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ソーセージ

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第一章


第一章

                       ソーセージ
 井振欣也はだ。自分の店のキッチンで難しい顔をしていた。
 そのうえで、である。横にいる妻の美代子に対して言った。
「なあ」
「いきなりどうしたのよ」
「うちの人気メニューはソーセージだよな」
 二人の店はドイツ料理のレストランである。日本では少し珍しい。しかし味がよくサービスも丁寧で値段も安いということで客は多い。
 そしてドイツ料理といえばやはりソーセージだ。欣也はそれを話に出してきたのだ。
「そうだよな」
「ええ、それがどうかしたの?」
「ソーセージっていっても色々あるよな」
 彼はまた言った。
「豚のソーセージだけじゃなくて」
「牛や羊もあるわよね」
「鶏もあるな。色々だよな」
「そうね。中に大蒜や玉葱も入れたり」
「本当に色々ある」
 彼は腕を組んだまま述べる。
「何かとな」
「けれどそれがどうかしたの?」
「いや、それだけか?」
 不意にこんなことを言い出したのである。
「挽肉や玉葱とかを入れてそれで終わりか?」
「どういうこと?それって」
「ソーセージに入れていいのはそれだけか?そういったものだけを腸の中に入れて燻製にして茹でたり焼いてそれで終わりなのか?」
「それがソーセージじゃないの?」
 美代子は夫の言葉の意味がわからなかった。この店ではソーセージは自家製である。その独特の味も人気を集めているのである。
「それが」
「だから他にないか?」
 しかし彼は言うのだった。
「他にな。ないか?」
「ええと。他にあるのかしら」
「今それを考えているんだ」
 そうだというのであった。
「何かないかってな」
「そうね。新しい料理の開拓ね」
「ああ。ソーセージにベーコンにハムにジャガイモ」
 ドイツ料理の基本である。
「それにハンバーグとザワークラフトとアイスバインな」
「ドイツ料理ね」
「それとビールにワインだ」
 酒の話もする。
「皆ドイツ料理っていったらそういうものだよな」
「けれど他にもあるかもってことね」
「ああ、そうだ」
 まさにその通りだというのだ。
「あるんじゃないのか?他にも」
「そうね。それでソーセージについても」
「何かある、絶対にある」
 欣也はまた言った。
「俺達で新しいソーセージを考えてみないな」
「わかったわ。じゃあやってみましょう」
 美代子も夫のこの言葉に頷いた。
「それじゃあね」
「やってみるか。作ってみるか」
「よし、それだったら」
「ソーセージに色々入れてみましょう」
 具体的にはこういうことだった。
「何でもね」
「そうしてみるか。じゃあやってみるぞ」
「ええ、そうしましょう」
 こう話してだ。そのうえで二人で新しいソーセージを作りはじめたのだ。だがそれはまさに迷走と悪戦苦闘の日々のはじまりであった。
 最初にやってみたのはだ。魚だった。しかしこれは。
「ううん」
「何か違うわね」
「そうだな」
 食べてみてだ。二人の顔ははっきりしないものになった。
 
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