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少年と女神の物語

作者:biwanosin
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第九十一話

「それにしても・・・神と神殺しとの戦いと言うのは、何度見ても規格外なのだな・・・」
「今更よ、ナーシャちゃん。それにほら、終わったみたいだし」

 私たちが見る先で、神の・・・ウッコの頭が飛ばされて消滅していくのが見えた。
 武双君、派手にやったなぁ・・・

「というわけで、ナーシャちゃん。飛翔の術、お願いしてもいい?」
「そうだな・・・というか、使わないとボクたちは津波の中だろう」

 ナーシャちゃんはそう言ってから私の手を取って、波をやり過ごすまで飛翔してくれた。
 さすがに、あれだけの体積が消えたら津波にもなるわよね~。被害、大変なことになってそう。

「・・・なんだか楽しそうだな、御崎君」
「ええ、だって楽しいもの。私たちにはありえないことが目の前で起こってる。そう考えると楽しくない?」
「ボクからしてみれば、頼もしすぎる兄だとしか思えないがな」
「確かに、頼りになる弟よね。うんうん、あの頃からは考えもつかない」

 あの頃・・・武双君が家に来たばかりの頃、彼はまだどこかおびえていた。
 父さんや母さんに対しても少し抱いてたみたいだったし、私に姉さん、リズちゃんにもそうだった。
 父、母、姉。それにおびえていた、今にも崩れてしまいそうだった武双君。あの頃は、私が守ってあげなきゃなぁ、とか思ってたのに・・・

「今じゃもう、私が守られちゃいそう」
「偉大なるカンピオーネを守れることなんて、そうそうないだろう。それこそ・・・今のような時くらいだ」

 そう言ってナーシャちゃんが見る先では・・・ペガサスに運ばれてくる武双君がいた。
 また、死んでるんだろうなぁ・・・そこだけは、お姉ちゃん心配。毎回毎回、武双君は死んでくるんだもの。

「あの権能だけは、どうにも心臓に悪い」
「そうかしら?私からしてみれば、あの権能のおかげで武双君が生きてる、って感じなんだけど」
「ボクは、あれさえなければ彼はもう少し自分の命を考えてくれるのではないかと思ってるよ」

 確かに、武双君はあの権能があるからためらいなく無茶をしている。
 それでも・・・なかったら、考えたのちに無茶をしそうだと思うのは私だけ?

「何にしても、まずは武双君の回収からね」
「そうだな。もう降りるか」

 ペガサスが向かっているところに私たちも向かって、そのまま武双君を受け取る。
 そこでペガサスが消えてしまったところをみると、武双君からはここまで連れてくる、という命令しか受けていなかったのかな?

「で、どうする?どっちが武双君の治療をする?」
「いや、このまま連れて帰れば・・・」
「ダメよ。間違いなく目立つじゃない」

 ナーシャちゃんも煮え切らないなぁ・・・お姉ちゃん、少し心配。
 それでも・・・うん。さすがに私が二回とも、はずるいような気もするし。

「と、言うわけでナーシャちゃんに任せるわ」
「何がというわけでなのだ!?大体、ボクはそんなこと・・・」
「そうじゃないの。私は、やらなきゃいけないことがあるみたいだから」

 そう言いながら立ち上がって・・・愛用の剣を召喚する。念のために、武双君が作ってくれた剣も。

「あら・・・グィネヴィアに気付いていらしたのね?」
「これでも、武双君・・・カンピオーネのお姉ちゃんだから」

 そう言ってから、私はいつの間にかすぐそこにいた女性に剣を向ける。
 この場にいる以上、ただの人のはずもないし。

「それで、ここには何の用で?」
「少しばかり気になるものが眼に入りましたので、確認に」
「私の可愛い弟が目的なら、手は出させない」

 そこで、魔術も使って万全の態勢を整える。
 後ろではナーシャちゃんが武双君の治療をしてくれていた。うん、それでいい。相手が何者なのか分からない以上、いざとなったら武双君の手を借りないといけないもの。

「今回の目的は神殺しではありませんわ。さすがに、グィネヴィア一人で神殺しに勝てるとは思いませんもの」
「それなら、何の用?それが分からないと私は警戒を解けないんだけど」
「そうですか。では、手短に・・・ねえ、あなた」

 そう言いながら送る視線は・・・ナーシャちゃんに、向いていた。

「ボクがどうかしたのかい?」
「ええ。人違いでなければ、ナーシャであっているかしら?」

 そこで、私もナーシャちゃんも息をのんだ。

「・・・確かに、ボクはナーシャだが・・・それがどうかしたのか?」
「あら、やっぱり。それなら、私のことは覚えていないかしら?」
「記憶にないな。人違いじゃないのかい?」

 ナーシャちゃんがはっきりとそう言ったから、私は二人の間に入った。
 それでも、この人は私に目も向けない。

「あら、そんなはずはないのだけれど・・・もしかして、記憶がないのかしら?」
「確かに、ボクは一度記憶を失っている。その頃の知り合いなのか?」
「そう・・・いえ、知り合いではなく・・・顔見知り、がいいところね」

 ナーシャちゃんの昔を知っている人・・・でも、確かナーシャちゃんは元いた組織の人が拾ったはずじゃ・・・

「それで、一番重要な質問なのだけれど・・・あなたは、その神殺しの味方なのかしら?」
「味方も何も、彼はボクの兄・・・家族だ」
「そう。それなら、仕方ないわね。記憶が戻るのが一番手っ取り早いのだけれど・・・」
「ん・・・ああ、俺、生き返ったんだ・・・」

 ちょうどそのタイミングで、武双君の目が覚めた。

「・・・神殺しが意識を取り戻したのなら、それは無謀ですね。いいでしょう、グィネヴィアは一度ひきます。いつか記憶が戻れば、あなたも元に戻るでしょう」

 それだけ言い残して、その人は飛翔の術でこの場を去った。
 ナーシャちゃんの過去・・・そこに何があるのかは分からないけど、

「大丈夫よ、ナーシャちゃん。何があっても、私たちはみんな家族なんだから」
「・・・」

 それでも、妹がこんな落ち込んだ顔でいるのは、我慢できない。

「ね、武双君?」
「ん?・・・まあ、そうだな。状況は分からないけど、何かあったら俺がなんとかしてやるよ」
「・・・・・・そう、か。なら、ボクをまかせてあげてもいいぞ?」

 うんうん、これでこそいつものナーシャちゃん!
 
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