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桜の木

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第一章

                   桜の木
 アメリカの首都ワシントンにある花が来た、その花はというと。
「ああ、桜か」
「ワシントンだから桜なのか?」
 ある者がこんなことを言った、少年時代のジョージ=ワシントンが斧の切れ味を試そうと桜の木を切った話である。 
 しかしだ、この逸話についてはすぐに突っ込みが入った。
「あれ嘘らしいぞ」
「えっ、そうだったのか」
「ああ、ワシントンの正直さを言う為の作り話なんだよ」
 そうだというのだ、真実は。
「本当はな」
「嘘だったのか」
「まあな、それにしてもな」
 ワシントンの話の真実を語った者も桜を見ている、それで言うのだった。
「あの桜の木綺麗だな」
「ああ、かなりな」
「あの木は何処から来たんだ?」
「日本からの贈りものらしいぜ」
 別の者がこう言った。
「あの国からのな」
「日本?アジアの島国のか」
「何でも合衆国との友好にってな」
 その証として贈られてきたとぴうのだ。
「そうらしいな」
「へえ、それでか」
「それでこっちはハナミズキを贈ったらしいんだよ」
 アメリカの木をだというのだ。
「交換にな」
「それでここには桜か」
「ああ、これからはワシントンでも花見が出来るぜ」
 桜の花のだというのである。
「日本も粋なことをするな」
「そうだな、しかしな」
 ここでだ、ふとだった。
 ワシントンで服の商売をしているショーン=エセックスは複雑な顔になってだ、彼と同じく日本から贈られてきた桜達を見ながら言った。
「この桜が無駄にならないといいな」
「無駄?」
「ああ、合衆国はどうもな」
 エセックスはそのグレーの目で桜達ともう一つのものを見ていた、鼻は高く目はくぼんでいる。髪の毛はブラウンで商売人というよりは学者みたいな顔をしている。痩せた顔にすらりとした中背を端正なスーツと帽子で包んでいる。
 その彼がだ、こう言うのだ。
「日本に思うところがあるみたいだからな」
「この桜の木にかい」
「それを察して贈ってきたんじゃないのか?」
 この桜達をだというのだ。
「そんな気がするな」
「合衆国が日本と戦うのか」
「何か妙にそんな映画とか多いだろ、最近」
 エセックスはこんな話もした。
「悪の博士とかな」
「ああ、フー=マンチェな」
 中国人そのものの外見だが日本人という設定である。
「ああいうのとかハーストとかな」
「ハースト!?あのイエローペーパーか」
 つまり質の悪いタブロイド紙だ、エセックスと話をしている彼、銀行員であるエドワード=ワルトはいぶかしむ顔になってそのうえでエセックスに言い返した。
「あそこは何でも面白おかしく書くだけだろ」
「けれど結構な人間が読んでるな」
「それがまずいっていうのか」
「ああ、あそこは売れる為なら何でも書いてだ」
 しかもだというのだ。
「偏見とか煽るからな」
「ハーストはそんな奴だな」
 ハーストについての評判は悪い、それで彼も言う。 
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