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Tellus

作者:れんこん
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2-1誘拐と再会

 
前書き
今回からは第二章です。 

 
目の前の男カゲは余裕を崩すことなく、両手はポケットに入れたまま戦闘は続いていた。磁力に電気を操れるカゲには銃器は最早戦力にはならないと理解し、銃器を投げ捨てると、お得意の魔法での戦闘に移行しようとしたが、一つの人影が目に入りそれを追いかけていた。その人影は家の屋根に立つと月がその人物を照らし、正体が明確になっていくに連れ、ミールは苦い表情になる。

「…白天狗」

その男は白い天狗の面を付けており、後ろからは色が抜けたような白色の髪が束ねられていた。屋根から飛び降りるとカゲの隣に付き添うように立つ。

「私は忙しい身なので行きますが、彼女を捕らえておいてください。お願いしますね天狗さん」

カゲは天狗の面をした男にそう告げる。

「御意」

面の男は二つ返事で答える。声と体格から察するに男なのだろう。面の男を観察してる間にカゲは既に消えていた。カゲが逃げてしまったのなら天狗との戦闘は不要な為、逃げようとするが、風を斬る音を聞くと共に体の五ヵ所に針が刺さる。

「魔を扱いし者の弱点…それは魔の源である魔力だ」

針が刺さると同時に魔法は使えなくなる。

「経穴を突いた。貴様ら魔を扱う者にしかない経穴だ。魔力とは血液と同じく体を循環している。その一部に針を刺した。それも魔力を体外に解き放つ毒を塗った針をな」

まるで浮き輪から空気が徐々に抜けていくように魔力が体外に逃げていくのを感じ、次は手足に一本ずつ針が刺さる。それと同時に今度は力が抜けていき、首から下はまるで自分の体ではないような感覚になる。

「安心しろ。まだ殺しはしない」

その言葉を最後にミールは意識が途絶えていく。




カインはアグニーマンを撃破し、今にも崩れそうなこの神殿から逃げるべく、壁に手を付き一歩一歩前に進んでいた。アヌビスと戦った大広間まで帰ってきたが、黒いロングコートに全ての毛先が後ろに立っているような黒髪の男が刀を左手に持ち大広間の中央に立っていた。

「ほう、帰ってきたのはお前か」

その声に覚えはあった。何せこの世でたった一人の…

「…兄貴」

「その呼ばれ方も四年ぶりか…久しいな」

血の繋がりはないが師匠と共に修行した兄弟子という奴で、名はアベル=ハン。彼もまた親を戦争で亡くし、師匠に拾われた身なのだ。そしてカインと同じく特別な力をその身体に宿した人物だ。

「こんなとこで…何やってんだていうか今までどこにいた?」

兄貴は師が亡くなってからは行方不明になっていた。

「少し用事があっただけだ」

「四年もか?」

質問には答えず踵を返す。

「待て!」

届かないアベルに対して腕を伸ばす。アベルも足を止め、耳だけはこちらに傾けている。

「………」

互いに沈黙が続く。すると、階段の方から多人数の足音が聞こえる。カインは刀を抜こうとするが、アベルは左手を軽く上げることで制する。

「カイン=フルソードに…そちらは幻影騎士だな?」

機関の部隊丸々一つ五十人程が来たが、そんなことよりもカインは幻影騎士の名に驚いていた。幻影騎士とは世界で二番目に高い賞金を掛けられた者の異名だが、容姿が一切分からず分かっていることは次々と名の通っている強者を斬り続けていること位だ、それ故に幻影騎士と名がついた。

「弱者をいたぶる趣味はない一撃で終わらせよう」

アベルは腰辺りに刀を這わせるように密着させ大股に足を開くと砂埃が立ち、ロングコートで隠れていた足元が見えるほどに上がる。アベルの右手が薄くだが、黒く光るのをカインは見逃さなかった。次の瞬間軽いジャンプで四メートル程飛ぶと、部隊の部隊長らしき男が声を張り上げる。

「撃てぇぇ!」

一部隊の集中砲火が迫る。空中では避けるのは不可能に近いが、アベルの本体は地上に立っていた。つまりは空中に居るのは幻影であり、銃弾は幻影のアベルに着弾している。アベルは銃声と共に消え、五~六秒程で刀身を真っ赤にして帰ってくると、刀身に付いた真っ赤な液体を一振りで払い、胸の前で真横にした鞘にゆっくりと刀を納刀する。刀を納めると同時に部隊全員の首は斬り落とされていた。次の瞬間に壊れたスプリンクラーのように切断面からは血飛沫が派手に上がり、この広い大広間を一瞬で血の臭いで充満させた。カインは目を見開くことしかできなかった。声にすらできない。今の現象をどう言葉で表していいのか分からなかった。残像すら見えるほど早く、常人には何が起きたかはまず分からないはずだ、現にあの部隊の半数の人間は死因すら分からず死んでいっただろう。

「…幻影撃滅」

アベルはそう言った。

「剣幻流の奥義だ…言ったところでお前には無意味だろうがな」

幻影撃滅という名前と今見たアベルの動きでどんな技かは見えてきた。簡単に言ってしまえば、幻影撃を高速で何度も行っているのだろう。だがこの技は最初のフェイクは幻影だがアベルが部隊に斬り掛かったのは一人ということはこれは魔術的なスキルよりも身体的なスキルが要求される。それにしてもたかが五秒で五十人の命を奪うなど尋常ではない。そして圧倒的な身体能力いくら特別な力が宿っていてもあれは異常だ。

「アンタ“誰だ?”」

口は自然と開いていた。

「何を言う?お前と俺には同じ血が流れているだろう…そう悪魔の血が」

兄貴と同じ血?悪魔の血?カインの頭には疑問で溢れた。

「お前は本当に自分が普通の人間だと思っているのか?そんな物騒な右腕を持ちながら」

今まで使うのなるべく抑えていた右腕に視線を移すと、そこには普通の人間の腕がある。だがそれは見た目だけであり、実際には黒々とした人間の何倍もある腕に変化する。

「兄貴は自分が何者か…俺が何者か分かるのか?」

またしても沈黙が続くがアベルが沈黙を破る。

「いいだろう教えてやる…ついてこい」

その言葉に従い後ろをついていくが壁があるだけだ。アベルは屈むと地面を手で撫でるように触っていくと、とある場所で手を止め、押し込むと壁の一部が人一人分通れる位の扉になる。アベルは開いた扉に進み一つの部屋にたどり着くと、アベルは内側にあるスイッチを見つけると扉を閉める。

「まさかこんな隠し部屋があるとわな」

カインは隠し部屋の内観を見渡していた。質素な机に質素な椅子そして質素な保存食

「ここは元々エルフと戦争したときの地下壕だ…俺もここに居たからな…そしてここで助けられた」

アベルは一瞬懐かしむような目をしたが、瞬きと共に元に戻る。

「兄貴、いきなり本題だが俺は…一体何者なんだ?」

お互い手軽な椅子に腰を掛ける。

「そもそも俺達はとある計画で創られた…人ではない存在だ悪魔の血以前の話だ」

「俺達の一部は悪魔としての肉体が宿っているはずだが、悪魔の一部とはいえまだ生きている…そして宿主を選ぶ」

「選ぶ?どういうことだ?」

「悪魔という種族は人間よりも大きく優れている。体も頭も、それ故に人間には元々一部とはいえ悪魔を宿すなど過ぎた事なのだ。通常の人間ならば心を喰い尽くされ、自我を飲み込まれる…そして悪魔を移植する計画の前に悪魔を移植する依代を創る計画が俺達を生んだ」

「ちょ!ちょっとタイム!」

アベルの口からは聞き慣れない単語の数々に両手を上げ、タイムを要求した。

「なんだ?」

アベルもどこにタイムする要素があったのだ?と不思議な顔を浮かべている。

「さっきからスルーしてたけど悪魔なんて本当に存在してるのか?召喚の魔法とかじゃなくて?」

召喚の魔法として実際にガーゴイルといった類いのモンスターを召喚して戦わせる魔法もある。

「もし召喚の魔法なら一定時間経てば消えるだろう?」

事実召喚の魔法には制限時間が掛けられ、制限時間を過ぎれば元の世界に帰る。

「じゃあもう一つ…なんで悪魔を人間に移植するなんてイカれた計画を立てなきゃいけなかったんだ?」

「それは勿論エルフに対抗する兵器としてに決まっているだろう」

カインは盛大な溜め息が出る。アベルが続けるぞ、と言いカインもそれを促した。

「そして幾度もの人体実験の中でとある人物に出会った。唯一の人体実験成功者」

カインは俺達?と質問を飛ばすがアベルは首を横に振った。

「俺達のベースとなった人間ヒレン=フウという男だ。」

聞き覚えのない名前にカインは首を捻る。

「世界魔科学統制機関No.のリーダーだ。」

意外な人物にカインは驚くがアベルは続ける。

「だが彼は持病があった。そして悪魔は宿主の生命力を糧に力を宿主に分ける訳だ…彼は悪魔を宿してしまえば恐らく一年と持たず死ぬだろう。だが科学者はこのチャンスをどうしても見逃せず、クローン体という手段を選んだ。」

「それで生まれたのが俺達?」

アベルはまたしても首を横に振った。

「実際には大量の人体実験を行った末に俺達が生まれた。大量の犠牲の上に成功したのが俺達たった二人だ。」

日々命を捨てるように戦うカインが珍しく自分の命のありがたさを感じていた。

「あれ?ちょっと待てよ…つまり…俺とアンタは本当の兄弟?」

今までの話を聞く限り同じ人物から出来ている訳だからそうなるはずだ。

「そう捉えることもできるな」

そうだろうがなかろうがあまり関係ないが本当に血が繋がっていると考えると妙なものだ。

「もう話はいいだろう。俺はもう行くぞ」

そう言うと椅子から腰を上げ、来た道を引き返さず部屋にある戸棚をどけると道が姿を現す。

「ここから直接外に繋がっている。ここから逃げれば機関の兵士は簡単に撒けるだろう」

「兄貴は?」

開けるだけで進もうとしないアベルに問い掛ける。

「俺はまだやることがある」

「さっき言おうとしたことだけど俺は師匠との約束を違うつもりはない…この意味同じ弟子のあんたにもわかるだろう?」

師匠との約束それは…

「曲がったら殴ってでも直す」

「これだけ力の差を見せられてもか?」

カインは何を勘違いしてるのだとフッと軽く笑う。

「アンタを倒すのが目的じゃない、アンタの曲がった根性を叩き直すだけさ」

アベルも口元が緩み軽く笑う。

「お前の無茶な所も相変わらずか…いいだろう楽しみに待っておこう」

カインは隠し通路進んでいく。



隠し通路から出ると言っていた通り外であり、機関の兵士を撒くどころか見当たりすらしない。

「まずはこの怪我をなんとかしねぇとな」

体に残る火傷は自己修復機式のお陰でマシにはなっているが完治したとは言えない。それに指名手配犯が正規の病院に治療を頼むわけにもいかない。となればカインの知る限り一つだけ犯罪者でも入れる病院を知っている。その病院を目指し足を進めた。 
 

 
後書き
どんどん更新速度が遅くなりもう6月になってしまいました。カインの兄貴アベル…あれカインとアベルどこかで聞いたことがあるなー…皆さんお気づきだと思いますがそれです。 
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