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覇王と修羅王

作者:鉄屋
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合宿編
  十八話

「な、なんとか、生き残れた……」

 瓦礫を退けたティアナは、荒く息を吐く。
 現在のLIFEは110。辛うじてSLBを相殺できたのは、フェイトの奮闘とアインハルトの働きでなのはの残り魔力が少なく成っていたからこそだろう。その分ブラスターで自己ブーストして補っていたが、最大出力の制限のお蔭で押し勝てた。
 だが、これで試合が終わったかどうか定かでは無い。ティアナは生存者を調べようとレーダーを開いた所で、一直線に向かって来ている反応に目が行った。もう視認距離まで迫っている。

「この反応……スバル!?」
「ヴィヴィオです!」

 ティアナは声のした所に先制射撃をするが、躱された。
 誘導弾を放てば良いのだがSLBに全力を注ぎ込んだので魔力がもう空に近く、LIFEが1800も残っているヴィヴィオを削り切れない。
 こんなにLIFEが残っている理由は、近くに居たスバルしか無い。今や防災士長のスバルは災害の際に反射的に救助に赴くので、咄嗟にヴィヴィオを庇ったのだろう。その思い切りの良さはコンビ時代からよぉ~く知っている。

「ティアナさん、行きます!」
「あたしは遠慮したいけど……」

 ヴィヴィオは視認した所から左右にステップを踏みジグザグで近付いてくるので、狙いが付け辛い。
 ならば此方も接近用意、と片方をダガーモードに切り替えようとした――――ところで他に生き残った者が庇うように前へ出た。

 空破断(仮)!

 前に立った者はアインハルト。なのはに撃った拳速から生じる衝撃破を基にした技であり、まだ試行段階なので(仮)が付く。
 だがそれでも威力はあり、確りとヴィヴィオを吹き飛ばした。

「ヴィヴィオさん、これ以上は行かせません」

 悠々と自然体で立つアインハルトのLIFEは1350。対しヴィヴィオのLIFEは1100まで減り、ティアナも相手しなければならない。
 だが、ティアナは掠りでもすれば行動不能に陥るLIFE。ヴィヴィオはシューターで狙いをティアナに定め、分り易く手を振り上げてから発射した。
 当然アインハルトが腕を旋回させ防せごうとするが、其れこそがヴィヴィオ()の狙い。

 コメットブラスト!

 幾つもの小石がアインハルトとティアナの後方から飛来する。土を使った防御魔法と騎士道精神の本懐を遂げたエリオによりLIFE105で生き残ったコロナからの射撃魔法。
 相手は一人、そう思っていたアインハルトは至急対処しようとするが、前後同時には手が回らない上に、矢鱈と数が多い。
 最早万事休す、と思いきや、気づけば身体が横に飛んでいた。

「ティアナさん!?」

 居なくなったアインハルトの分も射撃魔法がティアナに着弾する。

「痛ー!?」

 同時にコロナから悲鳴が上がる。ティアナが着弾する前に、コロナへ向け徹甲狙撃弾を放っていたのだ。
 意地のような一撃だったがコロナのLIFEを確り削り、ティアナ共々0に成った。

「ティアナさん……」
「アインハルト、後は任せたわよ」
「――――はい」

 心配するくらいなら勝ってみせろ。そう言うティアナの目に、アインハルトは強く頷いた。
 他は皆、撃墜か行動不可で残った者はアインハルトとヴィヴィオのみ。一人行方不明が居るが、姿が見えなければ撃墜と変わりない。

「……お待たせしました、ヴィヴィオさん」
「いいえ……!」

 静かに構えを取るアインハルトに、ヴィヴィオは震えた。
 何度か対峙したが、今のアインハルトはそのどれとも違く感じる。勝とうとする意志が、強く伝わってくる。
 アインハルトが全力で来るのだ。嬉しくて震えてくる。

「アインハルトさん、行きますっ!!」

 宣言と同時にヴィヴィオは飛び出すと、すぐにアインハルトの拳が迫ってきた。
 だが何度か身体で受け、モニタでも見た拳だ。避けられない訳じゃない。横に避け、ボディを狙い撃つ。
 返す拳で下顎を狙い――――咄嗟に防御へ変えた。
 顔を狙うアインハルトの強打。倒そうとする意志に満ち溢れ、真面に受けたら撃ち飛ばされてしまいそうだ。
 だが、引きはしない。ヴィヴィオのスタイルはカウンターヒッター、迫る相手に進み出てこそ成り立つ。
 再び迫るアインハルトの拳に合わせ、ヴィヴィオも自身の拳を振るう!

「――――っ!」

 頬に受けた衝撃にアインハルトは顔を歪めた。的確なカウンターで意識を持って行かれそうになる。
 だが、確りと噛み締めて耐え、進む。進んで打つスタイルが覇王流。止まりはしないし、止まらせない。
 アインハルトは貫く意思を込めた拳を振るう!

「っ――――!」

 防御の上からでも通る衝撃にヴィヴィオは顔を歪め、そして破顔した。
 どれもこれも本気の一撃だ、それも遠慮無しの。もう分りきった事だが、一々再確認してしまう。それ程に楽しい、本気で向き合ってくれる事が嬉しい。だから精一杯応じ、全力で拳を繰り出す。
 対しアインハルトは少し顔を顰め、拳がブレた。それに意識が少し他所へ行ったような感じだ。
 理由は分からないが、今は試合中でチャンスに違いない。甘い拳を躱し、カウンターを叩き込む。
 仰け反るアインハルトのLIFEは残り750、一閃必中の拳で決める!

 アクセルスマッシュ!!

 高速の昇打がアインハルトの顎を下から捉える。

「――――っ!?」

 拳に伝わる感触が、違った。アインハルトは寸の所で掌を挿ませていた。
 だが、此処まできたら止まれない。此のまま押し通す、と突き上げる拳は際どく外され、ダメージ630と行動不可には僅かに足りなかった。
 ならば、もう一撃!
 仰け反り浮足立ってるアインハルトより、ヴィヴィオの方が立て直しは早い。
 次の一撃を、体勢を整え――――ようとした所で溜め息混じりの声が耳に届いた。

「……すみませんヴィヴィオさん。先に謝らさせていただきます」
「……はい?」

 アインハルトの顔を見ると、顔でも申し訳ないと言っていた。
 どういうことですか? と脱力して倒れ行くアインハルトに訊く前に、頭上が少し暗く成った事に気付いた。
 ふと上を見ると、何か黒い物体が高速接近してきていた。
 なんか、もわもわとしていて世離れした人ならざるモノっぽい。

(アレク……さん?)

 能々見ると、アレクっぽい。白い道着は消し飛び黒いインナー姿だが、たぶんアレクだ。SLBの直射とSLBの余波で吹き飛んだのにLIFEが100残っているアレクだ。
 ただ、泣いているのか怒っているのか笑っているのか、どす黒い覇気を纏っていてよく判らない。それ程迄の怖い思いをした事は、なんとなく判るが。
 なんか亡霊みたい……、と思った矢先、ギラつく目と視線が合った。

「究極! 抹消されかけた者(ゲシュペンスト)キィィィィィッッッック!!!!」
「えええぇぇぇっ!?」

 ヴィヴィオの思考を読んだかのように叫び繰り出すアレクの蹴りは、只の蹴り。
 だが只の蹴りと侮ること無かれ。どうやって生き残ったのか――――というか生きているのか判らない恐怖。更に、よくもやってくれたと怨念盛り沢山で放たれる蹴りは、凄まじい八つ当たり。その足先を吹っ飛ばしてくれた片割れの娘に向け、全力全壊で特攻した。

「そんなぁーっ!?」

 蹴られた、というより轢かれて撥ねられたヴィヴィオは、ガッツリLIFEを0まで削られて飛んでいく。
 そしてアレクは着地大失敗して激しくバウンドし、ヴィヴィオを追うように盛大に転び跳ねて行った。

「はあ……」

 身体を起こしたアインハルトは溜息を吐いた。
 ヴィヴィオとの対峙中にアレクから咆哮のような念話が届き、相手を譲ったのだが、もう少しなんとか成らなかったのか。向こうの方で落下するヴィヴィオのヒップアタックにご都合主義宜しく潰され、LIFE0になったアレクを見て心底から思った。


◆ ◇ ◆


『お疲れ様でしたー!』
「飲み物とおやつを用意したから確り休んでねー」
『はーい!』

 試合も終わり、ロッジで休もうとするヴィヴィオ等に、アインハルトは物欲しそうな視線を送る。
 試合中に覚えた繋がれぬ拳(アンチェイン・ナックル)や空破断。どちらもまだ体得とまでは行かないが、入り口は掴んだので、もっと試してみたかった。
 最後のヴィヴィオとの勝負も、途中で水を差されたので不完全燃焼なところもある。アレクの念話で踏み込みが甘くなり、そのお蔭で不思議な加速で伸びた昇打の直撃を免れたのだが、それはそれで悔しいものだ。
 試合の結果だけ見れば、アインハルトが生き残り赤組の勝利となったが、欲を言えばもっと戦っていたかった。

「じゃあ陸戦場を再構築したら二戦目ねー!」
「二時間後に此処へ集合だよ」
「……え?」

 なのはとフェイトの言葉にアインハルトは、きょとん、と首を傾げた。

「あれ? 今日だけで三回戦やるって……言ってませんでした?」
「……初耳です」
「す、すみません!」
「……あ、いえ、気にしないで下さい。もっとやりたかったので寧ろ喜ばしいです」

 告げるヴィヴィオに、アインハルトはどうという事は無いと首を振る。
 寧ろ望むところだ。今自分が何を出来るのか、何処まで拳が届くのか、まだまだ試してみたかった。
 アインハルトは二時間後の再戦に向けて、静かに闘志を燃やし始めた。
 だが対象に、若干戦意が薄れる者も居た。

「まじかい……」

 アレクである。
 SLBを受けて直ぐに意識が飛び、どう防いだのか覚えてないが、中々凄い事をやった気がしていた。その所為でヴィヴィオを撥ね飛ばした後に踏ん張りが効かず、転がっていったのだ。
 覇気とは命の燈火であるので、生命力を削って戦っているようなもの。連戦となると中々厳しいところがあった。
 果たして二時間で何処まで回復できるのか。そんな事を思いながら、遠い目で先行くヴィヴィオ達を見ていると、向けられていた視線に気付いた。
 ティアナからの観察といった感じの視線だ。

「なんすか、姐さ――――!!」

 ついつい棘のある訊き方なってしまい、慌てて口を紡ぐ。
 執務官という肩書と此れまでの付き合いから、下手な口答えは危険と己に言い聞かせていたのだが、疲労ですっかり忘れていた。言葉使いを直せと言われていた事も。
 この後に訪れるのは説教か、それとも拳骨か。平時ならまだしも疲労感がある今は、兎に角遠慮したい。
 さて、なんて弁解したものか。悩むアレクに、意外な声が掛かった。

「体調は良くないの?」
「……へ?」

 何処となく心配そうな声色だった。
 いったい誰に向かって言っているのだろうか。周りを見ても、もう殆んどの人はロッジの方へ足を向けている。
 もしかして、俺か? 少し遅れて思い至るが、どうにも信じきれない。先程、優しい声色で先程の死亡通告を受けただけに。
 もしかして、トドメを刺しに……!?

「も、問題ありません!! あ、あってもゲシュペンさせやす!!」

 有り得ない思考からアレクは狂言をのたまうが、ティアナは気にしない。
 気にする事はアレクの顔色の方だ。何処となく青白く、生気が抜けたようだった。
 思い返してみれば、アインハルトとの果し合いの後も同じだった。あの時は因縁解消により、それまでの疲労が浮き出たと思っていたが、どうやら違うようだ。
 覇気というものを使うとこうなるのだろうか? 使い続けていたら、どうなるのだろうか? 先を思えば、悪い予想しか出来ない。
 だがアレクは、そうやって生き抜き、血を繋いできた末裔。それに身体資質と戦闘経験だってあるのだ、止めろと言った所で止められるものではないだろう。出来る事は精々身体を労わる事くらいしかない。
 そう思って声を掛けたのだが……今のアレクの顔色は、何故か真っ青になっていた。

「明らかにヤバイ顔色してるわよ?」
「そ、そそそそんな筈ありゃせんですますよ!?」

 アレクはブンブンと手と顔を勢いよく振りまくり、なんでもないとアピールするが、ティアナにはそう見えない。真っ青な顔をして、なんでもない訳が無い。
 疑わしい、と暫し懐疑的な視線で見つめていると、アレクはあちらこちらに視線をさ迷わせ始めた。

「……アレク」
「おおおお俺もちょっくらガッツリ休んできやす!!」
「あ、ちょっと!」

 呼び止める声を背に、アレクは全速力で逃げて行った。

「……全く」

 アレクの疲れなど無いような逃げっぷりに、ティアナは呆れたように呟いた。
 この様子ならば、今のところ懸念した事まではならないだろう。そう判断してティアナは見逃した。

 ただ、此方を怯えた目で見ていたのは何故だろうか。ふと考えて……行き当たった。
 試合前は至って平常だったアレクが、試合後にこうなった。そして、青白い顔が真っ青に成ったのは、自分が近づいてから。
 考えられるものは……SLBの時。

「……ちょっと待ちなさいアレク!!」

 気付いたティアナも全速力で駆けだした。上には上が居るし、恩師の全力全開はこんなもんじゃない。そう言い聞かす為に。
 試合中の発言が元でも、流石に化け物を見る目は我慢ならなかった。

 
 

 
後書き
何とゲシュペンストを掛けようと考えてたらこんなに時間が経ってたZE☆

 
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