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覇王と修羅王

作者:鉄屋
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合宿編
  十九話

「アレク、大丈夫?」
「だいじょぶ、俺は、笑って、いられます」
「……見えなから分からないんだけど」

 見兼ねたエリオはベッドに伏せているアレクに訊くが、その顔は全く見えない。
 今日だけで三連戦。特にトレードした三戦目は大荒れしたので、初参戦のアレクが倒れ込むのも無理もないと思う。大荒れの原因だったので、特に。
 だが終わってしまえば憩いの時間。注意や説教も済んでしまえば、後は休むだけである。このまま寝ちゃってもいいかなぁ、とアレクと同じくベッドに大の字で寝転んでいるエリオも思ってしまう。それ程に、風呂の後のベッドは魅力的だった。
 その魅力に誘われたエリオは逆らわず目を閉じ――――ようとして妨害された。

「エリオくーん、開けてー」
「……キャロ?」

 何を持っているんだろう、とエリオはのそりと身を起こす。
 キャロが扉の開閉を求める時は決まって両手が塞がっている時だが、此処にそんな物は持ち込んでない。
 一瞬、変なモノを持たせたルーテシアの姿が浮かぶが、今はヴィヴィオ達の部屋に居る……筈である。
 若干警戒しながら開けるが、無用な心配だった。一緒に居たのはフェイトで、手に持っていたのはコップ。其々両手が塞がっているのは、自分とアレクの分だろう。
 ただ、手に持つコップの中身は白い部分が多く、何か混じった牛乳のようにも見える事が気に掛かる。

「はい、エリオくん」
「……ありがと、キャロ」

 手渡されたエリオは、受け取りながら訊いても良いのかと迷う。昨日、自分が咄嗟に勧めただけに。キャロは、身長を気にしているだけに。
 そんなエリオに、キャロはにっこり微笑んで言った。

「これは栄養満点のフルーツ牛乳だよ」
「あ、アレク! 栄養補給のドリンクだって!!」

 キャロは知りたそうな顔をしていたので言っただけだが、エリオは如何にも直視できず、アレクを呼んだ。誤魔化した訳では無い、救助を求めた訳でも無い、単に差し入れを知らせただけ。そう自分に言い聞かせながら。
 だが、アレクは無情だった。

「……くぅ」

 アレクは顔を背け、狸寝入りを決め込んでいた。エリオの必死さから、関わったら面倒と思ったが故に。それに牛乳を勧めたのはエリオであり自分では無い、つまり自業自得である。
 そんな事も思いながらアレクは嵐が過ぎ去るのを待っていたが、一夜を共にしたエリオには簡単に見抜かれた。

「寝たふりだよね!? 確かアレクは寝つき悪かったよね!?」

 回り込んだエリオから再び顔を背けるが、向けた方角は入口方面であり、並んで立つ二人と目が合った。

「………………家族団欒の邪魔しちゃ悪いと思ったんだよ」

 アレクは思い付いた言い訳をしたが、エリオは疑わしい視線を寄こしていた。
 なんにせよ、これで逃げられる言い分は立った。アレクは疲労困憊の身体に鞭打って起こし、出て行こうとする……が、目の前にコップが差し出された。

「はい、アレクの分だよ」

 にこりと笑ってフェイトは言うが、アレクの脳は音声変換していた。執務官からは逃げられない、と。
 だが、こんな思考を悟られてはならない。精一杯の笑顔で受け取る――

「……アリガトウゴザイマス。デハ、失礼シヤス……」

 ――ことは出来なかった。引き攣った笑いにしかならなかった。
 だが、脱出したい気持ちは変わらない。それどころか増大中。フェイトの横にズレれば、扉まで数歩しかない。
 挙動不審な動きになりつつも、歩を進めようとした……が、後ろから肩を押さえつけるように掴まれた。

「大丈夫、僕は気にしないから。ゆっくりしていこうよ……ねっ?」
「エ~リ~オ~……ッッッ!!!!」

 アレクは恨みがましい視線を投げるが、エリオの目も必死だった。
 元々、香弥路からは身長を盗られた等の言い掛かりがった。今回は湯場の事件に加え、手には乳製品もある。また言い掛かりを付けられるに決まっている。
 だがアレクが居るならば、宥和は望める……と信じている。それに事件の発端はアレクにあるのだから、付き合うのが義というものだ。
 そう思いながら押さえつけるエリオと逃れようとするアレクに、柔らかい笑い声が掛かる。

「……フェイトさん?」
「ううん。クロノとユーノにもこういう所あったなぁ、って……」

 十四年来の付き合いに成るクロノとユーノは、顔を合わせれば今でも軽口のやり取りをしている。男同士だと童心に帰る、と義姉の言葉を思い出しながら、微笑ましいと言わんばかりのフェイトに、エリオはなんとも言えない気持ちに成る。
 だが、何の事かアレクには一切解からない。つーかクロノとユーノって、誰? と首を傾げる。

「クロノさんはフェイトさんのお兄さんで、ユーノさんはフェイトさん達の幼馴染だよ」
「ほー……ん?」

 捕捉を入れるキャロに相鎚を打ちながら、ふと気付く。
 今エリオの意識は他へと移り、止める者は居ない。つまり、離脱可能。

「じゃ、俺はこれで――」
「アレク」
「――ぇぇえい?」

 家族団欒をお楽しみくだされ、とアレクは去ろうとしたが、先読みしたかのように振り向くフェイトに固まった。執務官からは逃げられない。そんなテロップが脳内に流れた。
 いったい何を言われるのか。内心で身構えるアレクだったが、続く言葉に虚を突かれた。

「折角知り合ったんだし、これからもエリオと仲良くしてほしいんだけど、お願いしていいかな?」
「へ? ……いや、まあ、それくらいなら別にいいですけど……」

 態々いう事か、と親心など知りはしないアレクはそう思うが、その程度ならば吝かではない。お互いに豊乳効果を確かめ合う約束もあるで、ある程度の友好は築くつもりだ。
 だが、更に続く言葉に再び虚をド突かれた。

「じゃあ一緒にお話ししようよ。私もアレクの事知りたいし」
「へ?」
「いいですね、ちょうど僕もそう思ってたところです」
「……はあ!?」
「さあ向こうの奥に座って話そう」

 何故そうなる!? とアレクは思うが時既に遅く、エリオにガッシリと肩を組まれ、あれよあれよと連れて行かれた。
 そして一番奥に座らせられ、その隣にエリオが逃げられないように陣取った。

「……何を話せばいいんですかぃ?」

 逃げられないと悟ったアレクは、観念するように対面するように座るフェイトとキャロに問い掛ける。自分の事を話せと言われても、すぐに話せる事を思い付かない。

「じゃあ質問形式にしようか。アレクは格闘技やってるよね。何時からやってるの?」
「え~と、……六、七年くらい前から、ですかね?」
「なんで始めようと思ったの?」
「……なんでと言われても……なんででしょうね? なんと言うか……必然的に?」
「あ、王の血縁だから伝承を受け継がないといけない、みたいな感じ?」
「……そんな感じでいいんじゃない?」

 アレクはフェイトの質問に首を傾げた。
 今ではのめり込み叔父とのコミュニケーションの一種にまで昇華しているが、何故始めようと思ったかなど憶えていない。修める必要があったから、という動機はあるがソレは言える筈も無い。
 伝承などどうでもいいが、折角キャロが都合良い乗り口をくれたので、適当に同意した。

「じゃあ合宿に参加したのってどれくらい強いか確かめたかったから?」
「いや。それは――――まあ、そんな感じ」

 姐さんから強制的に、と言おうとしたが、それこそ言える訳が無い。伝達されたら面倒に成る事間違い無しである。
 だが、強さを確かめると言われても、自分の力を確かめる相手は足りている。倒したい相手も決まっている。此処で確かめて何の意味があるのか、アレクには解からない。
 とは言え、そんな内心を探られても面倒である。アレクはキャロの問いに曖昧に頷いた……が、あまりに曖昧だった為、フェイトは違うと取った。

「あ、もしかしてヴィヴィオが居たから?」
「……はい?」

 ぽん、と手を合わせながら言うフェイトに、アレクの目は点になった。何がどうなってヴィヴィオが出て来たのか全く分からない。

「な、なして、そげな答えが、出て来たんで、ヤンス?」
「ヴィヴィオは仲良く成りたがってたし、アレクは喜ばせる為に参加を秘密にしておくことに賛同してくれたでしょう?」
「……へ?」

 確かにノーヴェから秘密にしておけと言われたが、そんな意味合いがあった事など始めて知った。そう言えば会った時やたら喜んでいたなぁ、と今更ながら思い出したけども。

「じゃあアレクもDSAAに出るの?」
「……ディメンション・スポーツ・アクティビティ・アソシエイション?」
「十歳から二十歳の人が参加出来る全管理世界から選手が参加する公式魔法戦競技会トーナメント、インターミドル・チャンピオンシップだよ。ヴィヴィオ達は今年から参加資格があるから出るって。私とエリオくんもルーちゃんのセコンドにつくんだよ」

 また飛んだ問いにアレクはついて行けず、そうなの? と取り敢えずエリオに視線で問う。

「うん。でも、安全の為にCLASS3以上のデバイスを装備していなきゃダメなんだけど、アレクは持ってる?」
「いんや、CLASS3どころかデバイスなんて影も形も無いから……俺には関係無いな」

 デバイス無いなら話にならんから終わり、と思うアレクだったが、此処に居る人たちは感覚が全く違った。

「じゃあ折角だし作ろうか」
「……作るぅ?」

 無ければ作成すればいい、そんな思考を地で行く人達だった。

「真正古代ベルカ式はそんな簡単に作れるもんじゃぁ……」

 一応、アレクも作成見積もりをした事があり、困難だということは知っている。なので、ぽんと作ると言われても、全く信じられないし、高価なものは頼みたくない。

「大丈夫だよ。はやては――――頼む所は真正古代の所だし、パーツも余ってる筈だよ」
「いえいえ、デバイス買う金ないんで」
「ううん、お金なんていらないよ」
「いえいえいえいえ、そんな高いもん貰えませんって」
「そんなに高いかなぁ? アレクは幾らくらいだと思ってるの?」

 高給取りめ、と思いながらもアレクは見積もり金額を教えると、フェイトは形良い眉を秘かに曲げた。
 流通している管理局とは違い、一般店舗では仕入れた在庫や組み込まれたパーツで値段が上下するが、一桁増えるほどに高額なのは些か可笑しい。作製が困難だとしても、それはあくまで作成側の問題であり、試行錯誤の負担を全て客に求める事は間違っている。
 それに、桁が増える程だと、悪徳商売等の可能性も考えられる。第一、全てをワンオフで作る必要など全く無い。

「……そのお店の住所を教えてくれる?」
「へい? いいっすけど……?」

 アレクは記憶に残った大まかな住所を教えながらも疑問に思う。なんでこんな事訊くんだ? と。
 後日、アレクが偶々その店の前を通りかかった時、この質問の意味と結果を知るのだが……それはどうでも良い話であろう。

「それでアレク、デバイスだけど」
「へ?」

 話戻んの!? とアレクは驚くが、出来る女は切り替えが早く、物事も忘れないものだ。それにヴィヴィオが気に掛ける男の子であるので、フェイトとしてはお節介を焼きたくなる。

「前からヴィヴィオと仲良くしてもらってるし、そのお礼ってことでどうかな?」
「う、う~ん……」

 アレクにとってお礼とは、借りを返して貰う事と同意。ヴィヴィオの通信攻撃を借りと考えるならば、受け取るのは吝かではない。
 だが、真正古代ベルカ式は高いというイメージがあるので、簡単には頷けない。

「とりあえず話だけでもしてみたら?」
「まあ~……話だけなら……」
「じゃあメールで伝えておくね。今ミッドは早朝だから、話は明日起きてからだね」
「へ~い」

 ちょっとメールしてくる、とフェイトが席を外すと、アレクはずり下がった。ティアナのようにお構いなしで進めない分、余計に勝手が悪かった。

「アレクはフェイトさんが苦手なの?」
「苦手っつーか、……はぼ初対面で高い物くれるってのが、なんか信じらんねえ感じ?」

 キャロの質問にアレクは答えあぐねいた。
 勧める動機が不明であり、況してや凄く高価――少なくともアレクはそう思っている――物なら、何か裏があるのでは、と思ってしまう。

「……でも、フェイトさんはとっても優しいよ。フェイトさんは困ってる人を放っておけないし、ね?」
「うん。アレクだってデバイス欲しかったんでしょ。だったら今はチャンスとでも思ってればいいんじゃない? これから段々解かってくると思うし」
「そう、かぁ……?」

 キャロとエリオの言葉にアレクは唸る。弁解にも聞こえるが、どうにも本心のような気がした。
 アレクもフェイトの善意だと薄々分かっているが、まだ信じきる事はできない。
 だがそれとは別に、エリオが気になる事を言っていた。

「これ、から……?」

 これからとは、今後も付き合いがあり、このような遣り取りがまた有るということである。

「だってアレク、デバイス持ったらDSAAに出るんでしょ?」

 強さを確かめる為に合宿に参加したので、デバイスを求めたのはDSAAの為。そのようにキャロは判断した。
 参加すればヴィヴィオ達と同チームでの出場と思うので、行動を共にするだろう。フェイトも時間が取れれば応援に行くし差し入れも用意すると言っているので、顔を合わせる機会はあるだろう。
 だが、アレクはDSAAに出る気など今のところ無い。

「……出るの確定なわけ?」
「え? 出ないの? なんで?」
「……ルール覚えんのがメンドくさい」

 アレクにとって強さを求める理由は束縛を破る為、そして叔父に打ち勝つ為である。なので他に力を示す気もなければ誇る気も無い、勝ちたい相手に勝てれば良いのだ。
 それに、ルールを作り勝敗を他人に委ねる事が、縛られている様であまり好ましくない。闘いの勝者は最後まで立っていた者、原初のルーツでいいと思っている。
 第一、ルールを覚える事が何より面倒臭いのだ。
 だが、続くキャロの言葉に、アレクは身を起こし真剣な顔になった。

「限りなく実戦に近いから、あまり気にしなくていい筈だよ。ダメージだって疑似再現されるし」
「つってもなぁ~。どうもやる気が――」
「フェイトさんだってその為にデバイスを勧めたんだと思うし」
「――なに?」

 どうにも自分の意思とは別に進んで行く様は、ティアナの時と同じ。やはり、執務官とは自分にとって天敵なのだ。
 だからフェイトの伝手で作成されたデバイスも、首輪のようなモノに成り得るだろう。
 よし、断わろう。そうアレクが思った時、フェイトが戻って来て告げた。

「デバイスを作ってもらえるように確りとメールしておいたよ」
「あが」

 アレクは打ちのめされたように仰け反った。
 そして、途中から黙って成り行きを見守っていたエリオが、誰にも聞こえないようにとても小さく呟いた。

「……やっぱりアレクも流されるんだ」

 
 

 
後書き
……何気に難産でした。なんでか判んないけど難産でした。
でもこれでなんとかデバイスフラグは立ったからあとは出すだけ……なんですけど、まだ形状が決まりきってないのです。
ぬいぐるみor固形物で揺れてます。さて、どちらにしたものか…… 
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