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魔法少女リリカルなのは平凡な日常を望む転生者 STS編

作者:blueocean
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第51話 バルトvs零治?再び………

「くっ、この!!」

2対1なのに一向になのはの砲撃は当たらない。バルトがクロスレンジで戦っている為、誤射をしないように何時もの様な追撃を含めた砲撃はしていないが、それでもバルトが離れた一瞬や、零治の着地の瞬間を狙ったりと様々な工夫は行なっているが、それをあざ笑うかの様に零治は砲撃を軽々と避けていた。

「はああああ!!」

バルトの一閃を身を横にずらす事で避け、カウンター気味に斬りかかる。

「くっ!?」

しかしその瞬間に合わせた様になのはのディバインシューターが零治を襲う。

「油断出来ないわね……!?」
「ボルティックブレイカー!!」

転移することで距離を取った零治だったが、その瞬間を狙って今度はバルトが砲撃魔法を放った。

「ちっ!!」

流石の零治も連続では転移出来ない。

「仕方ないわね………!!」

しかしその逃げられない攻撃を零治は神速によるスピードで避けることに成功する。

「くっ!?転移みたいなこの速さ………なのはの家族もそうだが、もはや速いって言えんのか!?」
「お兄ちゃん達と同じ神速………」

なのはは兄や父が行っていた訓練にくっ付いて見ていた事がある為、神速だと言うことが分かった。

「やっぱり2人相手は骨が折れるわね………あまり時間をかけて彼女達と接触すると何が起こるか分からないし、さっさと勝負を決めましょうか」

零治はそう言うと再び先程と同じ様に神速でバルトに斬りかかった。

「何………?」
「へっ、そう何度も同じ手が通用するかよ!!」

神速のスピードで斬りかかったがその一閃はバルトのバルバドスに止められた。

「バルトさん!!」
「神速に勝つにはこっちも同じ土俵で戦うしかねえ!!だから!!」

そう叫ぶとバルトから発せられた雷がバチバチと光る。その光は今までとは違い、バルト自身が雷となっているかの様に全身を雷が覆った。

その姿、まさに雷神………

「雷を自分に流し強制的に身体を動かしているのね………だけどそれがいつまで持つかしら………?」
「ほざけ!!お前こそ持つのか!!」
「良いわ、我慢比べといきましょうか?」

そう言った後、2人はなのはの目に追えないスピードで戦い始めた………



















「いらっしゃいませ」

大学の帰り、近くのゲームショップに足を運んだ。

「さて、魔法少女リリカルなのはは………」

ゲームを買う前にした調べとして投稿動画サイトにあった魔法少女リリカルなのはの動画を確認した。アニメを丸々見ることは叶わなかったが、魔法の技をまとめた動画があったのでそれを見ていた。

「何か思ってたのと違う………」

もっと可愛らしい感じの女の子向けだと思っていたが、蓋を開ければ空中で高速戦闘をしながら巨大なビームを発射したり、激しく斬りあったりとそんな生易しいものでは無かった。

「さて……と、ゲームは………」

そう呟きながらあいうえお順に並んでいるゲームを確認してみる。

「………あれ?」

しかし魔法少女リリカルなのはと言う題名のゲームは見つからなかった。

「売り切れか………?いや、新しいソフトじゃないから売り切れは無いか。中古で無いのかな?」

そう思いながらもう1度確認してみるがやはり無かった。

「………仕方が無いか」

別にどうしても欲しいわけでも無いので俺はそのまま店の外に出た。

「………帰るか」

そう呟きながら帰路についた俺だが、ふと、確認したアニメを見ながら変な違和感を覚えた。

「………あれ?女の子の髪形や色ってあんなだっけか?あのなのはって子はポニーテールだっけ?フェイトって子は髪は金髪だっけ?はやてって子もそうだ………」

何故そんな違和感を感じたかは分からない。思い出そうとしても思い出せない。

「何でこんなにも引っかかるんだ………どうしたんだよ俺………」

そう自問自答してみるが当然答えは返ってこなかった………























互いに神速の速さの戦いは続く。

「こんな速さ私じゃ………!!」

援護しようにも2人のスピードが速すぎてバルトに当ててしまうかもしれないと思ったなのはは中々手を出せずにいた。

「………だったら」

そう呟いてなのはは集中する。神速の弱点はその持続時間、そしてその後の反動。技をよく知っているなのはだからこそ、瞬時に頭を切り替えた。

「バルトさん、後は私に………だから必ず耐えて………!!」

そう思いながらなのはは集中するのだった………









「遅い!!」
「ちっ!?」

そんななのはの視線の先の2人はその短い時間の中で何度も激しい戦いを繰り広げていた。
零治の斬撃を頬にかすめ、舌打ちをしながらお返しとばかりになぎ払う。

「モーションが大きいね」

その光速の中、呟く零治。
バルトの攻撃を避けながらすかさず追撃に出る零治。

零治の言う通り、零治とバルトの2人の戦いは終始、零治の方が圧倒していた。
刀と鞘による手数の多い攻撃と一撃必殺の斧による攻撃。激しいクロスレンジでの戦闘の為、互いに無傷とはいかないが、そこにスピードでバルトに少々勝っていた零治に分があった。

「ほらほら!!」
「くそっ!!」

横なぎに斬り裂いた斧の一撃は零治の鞘により受け流され、その隙を零治は見逃さずすかさず追撃をする。それを捌くのに結局後手に回ってしまうバルトだった。

「この………少しはビビれ!!」
「何を言ってるのよ。当たったら不味いけど、当たらないと分かってたら怖くなんてないでしょうが!!」

零治の言う事はバルト自身よく分かっていた事ではあるが、こんなにも振り下ろす斧に真っ直ぐ向かってくるような相手はどうしても苦手な為、つい愚痴を溢してしまった。

「ほらほら、行くわよ!!」

そう言ってバルトに向かって刀を突きさそうと先を向け、突っ込むが………

「やらせるか!!」

それを今度はバルトが相手に向かって突っ込み、間一髪で避け、その勢いと共に零治の顔を掴もうとするが………

「残念」

零治はどこまでも冷静だった。突き出した刀の向きを変え、横薙ぎにバルトを斬り裂こうとした。

「やられるか!!」

だがそれでもバルトは零治の先の先を読んでいた。零治があれだけで終わるはずも無いと思ったバルトは右手の斧を盾の様に構え、

ガキッ!!

斧で横薙ぎに斬りかかって来た刀を止め、零治の腕を掴ん………

「くそっ、逃げられた………」

しかし、掴むことは出来ず、転移され、零治は掴まれる前に距離を取ったのだった。

「だが、もう神速は使えないだろ?」

バルトの言う通り、転移した事で零治は距離を取った場所で立ち尽くしている。

「時間稼ぎは上手く行ったみたいだな」
「それはあなたにも言える事よ?あなたのその雷も先ほどと違って随分大人しくなっているわね」

零治の言う通り、先ほどの全身雷の状態だったバルトの体はいつもよりは荒々しく雷がバチバチと音を立てているが、先ほどとは違い、いつものバルトと同じ姿になっていた。

「だが相手は俺だけじゃない」
「何………!?」

上空に高魔力反応を感じた零治はとっさに上を見た。

そこには超巨大なピンクの砲撃が零治に向けられて発射されていた。

「ナイスタイミングだなのは!!」

立ち止まった瞬間、なのはは無言で集束していた砲撃、スターライトブレイカーを発射。
なのはの存在を忘れていた零治にはもう転移しても間に合わないほど、砲撃が零治に迫っていた。

「これで、終わりだな」

雷神化を完全に止め、地面に片膝を付くバルト。

「ヤバい、体全体が軋んでいるみたいだ………全く、正に人外の技だよ………」

そう思わず呟いてしまうほど、バルトの肉体はダメージを受けていた。
座り込み、文句を言いながら寝ているヴィヴィオの方を見るバルト。

「なっ!?」

そこにはヴィヴィオを抱えたバリアアーマーの姿があった。

「なのは、ヴィヴィオを!!」
「えっ!?あっ、待て!!」

動けないバルトの代わりにバリアアーマーを追おうとしたなのは。

「………何勝手に勝ったつもりでいるのよ?」
「えっ?」

振り向くなのはに放たれる一閃。

「あ………れ………?」

何時の間にかなのはの後ろに居た零治にバリアジャケットを斬り裂かれ、落ちていく。

「眠りなさい本当のエース・オブ・エース。そして夢と共に世界が終わる日まで一生地面に這いずり回っていなさい………」

その零治の言葉に反論出来ずに静かになのはは落ちていく。

「なのは!!!零治、てめえ!!!」
「あなたは彼女の様に生半端な事にはしないわ。あの子が死んで世界が崩壊する前に何か可笑しな事になったら大変ですものね」
「なのは!!!」

そんな零治の言葉を無視し、動かない体を無理矢理動かして、何とかなのはの落下地点まで間に合ったバルトはなのはをキャッチした。

「ぐぅ!?」

人の重みと落下による負荷で、更に軋む体。

「なのは、なのは!!」
「うぅ………」

傷は浅く、バリアジャケットを斬り裂いて肌が見える様に斬り裂かれていたが出血はそれほどしてはいなかった。

「なのは、なのは!!」
「うぅ………空は駄目……空が落ちる………!!」
「何を言っているんだ………?」

バルトの言葉に反応せずうなされるいる様に何かを呟くなのは。

「安心しなさい、私の幻惑の炎で夢を見ているだけだから」
「夢?」
「そう。ただしトラウマだけどね。そして………」

ふとバルトの視界から消える零治。

「あなたはここで死ぬ」
「ぐふっ!?」

後ろから声が聞こえてきたと思えば、お腹から熱い痛みが湧き上がる。

「か…たな………?」

バルトのお腹から真っ直ぐ刀が刺さっていた。
油断していた。雷神化もせず、なのはを何とか受け止めたバルトに防ぐ手立ては無かった。

「さようなら。あの子は私達がしっかり道具として使ってあげるわ。安心しなさい、近いうちにこの子も、そして今抱いている高町なのはもあなたの所へ逝かせてあげるから」

そう言い残して刀を抜く零治。

「ま、待て………」

振り向き、零治を掴もうとするが、力が抜け、なのはともども地面に倒れてしまう。

「ヴィ、ヴィオ………」

バリアアーマーに抱きかかえられ消える姿を見て、バルトは意識を失った………




















「私だけど………無事、聖王のクローンは回収したわ。それとバルトマンとバルト・ベルバイン2人の排除も完了した」

事件のあった会場から2kmほど離れたビルの屋上。混乱している会場が見えるその場所で零治はクレイン・アルゲイルと連絡を取っていた。

『そうかいご苦労様。神崎大悟と佐藤加奈はどうだった?』
「見ていないわね。多分だけど私の近くにはいなかったんじゃない?それで状況はどうなの?」
『新マリアージュシステムの成果でブラックサレナも無事修復し、再度戦える様になったけどやはり問題はその修復時間だね………完全修復まで20秒。その内にコアを見つけられ、破壊された機体が数体。やはりレリックコアの不足で中々研究がはかどらなかったのも大きかったかな』
「それでも数体ね。………となれば完成したものじゃない」
『私も求める完璧では無いがね。………それより君の憑代の体は大丈夫かい?』

そう言われ、零治は自分の体を確認してみる。

「内出血は体全体、出血も多々あるし、骨や筋肉も軋んでいる。………正直もう1戦ってなってたらこの体が持たなかったわね。普通の人間なら死んでもおかしくない状態よ」
『だけど彼の体には自己治癒力があったはずだよね?』
「それは瞬時ではなくかなり遅く徐々にって感じかしら?………まあそれでも人と比べたらとんでもない速さですけど」
『でもだからこそ、先ほどみたいな無理も普通に出来る………と』
「その代わり、どうも一部、体を完全に操れていない様に感じるのよね………さっきのバルト・ベルバインの時も本当は刺して横なぎに斬り裂こうとしたのだけれど、体が全く反応しなかったのよ。………まあそれでも虫の息だったし問題無いと思ったからあの場から撤退したのだけれど………」
『それはある意味幸運だったみたいだね。これを見てごらん』

そう言われて通信端末の映像に新たに映し出された映像を見た。

「………ああ、この子達か」
『そうだよ、有栖零治の家族の5人だ』

先ほどまで戦闘していた場所に星達有栖家が駆けつけていた。

『君が離れてから約10分後くらいだね』
「もたもたしていたら追いつかれていたわね………今の状態であの人数相手は流石に無理だわ」
『取り敢えず最大の目的は達した。もう少し場を混乱させておくから君はゆりかごまでクローンを連れて行ってくれ』
「了解」

そう返事をして通信を切る。

「………本当はあの5人を一番早く処理したいのだけれど………まあそれは今度のお楽しみって事ね」

そんな事を呟きながら零治は静かにその場を後にした………





















「どうしてこうなったんだ………」

事件発生から数日。やっと事件は鎮静化した。………と言っても未だに会場は悲惨な状態で、放置した状でであり、事件の被害は甚大だった。

民間負傷者数千人。管理局側もあの場にいた地上部隊負傷者バリアアーマー装備のメンバー含め全部隊の9割。地上部隊のバリアアーマーはブラックサレナが消えた後も暴れまわり、その鎮静化による被害だ。
更に救援に向かった空の部隊も負傷者が6割を超え、かなり酷い被害となった。

民間人に死傷者が出なかっただけマシかもしれないが、それでも修復しかけた管理局の信頼を再び消したしまった事に変わりなかった。

そんな事を考えながらながらヴェリエ・マーセナルは頭を抱えていた。
事態は深刻で事件の後処理を終えぬまま、上層部はクレイン・アルゲイルの処遇について会議が行われた。

「聖王教会に協力を打診しました。………しかし今の戦力でもし本当にあの伝説のゆりかごに起動されてしまえば………!!」

現在管理局はこれ以上の戦力をミッドチルダの方へ回す事は出来ないでいた。
全部隊を集結させ、事態の鎮圧を最優先すれば可能かもしれないが、管理世界を守る手前、あまり戦力を一か所に集中すれば手薄な場所から大きな事件が起きるかもしれない。
更に今、管理局が弱まっていると噂を流されて、敵対している組織や国が動き出すと更に厄介な事態に陥ってしまうからだ。

「もし本当に機動されても我が艦隊のアルカンシェルの一斉掃射で撃ち落としてしまえば良い!!」
「だがその場合地上の被害はどうなる!?」
「ならば大気圏を超えるまで待って………」
「聖王教会と無限書庫から発見された情報によればあれは2つの月のエネルギーを得ると驚異的な防御性能を得るそうじゃないか。それに時空跳躍したりと攻撃面に関しても艦隊に多大な損害を得る結果となりうる」
「ならどうする!?普通の砲撃の砲撃で墜ちるのか!?」

そんな会議が永遠と続き、結局特に方向性も決まらずこの場は閉会となった。

「私が奴を利用しようとしたのが間違いだったのか………?」

自問自答しながら椅子に深々と座るヴェリエ。結局会議もヴェリエ・マーセナルの決断にかかる事となった。

「どうすればいい………?俺はどうすれば………」

コンコン。

そんな時、ドアをノックする音が聞こえた。

「何だ?」
「お客様です」
「後回しにしろ、私は忙し………」

そんなヴェリエの答えの前に部屋へと入る人影が2人。

「大悟君、加奈君………」

中に入って来たのは管理局の矛と盾。エース・オブ・エースの神崎大悟と佐藤加奈であった………
























「………」
「大丈夫ですか?」
「オーリスか………すまん」

そう言ってコーヒーを受け取るレジアス。

「地上部隊はボロボロですね………」
「ああ。今回この地上本部でカーニバルを行う手前、地上部隊はかなり集結していたし、治安維持の為、かなりぎりぎりの人数を裂いたのだ………それが完全に仇となった………」
「こんな時に大変言いにくいのですが………」
「分かっている。本局の奴等がワシを失脚させようとしているのだろう?奴等にとっても今回のワシの失敗はかなりの有力な鍵となる。例え、ヴェリエ元帥がワシを庇おうとももはや、どうする事も出来ないだろう………」
「何を弱気になっているのですか!!あなたが今その席を離れればやっと良くなった地上部隊がまた前に戻ってしまう!!そのためのバリアアーマーだったじゃなかったですか!!」

そんなオーリスの叫びもレジアスの心には届かない。

「それがこうやって失敗したのだ。守る立場の者達が操られ、逆に襲う………ワシの判断で決めた以上責任は取らなくてはならん」
「中将!!」

「らしくないな。昔はもっとギラギラしていたはずだが………?」

不意に聞こえた懐かしい声。思わずその声に反応し、身を乗り出してしまった。

「何故お前が………」
「久しぶりだなレジアス」

久しぶりの再会にゼスト・グランガイツは淡々とそう答えた………






























「どうしたんだい大悟君、加奈君?」

部屋に入った2人を立ち上がり迎えるヴェリエ。

「ヴェリエ元帥あなたに聞きたい事があります」
「何だい?」
「あなたとクレイン・アルゲイルの関係についてです」

そう淡々と答えた大悟の答えにヴェリエは『やはり………』と心の中で思った。

「関係と言っても私と彼は特に接点は無い。彼は只の元・管理局技術者だ」
「そして以前は冥王教会の技術者でもあった………ですよね?」
「………いや、そんな話は知らない」

冥王教会と言った言葉が出てきた事に少々驚きながらもヴェリエ元帥は表に出さない様に答えた。

「………ヴェリエ元帥、あなたは黒の亡霊の正体を知っていますか?」
「正体?………さあ?」

その答えは本当だった。実際にヴェリエは零治が黒の亡霊だとは知らず、映像だけで、その戦い方に魅入られた。

「私も出来ればぜひ会ってみたいよ。彼のお蔭でバリアアーマーと言った発想が生まれたんだからね」
「バリアアーマーって発想が生まれた………か」

そう呟くと残念そうに落胆する大悟。
そんな大悟の反応を不思議そうに感じている中、続けて大悟は質問をする。

「何時からバリアアーマーの製作に取り掛かりましたか?」
「製作は私が正式に元帥になってから。発案は………かなり前だな。恐らく黒の亡霊の姿を実際に見た時かもしれない」
「見た時………?」
「ああ。圧倒的な攻撃、鉄壁の守備………あの姿こそ未来の魔導師に必要な姿と私は思った。『皆が安心して生活できる平和な世界』その世界にはあの守護神は必要だと思った。しかしそんな力はあの時の私には無く、頭の中にずっとあの姿があった。そしてそんな時だった。彼にあったのは………」
「クレイン・アルゲイル………」

加奈の言葉に静かに頷いたヴェリエ元帥は再び口を開いた。

「彼との出会いは偶然だった。中将として本局で働いていた私は偶然彼と話す機会があった。天才科学者とね。彼と何となく話している内に彼から提案されたんだ『良かったら私にその夢を手伝わせてほしい』ってね。………そして私は実際にその悪魔の囁きに乗ってしまったわけだ………」

そんなヴェリエの話に腕を組んで何かを考えていた大悟だったが、暫くして再び口を開いた。

「ヴェリエ元帥、話はいきなり変わりますけど、あなたはどうして元帥となったんですか?」
「私が元帥になった理由かい?理由も何も今は亡き、最高評議会の遺言に従いそうなったのだが………?」
「最高評議会の面識は?」
「いや、無いが………?」
「そもそも最高評議会の全員が亡くなったあの事件も不可解のまま闇に葬られたまま………一体何故なんですかね?」
「証拠も無ければ手がかりすら無いからだ。それではいくら探した所で見つかりはしない」
「そうですね。………ですがそれだけじゃないと思うんです」
「それだけじゃない………?」

「こうは考えられませんか?『自分の地位を得るために最高評議会の面々を利用し、始末した』と」
「………それは私が犯人の様に聞こえるが?」
「確かにあなたは犯人じゃないですよ。何故なら犯人はクレイン・アルゲイルの一味ですからね」
「なっ!?」

その大悟の言葉に初めてヴェリエは驚愕した。

(バカな!!クレインは暗殺の事は誰にも話していないと………!!)

「どうしたんです元帥?」

大悟の問いにハッと我に返ったヴェリエは慌てて、平然を取り戻した。

「な、何でもない………」

一度咳払いをし、心を落ち着かせる。
そして再び口を開いた。

「しかしクレインの一味が犯人だと君は言ったが、その時の私は彼との接点は無い」
「いえ、あります。何故ならば最高評議会が殺されたのはマリアージュ事件の中で、その時のあなたはまだ元帥じゃない」
「そう………だったな………」

そう言われ、ヴェリエは心の内ではかなり焦っていた。

(しまった………私としたことが………!!)

実際にヴェリエは嘘はついていない。クレインと初めて会ったのは中将の時、マリアージュ事件のおよそ3年ほど前。黒の亡霊が活躍し、そしてその姿が見られなくなってきた頃だったからだ。

(まさかここまで大悟君が知っていたとは………)

自分とクレインの接点。最後に知っていたマクベスを始末し、最早知っている者は当人だけと思っていたヴェリエにとってこの場でそして神崎大悟に知られていた事に焦りを感じていた。

マクベスの様に始末する事も出来ない。実力も知名度もある大悟はヴェリエにとって天敵でもあった。
だが、決して追い込まれているだけでもない。

「し、しかしそもそもその推測には決定的に欠けているものがある。君は何処で最高評議会がクレイン・アルゲイルに殺されたと言う情報を得たんだ!?それを証明できる物はあるのか!?」

大悟の推測に決定的に欠けている点。それは最高評議会を殺した相手がクレインである証拠だ。

「………ハッキリ言えば証拠としては不十分です。これが本当に証拠になりえるかと問われれば恐らく証拠不十分となっていたでしょう。………だけどあなたが説明してくれたお蔭でこの証拠も信憑性が増す結果になりました」

そう言って大悟は管理局の制服の内ポケットから小さな機器を取り出した。

「ボイスレコーダー?」
「聞いてください」

そう言って大悟は中の声を再生した。





『それはそうさ。既に最高評議会の老人達などもうこの世には居ないのだからね』





「!!!」

その声は確かにクレインの声だった。それが分かったヴェリエも驚愕してしまった。

「どうです?」
「こ、これを何処で………?」
「とある協力者です。あの場で戦い共にマリアージュ事件を解決した1人にクレインからのメッセージがあったんです」
「だ、だがこんなものでは………」
「だからこそあなたの証言が役に立つんです。その若さで更に上の階級の将校達を出し抜き元帥になるには一番トップが決めた事にするしかない。最高評議会の決定は絶対と言えるほどの決定権があった。………あなたはそこを狙った」
「………」

押し黙るヴェリエを気にしながらも大悟は話を続ける。

「どう考えてもおかしいんですよ。最高評議会の面々と接点も無いのに上官だった人達を出し抜き、元帥になる事が。それまでのあなたは元帥になるほどの目立った活躍は無かった。それなのにいきなり………ですがあなたは元帥としての能力を持っており、管理局も良くなった事で抱いていた疑問を皆は消してしまった。だけど俺は初めて会ったときからずっと疑問に思っていたんですよ………」
「なるほど、最初から疑われていたのか私は………」

そう言ってヴェリエ元帥は自分の椅子に深々と座った。

「認めるんですね………」
「………ああ。確かに私はクレインを利用して今の地位を手に入れた」

少し躊躇した後、ヴェリエは諦めたのか大悟にそうハッキリと答えた。

「あの事件を起こしたのも裏ではあなたが………?」
「それは違う。私も全く聞いていなかった…………あれは酷かった。前々から地上にももっと力を入れなくてはいけないと言い続けて来た。だが最高評議会の面々含め、それを良しとはしなかった。ならば地上部隊だけで守れる様な装備にすれば良いとずっと思い続けてきたのだが、あの事件の惨状を見て改めて思ったのだ」
「………あなたは本当は何者なんですか?」
「………私は今は無き冥王教会の教皇に当たる人物だ」
「「教皇!?」」

流石にその答えは予想外だったのが思わず声を上げてしまう2人。

「………前教皇の息子として無理矢理その地位にされたただの人形みたいなものさ。冥王教会の教皇はその親類から選ばれ、優先されるのはその子供。そんなしがらみが長く続き、私はそれも含めて大嫌いだった。だからこそ子供の時に家から出て1人で生きて来た。私にとって冥王教会は人生の足枷みたいな物だ」

そんな厳しい説明をするヴェリエに2人は何も言えなかった。

「そんな中管理局に入り、懸命に働いた。私は魔力ランクも高かったからどんどん階級も上がっていった。そして中将となった時だった、ベヒモス事件が起こり冥王教会が表舞台に現れたのは………」

そう言って天井を見上げる。

「私の父は身体が弱かったせいかかなり臆病な性格でね。ベヒモスを開発したくらいでは表舞台には現れない様な人だった。だからこそ信じられなかった。………その答えは直接接触して来た幹部によって知らされたよ。『教皇様が病死された』って。それと同時に強制的に私は教皇となってしまった。代々その血筋に教皇は収まるらしい。全く、私の事など気にせず好きにやれば良いのに………」
「それで教皇に………?」
「形だけのね。だけど幸運な事にそれを知っているのは一部の幹部のみ。その幹部が1人残して発表する前に黒の亡霊にベヒモスを移送していた所を検挙されたからね」
「れ………黒の亡霊が!?」

思わず当の本人の名前を言いそうになった大悟だが、何とか言いとどまった。

「ああ。おかげで私が教皇であることを知っているのは科学者のマクベスと言う男だけだった」
「その科学者は………?」
「最後に私がこの手で………」

その後はヴェリエは何も言わず、大悟達もそれ以上追及する事は無かった。

「大悟君?」
「………何ですか?」
「君はこのミッドチルダは好きかい?」
「………はい。俺はこの街、この街の景色、部隊の隊長、部隊のみんな、そして情けない俺の隣にいてくれる加奈。その皆を含めて俺は大好きなんです。だからこの街、この世界は絶対に終わらせるつもりは無いです。ヴェリエ元帥、あなたはどうなんです?」
「私か………」

そう呟きながらヴェリエは思い返す。
冥王教会のアジトとは違う、人の多い明るい街。事件も多いが懸命に人が生きている。

「君と同じさ。長い時間過ごしたこの世界、この街が好きだから私もこの世界を守ろうと思った………」
「その言葉を信じたいと思います」
「………いいの?」

そんな大悟の言葉に少々不満そうに聞く加奈。

「ああ。元帥は純粋にこの世界の事を考えてるよ。その手段としては強引な気もするけど、それでも思いは一緒だ。それが分かっただけでもOKさ」
「はぁ………まああなたが良いのならそれでも良いけど」

「………私を捕えるつもりじゃないのか?」

そんな2人の会話に不思議そうな顔で答えるヴェリエ。

「ええ。元々俺はあなたのクレインの関係を確認し、敵になりうる人物かを確認したかっただけですから。それに捕えるにしても元帥が言ったようにこの音声じゃ証拠不十分だろうし、例え元帥が言った矛盾を公表しても通じていたと証明できるかは怪しいと思います。それに………」
「それに………?」
「あの時、クレインは『老人』としか言ってなくて、最高評議会とは一言も言ってないんです」

そんな大悟のカミングアウトに大きく呆気にとられたヴェリエ。

「いつものあなたならこんな簡単に全て話してくれなかったでしょう。少し休んだ方がいいんじゃないですか?」
「そうさせてもらう………」

目頭を押さえながら深くため息を吐くヴェリエの姿に大悟と加奈は小さく笑った。

「それとゆりかごの件ですが、提案があります」
「提案?」
「艦隊で砲撃をせず、アルカンシェルを使わずにあのゆりかごを沈める方法です」

そう言って大悟はヴェリエにデバイス、ゼルフィスを見せた……… 
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