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桜の木

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第二章

「確かにな」
「だからな、これからな」
「合衆国と日本の戦争か」
「西海岸じゃ随分差別も酷いらしいしな」
「カルフォルニアの連中は偏見の塊だっていうな」
 カルフォルニア州はアメリカの人種差別のメッカでもある、このことは歴史を見ればわかる。カルフォルニアの歴史はある意味において人種差別主義者の歴史でもあるのだ。
「あそこに日本からの移民が多いな」
「ハワイと並んでな」
「そうしたことがあってか」
「折角の桜だけれどな」
 エセックスは難しい顔で言う。
「これからどうなるかな」
「戦争になればあの桜はどうなるんだ?」
「さてな。僕は人種差別は嫌いだ」
 品性としてだ、エセックスは人種差別を否定していた。だからラグクラフトの本もあまり好きではないのだ。
「だから若し日本と戦争になっても」
「この桜はかい」
「何にもならないといいな」
「そうだな、僕もな」
 エセックスと話をする彼も言う。
「この桜達は綺麗だと思うし」
「それでなんだな」
「何もならないことを祈るよ」
 例えだ、アメリカと日本が戦争になってもだというのだ。
「本当にね」
「まずは戦争にならないことだよ」
 エセックスはそれが第一だとした。
「それで願えば人種主義もね」
「なくなるといいっていうんだね」
「僕は嫌いだ」
 人種主義、それはというのだ。
「自分達が優秀だの高潔だのは思わないからね」
「優秀で高潔な人間だね」
「完璧なものは神だけさ」
 エセックスはこう言い切った。
「人間は完璧じゃないさ」
「白人でもだね」
「白人でも質の悪い奴は嫌になる程いるさ」
 自分の店にいる客達を思い出しての言葉だ、客達のことを公に悪く言うことは出来ないからこう言ったのである。
「だからね」
「白人が偉いとかはだね」
「うん、ないよ」
 これがエセックスの持論だった。
「そんなことを言う奴は自分が偉いのか」
「そう問われるとだね」
「偉いと言える奴は馬鹿だよ」
 例えその人間が白人でもだというのだ。
「そんな奴はね」
「そういうものだね」
「若しあの桜がドイツか何処かのヨーロッパの国から贈りものだったら切る奴はいないだろうけれど」
 同じ白人の国だからだ、ドイツを出したのは前の戦争のことからだ。
「けれどね」
「それでもだね」
「そう、日本なら」
 アジア人のこの国が相手ならというのだ。
「切る愚か者が出るかも知れないね」
「嫌な話だね」
「馬鹿には綺麗なものもそこにあるものもわからないよ」
 エセックスは嫌な達観を感じた、人間の忌まわしい一面に対する。
「だからね」
「切る奴が出ないといいね」
 友人もエセックスの話を聞いて述べた。
「僕もそう思うよ」
「全くだよ」
 こうした話をしてだった、エセックスは友人と共に桜を見ながら話した。ワシントンの春の桜は確かに綺麗だった。
 しかしだ、エセックスはワルトにルーズベルトが二期目を終えようという時に自分の店の奥でコーヒーを飲みながら話した。ワルトの青い目と後ろに撫でつけた金髪、それと四角い感じの顔の輪郭を見ながら。 
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