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魔王の友を持つ魔王

作者:千夜
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§55 狂信者の暴走

 朝、黎斗は目覚めが悪い。だからかテレビをつけても、朝は見ない。テレビを一番見るのはエルだ。次に恵那。家庭で一番熱心にニュースを見るのが狐とは一体どういうことなのだろう、と思わなくもないが思うだけだ。どうせ来年になったらセンター対策のために、時事問題をせねばなるまい。そうすればイヤでもテレビを見なければならないのだ。

「マスター、これ……!!」

 などと一人言い訳をしていると焦ったようなエルの声。

「ふぁひ?」

「れーとさん、食べてから喋りなよ……って、このニュースがどうかしたの?」

 勢いよくテレビを指すエルに、黎斗と恵那は箸を休めてテレビを見る。欧州で発電所の爆発が起こり、現地が混乱しているという話。

「……魔術師がらみ、ですね」

「なんでそう思うの?」

 断定するエルに懐疑的な目を向けて、黎斗は再びつけ麺を啜る。やっぱり味噌は旨いが塩も捨てがたい。

「上手く説明できないんですけど、この時間帯にこの場所での放送ってのが引っかかります。あと、この放送局の言い回しがすごい……草薙様達が起こした事件を隠蔽するときとそっくりなんですよね」

「ふーん」

「れーとさんどーでも良さげだね」

 どうでも良い、わけではないが自分が行ったところでどうにかなるわけではないだろうし。現地への介入は余計な混乱を招くだけだろう。災害復興系の能力なんて持ってないし。そう思えば被害者の方たちには同情を覚えるが行かない方が賢明なのだ。一段落したら翠蓮でも連れて行ってみるか。彼女の能力を使えば少しはマシになるかもしれない。軽く聞いただけだから無意味かもしれないが。

「まぁ、どうしようもないし」

 そう思っていれば、玄関がいやに喧しい。なんだどうした。

「はいー?」

「黎斗さんすいません!!」

 エルが扉を開ければ、息を切らした甘粕の姿。慌ててきたのであろう、ネクタイはよじれスーツがズレている。

「こんばんわ。どうしたんですかそんなに急いで」

 事件の帰りか大変だなーなどと呑気に声をかける黎斗に、土下座。

「ちょ、甘粕さん!?」

「なんと言えば良いのか。本当にすみません!!」

 血が出るんじゃないかと思う程に、額を大地にこすり付ける。普段の飄々とした態度が嘘のようだ。

「一体何が……」

 甘粕に尋ねようとした矢先、携帯電話の着信音が鳴った。発信先は、義母。ナイスタイミングだが、嫌な予感しかしない。

「はい、もしも――――」

「黎斗どうしよう!! あの子と連絡が取れないの!! 発電所の爆発に巻き込まれたのよ!!」

「あの子って誰よ」

 何故に母親が焦っているのか。発電所の爆発に誰かが巻き込まれたらしいが。

「――あ」

 思い出す。この前の電話の内容を。

――兄さん、私学校の修学旅行で海外行ってくるけどお土産何が良い?

――んー、なんでも良いよ。

――相変わらずテキトーだね

――じゃあ外国の風景写真とかオカルトグッズで。

――わかった、良い写真いっぱいとっていくね!

――オカルト無視!?

 義妹が、海外にいる。これは、そういうことか。

「――義母さん、大丈夫」

「えっ?」

 常時情けない息子。それの珍しく断定する口調に面くらう母。が、ここで説得している暇はない。

「アイツは大丈夫。多分同じように心配した親御さんが電話をかけまくって通じていないだけだから」

「そ、そうかしら……」

「こっちでも調べてみる。何かわかったら連絡するわ」

 そう言って、まだ何か言いたそうな義母を無視し携帯電話を切った。

「甘粕さん」

 一言呼べば。土下座している彼の身体がビクリ、と震えた。

「簡潔に説明をお願いします」

 束の間、逡巡する気配。全てを正直に話すべきか迷うかのように。誤魔化す方が拙いことを理解したのか、大きな息を一つ吐き、言葉が綴られる。

「黎斗さんの――カンピオーネの身内を狙った計画的犯罪です」

「……魔王相手にそんな馬鹿なことをする人がいるワケないじゃないですか。冗談言わないでください」

 エルが呆れたように。実際有り得ない。有り得ない、が――

「黎斗さんがカンピオーネであると、信じていない一団が居ます」

 日本にいるカンピオーネは草薙護堂だけである。しかし、彼の周囲には外国の結社の影がチラつく。これでは日本の機関は外国に対し後手に立つしかない。ならば、どうするか。

「それでカンピオーネを詐称する者を作り上げる? そんな馬鹿なことするワケないじゃん。無駄だよそんなの」

 恵那が一言で斬って捨てる。

「しかし、悟られなければ有効です。黎斗さんは――、余りに戦果をあげすぎました」

 神獣を単騎で、権能を使わずに容易く屠る。権能を使わずに。神獣を斃しても、神殺しであると証明出来ない。なまじっか武術に心得があったばかりに、権能を使ってこなかったことが災いした。カンピオーネが現れた、という報告よりは神獣を単騎で打倒しうる武芸者が現れた、という報告の方を信じたい。どちらにしても有り得ない事ではあるのだが。

「……神獣を権能で倒していれば、ってか」

 陸鷹化程の実力者なら、神獣を独力で倒すことが出来る。つまり、彼くらいの実力者と思われているということか。問題はカンピオーネであることを認めさせる後ろ盾だが――

「護堂、ですかね」

「ご明察の通りです。草薙さんとクラスメートであること位、調べればすぐにわかりますので」

 認知は護堂に任せれば良い。彼が黎斗は魔王であると言えば、それは事実として世に広まる。東京の騒乱も、カンピオーネが全てあの場に居たせいで情報が錯綜しすぎていた。黎斗の動きも全てデマとして捉えられても可笑しくは無い。

「これは、そういうモノ。黎斗さんの偽王という有りもしないレッテルを剥がそうと必死になった魔術結社数社の陰謀です」

 これで黎斗を打倒出来れば、正史編纂委員会は偽物の魔王を擁立したとして世界中から叩かれる。勢力は激減し、護堂の周囲に日本人を侍らせにくくなる。それは、草薙護堂とのパイプをつくることへの妨害をしてくるであろう最大勢力を潰せるという事。そして、日本における委員会の立場を根本から破壊することが出来る。

「万が一失敗しても、一部の魔術結社の独断、ですみます。ですので他の魔術結社は静観という手を取るでしょう。――勿論、形だけでも救出に動くでしょうが」

 媚を売る為に行動しようとしても、黎斗は正史編纂員会との繋がりが深い。媚を売っても無駄と考えられたのかもしれない。何結社か奇特なところが動いてはいるものの、多勢に無勢な状況で攻めあぐねている、といったところらしい。

「なる、ほど」

「ウチのエージェントで護衛させていたのですが……本当に申し訳ありません」

 甘粕の言葉を流して、黎斗は彼の方を向く。

「甘粕さん、誰でも良いので現地の方に電話つなげますか?」

「は、はい。只今」

 差し出された携帯電話を持って、通話口に語りかける。

「すいません。外の雑草に受話器向けてください」

 向けた気配を確認して。

「聞こえる?」

「……」

「そう。良かった。言付けお願い。魔術結社? 人間がニュースにしてる爆発事件があるんだ。そこの現場から避難して欲しい」

「…………」

「ごめん、時間はよくわかんない。だけど、数分後位には攻撃を開始したいから。大変だろうけど、頼める?」

「……そっか、ありがと。受話器の人にもう大丈夫って伝えておいて」

 草木に言うだけ言って、電話を切る。

「電話の人にお礼を伝えておいてください」

 コートを着る。外寒いし。窓を全開に。

「――――来い」

 念じれば、眼前に巨大な鉄の塊が現れる。昏く輝き、流線型をした鋼鉄の鳥が。

「ッ!?」

「何それ!!?」

 呆然とする甘粕と恵那に向けた返答は簡素な一言。

「神飛行機……いや、神機といったほうがわかりが良いかな?」

 獣ですら、神の使いとなれば災厄といっても過言ではない力を有する。では機械が、神の使いとなればどうなるのか――?

「留守任せるわ」

「今度こそ、恵那も!」

 名誉挽回、と意気込む恵那に、苦笑。

「わかった。じゃあエル、あとは任せる」

 そう言って、黒い表紙の古書を渡す。

「はい。とりあえずなんとかやってみます。では御武運を」

 彼女の言葉に押されるように、黎斗は機体に乗り込み、瞑目する。

「……まさかそっちに来るとは思わなかったよ、全く」

 目まぐるしく変わる景色。この速度ならば欧州まで数分、といったところか。

「権能の掌握が進めば数秒程度になるだろうし、それまでの辛抱か」

「あうっ!?」

 焦っている黎斗は気付かない。急激な加速により恵那が盛大に頭を打ち付けていることを。





●●●






「さて。あとは黎斗とやらを呼び出すだけだ」

 前もって調べた情報で、ここにカンピオーネを詐称する愚か者の妹が来ていることはわかっている。護衛がついていることは把握済みで、対象の確保に手間取ることは十二分に考えられたが、予想よりも早い。これなら、愚か者を呼び出すまでの時間に余裕が出来る。

「計画通り、否計画以上だ……!!」

彼ら自身これがテロ、と呼ばれる行為であることは十二分に理解している。だが。

「我らにとって王ともいえる、カンピオーネを詐称することなど許せるものか……!!」

 決意を新たに外を見れば、恐ろしい気配。

「ん?」

 爆音が、する。視界共有にて使い魔の眼を使い海をみれば飛行機の姿。その機体からは呪力を感じ、既存の物とは思えない程に凄まじく速い。恐らくニセモノ野郎が乗っているのだろう。莫大な呪力を持つ戦闘機の入手経路が気になるが、それはあとから拷問でも何でもして探れば良い。

「血迷ったか?」

 単身特攻とは、舐められたものだ。日本の結社を味方につけ、総力戦になると思っていたのだが。

「まぁ、良い。手間が省けたわ」

 数十体ものゴーレムが、迎撃に向かう。神獣を相手に、傷を与えられる打撃力と一撃程度では沈まない耐久力を備えた逸品だ。これを大量投入する。まさか海岸付近で決着がつくとは思わなかった。優秀な術者複数で挑んでくると思い、島の中心部から二重三重に結界を張ったのが馬鹿のようだ。

「恐れ多くもカンピオーネの名をかたる不届き者が。我々が誅してくれるわ。光栄に、思えよ」

 勝利の笑み。しかし彼らのその確信は、一瞬にして崩れ去る。飛行機から放たれたミサイルが、一撃でゴーレムの集団を吹き飛ばしたのだ。その威力は、既存兵器のそれとは明らかに違う。もはやオカルトを超えた、神の領域。

「な、にィ!!?」

「馬鹿な……一撃で、だと……」

 常軌を逸した速度で迫るそれは、もう彼らの目前まで迫っていて。一秒にも満たない刹那の時間に、あの鉄塊は島の端から中央まできたというのか。そんな物質を造作も無く操る魔術師など果たしてこの世に存在するのか。ここに来て。彼らの脳裏に”魔王”の字が浮かぶ。

「まさか、本物の――」

 あとは、続かなかった。彼らの籠るビルに戦闘機が、突撃する。

「……まさか、ね」

「れーとさん?」

 ビルの炎上と同時に、飛行機を消す。室内に入り、気配(・・)に嘆息。全く本当に、ついてない。

「え、何あの人たち!?」

「もうダメだ終わりだ!!」

 そして二人の視界に入るのは世紀末のような光景に怯え竦む少年少女。平和な世界で生きてきた彼らにとって人質となる経験など当然初めてで。恐怖で立ちすくむ中に襲来してきた飛行機と二人の男女。チェックの長袖にジーンズ、そんな平凡そうな男子学生と巫女服の少女の組み合わせは人質達の混乱を加速させる。

「恵那、この子達任せる」

 しかし、黎斗は彼らを一顧だにしない――――否、出来ない

「え?え?」

 目を白黒させる恵那を横目に、頭上を見上げる。特攻をしてしまったせいで崩れつつあるビル。平時なら人質や犯人の救出と洒落込むのだが。

「最上階に災害がいる」

「……りょーかい。こっちは、任せて」

 袖口から剣を取り出して、恵那が頷く。それを見届けて、黎斗は駆ける。ワイヤーを上へ、崩落した部位に引っ掛けて自身を持ち上げ移動する。

「っと」

「へぇ。今代の神殺しは身軽なんだねェ」

「煩い黙れイケメン」

 やはりか。どうしてこう、人外連中はイケメン揃いなのだろう。なんかもう、神とカンピオーネで並んだら自分だけどう考えても場違いだろう。なんてことを少し思う。

「あんたは、誰だ?」

 黎斗の鋭い声に、答える声は飄々としていて。

「さぁ、誰だろーね? 当ててごらん?」

 ここに、再び戦いの幕が上がる。 
 

 
後書き
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面接で馬鹿な事口走ってお断りされた残念な人間は私です、えぇ……(何

あ、紙飛行機ですが脳内設定ではドニの「いにしえ」とガチると負けます
よくて防戦一方とか、そんなカンジのイメージ。
今回はなんとなく権能の設定本文に入れてみましたが、蛇足ですかね?
どうせまとめに載せるんですが、こういう入れ方も試してみようかな、と
不評なようでしたらまとめ一本で、こっちに書いた分は削除しまする

PS、ご意見を頂けたので設定はこちらにずらしてみました。
とりあえず試行錯誤段階、ということで(何


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Name,邇藝速日命
Factor,飛行機の神
Skill,天空の城塞(バルキリー)
黎斗命名。航空機を呼び出す能力
姿や兵装は黎斗のイメージに影響される。
権能の掌握が不完全な所為もあり
対地・対空ミサイル、レーダー、誘導弾
この程度の武装しか存在しない 
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