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妻の正体

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第六章

「だからだ」
「ああ、外からの酢で、ですか」
「そうだ、だからな。ここはな」
「ここは?」
「すぐにとびきり強い酒、ロシアから輸入しているウォッカでも買ってな」
「酒ですか」
「俺達ムスリムは飲んではいけないことになっているがな」
 建前だ、実は飲んでいるがそこは言わない約束だ。
「売っているな」
「はい、華僑はムスリムでないですし」
 マレーシアは多民族多宗教国家だ、だからムスリムの国であってもそうしたものを売っているのである。それでだった。
「酒をですね」
「買ってだ、後はだ」
「後はですね」
「毒だ、いや相手が相手だからな」
 吸血鬼だ、それならだとだ。社長は視線を右にやって鋭く考える顔になってそのうえでマヤリームに話した。
「人間の毒よりもな」
「他のものを用意しますか」
「塩か」
 退魔のそれにだった。
「後は松脂か」
「そうしたものを酒に入れてですか」
「酢の壺の酢を捨ててな」
「代わりに酒を入れて」
「その酒の中に入れておくんだ」
 塩や松脂をだというのだ。
「わかったな、すぐにそうしたものを買い揃えるぞ」
「わかりました」
 こうしてだった、社長の方が率先してだった。
 すぐに準備をした、酒屋に行きスーパーで塩も買ってだ。
 松脂も調達した、それからだった。
 マヤルームの家に向かう、だがここで彼は社長に言った。
「駄目です、家は」
「あいつがいるか」
「はい、ですから」
 自分が運転する軽トラックの中で隣にいる社長に話すのだった。
「まだ家には」
「じゃあ待つか」
 マヤルームのその言葉を聞いてだ、社長はすぐにこう言った。
「真夜中までな」
「それであいつがいなくなった時にですか」
「ああ、仕込むぞ」
 まさにだ、鬼のいぬ間にだというのだ。
「そうするか」
「そうしてですね」
「ああ、とにかくな」
「酢じゃなくて酒ですね」
「しかもウォッカだ」
 軽トラックの中に瓶がそれこそダース単位である、ロシアから輸入したものを酒屋でこれでもかと買ったものだ。
「これならな」
「飲んだらですか」
「飲んだらじゃない、内蔵を漬けたらな」 
 それでだというのだ。
「一気に酔うからな」
「酒って匂いでも酔いますからね」
「あと酒風呂に入ってもな」
 そうしてもだというのだ。
「酔うからな」
「だから酒ですね」
「しかもウォッカだ」
 酒の中でもとりわけ強いこの酒ならというのだ。
「アルコール度九十七パーセント、これならな」
「一気に酔いますね」
「酔わない筈がない」
 絶対にだというのだ。
「効果てきめんだ」
「妖怪でもですね」
「酢が効く妖怪なら酒も効く」 
 社長は自信を以て断言した、絶対にそうなるとだ。 
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