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特殊陸戦部隊長の平凡な日々

作者:hyuki
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第10話:おはなみに行こう!-1

 
前書き
日常全開のお話です。
 

 

ヴィヴィオ・T・シュミット。
St.ヒルデ魔法学院初等科3年生。
父は時空管理局の2等陸佐、ゲオルグ・シュミット。
母は戦技教導官にしてエースオブエース、高町なのはことなのは・T・シュミット。
彼女をプロフィールで表せばこんなところであろうか。

3月の末近い日の朝7時。
そのヴィヴィオは自宅の自室のベッドの中でまだまどろみの中にいた。
学校のある日は6時半には起きる彼女だが、この日は春休みが始まって5日目。
かくしてヴィヴィオは朝寝を楽しんでいた。

しかしながら、好事魔多し。
彼女の至福の時間はある襲撃犯によって中断させられようとしていた。
部屋のドアがゆっくりと開き、小さな影が部屋の中に入ってくる。
その影はヴィヴィオが眠るベッドに近づき、よじ登る。
そして眠るヴィヴィオの傍らに立つと、ベッドのスプリングを利用して飛び上がり
ヴィヴィオの上に飛び込んだ。

「きゃん!!」

襲撃犯に圧し掛かられ、ヴィヴィオは目を覚まして悲鳴をあげる。
そして目を開け彼女を襲撃したものの正体を確認した。

「やっぱりティグアンね!」

ヴィヴィオは自身の弟の姿が自分の上にあることを見ると身体を起こす。
その勢いでティグアンをベッドの上に押し倒すと、彼の脇をくすぐる。

「あははははは! お、おねえちゃん! くすぐったいよぅ!!」

身体をよじりながら、悲鳴のような声をあげるティグアンを
悪戯っ子のような目で見下ろすヴィヴィオ。

「こういう悪戯はやめなさいって言ったでしょ! ごめんなさいは!?」

「お、おねえちゃん!! あひっ!! ご、ごめんなさいっ!!」

苦しげな声でティグアンがそう言うと、ヴィヴィオはティグアンの脇を
くすぐるのをやめた。

「もうこんなことはなしだからね。 判った?」

「はあっ、はあっ。 う、うん。 わかったよ、おねえちゃん」

「よろしい」

ヴィヴィオはティグアンの言葉に対して満足げな顔で頷いた。

「それで? どうしたの?」

「ふーっ・・・。ママがね、朝ごはんだから起こしてきてって」

ようやく弾んでいた呼吸を整えたティグアンがなのはから言われたことを
ヴィヴィオに伝える。

「わかったよ、ティグアン。 着替えてすぐに下に行くからママにそう伝えてね」

「うんっ!」

ティグアンはニカッと笑うと大きく頷いてからヴィヴィオの部屋を出て行った。
自室で一人になったヴィヴィオはパジャマを脱ぎすて、下着姿でチェストをあける。
チェストから薄ピンク色のブラウスと若草色のスカートを取り出して身につけると、
彼女は部屋の片隅にあるか鏡の前に立った。

いつも使っているブラシを手に取り、左サイドの髪を丁寧に梳かすと
ひと房にまとめてリボンで結わえる。
右側も同じように結わえると前髪を整え、長く伸びた金髪をサッと払うと、
鏡の中の少女をじっと見る。
鏡の中の少女はフリルのついたブラウスとスカートを着て、
ヴィヴィオをじっと見ていた。
短めのスカートの裾からはみずみずしい肌色をした足が覗いている。

そしてヴィヴィオは鏡の中の少女にニコッと笑いかける。
すると鏡の中の少女も同じように笑う。

「うん、オッケー!」

ヴィヴィオは鏡に向かって頷くと、ドアを開けて自分の部屋を出た。
スカートの裾をはためかせながら軽やかな足取りで階段を下り、
ダイニングルームへとつながるドアを開ける。

「おはよう、ママ!」

キッチンに向けて元気いっぱいに声を掛けるヴィヴィオ。
それに応えて、なのはがキッチンから顔を出す。

「おはよう、ヴィヴィオ。 さっそくだけど、朝ごはんの準備を手伝ってね」

「はーい!」

ヴィヴィオは右手を大きく上げながら返事をすると、足早にキッチンへと入る。
キッチンに入ってすぐのところに掛けてある自分用のエプロンをつけ、
ブラウスの袖をまくると、フライパンでベーコンを焼いているなのはの隣に立つ。

「今日はお寝坊さんだったね、ヴィヴィオ」

「ゆうべ勉強してたら、ちょっと遅くなっちゃって」

軽く舌を出しつつヴィヴィオは苦笑する。

「勉強? 春休みの宿題?」

「うーん、ちょっと違うんだけど似たようなものかな。
 実は、4年生の選択授業の予習をしておきなさいって本を何冊かもらったの。
 で、それを読んでたら遅くなっちゃった」

「へえ。もう選択授業なんてあるんだね。 ヴィヴィオは何を選んだの?」

「応用魔導学だよ」

ヴィヴィオの答えに、なのははほんの少しだけ顔をしかめる。

「応用魔導学かぁ・・・。わからないことがあったら、パパかフェイトママに
 訊くといいよ」

「あれ? ママじゃだめなの?」

なのは自身の名前が出てこないことを不思議に思ったヴィヴィオが
首をかしげつつ尋ねると、なのはは苦笑してヴィヴィオの顔を見る。

「ママは魔法理論がちょっと苦手なんだよね」

そう言ってなのはは肩をすくめる。


魔法が日常生活の一部となっているミッドチルダでは、
初等教育から魔法の基礎理論についての教育が行われる。
ヴィヴィオが通うSt.ヒルデ魔法学院も含めた一部の学校では
早くからハイレベルな魔法の専門教育が行われるが、
ゲオルグやティアナの通った普通の小学校でも基礎の教育は行われていた。
そして中等教育まで相当の期間を掛けて魔法理論の教育を受けるのである。

だが、なのはは魔導師になった経緯やその後のあまりにも華々しい実績もあって、
本格的に魔法理論を勉強する機会にはあまり恵まれてこなかった。
そのため、なのはは魔法理論を苦手としていた。
もちろん、それが問題であるとはなのは自身も認識していて、
折を見て自学自習をしてはいたが、人に教えるほどの自信は持ち得ていなかった。


「そうなんだ・・・。 じゃあ、わからないことができたらパパに訊くね。
 ところで、何をすればいいの?」

ヴィヴィオは微妙に悲しげななのはの表情を見て、どう言ったものか一瞬悩んだが
早めに話題を切り替えるべきだと判断し、お手伝いの内容について尋ねる。
すると、なのはは優しげに微笑みながらヴィヴィオを見下ろした。

「サラダをつくってくれる? お野菜は冷蔵庫の中に入ってるから」

「どんなサラダ?」

「それは、ヴィヴィオにお任せだね。 頼める?」

「うん、任せて!」

ヴィヴィオはなのはに向かって頷くと、まわれ右をして冷蔵庫のドアを開けた。

(えっと、レタスときゅうりとトマトかぁ。 ちょっとものたりないかな)

続いて冷蔵庫の隣にある戸棚を開ける。
そこには缶詰や乾物のような保存のきく食品が収められている。

(あ、コーンとホワイトアスパラがある。 冷蔵庫にハムもあったし、
 豪華なサラダにできそう!)

戸棚から缶詰を2つ取り出すと、なのはの方へ振り返る。

「ママ。 これ使ってもいい?」

フライパンの中のベーコンを皿に移していたなのはが頷く。

「好きに使っていいよ」

「ありがとう、ママ。 あと、冷蔵庫のハムもいい?」

「あれはお花見のお弁当に使うからダメだよ」

「そっかぁ。 うん、わかった」

一瞬表情を曇らせるヴィヴィオであったが、すぐに笑顔に戻って頷く。
そして食器棚からサラダボウルとより大きめのボウルを、冷蔵庫からは
野菜を取り出すと踏み台に上ってシンクに向かう。
大きい方のボウルを使って、まずはレタスを洗い始めるヴィヴィオ。

レタスを洗い終えてサラダボウルに移すと、今度はキュウリとトマトを洗う。
それらも洗い終えると次にまな板と包丁を取り出して切り始めた。
隣でオムレツを作り始めたなのはは、一瞬ヴィヴィオの手元に目を向ける。
が、その手つきに安心したのか、口元に小さく笑みを浮かべると、
オムレツ作りに戻った。

危なげない手付きでキュウリとトマトを切り終えたヴィヴィオは、
洗って水を切ったままの状態でサラダボウルに入れてあったレタスを
ちょうどいい大きさにちぎると、見栄えが良くなるように盛り姿を整える。
そしてその上にカットしたキュウリとトマト、缶詰のホワイトアスパラやコーンを
きれいに並べていくと、ヴィヴィオは満足げに笑う。

「ママ、これでどうかな?」

「ん、ちょっと待ってね」

3つ目のオムレツを作っている最中だったなのはは、出来上がったオムレツを
皿に移していったん火を止めると、ヴィヴィオの作ったサラダに目をやる。

「すごくきれいにできたじゃない。 ばっちりだよ」

「ホント? ありがとっ、ママ!」

2人はハイタッチをして笑い合った。

「じゃあ、次はパンとかお皿とかを運んでね」

「うん」

ヴィヴィオはオムレツ作りを再開したなのはに向かって頷くと、
食器棚から皿を出してダイニングテーブルへと運ぶ。
ダイニングルームにある小さなチェストからランチョンマットを取り出すと、
白いクロスに覆われたテーブルの上に敷き、それぞれに皿を置いていく。

皿を並べ終えて再びキッチンに戻ると、オムレツを作り終えたなのはが
フライパンを洗っていた。

「ママ」

ヴィヴィオがなのはの背中に向かって声を掛けると、蛇口から水が流れる音が止まり
フライパンを水切りかごに置いたなのはが振り返る。

「他にやることはある?」

ヴィヴィオが次にやるべきことがないか尋ねると、エプロンのポケットから
タオルを取り出し手を拭いているなのははニコッと笑う。

「じゃあ、これを一緒に運んでね」

そう言ってなのははオムレツとベーコンの乗った4枚の皿を指差した。

「うん、わかった!」

2人はそれぞれ皿を2枚ずつ持ってキッチンを出る。
ランチョンマットの上に皿を置くとなのははヴィヴィオに向き直った。

「あとは、ヴィヴィオの特製サラダだね。 持ってきてくれる?」

「はい、ママ」

次いで、リビングのソファに座って足をぷらぷらさせているティグアンに
声を掛けた。

「ティグアン。 もうすぐ朝ごはんだから、パパを呼んできてー!
 お庭にいると思うから」

「うん! わかった!!」

ティグアンはソファから飛び降りると、庭へと続くガラス戸を開け
とてとてと歩いて行った。

「パパはお庭で何してるの?」

「お花見に出かける準備だよ」

なのははティグアンが歩いて行った庭の方に顔を向け、わずかに目を細める。
外には日の光があふれている。 

(今日はお花見日和だね)

なのはは口元に笑みを浮かべるとヴィヴィオの方に顔を向けた。

「さ、パパが戻ってくる前に朝ごはんの準備を終わらせないとね」

「うんっ!」

ヴィヴィオはなのはに向かって大きく頷くと、キッチンへと向かった。





同じ時。
庭にあるガレージではゲオルグが花見に持っていくモノを車に積み込んでいた。
普段ゲオルグが通勤に使っているスポーツカーではなく、
もう一台所有しているワンボックス車に。

「こんなもんかな」

テールゲートを開けたワンボックス車の後方から荷台を覗きこみながら呟く。
荷台にはレジャーシート・折りたたみのテーブルと椅子が何脚かつみこまれていた。

「あとは、クーラーボックスと弁当を積んだらOK・・・と」

荷台に突っ込んでいた首を抜き、手に腰を当てて真っ直ぐに立つと
満足げな笑みを浮かべながら息をつく。

「おとーさん!」

幼い声がガレージの中に響き、ゲオルグは声の元に目を向けた。

「ティグアンか。 どうした?」

「ごはんだって、おかーさんが」

「そっか、じゃあ行くか!」

ゲオルグはティグアンを抱き上げると自分の肩に座らせてガレージを出ると、
庭からリビングへと上がる。
ティグアンを床に降ろしてその手を握るとダイニングテーブルの方へと
歩み寄っていく。
テーブルの上に置かれた朝食を見て、ゲオルグは少し目を見開く。

「こりゃ豪華な朝飯だ」

感嘆の声をあげたゲオルグに、既にダイニングテーブルについている2人が
目を向ける。

「ふふっ。ちょっと張り切っちゃった」

「張り切り過ぎだろ。 このサラダなんていつになく豪華じゃないか」

「だって、ヴィヴィオ」

ゲオルグの言葉を聞き、ヴィヴィオに向けてウィンクするなのは。
その様子を見ていたゲオルグは怪訝な表情を見せる。

「ヴィヴィオ?」

訝しげな声をあげ、ゲオルグはヴィヴィオに目を向けた。

「あのね、このサラダはわたしが作ったの」

恥ずかしそうに父の顔を見上げるヴィヴィオ。
見上げられた父は穏やかな笑みを浮かべて少女の頭にそっと手を乗せた。

「よくできてるよ」

ゲオルグに頭を撫でられ、照れからかほんのり顔を赤くする。

「さっ、食べよ!」

なのはの声に頷くとシュミット家の人々は食卓について朝食を摂り始めた。





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<ちょっとしたおまけ・・・約10年後の会話>
 ・ヴィヴィオ:19歳
 ・ティグアン:14歳

「10年前の俺らだってさ、姉貴。 どう思う?」

「うぅ、恥ずかしい・・・・・」

「だよな。 俺なんか記憶にも残ってないから余計恥ずかしいよ」

「記憶に残ってるのも恥ずかしいよ。 でも、当時はこんなこと考えてたなぁって
 懐かしくなることもあるんだよね」

「はあ、なるほどね。 それはちょっと俺もわかる気がするわ。
 それにしてもさ、何でこんな記録が残ってるんだ?」

「なんか、パパが成長記録のためにって残してたみたい」

「半ば嫌がらせだな、俺らにとっては」

「ティグアンはまだそうかもしれないけど、大人になったら感謝すると思うよ。
 私ですら最近そう思うんだから」

「ふーん、そんなもんなんだ。
 ところでさ、姉貴っていまだにパパ・ママって呼ぶよな。
 いいかげん変えようとは思わないのかよ」

「ちゃんと外では"父・母"っていってるもん。 いいじゃない、家の中でくらい」

「別に悪いとは言ってないよ。 ガキっぽいとは思うけど」

「なっ!?」

「それにしてもさ、姉貴って父親嫌いの時期ってないよな。
 "パパうざーい"みたいな」

「むぅ・・・、ガキっぽいってのがまだ引っかかってるんだけど・・・・・。
 まあ、いいや。 うん。 だってパパ好きだもん」

「・・・ファザコン?」

「ちがうの!! 家族として好きってだけなの!!
 だいたい、ティグアンだって最近、ママと話すとき顔赤くなってるよ。
 特に夏の時期とか」
 
「うっ・・・。だって、母さん若いだろ。 なんか歳とらないし。
 それが薄着でハグとかしてくるんだぜ。 そりゃドキっとくらいするっての」

「母親なのに?」

「母親でもだよ。 思春期男子の性欲なめんな。
 背中に当たる胸の感触とか、勘弁してほしいくらいだ」

「・・・まさか、私のこともそんな目で見てないよね?」

「・・・・・」

「ちょっと! そこで黙っちゃダメ!! ホントにやめてよね!」

「わかってるって」

「・・・怪しいなぁ。 そういえば、ジュリアにもキスばっかり
 迫ってるらしいじゃない」

「ぶっ! 誰に聞いたんだよ!?」

「ジュリア本人に相談されたの。 あの子本気で悩んでたよ。
 "ティグアンのことは好きだけど、まだそういうのは早いんじゃないかな"って」

「・・・気をつけます」

「そうして。 あんまり過ぎるようなら、フェイトママに報告しますから」

「それはやめてくれ。 説教2時間コースになる」

「じゃあ、あの子が嫌がることはしないようにしなさいね」

「了解です。 以後気をつけます」

 
 

 
後書き
今回はちょっとしたおまけをつけてみました。
やってもーた感があるのと毎回書くのは若干ダルイので
好評なら今後も時々書くことにしようかな。
 
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