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心の傷

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第三章


第三章

「それではな」
「はい、では」
「そういうことで」
 こうしてそのキャベンディッシュ卿なる人物に手紙が書かれ暫くして屋敷の前に見事な馬車が停まった。そしてそこから黒いマントにフード、それと仮面を被った男が出て来た。
 仮面は銀色で人の顔を模している。だが口はない。目だけであり鼻の形もわりかし平坦だ。その表情のない顔の男が馬車から出て来たのである。
「ようこそ」
「うむ」
 彼は出迎えた執事に対して鷹揚に返してきた。
「それでオコンネル侯爵は」
「はい、今日もです」
 執事は無念そうに仮面の男に応えた。屋敷の門を開けさせながら述べる。ダークブラウンのその漆黒の扉の中に入りながらだ。。そうして話すのだった。
「残念ですが」
「そうなのか」
「やはり傷が深く」
「わかった」
 それを聞いての言葉だった。
「それでは。私と話をさせてもらおう」
「御願いします」
「オコンネル侯爵は立派な博物学者」
 屋敷の中を進みながらの言葉だ。屋敷の中は広く見事な左右対称である。赤いビロードの絨毯に立派な階段、それに無数の部屋の扉が並んでいる。吹き抜けになったその二階と三階の廊下にも扉が並んでいる。彼はその中を案内されてだ。ある部屋の前に案内されたのである。
「こちらです」
「わかった。それでは」
「旦那様」
 執事が扉の向こうの主に対して告げた。
「お客様です」
「会わないよ」
 こう返事が返ってきた。
「誰にも」
「そういう訳にはいかない」
 だがここで仮面の男が言ってきたのである。
「開けてもらおう。執事よ」
「はい」
「これからは私に任せてもらおう」
 こう執事に告げた。
「そう頼めるか」
「公爵にですか」
「そうだ。私にだ」
 こう言うのである。
「それでいいか」
「わかりました。それでは」
 彼はそこまで言うのならだった。こうして執事は去り家の者達も近寄せなかった。公爵は自分で部屋の扉を開けた。そうしてその部屋の中に入ったのだ。
 部屋は書斎だった。部屋の壁は全て本棚となっておりそこは本で満たされていた。そしてその中央にはガラスの窓がありその前に黒檀の机がある。そこに一人の太った男がうずくまるようにして座っている。その彼が公爵を見て言ってきたのだ。
「貴方は」
「この仮面でわかるな」
「キャベンディッシュ公爵」
「そうだ、私だ」
 こう名乗ってきたのである。
「気になって来たのだ」
 あえて偽りを言った。自分をここに呼んだ執事に気を使っての言葉だ。
「それでだ」
「何故私を」
「貴殿は優れた人物だ」
「まさか。私は」
「わかる者にはわかる」
 こう言うのだ。既に彼の前に来ている。そして自分から部屋にあった椅子を見つけてこうも問うのだった。
「座っていいか」
「はい」
「わかった。それではだ」
 こうして椅子に座ったうえで向かい合ってだ。そうして話に入るのだった。
「貴殿は立派な学者だ」
「学者ですか」
「能力があるのだ」
 これが彼への言葉だった。
 
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