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リメイク版FF3・短編集

作者:風亜
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水の巫女の再来・前編

 
前書き
 あの旅から半年後────ルーネスは何故かサスーン城で見習い兵士をしている。イングズの事を敬愛して、時々兄さん呼ばわり。
始まりはこんな感じではあるものの──── 

 
「────おい、イングズ! ルーネスの奴が、他の兵士とやり合ってるぞ!」


(やり合っている……? そうか、喧嘩か。何かされたか、云われたな。全く……、沸点が低いと叱ってやらねば)

「……何をしているお前達、やめないか!」

「ち……本人のご登場かよ」

「こんな奴ほっといて、行こうぜ……!」

「てめぇら…! 待てよ! まだ話は終わっちゃいね……っ」

「ほら、もうよせルーネス。何を云われたか知らんが、兵士として仲間にすぐ手を出すんじゃない」

「あんな奴ら、ナカマなんかじゃねーよ! 兄さ…っ、イングズの事、勝手に妬んで悪く云ってんだから!!」

「………そういう事か。云いたい奴には云わせておけ、陰口など私が見習いの頃からあった。今さらではないさ」


「でも、さ………おれの事なら別にいいけど、兄さんが悪く云われるのは……イヤだ」


「────フ、こいつめ」

「わっ、頭くしゃくしゃにすんなよ……!?」


「いちいち相手にしていたら、切りがないぞ。……いくら世界を闇から救ったとはいえ、もはやそれは過ぎた出来事だ。これからは1人の人間として、やっていかなければ」

「………うぅ~っ」


「それより明日はレフィアと、サロニアから半年振りにアルクゥがサスーン城に来てくれるだろう。……久し振りの4人での再会なんだ、そんな仏頂面でどうする」

「分かってるよ! あの、さぁ……、みんなで集まったら、あとで水の神殿、行ってみたいんだけど────」


「あぁ、そうするか」

「い……? いいのかよ、理由………聞かないの?」


「必要ない。───お前が行きたいならそうしよう」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「おっじゃまっしま~す! ルーネス~、イングズ~、サロニアから帰省したアルクゥ連れて来たわよ~!!」

「おぉ~アルクゥ、久しぶり~! ……って云っても、あんま変わってないなっ?」

「ひどいなぁルーネス、背は伸びたはずだよ? ……ほんの少し。そういうルーネスこそ、ほとんど変わってないじゃないか! サスーン城の見習い兵士になって、少しは礼儀正しくなってるかと思えば───」


「アルクゥ、それは無理な話よ? あたし定期的に覗きに来てるけど、ちっとも精進してないもの! ……イングズってば、"弟"甘やかしすぎなんじゃないの~?」

「そ、そんな事はない。まだ見習いの身で、隙あらばサボろうとする生来根性の無いこいつが悪い」


「何だよ、ちゃんと修行してるって! え~っと、そうだな……『アルクゥどの、ようこそいらした、ごゆるりとおつくろぎ下され~!』……みたいな感じだろっ?」

「───"おくつろぎ"だ、馬鹿者。しかも何故喋り方がじいさんのようなんだ……」

「あはは! ほんとに相変わらずだね。……そういえばレフィアから聞いたけど、サラ姫はちょうど昨日からアーガス城を訪問中なんだってね」


「あぁ……、友との半年振りの再会と重なったからといって、そちらを蔑ろにしてはいけないと云われてな。私とルーネスは、同行しなかった」


「……けどイングズ、"やはり自分が護衛に付きます"って昨日サラ姫が出発するまで食い下がってたよなっ? アルクゥとの再会より!」


「ぬ……、それを云うなルーネス」

「そう、だよね……。イングズは僕なんかより、サラ姫の方が大事だよね……! ぐすっ」


「あー! 兄さんがアルクゥ泣かしたー! いけないんだ~?」

「いや、待て、そんなつもりでは……?!」


「よしよ~し、あたしとルーネスはアルクゥの味方だからねー!」


「す、すまんアルクゥ………弁解の余地もない」


「 ───真に受けないでよ、イングズ! 君がサラ姫を大切に想ってるの分かりきってる事だし。それに、ちゃんと城に残ってくれたのはうれしいよ!」


「そ、そうか」


「そういえば、アルスは元気かっ?」


「う~ん、元気というか……あの歳で王様だからね。ほんとは僕、まだお休みもらうつもりなかったんだけど、アルスが気を遣ってくれたんだ。断るのも、逆に悪いと思って…」


「きっとアルクゥが、自分の為に頑張ってくれてるの分かっててお休みくれたんじゃないかしら?」

「まだ、それ程役に立ててる実感ないけどね………。そういうレフィアの方は、鍛冶の修行どうなんだい?」


「見れば分かるでしょー、見てよこの腕! だいぶ筋肉付いちゃって、あり得ないわっ!」


「───どこがだよ? いつも通りほっそいじゃん!」


「よく見なさいよルーネス、ほら……ここ触ってみてカタいから………って、触らせる訳ないでしょおバカ!?」


「い゙てぇ?! 確かに前より力強くなったかも……って、そうでもないぜ…!?」


「いーわよ、ほんとの事だもの。女鍛冶師としては喜ぶべき事なんでしょうよっ」

「そっかぁ……、あれからみんなそれぞれ頑張ってるんだね」

「 ───怠け者が1人、居るがな」

「んな事ないやいっ。………なぁレフィア、アルクゥ、また4人で集まったから、その………おれ行きたいとこあるんだけど」

「は? 何、アムルで4じいさんにでも会いたいのっ?」

「あ、それともサロニアに来る?」

「いや、違うって。えっと………」


「煮え切らない奴だな。───ルーネスは、水の神殿に行きたいらしい」


「あぁ……、そうね。お花、手向けに行ってあげましょ」


「うん………そうと決まったら、早速ノーチラスで行こっか」


「あ、えっと………ありがとな、三人共」


「あんたがお礼云ってどうすんのよ、パッと支度して行くわよっ」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「────うそ………彼女が、何で……?!」


 水の神殿は、当時と何ら変わらなかった。ただ────そこに佇んでいたのは、白く透けるような肌をすべてさらけ出した、長く美しい金髪と蒼く汚れのない瞳の────


「え……りあ? エリア………なのか……!?」

 ルーネスが、思わずそう口にした。でも彼女は、虚ろな瞳で目線が定まっていない。まして、何も身につけて────

「エリア…!生き還ってくれたのか、エリアっ!!」

 あいつったら、駆け寄って抱き締めた……? あ~ぁ、やっちゃった……。まっぱよ、彼女。

「そんな………こんな事って、あり得るのかな……?!」

「現に、あり得てしまっているようだが、どう見ても彼女にしか……。いや、しかし何も身に付けていないというのは───」

 アルクゥとイングズも、さすがに困惑してる。……とにかく、今はあいつと彼女を引き離さないと。

「ちょっとルーネス! 今その子どういう状態か分かってやってるわけっ?」

「 ────へ? 」

 あ、見てる。………最低ね。しかも鼻血吹き出して仰向けに倒れたわ、やっぱりまだ子供ねー。

「わぁ! ルーネスしっかり~?! というか、どうしよう彼女……!何も、反応してない、けど……??」

 アルクゥも、目のやり場に困ってるわねー。

「と、とりあえず飛空艇まで戻り、何か纏わせてサスーン城に戻るのはどうだろう」

 ────冷静ぶってるけど、内心かなり焦ってるわねイングズ。

「そうね、彼女の事はもちろんあたしが誘導するわ。おバカな"弟"は、あなたに任せるわね。
……アルクゥ、あんまり見てるとルーネスみたいに鼻から何か噴出するわよっ」

「みみ、見てない、見てないってば……?!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


( ────ここ、は……? あ、エリア……!? そうだ、水の洞窟……! このあと、水のクリスタルから離れた瞬間……っ。おれが────今度こそおれが、守るんだ!!)

『あ……! ルーネス、さん………?』

(よし、呪いの矢から守れた……。あとは、アイツを倒せば──── )

『あ……、う……?!』

( エ、リア………? )

 ────紅い、奴が………白く長い髪の、赤魔みたいな格好した奴が………エリアの背後を、剣で刺した……!?

胸から、口から、血が、溢れ……て─────




「───うあ゙あぁっっ?!!」


「ルーネス……!? どうした、落ち着けッ」

「えりあ、が………エリアが、また……っ!!?」

「彼女は今別室で、レフィアとアルクゥが付いている。相変わらず、極度に放心したままだが───」

「へ……? エリア、生きてる………??」

「いや………姿は同じでも、本当に彼女かどうかは──── 」

「そう……、だよな。彼女は、おれを庇ったせいで、死んでしまったのに────。あれ、そういえばおれ、何で寝てたんだ??」

「お前、彼女の裸体を───いや、その事はいい。既にレフィアが服を身に付けさせたし、様子を見に行くだろう?」

「も、もちろん……!」




「────さっきは随分魘されていたな。また、あの時の夢か」

「あ……、うん」

「お前がサスーンの見習い兵士になっても、何度か同じように魘されているな」

「しょうが、ないだろ、見ちまうんだから……。けど、何か"違う"んだ最近……。紅い格好の奴が、エリアを────」


「サラ姫様……!?」

「何だよイングズ、サラ姫の格好は青いだろ! そんなんじゃなくて………うおっ、もうお帰り?!」


「────あら、そんなに私が早く帰って来ちゃいけなかったかしら?」

 城の通路を二人で歩いていると、アーガス城を訪問中だったはずのサラ姫が、兵士数人と使用人を引き連れてふと現る。

「少し早く切り上げて来ちゃった。貴方達が4人で久し振りに集まると云っても、イングズとルーネスを二人にさせる時間を増やすのは心許ないものね。……案の定、早速二人きりになってるんだから」

 サラ姫の笑顔が、微妙に怖い。

「ご、誤解です姫様、我々はこれからある女性の様子を見に──── 」

「ある女性、ですって? 聞き捨てならないわね。……貴方達、もういいわ、それぞれ持ち場へ戻りなさい」

 数人の兵士と使用人に云い付けるサラ姫。

「さぁ……、私も行かせてもらえるかしら。その、ある"女性"の元へ……。それがもし嘘で、二人きりで何かしようとしていたものなら、どんな罰を受けて貰おうかしらね……?」

「へ? ウソも何も、おれさっきまで別の部屋で寝てたし。兄さ…っ、イングズが傍にいてくれたみたいで………むがっ」

「余計な事を云うな、ルーネス……!」

「あらあら、口塞いじゃって……。やっぱり仲がいいわね、まるで本当の兄弟みたいに?」

「いや、あの、何というか………。こ、こちらの部屋です」




「あ……サラ姫、お久しぶりです……!」

 部屋に入るなり、アルクゥが挨拶をしてくる。

「あら? お帰り早いのねサラ姫。ルーネスは───起きたわけね。……彼女なら、この通りまだ何も話せる状態じゃないみたいだわ」

 レフィアの言葉に、ベッドの方に目を向けると────生前、"彼女"が着ていたような純白のロングワンピースを着せられており、上半身だけは起こしたまま、下向き加減で虚ろな表情をしている。

「 エリア………」

 ルーネスは呟くように名を口にし、彼女へと近寄る。


「エリア……、エリア? おれだよ、ルーネスだ……。おれの事、分かるか? 覚えてる……か?」

 ────間近な呼び掛けにも、彼女はこちらを向いてくれない。
もどかしくなったルーネスは、彼女の儚げな両肩に手を置いてこちらを向かせる。

「エリア……! エリアなんだよ、な? おれ、うれしいよ。またこうして、会えて………でも、君は、あの時────」


「 …………ちがう、の 」


「 ──── え? 」


「あなたじゃ、ない」


 抑揚のない、微かな声で、それと共に海のように蒼い瞳は澄んでおらず、深い海底のように冷たく、ルーネスを映してはいない。


「そん、な……エリア、おれは………!!」

「 ────そこまでにしておけ、ルーネス」

 それまで黙っていたイングズがふと傍におり、片手を肩に置いてルーネスを制す。

「 …………っ!! 」

 つとその手を振り払ったルーネスは、足早に部屋を後にする。


「 ────── 」

「……追いかけなくていいの? あの子……、哀しそうだったわ」

 サラ姫に促されたイングズは、黙ったまま一礼してルーネスの後を追う。


「 ───エリアというこの子に庇われて、ルーネスは死なせてしまったと責任を感じているのよね」

「はい……。でも彼女は僕達と出逢った時にはもう、長くはなかったんだと思います。そんなの………ルーネスの慰めにもなりませんけど」

 ────サラ姫にそう話すアルクゥ。

「何ていうか………半年振りの再会はずが、こんな事になるなんてね」

「でもこれって………偶然じゃないのかも」

 レフィアとアルクゥは虚ろな"彼女"を複雑な気持ちで見詰めつつ、夜は更けてゆく─────


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「 ───待てルーネス、こんな時間にどこへ行くつもりだ……!」


 蒼い月夜の晩、独り城外へ出て行こうとするのを呼び止めようとするイングズ。


「うっさいな! どこに行こうが、おれの勝手だろ?!」


「サスーンの見習い兵士としての自覚を持て! 夜警の時間だというのに……」

「関係ないね! そんなもん、今すぐやめてやる!!」

「お前はそうやってすぐ自暴自棄になるのが悪い癖だ。……ほら、落ち着けッ」

 イングズはルーネスの片手を取って引き寄せる。

「放せよ! どうせおれは……っ」

「本当に彼女かどうかも判らない存在に否定されたくらいで、自分を見失うなッ」

「エリア……だよ! エリアに決まってる!! 彼女は生き還ったんだ、生きたかったんだ、この世界を………!!
おれの、事はどうでもいい。彼女が生きてくれるなら、それで……!」

「そんな事を云うなルーネス、もういい………もういいから」


 ───駄々をこねる子供をあやすように、イングズはルーネスを両腕の中に抱き込む。

「よくない! よく、ない……っ。エリア、じゃないなら、何なんだよぉ……!!」

 イングズの胸に頭をうずめるように、強く抱き返すルーネス。

「お前が混乱するのも判る………彼女は、確かに"呪いの矢"によって死んでまったはずだ。だが、何故今になって──── 」

「おれ達だって、一度暗闇の雲にやられたよな……。けどあの時、ドーガとウネが魂を分け与えてくれて────そうだ! 誰かが、エリアにそうしてくれたんだよ!? だから、エリアは…っ」


 気を取り直して顔を上げるルーネスだが、間近で見下ろすイングズの表情は雲っている。


「それにしても、半年という時間が経ち過ぎている。ドーガとウネは、ある種の特別な存在であって────そういった者でなければ、魂の力を分け与える事など………出来たとしても、いったい何者が彼女に────?」


 パリイィンッ


 突如窓ガラスの割れるような音がしたと思うと、それなりの高さのある上階から"彼女"が、二人のいる所までふわりと素足で降り立つ。


「エ……リア? どうしたんだ……!?」


 つとイングズから離れて呼び掛けるルーネス。


「よんでるの────わたしを。風の────クリスタルが」


 無感情に小さく云い終えた彼女は、何のためらいもなく閉じられた城門を重力など感じないかのように、蒼く淡い光に包まれながらふわりと飛び越えてゆく。

「どういう、事だ……? 彼女は、何を────」

 ルーネスとイングズが呆然としている所へ、レフィア、アルクゥ、サラ姫が駆けて来る。

「彼女ったら、いきなりベッドから起き上がって窓から飛び降りて…!ど、どこ行ったの?!」

「風の───クリスタルが呼んでるって、エリアが………」

「ルーネス、君まで放心してどうするのさ! とにかく城門を開けてもらって、祭壇の洞窟に行ってみよう! 風のクリスタルがあるのは、そこだから────」

 アルクゥの呼び掛けで、ルーネスはハッとする。

「そ、そうだよな……! 彼女を、エリアを追っかけないと!」

「私も、行かせて……!」

「いいえサラ姫様、貴女は城でお待ち下さい。必ず、戻って参りますから」

「(───そう、また………私を置いて行くのね。いいわ、慣れてるもの────)」

 イングズに制され、サラ姫はどこか寂しそうに4人の後ろ姿を見送る。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「エリア………?!」

 風のクリスタルの祭壇は、変わらずそこにあった。しかし、以前には存在しないものが────

次元の裂け目のような、黒く渦巻く空間がぽっかりと開いている。それを前に佇む、長く美しい金色の髪の少女────

「エリア……っ!!」

 彼女は呼び掛けにも振り向かず、空間に踏み入る。
その儚げな姿は、瞬く間に黒い渦に呑まれてゆく────

「………! また、失うわけにはいかないんだ。今度こそ………今度こそ、守ってやる!!」

「待つんだルーネス! これは────」

 イングズの呼び掛けも聞かず、ルーネスは彼女の後を追って黒く渦巻く空間へ飛び込む。

「……迷っていられないわよ、イングズ」

「そうだね、僕らも行くしかないよ」

「あぁ……、判っている。行こうッ!」

 レフィア、アルクゥ、イングズも続いてゆく。
───その場の全員が次元の裂け目のような空間に踏み入った途端、それは何事もなかったように消え失せ、あとに残るのは、静かな輝きを湛えた風のクリスタルのみ─────



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「おや………お客さん、かな」


───そこは、周りを深い森に囲まれていながら木漏れ日の美しい、湖畔のある開けた場所─────


「あ、あんたは……?!」


「君達が来た事で………魂の広場の住人も変わったようだ」


 蒼白い人魂のようなものが木陰の所々に点在している只中に、赤魔道師らしき赤マント姿をした長い白銀の長髪で、羽根つき帽子の下からは紅い瞳を優しげに細めた一見女性のようで中性的な声の存在が、来訪者を迎える。


「 ────どうしたのかな。ここは、君達が来るような場所ではないよ」


「あ、あなたって………??」

 先程の銀髪の少年ではなく、オレンジ髪の少女が問う。


「困ったな………ダレかに呼ばれるような名前は、持ってないのだけど。────そうだね、マゥスン………とでも云っておこうかな」


 その存在は、あくまで優しげに微笑み返す。

「あ、赤魔道師さん………ですよね?」

 今度は茶色い髪の少年が問う。


「うん……? 師、じゃなくて、士の方かな。まぁ、どちらでもいいけどね。そう見えるならそうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」


「では………マゥスン殿、ここはどういった場所なのだろうか」


 短めの金髪の青年が問い掛ける。


「見ての通り、魂の集う場所………かな。と云ってもここは移ろい易いから、長く留まれないみたいだけれど」



「あんた────なのか」


 銀髪の少年がアメジスト色の瞳で、キッとこちらを睨みきかす。

「あんたなのか。おれの夢の中で、エリアを刺したのは………!」


「 ────あぁ、そうか、君は────うん、そうかもね。"私"かもしれない」

「どういうつもりだよ! せっかく、変えられるかもしれないのに……!」

「何を、かな。夢の中で何度も彼女を救った所で、本当の彼女は救えはしないよ。彼女も………それを望んではいない」

「分かったような事云うなっ!」


 赤魔道士に詰め寄る少年。


「そうだね、私には何もわからない。知っているけど、知らないんだ。君だって………そうじゃないかな」

「わけ分かんない事云ってんじゃねーよ!! うわっ………?!」

 少年が赤魔道士を突き飛ばそうと手を伸ばすが、その手は彼をすり抜ける。


「 ────すまないね、私は今実体を持たないんだ。君から触れる事は、できないよ」


 間近でにこりと笑い掛ける赤魔道士。


「実体を持たないって……あなた、ユーレイ?!」

「ひ、人魂化してないだけって事ですか…!?」

 オレンジ髪の少女と茶色の髪の少年が、こちらを凝視したまま驚いている。


「う~ん、そうなるのかなぁ」

 赤魔道士は首を傾げて可笑しそうにしている。

「ふ、ふざけやがって……!」


「ルーネス、戯れに付き合っている場合か。……見つけなくていいのか、彼女を」

 冷静な青年が、銀髪の少年に声を掛ける。

「そ、そうだ! エリアは、どこに……っ」

「ほら、あそこだよ。……大きなイカさんと、向き合ってるね」


 赤魔道士の妙な云い草に目を向けた先には─────

あの当時のままのクラーケンが、儚げなエリアの姿と向かい合い、今にもその気持ち悪い触手で彼女を絡め取ろうとしている─────


「………!! やめろーーっ!!?」

 少年は思わず身に帯びていた兵士の剣でクラーケンに斬りかかる。

────が、手応えもなしに雲散霧消する。


「 は ……っ?? 」


 後に残ったのは、蒼く透き通る石の欠片のような物で、エリアらしき彼女は先程の事など意に介した風もなく、それを拾いあげる。


「────みつけた、わたしの────」


 大事そうに両手に持って、胸の内にそれを収めると………彼女はふと倒れ掛かり、銀髪の少年が慌てて支える。

「え……エリア? エリア……!しっかりしてくれっ」


「大丈夫………たぶん、眠っただけだから。───さぁ、もう用は済んだろう? 出口は………ほら、そこにあるから、もうお帰り」


 赤魔道士が静かにそう云うと、来た時と同じように次元の裂け目のような、黒く渦巻く空間が出来ている。

「用は済んだって……あたし達、別に何も……?」

「そう、だよね。ルーネスがクラーケンみたいな奴に斬りかかった以外は────」

 困惑したようなオレンジ髪の少女と、茶色い髪の少年。

「"彼女の"────という事だろう」


 銀髪の少年に支えられた、仰向けに気を失っている彼女へ一瞥を向ける金髪の青年。

「そうなるのかな。さぁ………こんな所に長く留まると、正常な時の流れから切り離されてしまうよ。────もうお行き」


 何故か、どこか寂しげに、哀しげにそう告げる白銀の長髪の紅い瞳の赤魔道士。


「もうひとつだけ、聴かせてほしい。貴方は、彼女の事を──── 」


「ごめん、私には答えてあげられない」


「 …………… 」


 それ以上問い質さない青年。


「あんた………もう夢に出てくんなよっ!」


「うん………、そう願いたいね。────それじゃあ、ね」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「風のクリスタルが教えてくれた………、あなた達のこと」


 翌日、サスーン城の客室のベッドにて意識を戻した彼女の第一声に、その場の者は皆驚く。

「エリア……!? 記憶、戻ったんだなっ!!」


「───ちがう、教えてもらっただけ。あなたは………ルーネス。あなたは………アルクゥ。あなたは………レフィア。あなたは………イングズ。かつての、光の戦士たち」


 ────その蒼い瞳と表情はまだ虚ろではあるが、4人を順に見つめて名を述べる彼女。

「よ、喜んでいいのかよく分からないけど……結局あれって、何だったんだろう??」

「あの赤魔道士の………彼? も気になるわねぇ。いったい"どっち"なのかしらっ」

「ふむ………無事に戻って来れたとはいえ、彼女は特に記憶を戻した訳でもない、か」

「うぅっ、エリア………何とか元気にしてやれねーかなぁ?」


「 ひ 」


 4人それぞれ思いを巡らせていると、ふと彼女が口を開く。


「つぎ、火のクリスタル。───わたしを、呼んでるの」
 
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