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最終回

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第一章


第一章

                         最終回
「一年かあ」
「ああ、長かったな」
「全くだよ」
 酒場でだ。中年や若い男達がビールのジョッキ片手に話していた。木の内装の店の中はサラリーマンやOLで一杯である。彼等はその中の座敷の席に座ってそのうえで焼き鳥や冷奴をあてに飲んで話をしていた。
「最初は終わるのかって思ったけれどな」
「終わるな」
「そうだな」
「やっとか?」
 一人が言った。
「そんな感じか?」
「そうですか?俺はあっという間でしたけれど」
 ここで若い茶髪の男が言った。
「本当に」
「あっという間だったか、御前は」
「はい、一年って短いですね」
 彼は周りの言葉にこう答えた。
「そう思いました」
「そうか」
「本当に」
「短かったか?」
「あまり思わないよな」
「今回はな」
 だが他の面々は口々にこう言うのだった。あまり面白くなさそうな顔で。
「色々あったしな」
「揉め事多かったしな」
「揉め事ですか」
 その若い彼はその言葉には頷いて返した。
「そういえばそうでしたね」
「だろ?事故も多かったしな」
「何か壊れることなんてしょっちゅうだしな」
「それにだよ」
 ここでだった。まず一人の顔が歪んだ。
「プロデューサー途中で交代したしな」
「ああ、そうでしたね」
 若い彼はそのことに対してすぐに頷いた。また頷いたのだった。
「確かに」
「あれ今までなかったことだからな」
「前代未聞だったんだぞ」
 そうだったというのである。
「プロデューサーが作品の製作を統括するからな」
「それの交代なんてな」
「本当に今までなかったんですか」
 若い彼はいぶかしむ顔で先輩達に問うた。
「そこまでだったんですか」
「ああ、そうだよ」
「その通りだよ」
 まさにそうだと。先輩達は答える。
「まああれは仕方ないからな」
「だよな」
「滅茶苦茶だったな」
 先輩達はビールを飲む手を少し止めてそのうえでこう話していくのだった。それはどうやら彼等にとってはあまりいい記憶ではないらしい。
「予算オーバーに過密スケジュール」
「製作間に合わないことも考えられたよな」
「そうだよな」
 こう口々に話されていく。
「プロデューサーが統括しているのはいいにしろな」
「脚本にも演出にも口出してきたしな」
「俺達現場の仕事にもな」
「いつも現場まで来てたしな」
「しかもその現場だってな」
 それも問題なのだった。どうやらこの作品は問題だのトラブルだのに非常に悩まされた作品だったらしい。それが一年続いたようである。
「田舎とか山とかで撮影してばっかりだったしな」
「移動費もその時間も馬鹿にならなかったしな」
「よくスケジュールも間に合ったよ」
「本当だよ」
「これまでは違ったんですか」
 若い彼は少し戸惑った顔でまたしても先輩達に問い返した。
「それは」
「まあ毎回予算とかスケジュールは頭痛の種だけれどな」
「それはな」
 これについてはというのだった。
 
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