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自由惑星同盟最高評議会議長ホアン・ルイ

作者:SF-825T
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第十四話

フェザーン回廊を抜けた同盟軍本体はそのまま帝国領に侵入しイゼルローン回廊を目指した。帝国軍本体は同盟領にありその結果、帝国領の防衛力が著しく低下したのをついての行動である。帝国領の防衛力が低下したのは間違いがないが、引き抜きに引き抜きを重ねた同盟領の警備艦隊に比べ、帝国領のそれは10万隻を誇っている。また中核となるべくワーレン艦隊もあった。一応ウルリッヒ・ケスラーも提督たる資格があり彼個人の旗艦があるのだが彼の本職は白兵戦などであり艦隊戦ではない。ワーレン提督は同盟軍のフェザーン侵攻の報を受けると自らの艦隊に警備艦隊を抽出した部隊を加え再編を行い同盟軍が帝国領に侵入したときにはおよそ2万隻の迎撃艦隊が出来上がっていた。

 同盟軍がフェザーんで手に入れたのは軍事物資ではなく、情報と捕虜である。物資を詰め込んでしまえば艦隊行動が遅くなるのは明白である。
同盟軍が捕虜にした帝国士官、または文官は主に階級の高い者や重要な役職に就いていた者だ。フェザーンにいる旧帝国人すべてを捕虜にするのは非現実的なので妥当な処置といえた。
 同盟軍の大型輸送艦には一隻当たり訳500万の捕虜が乗っている。同盟軍巡航艦の定員が300人程度なのにいくら輸送艦とはいえそんなに乗るのかと思うかもしれないが、事実として捕虜は乗せられている。ただし冷凍保存という形でだが。縦・横長さ70cm高さ250cmの箱それが捕虜たちに許された空間だった。脱出ポットやタンクベットとして戦争の発展とともに生産性、信頼性が確立された冷凍保存の技術はこのような形で使われることになっている。


 イゼルローン要塞を占拠した時に得た航路図を頼りに同盟軍は可能な限り速く行軍していた。偵察も雑で前方なら撃たれる前に気づけるだろうが、側面からだと撃たれるまで気づけないぐらいだった。
 まったくというほど寄り道をせずただひたすらにイゼルローン回廊へと突き進む
ので帝国軍にとって非常に航路が読みやすい。もっとも同盟軍が帝国領にいる以上どこにいても帝国軍に動きは筒抜けである。


 フェザーン回廊からイゼルローン回廊に帝国領を横切り移動しようとした同盟軍本隊を邪魔するのはワーレン艦隊しかなかった。
 ヤンはワーレン艦隊が取るだろう選択を三つにまとめた。
 一つ目は同盟軍を素通りさせること。同盟軍の目的がワーレン艦隊でもなく首都星オーディンでもないのはワーレンにはわかっているはずだ。ヤン的には一番とって欲しい選択しだがこれはほぼありえない。
 二つ目は集めるだけ戦力を集め同盟軍を叩くことだ。おそらく数では同盟軍に勝れないだろうが先手は間違いなく取れる。長期戦に引き込めば補給の問題もあり帝国軍に敗北はない。
 三つ目はイゼルローン回廊を何らかの手段で封鎖する。帝国軍がどの程度イゼルローン回廊の様子をつかんでいるかによるが機雷による封鎖は念頭に入れるべきだろう。ワーレン艦隊が本隊を持って回廊を塞いでくることも考えられる。




 ワーレン艦隊と同盟軍本隊の戦いは、ワーレン艦隊の先制攻撃で切って落とされた。
「敵艦隊補足、方位水平方向90度、垂直方向5度、距離5.1光秒」
「エネルギー波接近!」
「全艦戦闘態勢を整えろ」
 同盟軍主力艦隊に旗艦であるリオ・グランデに矢継ぎ早に情報が届き、同時に矢継ぎ早に指示が出された。帝国艦隊の発砲の後に同盟軍司令部の指示が発せられたが、その指示は帝国艦隊の砲撃が着弾するまでの僅か数秒で艦隊に行き届いていた。
 ヤンは側面からの奇襲を頭に入れていた。彼も同盟艦隊が帝国領を通過する間寝ずにずっと艦橋にいるわけにも行かない。すばやく指示が出せるよう航路図から帝国軍が仕掛けてくるだろうポイントを幾つか割り出しその場所を通る時は起きているようにしていた。
 帝国軍の一斉砲撃が、縦に伸びた同盟艦隊の側面中央に突き刺さった。砲撃が着弾した瞬間、何百光年を航行し数光秒をもの射程を誇る砲を持つ船は一瞬にして大きな棺桶と化す。それが一瞬にして数百個生まれた。
「敵艦隊、突撃してきます」
 これも同盟軍の予想したとおりだった。そこまで難しいことではない。ただ第一次ラグナロック作戦のランテマリオ星域会戦の立場が入れ変わった。数で劣る帝国軍が同盟軍を中央から分断し各個撃破しようとしだけだ。
 一斉砲撃によって同盟艦隊に出来た穴に帝国艦隊が突撃する。帝国艦隊の突撃は苛烈を極め被害を出しつつもついに同盟艦隊を二分させることに成功する。

 第一次ラグナロック作戦とは違い帝国軍は中央突破を成功させた。あとは各個撃破するのみ、そう帝国軍は考えていた。
 数年前、同盟における救国軍事会議のクーデターでドーリア会戦と言うものがあった。その時ヤンは戦略的に相手を二分し、中央突破をすることで戦術的にさらに相手を二分した。結果としてヤンは勝利した。しかし二分した=勝利ではない。例えばドーリア会戦のヤンの相手であったルグランジュ提督に艦隊が二分させられたのを逆利用してヤンを挟撃するという「よほど柔軟で洗練された戦術能力」があったならば勝敗は変わっていたはずだ。分断されたのを逆利用して、相手を挟撃すると言う手が取れるからだ。とにかくこの場において帝国軍が不幸なのは「例えばヤンが持っているような、よほど柔軟で洗練された戦術能力」をヤンが持っていたことである。

 同盟軍の分断に成功した帝国軍は、分断した同盟軍の片方を半方位に置こうとした。しかしそれは叶わなかった。同盟軍が分断されたのは初めから艦隊を二手に分けるつもりだったからであり、帝国艦隊は前方は開けているもの、のいつの間にか同盟艦隊に距離をとられ激しい砲撃にさらされていた。さらに帝国艦隊後方を塞ごうと同盟艦隊の一部が移動しつつあった。
 帝国艦隊は離脱を開始した。敵の戦術にはめられ両側面と後方を囲まれ、総数の差は開きもはや巻き返しは不可能と考えたのである。一方の同盟軍も深追いを避けた。ワーレン艦隊を全滅させる意味もなくまたここ帝国領であり不可能に近いからだ。


 ワーレンは自ら同盟本隊を叩くと同時に、編成の間に合わないイゼルローン方面の警備部隊を現地の指揮官に任せイゼルローン回廊を封鎖しようと試みた。しかしそれは失敗に終わっていた。警備部隊を集めた艦隊は1500隻程度、それらがイゼルローン回廊に侵入し、回廊が細くなるイゼルローン要塞跡地に機雷を敷設しようとした時、突如として同盟軍が現れた。回廊外周ぎりぎりから、イゼルローン要塞の残骸の陰から、今まで破壊されてきた何十万の同盟艦にまぎれて、次から次へと出てきた同盟軍を前に機雷の敷設作業中だった帝国軍は混乱におちいった。同盟軍としては機雷の敷設さえ邪魔できればよかったのだが、帝国軍の醜態はそれ以上の戦果を同盟軍にもたらした。 
 

 
後書き
いぜるr0-ん

 第11艦隊の幕僚達は顔色を変えた。グエンにこれ以上の全身を許せば、全艦隊が前後に分断されてしまう。分断されたのを逆利用して、相手を挟撃することも理論的には可能だが、それを成功させるには、よほど柔軟で洗練された戦術能力が必要だった。たとえばヤン・ウェンリーが持っているような。
                         銀河英雄伝説・野望篇より抜粋
 
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