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パンデミック

作者:マチェテ
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第五十六話「人類の希望」

タガートの提案は、いわば"脅し"だった。

ブランクは暴走をきっかけに兵士達と上層部からの信用を失っている。
おそらく"エリア4"での作戦にブランクが参加しても、兵士達の不安と反感を買うだけだ。
上層部も兵士達の意見を汲み取って、ブランクを参加させないだろう。
参加できたとしても、何かしら行動に制限がかけられる。

それがタガートの狙いだ。

このままブランク抜きで"エリア4"での作戦が展開されれば、間違いなく犠牲者は出る。
それも、これまで以上の犠牲が。



大損害を出してそのまま作戦が終われば、兵士と上層部は何を思うか?



上層部はきっと、ブランクを参加させなかったことを後悔するだろう。
制圧より、保身を選んだことで、余計な大損害を出したことを非難されるだろう。



そして、兵士達はこう思うはずだ。

"もし、ブランクが参加していたら、もっと犠牲者数を抑えられたのではないか?"



結果、兵士達はブランクという本部最大の戦力を必要とする状況になる。
いや、必要とせざるを得ない。


そして上層部は兵士達からの反感を買い、ブランクを呼び戻すしかなくなる。





兵士達には、"ブランクが必要になるだろう"と。

上層部には、"下した決断は間違っていた"と。


エクスカリバー本部全てを"脅し"、最大の戦力を再び戦場に呼び戻す。


それがタガートの考えだった………

















「………………………………」

ヴェールマンは無言でタガートと眼を合わせた。
タガートの眼は本気だった。本気で"脅し"を実行する気だ。

「タガート………ブランクを助けたい気持ちは私もよく分かる。だが、事を急いで全てを失っては
損失にしかならない。…………ブランクも嬉しくは思わないだろう」

「………………司令。ブランクのためではありません」

「?」







「人類のためです」






ヴェールマンの眼から穏やかさが消えた。
タガートに同行して来たネロは、2人の睨み合いを見守ることしか出来なかった。


「タガート………私は、名誉の犠牲を決して認めない。大切な人のもとに生きて帰る。それが兵士の名誉……
そう信じている。……………そんな私が………お前のその意見に賛同すると思っているのか………?」

ヴェールマンはタガートを強く睨みつけた。
しかし、タガートは怯まず言葉を続けた。

「司令がどう思おうと、何と言おうと、自分の考えは曲げません」

「考え直せ! ブランクは確かに信用を失った。しかし、一度結ばれた信頼は固く、途切れない。
時間をかけても、共に戦えば信頼は回復する!」

「……………もうそんな猶予はありません。確かにレッドゾーンは減少しつつあります。しかし同時に
グリーンゾーンも減少し、世界人口はどんどん減っている。こんな状況でこそ、我々本部の人間が世界を
導き、助け、支えなければならない! …………そんな時に本部が襲撃された。本部が崩れれば、世界は
滅びに近づく…………だから、必要なんですよ……最大の戦力が」

「タガート………………」










「ブランクは、人類の希望です。…………失うわけにはいかない……」











「………………駄目だ。認めるわけにはいかない」

ヴェールマンの意見は変わらなかった。

「……………………分かりました……失礼しました……」

タガートは溜め息を吐いてヴェールマンの部屋から出ていった。
ネロもそれに同行し、部屋から出ていった。








「言ったろ? 司令は絶対認めないって」

ネロは溜め息を吐いてタガートに言った。

「だが、こんなことで人類の希望を失うわけにはいかないんだ………何としてでもこの作戦を通してやる」


















―――そして現在


「…………何なんだよ? その危険な賭けってのは?」

レックスがタガートの考えを問う。しかし、タガートは無言のままだ。


当たり前だ。こんな無茶な考えをクラウソラスのメンバーの誰が認める?
絶対に満場一致で反対されるに決まっている。

「何だよ、教えてくれよ~タガート~」

レックスが答えを催促する。
しかし、タガートは何も答えない。

「…………………タガート?」

不自然さを感じたブランクがタガートの表情を覗きこんだ。


その表情は、どういうわけか申し訳なさを感じる表情だった。

















すまない、皆………

悠長に信頼を取り戻す時間は無いんだ。

人類のためには、我々兵士が犠牲にならなければならない。



あとは任せたぞ、ブランク。
皆を導いてくれよ………… 
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