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最終回

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第二章


第二章

「それでもな。あそこまで酷かったのはな」
「ああ、なかったな」
「今までな」
「そうですか」
「そういうことをちゃんとするのがプロデューサーなんだよ」
 まさに正論であった。プロデューサーとはすなわちゼネラリストである。ゼネラリストにはゼネラリストとしての仕事があるのである。
「それが真っ先に予算や時間に影響与えてどうするんだよ」
「しかも自分の仕事以外のこともどんどん介入するしな」
「大変だったよ」
 また結論が述べられた。
「本当にな」
「この一年修羅場だったよな」
「けれどそれも終わりだ」
 こう話されるのだった。
「何とかな」
「まずはゆっくり休みたいよ」
「それで次はちゃんとした予算と時間で作品作りたいよな」
「そうだよなあ」
 こんな話をしながら飲む彼等だった。彼等にとってはこの一年はいいものではなかった。そして。
 マンションの一室だった。そこで二人の男達が飲んでいた。どちらも中年である。二人は暗いその部屋の中で飲みながらそのうえで話をしていた。
「すいません」
「あのことか」
「はい、本当に」
 若い温厚そうな顔の男がいかつい、その筋の人間にしか見えない男に対して言っていた。見れば二人はスコッチをロックで飲んでいる。
「助かりました」
「それはいい」
 だが強面の男はこう返すのだった。
「それはな」
「いいとは」
「俺は好きで引き受けたんだ」
 そしてこんなことを言った。
「だからな。いい」
「左様ですか」
「だから気にするな」
 彼はまた言った。
「このことはな」
「それなら」
「俺が書かなかったら間に合わなかったろ」
 強面の彼はこうも述べた。
「そうだったな」
「はい、それは確かに」
「あの作品が潰れるだけじゃなかった」
「シリーズ自体の危機でした」
「それを放っておけるか」
 これがこの強面の彼の言葉だった。
「だからいいんだよ」
「それでだったんですか」
「それにあの時言ったよな」
 強面の男は相手を見てきた。その目の光はかなり強い。
「覚えてるか」
「はい、あの言葉ですね」
「御前の願いを聞かないわけにいくか」
 そうだというのであった。
「そういうことだ。気にするな」
「それでだったんですか」
「ああ、そうだ」
 強面の彼はここでそのスコッチを一杯飲んだ。独特の風味と香りが口の中を支配する。それと共に身体に入る酔いをも堪能しながら飲んでいた。
「そういうことだ」
「じゃあ今度は私が」
「それもいい」
 強面の彼は相手の礼を受け取ろうとはしなかった。
「俺はそんなことは求めないからな」
「ですか」
「とにかく飲め」 
 話をそこにやるのだった。
「わかったな」
「はい、それじゃあ」
 こうしてだった。彼等はそのスコッチを飲んでいく。男だけで飲んでいた。しかしそこには見えはしない心地よいものも確かに存在していた。
 
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