これにて1件落着、だ」

 パートナーがかけてくれたねぎらいの言葉を、しっかり返してやることも忘れずに。 
 

 
後書き
お久しぶりです!そして初めまして!白崎黒絵です!
今回はほぼ予定通りに投稿できました。コレガワタシノチカラダー

内容:アリアが超頑張る話。武藤がイケメソ過ぎた。

今回からの新コーナー!題して!
「理子りんプレゼンツ!あなたの情報くださいな♪」
現代に生きる情報怪盗、峰・理子・リュパン四世がキャラクターたちの個人情報を引き出すコーナーです!別名、キャラ紹介!
それでは行ってみよー!

理子「第一回目のゲストはこの人!主人公の薬師丸ミズキ君です!」
ミズキ「どーもー。で、俺はいったい何をすればいいんだ?」
理子「理子りんが一つ質問をするから、それに答えてくれればいいよ」
ミズキ「わかった」
理子「では、本日の質問は……じゃかじゃかじゃかじゃかじゃかじゃか……じゃん!ズバリ『あなたの好きなものは!?』です!ほんじゃミーくん。回答をどうぞ!」
ミズキ「俺の好きなものはメロンパンと文。以上だ」
理子「えっ!?それで終わり!?他には何か無いの!?」
ミズキ「他にって言われてもな……あ、ラノベとアニメとゲームが好きだ」
理子「他!」
ミズキ「ほかぁ……?特にないな」
理子「理子とかアリアとか雪ちゃんのことは好きじゃないの!?」
ミズキ「ノーコメント」
理子「えっ!?ちょ、ミーくん待って!帰らないで!ちゃんと言ってよ~!」

ゲスト共に司会までどこか行ってしまったので、今回はここまでです。次回のゲストはピンクのももまん武偵!

それでは今回はこの辺で!次回の更新は未定です!
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