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問題児たちが異世界から来るそうですよ?  ~無形物を統べるもの~

作者:biwanosin
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誓いと呪い

一輝がマクスウェルとの戦いを終えて黒ウサギたちの元に向かうと、そこには二人を回収しようとしているものがいた。
一輝はそれに対して何のためらいもなくスレイブを向ける。

「・・・オイ、アンタ。二人をどうするつもりだ?」
『・・・君は?』
「寺・・・鬼道一輝。その二人と同じコミュニティのもんだ。」

まだなれていないのか、一瞬寺西と言いかけた一輝は、一切警戒心を解かずに名を名乗った。

『そうか。君も“ノーネーム”の・・・それに、このゲームも君が?』
「ああ、俺が主催してるゲームだ。・・・場合によっては、参加者側のプレイヤーにしてやるが?」
『いや、それは遠慮させてもらおう。・・・それに、今は急いで逃げるべきだ。』

そいつはそう言いながら二人をゲーム盤に移動させようとするそいつを、一輝は炎を飛ばして止める。

「だとしても、せめて俺が信用できるだけのものを見せてくれないか?そうでもなければ、俺はアンタを止めるしかない。」
『・・・確かに、そうだな。来て見てくれといっても、無駄に決まっている。』

そう言いながらそいつは一輝に顔を向け、ようやく、名を乗る。

『俺は春日部孝明。春日部耀の父親で、まだ名と旗が有ったころの“ノーネーム”のメンバーだ。』
「・・・そうか。」
『信じるのか?』
「とりあえず、な。もしそうじゃないならそのゲーム盤で暴れればいいし、これでも色んな人を見てきたんでね。人を見る目くらいはあると思ってる。」

一輝はそう言いながらスレイブを納刀し、背に翼を生やす。

「ところで、ウロボロスの連中とジンたちを知らないか?見かけた記憶が無いんだけど。」
『彼らなら、もうここを去ったよ。・・・君たちのリーダーに見逃してくれと頼まれたんでね。』
「そうか・・・ならいいんだ。マクスウェルも追ってくれたみたいだし、主催者権限も解除していいか・・・あ、もう一ついいか?」

一輝は一つ、聞かなければならないことを思い出して、主催者権限を解除してから孝明に尋ねる。

『どうした?』
「いや、他にも俺の仲間がいるはずなんだが・・・金髪を伸ばした女の子と、俺と同い年くらいの黒髪ロングと茶髪ツインテール、見てないか?」
『・・・前二人は、既にあのゲーム盤にいるが・・・』
「・・・どういうことだ?音央はどこにいるんだよ、オイ!?」
『・・・それについて、俺は何も知らない。向こうで、直接聞いてくれ。』
「・・・ああ、分かった。早くそのゲーム盤に案内してくれ。」

一輝はこれ以上聞いても無駄だということを知り、移動を始めた孝明の後を追って飛んだ。



   ======



「・・・あ、お兄さん・・・」
「ヤシロ。音央のこと、何か知らないか?」

一輝はある部屋の前で心配そうに立っているヤシロを見つけて、そう尋ねた。
だが、ヤシロは首を横に振って、

「ごめんなさい、私には分からない。ただ・・・私が鳴央お姉さんを見つけたときには、もういなかったよ。」
「そうか・・・鳴央はどこに?」
「このお部屋の中。なんだか心配で・・・」
「そっか。」

一輝は本当に心配そうにしているヤシロの頭を撫でて、微笑みかける。

「じゃあ、鳴央のことは俺に任せてくれ。・・・まあ、音央のことで手を借りるかもしれないけど。」
「でも・・・」
「いいから。・・・何かあったなら、感情をぶつける相手も必要だろうし。それは、ふがいなくも主やってる俺の仕事だよ。」

その言葉に納得したのか、あるいはいくら言っても無駄だと思ったのか、ヤシロはいつもの可愛らしい笑みを浮かべて、

「それじゃあ、鳴央お姉さんのことはお願いね?それと、私に頼りたいことがあったら遠慮なく言って!」
「そうさせてもらうよ。とりあえず、今はスレイブの相手とか、お願いしてもいいかな?」
「は~い!」

ヤシロはそう返事をすると、走って去って行った。
そして、スレイブもまた、何も言わずに人間の状態に戻り、ヤシロのあとを追う。

「・・・湖札も、一度出てきてくれるか?あんまり知られるわけには行かないから、倉庫の中にでもいてもらうことになるけど・・・」
『・・・うん、分かった。頑張ってね、兄さん。』

湖札はそう言ってから一輝の中から出て、そのまま倉庫の中に入っていく。
これで、部屋の前に立つのは一輝一人のみだ。
そのまま一輝は部屋の扉をノックし、中からの返事を待つ。

「・・・はい、どなたでしょうか?」
「俺・・・一輝だ。中に入ってもいいか?」
「あ、ちょっと待ってください・・・はい、どうぞ。」

一輝は許可を得てから、部屋の扉を開けて中に入る。
そこには、ベッドの上に座っている鳴央の姿があった。
目が若干赤くなっていて、先ほどまで泣いていたのかもしれない。

「どうしました、一輝さん?何かあったんですか?」
「・・・そうだな、こっちは何もなかったよ。俺もスレイブも、何の問題もない。無事だ。」
「そうですか。それは・・・よかったです。」

そう言いながら笑みを浮かべる姿は、多少無理をしているようにも見える。
一輝はそんな鳴央の姿を見て、歯を強く食いしばってから近づき、率直に問いかけた。

「・・・何があった?」
「何って・・・そんな、」
「音央。」

一輝の言葉に、鳴央は黙った。

「ここにいないってことは、何かあったんだろ?・・・話してくれ、頼む。」
「・・・音央ちゃんは、浚われてしまいました。」

一輝の言葉に、鳴央は顔を伏せながらその時のことを話し始めた。

「誰に浚われたのかは、分かりません。・・・でも、とても強い人でした。私達は何も出来ずに・・・」
「・・・そうか。」
「ただ・・・あの人は、音央ちゃんを誰かと間違えている・・・それか、誰かだと思い込んでいる様子が有りました。」

鳴央はそう語ってから、顔を上げる。
一輝を心配させてはいけないと思ったのか、その表情は優しく笑っていて・・・今日だけでその表情を何度も見た一輝は、再び歯を食いしばった。

「大丈夫です。あの様子なら、音央ちゃんに害を及ぼすことは無いと思いますから。だから、大丈」

そして、鳴央の言葉は遮られた。
一輝が抱きしめたことによって、物理的に中断されたのだ。

「一輝さん・・・?」
「もういい。・・・無理は、しなくていい。」
「無理って、何を・・・」

鳴央がそう言うと、一輝は一度、少しだけ鳴央を放して、その手を握って目の前で言う。

「音央が浚われて、不安なんだろ?」
「それは・・・」
「だったら、その感情は溜め込まない方がいい。・・・鳴央自身が、壊れるぞ。」
「でも・・・」

鳴央はそれでも、話そうとしない。
そんな鳴央の頭を自らの胸に押し付けて、片手は鳴央の手を握ったまま、もう片方の手でその背中をポンポン、と叩く。

「・・・今、ここにいるのは俺だけだ。そして、俺からは鳴央の顔は見えない。・・・他にも何か心配なこと、あるか?」
「・・・ダメなんです。」

鳴央はそう言いながら、必死に涙をこらえる。

「今、この感情をぶつけてしまったら、一輝さんに迷惑が・・・」
「そんなことなら、なおさら気にするな。俺にだったら、いくらでもぶつけてくれればいい。・・・今は、それくらいしか出来ないから。」
「でも・・・」
「いいから。俺としてはそれより・・・鳴央が壊れることの方が怖い。」

その言葉に感化されたのか、鳴央は涙を流しながら、語り始めた。
最初は静かに・・・それでも、途中からは泣き叫ぶように。
自分の妹が浚われたこと、その時に自分は何も出来なかったこと。
そして・・・自分のこと以上に、音央を心配する気持ちを、吐き出していった。

一輝はそれを、最後まで。
何も言わずに、ただじっと聞き続けていた。



   =========



あの後、散々泣いて疲れたのか、それとも感情を全て吐き出して多少は楽になったのか、鳴央は眠りについた。
元々ベッドに座っていたこともあって一輝は簡単に寝かせることが出来たのだが・・・つながれていた片手は、眠っても離されることが無かった。

一輝は何故そうなったのかは分からないが、そこには・・・心細さが、あったのだろう。

「・・・大丈夫だ。」

一輝はそんな鳴央の手を手放さず、ベッドの横に座って、眠っている鳴央に語りかける。

「俺が必ず、音央を助け出す。」

その言葉は、一つの誓い。
必ず助け出して見せるという、誓い。
そして同時に・・・自分自身に対して、呪いをかけているようですら、あった。

――――無力な、自分への。
 
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