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ミッドナイトシャッフル

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第一章


第一章

                    ミッドナイトシャッフル
 街の夜はいつもこうだ。闇の中に数えきれないだけの光が瞬いていて。
 その中に多くの人間がいる。ただその人間が色々だ。
 天使もいれば悪魔もいる。天使だけじゃない。
 問題は悪魔だ。俺はその悪魔についてだ。妹に言った。
「気をつけろよ」
「悪い人にはよね」
「ああ、色々な奴がいるからな」
 ずっと一緒にいる大切な妹にだ。顔を向けて告げた。
「ましてや御前あれだろ」
「ええ、今の仕事は」
「全くな。何でそんな場所で働いてるんだ?」
 俺は眉を顰めさせて妹に言った。今こいつが働いているのは新宿だ。新宿のカラオケボックス、ビル全体が店になっているその派手な店で働いている。
 カラオケボックスで働くこと自体はよかった。問題はだ。
 場所だ。よりによってその悪魔が多い場所だ。そこで働いていることにだ。
 俺は眉を顰めさせてだ。妹に言ってやった。
「渋谷とかあるだろ。店は幾らでも」
「面接受けたけれど」
「その店しか採ってくれなかったのか」
「そうなの。それで」
「まあな。採るのは店だからな」
 就職は大変だ。俺もそれはわかってる。俺は高校を卒業してから警官をしている。その警官になるのも中々以上に大変だった。それでわかることだった。
 それでもだった。俺は苦い顔で妹に言った。
「ただ。どうしてもだったんだな」
「そうなの。カラオケでね」
「働きたかったんだな」
「カラオケ好きだから」
 それでカラオケボックスを就職先に選んだ。そういうことだった。
 働くこともカラオケもいい。俺はそんなことは気にしない。けれど場所がどうしても気になって。
「あそこは日本で一番やばい場所だからな」
「歌舞伎町とか?」
「あそこに近いだろ」
「もうすぐそこよ」
「あそこは本当にやばいんだよ」
 特に夜だ。ヤクをやってる奴だのサツ、つまり俺達に追われてる奴だのチャカを持ってる奴だの一杯いる。もうそれこそ悪党の吹き溜まりだ。
 そんな場所で、しかもカラオケボックスは夜にこそ繁盛する。
 そんな場所で働いているから。俺は余計に言った。
「だからな。何度も言うけれどな」
「他の場所でっていうのね」
「ああ。それに何でなんだ?」
 顔を顰めさせて尋ねた。
「そこまでカラオケボックスにこだわるんだ?」
「だからカラオケ好きだから」
 理由は同じだった。
「だからなのよ」
「まあそれは知ってるけれどな」
「働いてないよりいいじゃない」
「それはそうだけれどな」
「お金溜めてそれでね」
 ここからは夢だった。俺に夢を語ってきた。
「何時か私のお店持つの」
「自分でカラオケボックス経営するってか」
「店長でもいいけれどね」
 何気に誰でも頑張ればなれる様な夢でもあった。
「それでもよ。お店を持ちたいのよ」
「で、新宿でもか」
「頑張って働くから。応援してね」
「カラオケボックスで働くこと自体はな」
 本当にそれ自体はだった。俺も反対する理由はなかった。
 けれど新宿であることは。どうしてもだった。
「まあ機会があればもっとましな場所でな」
「働けっていうのね」
「何があっても知らないからな」
 こう言ってだった。俺は妹をさらに心配することになった。
 そんな時にだ。不意にだった。
 俺は所轄の署長にだ。こう言われた。
 
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