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帰る場所

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第一章


第一章

                          帰る場所 
 村の粗末な家の前でだ。逞しい男が身体を激しく動かしていた。
 見れば拳法の動きだ。上半身裸で全身に汗をかきつつだ。
 修業を行っていた。その彼のところにだ。
 村の老人が杖をつきながら来てだ。こう言ったのである。
「いやあ、李さんは精が出ますなあ」
「あっ、これは鎮さん」
 その彼李九龍はだ。鎮清才に顔を向けてだ。
 一旦修業を止めてだ。笑顔で言うのだった。
「散歩ですか」
「そうです。もう仕事は終わったのですね」
「ははは、今日はもうです」
 終わったとだ。李は手拭で顔の汗を拭きながら鎮に答える。
「終わりました」
「それで今ですね」
「もうすぐですからね」
 今度はこんなことを言う李だった。
「大会が行われるのは」
「そうですね。もうすぐですね」
「この河南省での拳法大会」
 この村は中国河南省にあるのだ。そしてその河南省でだ。
 間も無く拳法の大会が行われるのだ。李はその大会に出るのだ。
 それで今懸命に修業して技を磨いている。そうしているのだ。
 その彼がだ。笑顔で言うのだった。
「是非大会で優勝して」
「賞金ですか」
「やっぱり欲しいですね」
 笑顔で鎮に言うのである。
「そうすれば家族も楽になりますし」
「そうそう。我が国は確かに豊かになりましたが」
 農村もだ。何だかんだで豊かにはなってきていた。どの家にもカラーテレビが普及してきていて扇風機もある。都会程ではないが豊かになってきているのは確かだ。
 だがそれでもだとだ。鎮は言うのだった。
「ですがそれでも」
「生活はどうも」
「中々苦しいですからね」
「食べられはしてますがね」
 それでもだと言う李だった。
「農業やってても」
「ですよね。どうしても」
「はい、子供もいますし」
 その養育費がだ。かかるというのだ。
「何かと大変ですよ」
「だからこそ賞金を手に入れて」
「家族を楽にさせたいです」
 笑顔で鎮に話すのだった。
「絶対に優勝して」
「そうですね。それじゃあ」
「はい、大会頑張りますよ」
 こう笑顔で述べる李だった。そうしてだった。
 この日は夕食の時まで修業に励んだ。そしてその夕食の時にだ。 
 李は家の中でだ。薄暗い灯りの中でだ。
 妻である明花、まだ小さい娘である白娘と共に包と魚、それに野菜を炒めたものを食べていた。そしてその中でだ。彼はこう妻と娘に言ったのである。
「お父さんは絶対に優勝するからな」
「優勝するのね」
「そうするのね」
「そう、そうするから」
 こうだ。彼は笑顔で妻と娘に言うのだった。
「応援してくれよ」
「わかってるわ。頑張ってね」
「お父さん頑張れ」
「賞金持って来るから」
 だからだと。李は包を食べながら述べた。
「楽しみにしておいてね」
「賞金?」
「そうだよ。それでね」
 白娘にだ。彼は言った。
「その賞金で白娘に奇麗な服を買ってあげるからな」
「服を?」
「そうだよ。服をだよ」
 優しい笑顔での言葉だった。
 
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