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少年と女神の物語

作者:biwanosin
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第九十話

「あら、ご機嫌斜めね、ムソー」
「うん・・・ちょっと、ね」

 予想通りいつもと同じ空間にこれたので、俺はママにそう返した。

「そんなにウッコ様との戦いが気に入らなかったのかしら?」
「そりゃね。あんな、自分の名前もちゃんと名乗らないやつとの戦いが楽しいわけがない」

 どうにも、俺は本気で不満なようだ。
 家族関連以外でここまで不満になったのは、生まれて初めてな気がする。

「はぁ・・・あんな神様、いるもんなの?」
「中には、ご自分の名に不満を持っている方もいらっしゃるわ。彼らはまつろわぬ身、どんな事を思っていてもおかしくないもの」
「確かに・・・アテも、狂気を振りまく存在なのにそれをしたがってなかったしな・・・」

 まつろわぬ身であるからこそ、神であってもそう言った感情を持つのか。
 はぁ、それにしてもな・・・

「そう言えば、ムソーは名前を隠すことに対しては問題ないのかしら?」
「うん、そっちはいいんだ。偽るのではなくて隠すんだったら、ね」

 そこは問題ない。
 俺が嫌なのは、神と神殺しが命をかけて戦う場で己を偽られること。
 なんとなく・・・それは、敬意を持って戦ってないように思えるんだ。

「・・・ゴメン。ママ相手に愚痴っちゃってる」
「いいのよ。ほら、息子の愚痴を聞くなんてお母さんらしいじゃない?」
「そういうものなのかもね。・・・俺の場合、その立場にいたのは崎姉だったからなぁ・・・何か新鮮」

 少し愚痴って、楽になったようだ。
 俺は、普段の感じを取り戻してきている。

「そう言えば・・・ママって、どんな基準で俺たちに権能を与えてるの?」
「あら、今更な質問ね」
「ちょうど気になってね。たとえば、護堂なんかは結構な神様と戦ってるけど権能の数は一つじゃん?・・・あの剣がどうなのかは知らないけど」

 あいつはあいつで、俺ほどではないにしてもかなりの戦いをしている。この間は、三柱混合の神と戦ったはずだ。

「それと、俺はここ二年ちょっとで十五柱のまつろわぬ神と戦って、そのすべてで権能を簒奪してるその違いはなんなのかなぁ、って」
「そういうこと・・・それは、簡単なことよ。私を満足させられるかどうか」
「本当に簡単だったな。・・・そんでもって、どうなるかはその時にならないと分からないという・・・」

 そんな理由で魔王に権能を与えられていると知ったら、魔術関係者はどんな反応をするのだろうか?
 まあそれでも・・・彼らには、まつろわぬ神の被害は受け入れるしかないんだけど。

「それでも、確実に手に入れられないときはあるわ。一つ目に、相手の神が万全の状態であること」
「・・・それは、片方が弱っている状態での戦いなんて見せられてもつまらないから?」
「そうね」

 いい笑顔で、はっきりとそう言ってくるママ。
 うん、分かりやすい。

「次に、つわもの一人によるものであること」
「それは・・・?」
「つまり、神殺し一人しかいちゃいけないのよ。他の神殺しやまつろわぬ神、そう言ったものたちの協力があってなら、基本権能はあげないわ。例外はあるんだけどね」

 そう言ってほほ笑んでいる姿は、見た目通りの少女が目の前の楽しみを語っているかのようだった。

「とはいえ、最初の神殺しはさすがにその限りじゃないわ。ただ人の身でありながら神を殺すには、ありとあらゆる物を利用しないとだめだもの」
「それは、間違いないね。俺の場合は、アテや立夏、リズ姉の協力が。護堂はメルカルトとプロメテウス秘笈って具合に?」
「そういうこと。そして、神具を使っての神殺しは神殺しになってからでも問題ないわ」

 そうでなければ、俺がこれだけ神を殺せている理由の説明がつかない。
 ルーとクー・フリンから正式に譲ってもらう前から、あの二振りには助けられ続けている。
 あの二槍を使って殺した神だっているんだから、そこは認められていないと。

「とはいえ、最近はまた違った形で起こることがあるのよね~・・・」
「そうなの?」
「ええ。私の気付かないうちに与えられてたり、無意識のうちにあげちゃってたり」
「・・・これが人間なら、かける言葉があるんだけどなぁ・・・」

 とはいえ、人間相手でも失礼になるからしないけど。

「でも・・・ってことは、今回の戦いもお気に召したのか?」
「ええ。ムソーからしてみれば不満だったのかもしれないけど、あれは十分にあたしを満足させてくれたわ」

 ふうん、あんなのが、ねえ・・・

「・・・ま、俺にとっては得になるわけだし、気にしなくてもいいか」
「そうそう。ムソーが望む、家族を守るための力が増えるんだから!」

 さて、この話題は終わりにしよう。次は・・・

「・・・どうして、ウッコはトールでありたかったんだろうか・・・」

 そこが、疑問なのだ。どういった意図があって、あの神はトールを名乗ったのか。

「それは、ウッコ様にしか分からないわ。だから、これから話すのはただの推測」

 気づけば、ママは俺を後ろから抱き締めていた。

「元々、ウッコ様とトール様は同じ神様を起源としてることは知ってる?」
「ああ、ナーシャの霊視の中でも見たからな・・・バルト神話のペールコンスだろ?」
「そう。だから・・・ウッコ様は、嫉妬なされていたのかもしれないわ」
「嫉妬・・・?」

 そんな感情、神とは無縁のはずじゃ・・・いや、違うか。

「そう、嫉妬。私たち神話に記されし神々は、聖書の神様とは違うもの。嫉妬だってするし、恋だってする。ちょっとすごい力を持ってるだけで、感情とかは人間と変わらないのよ?」
「そう、だったな・・・あの二柱は、同じ神を起源としつつも違う神となった」
「トール様は、北欧神話の雷神。そして戦人からの信仰を得た神様で、その名前はとっても広く知られている」
「ウッコは、フィンランド神話の主神。そして雷神でもあるが、その名はあまり知られていない」

 日本だけで考えるけど、トールと言う神のことを知らない人はあまりいないと思う。それくらいに、トールと言う神は有名だ。
 ただし、ウッコは違う。これも日本で考えるが、知っている人は少数派ではないだろうか。

 雷神と雷神。農耕の神と収穫物の神。ミョルニルとウコンバサラ。巨人と巨人。
 他にもいくつもあるこの二柱の共通点は、同じ神を起源とするからこそ存在するもの。
 それでも別の神になってしまったから・・・嫉妬したのかもしれない。

 人間で考えれば分かりやすい。同じ両親から生まれても、片方は優れていてもう片方は優れていない。そんな状況ならどうなるか。お互いに嫉妬するだけだ。
 おれも昔、姉に嫉妬していた。名前も知らない、顔ももう忘れてしまった姉だけど、それでも、こう思ったことは強く覚えている。
『同じ血が流れてるのに、何であの人だけは』、と。

「・・・少し、ウッコのことが許せそうだよ」
「そう。なら、よかったわ」

 それからしばらく雑談をしていたところで視界がぶれだした。
 あぁ・・・そろそろ生き返るのか。今回はいつもより長かったな。

「ありがとう、ママ。結構楽になった」
「ええ。また来た時に何かあったら、遠慮なく言っていいわよ。あたしは、あなたの三人目の母親なんだから」

 三人目・・・か。
 一人目には恵まれなかったけど、そのおかげでこんなにもいい母親が二人も出来た。
 人生ってのは本当に・・・分からないものなんだなぁ。
 
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