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銀色ランプの精は魔法が使えないっ!?

作者:闇玲
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~プロローグ~嵐の前兆に誰も気づかない・・・。後編

こうして俺は妹のわがままに付きそうことになってしまったのであった。
俺の隣を大層ご機嫌で歩く妹の結月はそれはもう楽しそうで。俺のテンションとはまるで正反対な感じであった。
その妹の隣を半ば諦めながら、並んで歩く。
それから電車に揺られること数時間。
引っ越し先の街は結月が言うには乗り換えの必要もなく、一本で済むらしく、四駅か五駅くらいの所の駅なんだそうだ。
そして目的の駅に降りて思ったのは。
「騒がしい」
だった。
たかだか四駅だか五駅ほど離れた場所なのにこれほどまでに街というのは変わるのか。
俺は思わずため息を零した。
「おい、結月。ほんとにここなのか?」
あまりの騒々しさに隣にいる妹に問いかける。
「はい、確かそのはずですわ」
と、答える。が、その表情は曇っている。
嫌な予感がよぎる。この妹は割と色々やらかす人種だ。
何をしでかすか分からない。しかも本人は無自覚ときてる。
「いえ、間違えたわけではないのですが、ただ・・・。」
と、非常に歯切れの悪いことを言う。
「ただ?」
「引っ越し先の近くにも美術館はあるのですがこっちのと向こうのとを間違えたみたいです」
と、申し訳なさそうに縮こまる結月。
まぁ、そんなことだろうとは思っていた。
この妹はそういうタイプなのだ。わかっていたこととはいえ、呆れてため息すら出てこない。
「本当は、どっちの美術館なんだ?」
そう聞いてやると、小さな声で「一つ前の駅ですわ」と答えた。
どうやら、字も全く似通っていないこの駅の美術館と一つ前の駅の美術館を間違えたらしい。
だが、驚いたことにたった今調べたら、どちらの美術館も絵画や彫刻、宝石などの展示会が行われていた。
さすがに作者や主催者こそ違いはあるものの、時期や期間も全く同じなのだ。
まぁ、正直どちらの展覧会でもいいのだが。
「それじゃあ駅に戻るぞ」
そう言って俺は踵を返し、駅へと歩き出す。
が、その俺の腕をガシッと掴む結月。
「ちょっ、おまっ、何しやがんだ」
結月は何も言わずグイグイと俺の腕を引っ張っていく。
こういう時の結月は力強いもので、男の俺をグイグイとものともせず引っ張って歩く。
ホントはこいつ力あるんじゃないかと思わせるほどだ。
しかし、俺が何度も声をかけてもなんの反応もせず、ただ俺の腕を引っ張っていく。
そうしてようやく到着したそこは、その美術館の入口周りの野次馬の中。
そこで先程まで握られていた俺の腕はやっと開放される。が、一度離された妹の手はそのまま俺の手を握る。
「おい、いい加減にしろ。こんなところにいてもしょうがないだろうが」
今一度結月に声をかける。だが聞こえてないのか。結月は答えない。
周りの声に遮られて聞こえていないのかそれとも、単に無視しているだけか。
しかしそこは野次馬の中。あっちこっちからどうしただの面白いだのと騒ぎ立てる連中。正直耳を塞ぎたい。
いつまでもこの状態この状況に晒されるのがいい加減限界だった俺は少々強引な手段を取った。
もはや何も語らずな妹を強引に引っ張ろうとした。まさに先ほどとは逆の立場である。だが、
いくら引っ張ろうとも足に根を張っているのかのごとく一歩たりとも動かせない。
こういう時の結月は実は運動ができるんじゃないかと錯覚させる。
そして妹をここから強引に動かすという手段を諦めたそたその時だった。
「お兄様の活躍・・・見たい・・・。」
小さな声で、だがしかし周りの野次の声があるのにも関わらず、妹の囁く声が不思議なことにはっきりと聞こえた。
しかし、その小さな口から出てきた言葉は耳を疑うには十分だった。
「俺の・・・、?活躍・・・?」
俺は妹の言う意味を理解できず、呆然とする。
結月はそう言うとゆっくりとちょうどその美術館の少し離れたところにあるビルの液晶画面を指差す。
そこには今野次馬となっている美術館が映し出されていた。
「は・・・?」
意味がわからない。つか、あんなところに液晶画面あんのか。野次馬の方ばかりに気がいってたせいか、気付けなかった。
そして、結月が指さした液晶をしばし凝視。そこにはこんなことがアナウンサーによって語られていた。
「私の背後にはるこちらの美術館は先日あの大怪盗メインの犯行予告が届いたそうです。その犯行予告には毎度のごとく何を盗むのか
書かれていないんだそうです。警察の方々や美術館の関係者も不透明な目的に悪戦苦闘しており、未だ動けずただ警戒をしている、
という現状です。
 また、犯行予告時刻は午後の二時。あと一時間ほどの時間があるということです。ですがこれを見てください。
どのようにして、その情報を手に入れたのか、美術館の周りにはすごい人だかりができており、
警備員が必死に抑えている状況です」
液晶画面でニュースキャスターが語っていた内容はだいたいそんなこと。
つまり、このご時世には珍しい怪盗もどきが何かを狙ってこの美術館に犯行予告を寄越したらしい。
しかし、何を盗るのかがその予告では具体的な内容が書かれていないらしく、警察も手を拱いている、ということらしい。
「ま、俺には関係ないな」
しばらく液晶画面を凝視していた俺はあらかた見終わるとその一言で切り捨てる。
元々俺は面倒事は嫌いなのだ。何が悲しくてこんな大騒動の中に首を突っ込まなくてはならないのか。
しかも、結月がその騒動に俺を巻き込む主な理由は俺の活躍が見たいんだとか。この妹の考えることはわからん。
早々に立ち去りたい俺はどうにかしてその場を離れようとするが一向に妹が動いてくれない。まさにテコでも動かない、というやつだ。
そんな時であった。
「あっ!もしかして月架くんかい?いやーよかったよかったっ!」
俺がもっとも恐れていたことが起こった。
ちょうど美術館正面玄関入り口から俺たちを見かけて走ってくる警官が一人。
おそらく、警備を任されているのだろう。そんな人間が野次馬の中を走ってくる。
「まさか君がいるとは思わなかったよ。でも、これで安心だねっ」
と、既に解決が決まったかのように安心した口調言う。
「いえ、別にそんなつもりじゃ。偶然通りかかっただけですよ。うちの妹がどうしてもというんで」
と、変に本音を語らないよう当たり障りのない返事を返す。
「なるほど。まぁニュースでも出ちゃってるし人が来るのは必然ですからね」
その警官は先ほど月架が見ていた液晶画面をちらりと見やる。
「あ、それはともかく来てくください。君に助けてもらいたいんですよ。この前の事件みたいに解決してください」
と、意味深な事を言う。が、もはやこのセリフは警官であることを自覚していないのがよくわかる。普段こんなこと民間人、
ましてや一学生に言うこと自体大問題である。
「嫌だ、といっても連れてくんでしょう?」
半ば諦めたように言う俺。
「もちろん、君の活躍は警察内ではかなり有名だからね」
この警官は以前偶然にも銀行の強盗現場にいた俺(月架)の活躍を知っている。
単なる強盗ではなく、その建物内にいた人間皆殺しにした上自害するという最悪極まりない事件だ。
そんな事件に俺たち(時風兄妹)は巻き込まれた。警察は中の人質に気を取られどうすることもできない間に
犯人含め、全員無傷のまま解決まで導いた。
それ以来、俺はは警察内ではかなりの有名人らしい。
「じゃあ案内しますから。一応変に問題を起こさないように美術展自体は通常業務なので一応一般人でも入れないわけではないです。
ただし、まぁあの人だかりですし、入るのに少々時間がかかるのが欠点ですが」
そう言いながら警官が俺たちを連れて行くその先は正面玄関ではなく裏手にある入り口だった。
「予告時間まであまりないので特別にこちらからお願いしますね」
そのまま俺が何か言おうとするのを無視してその裏口から中に入る。ある意味不法侵入だろう。
 中に入ると複数の警官があちこちある展示物を二~三人で警備していた。
それもそうだろう、先ほどキャスターが言ったとおり怪盗もどきの狙いが分かっていないのだ、手当たり次第に人を置くしかないのだろう
そしてそこには見慣れた人物がいた。
「お前たちっあれほど関わるなと言っただろうが」
そう、今朝に文句を言ってきた我が父である。しかし俺は悪くない。不可抗力だ。親父の前では口が裂けても言わないが。
「お前か、連れてきたのは」
俺のそばにいた警官をみるや、ため息混じりに言う。
「申し訳ありません警部。ですが、この状況を打破するにはやはり彼しかできないと思ったもので」
ほぼ直角に頭を下げる警官。
「こいつはまだ学生だぞ?確かに以前の事件に巻き込まれたのは仕方ない。だが故意に巻き込ませるのとでは別問題だ」
まったくもって正論だ。
それから、その警官は散々親父に説教された。その間、とてもとても退屈だった俺はその場に立ち尽くしながらもざっとあたりを見渡す。
館内自体に変化はない。展示物にはショーケースに収まっておりとてもじゃないが盗み出せるようには見えない。
絵画系はすべて壁に立てかけるように飾ってあり、その中央にいくつかの彫刻や宝石が等間隔に置かれている。
先ほど警官が言っていたが、普通に美術展は解放されているため一般の客も数多くいる。しかし、怪盗云々もあってかやけに多い。
その展示物を見る、というよりその怪盗見たさに来ている、という方が正しい。というのも展示物ではなくあたりをキョロキョロと見渡している客が多いのだ。傍から見れば挙動不審だ。
「ん?」
そこで俺は不思議な、もとい不審な人間を見かけた。
しきりに天井や床に視線を送り、時には展示物、特に宝石系の展示物を注意深く見る女性。
その姿は帽子を深くかぶっているせいか顔までは確認できないが背丈から察するにそこそこの高身長なのだろう。ハイヒールも履いている。
その女性はそのまま区分けされた部屋ヘと進んで行ってしまった。
俺はその女性の後を目で追うことしばし。
「なぁ、親父」
すぐそばで何かを考えていた親父に声をかける」
「なんだ」
ぶっきらぼうな、それでいて少々だるそうに親父がこちらへと振り向く。
「あの先には何が展示されてんだ?」
“あの先”というのは追先ほどあちこちに視線を送っていた女性が向かっていた区画のことだ。
「あー、そっちはちょっと珍しい宝石が展示されてある」
「ちょっと珍しい宝石?」
「そうだ。聞いたことくらいはあるだろ?『クロスダイアモンド』ってやつを」
クロスダイアモンド――それはどこぞの発掘現場でごくまれに出てくる天然ダイアモンドと言われている。が、単なるダイアモンドならそこそこの価値にしかならない。その上、単なる天然ダイアモンド程度ならばおそらく展示までは行かないだろう。
だが、このダイアモンドはどうやらプリズムと同じように光の分散。屈折、全反射が起こるという。それもプリズムの何倍の量。それが人々の目にクロス(交差)して見えることから“クロスダイアモンド”と呼ばれている。
「で?そのクロスダイアモンドがこんなところにあるのは?」
「別に珍しいものでもないと思うが?なんでもこの展示会を開催した人間、つまり主催者が自慢がてらに展示してみんなにクロスダイアモンドの美しさを知ってもらいたいんだそうだ。だからこそ、こうやってわざわざ区画を別にして警備もつけて展示してるってわけだ」
その割に、警備が手薄な気もするけどな。
とは口が裂けても言わない。
つまるところ、民間人にも見てもらいたくてこの展示会を開催したということか。
ちらりと時計を見れば件の怪盗の予告まで残り十五分弱。俺が怪盗ならその準備に・・・・。そう思った時にはっとなる。
しまった!!
俺は慌ててその区画を見やる。
そこには数人の客が出入りしているだけで何かがあるようには到底見えない。
「お兄様?」
俺の先程までの感じとは違っていきなりの慌てぶりに不思議そうにする結月。
が、そんな妹の様子など気にしている余裕は今の俺になかった。
一目散にその区画まで走り寄る。
それをこれまた不思議そうな表情を残しつつ何も言わずついてくる結月。
 区画内には今のところ変わったところはなく、区画の外とは違いその輝きを強調するかのようにやや暗めな演出がなされている。
そしてその中央には青白くクロスダイアモンドが光り輝いていた。もっと言えば、その輝きを強調するかのようにいくつかの小さな照明が中央にあるクロスダイアモンドへと注がれている。
随分な強調のされように苦笑を浮かべる。
それから再び親父の元へと走って戻る。
「なぁ親父っ」
「なんだ騒々しい。いくら警戒中とはいえもう少し静かにしろ。こうしてお前がこの事件に関われること自体異例なんだからな」
やや鬱陶しいような厄介払いするように俺にそんな事を言う親父。
「はいはい。それより、その怪盗が出したっていう予告状、俺にも見せてくれないか?どうせここまで来たんだし隠す必要もないだろ?」
「わかってるよ。いま用意させる」
どうやらそのへんはわかっているらしく、親父は主催者らしき人物のところまで行って小さな封筒をもらってくる。
「ほれ、こいつだ。後で返せよ」
そう言うと俺にそれを手渡す。この時点で既に予告時間まで残り五分を切っている。
俺は手早く封筒からその予告状を取り出す。
そこには――
 翌、明かり照らしたる眩き太陽の元、二時間後に参上。
光り輝きたる青白き心の蜘蛛の巣を奪いに参る。
                 怪盗メイン

と、書かれていた。
「親父、これよく時間わかったな」
ぱっと見たところ、今日の午後二時だとは誰が見てもわかるまい。
「それだがな、今朝ようやくわかったんだ。昨日からその道の暗号解読の専門家に解読してもらってな」
なるほど。それで慌ててここに来たというわけか。
「だが、奴が何を狙ってんだかそれが専門家でも解読できなくてな。とりあえず手当たり次第に警備させるしかなかった」
そういって、だいぶ困ったようにため息をこぼす親父。
「光り輝きたるって時点で宝石なのはわかったんだが」
「あとは俺がやる。時間もねぇ」
俺は親父にそれだけを言うと返事も待たずに走り出す。ときは既に三分切った。
「お、おいっ!勝手なことすんじゃねぇぞ!」
背後から親父の怒声が聞こえた気がするが気にしている余裕もない。
おそらく怪盗が狙ってんのはあの宝石だろう。既に仕掛けは済んでいるはず。作動させる前にこっちから動かねぇと。
そして例の区画に入ると俺はあたりを見渡す。ちょうどその時だった。
そこかしこで何かが爆発する音がけたたましく響く。
「ちっ!遅かったか」
おそらく仕掛けを作動させたのだろう。所々で客たちが慌てふためいて走り回る音が聞こえてくる。
だが、俺の目の前には“それ”はまだある。こうなれば仕方ない。
俺は手短にあったポールを手に取ると、ダイアモンドのショウケースに振り下ろしてケースを破壊する。
ポケットからハンカチを取り出しダイアモンドを拾うとそのままポケットへ忍ばせ、それから再びあたり見渡す。
「兄様?何を?」
さすがの結月も俺の行動を不審に思ったのだろう。
「大丈夫だ。問題ない。やつの狙いはこのクロスダイアモンドだよ。そうだろ?世間を賑わす大怪盗――メインさんよ」
そして俺はそこにいるであろう人物に呼びかける。
「あらやだ。どうしてわかったのかしら。坊や?少なくとも警察の人たちにはわかってなかったというのに」
そこにはだいぶ露出の多い派手な服を身につけた女性が立っていた。
「あんなの考えればすぐにわかることだ。少なくとも俺は、な」
「ふぅん。意外とできるのね坊や。あの予告状でどうやってこのクロスダイアモンドが狙いだとわかったのかしら?」
その表情は確認することができない。仮面のようなもので顔全体を覆っている。が、声の抑揚からして楽しんでいるようにも思えた。
「光り輝きたる青白き心の蜘蛛の巣。確かに言い得て妙だな。だが、面白い表現なのは確かだ」
「あら、それはそのままじゃない。まさかそれだけでこのダイアモンドだとわかったの?」
時折小さく笑う声がする。少なくとも切羽詰っている様子はない。
「ああ。蜘蛛の巣もクロスダイアモンドも見方によっては似たようなもんだしな。加えて光り輝きたるときてる。青白く光る蜘蛛の巣。そして宝石。
この建物の中で青白く光る雲の巣のような交わる宝石といえば、クロスダイアモンド以外ない」
「大した観察力ね。いつわかったの?」
「さっきだ」
「え?」
俺のその一言にさすがの怪盗メインも驚きを隠せないようだった。
「さっきってついさっき?」
仮面からはその表情を推し量ることはできないが先程までの余裕綽々という雰囲気がわずかになくなっていたように思える。
「さっきだよ。というか、あんたからの予告状を見たのだって予告時間五分前だしな」
「よくもそんな嘘を言えたものね。私が送ったのは昨日よ?見る機会なんて・・・・・・」
そこでメインは口を閉ざす。どうやら気づいてなかった“俺の状態”に今ようやく気づいたらしい。
「あなた“何者”・・・・?」
やっと警戒するに至ったらしい。
「何者も何も、単なる学生だよ。といってもこっちに越してきたばかりのね」
俺のその回答にさらに驚くメイン。
「単なる学生って、その単なる学生がこんなことに関われる訳ないじゃないっ」
そう、確かに単なる学生ならこういうことに関われるはずはない。
「ところがどっこい。現に関わってる。どういうわけかね。まぁ不本意にも巻き込まれたわけなんだわ。その巻き込まれついでにあんたを捕まえるよう言われてんだわ」
「なるほど。でもね坊や。そう簡単に捕まるわけにいかないの」
俺の正体を知ってか先ほどの余裕が少しずつ出てきているよう。そしてその足取りはすこしずつある場所へと動く。
「逃げるつもりなら無駄だぜ。あんたのその足元の発煙筒は使い物にならんぜ」
「え?」
相手の動きが止まったその一瞬の隙を突いてメインが逃走用に使おうとしていた発煙筒を蹴る。
「ちっ、小賢しい真似をしてくれるわねっ」
無論、その発煙筒が使えないというのは真っ赤な嘘である。あの短時間でそこまでは流石の俺でもできなかった。
「それにしてもどうして発炎筒が置いてあるってわかるの?」
「そいつは愚問だな?つい数時間前にしきりに天井と床にそれもやけに熱心に視線を送ってたじゃないか」
俺はそこでニヤリと笑みをこぼす。
「おおかた、その発煙筒で煙探知機に誤報させてその間に逃げようって魂胆だったんだろ?そのためにその煙探知機の位置を調べていた。そしてさっきの爆音と関連づかせるために」
ちなみに、先ほどなっていた爆音はおそらく彼女が設置したラジカセか何かによる音声的なものだろう。実際には爆発など起こっていない。
「全部お見通しってわけね」
流石のメインも困ったような素振りを見せる。
「よくもまぁそんな短期間でそこまでできるわね。あなた本当に単なる学生なの?ふふっ、ちょっと興味が沸いちゃった。あなた名前は?」
とても可笑しそうに笑うメイン。
「時風月架。さてそろそろお縄についてもらおうか?」
俺は逃げ道、逃走手段のなくなった彼女ににじり寄る。
そうこうしてる間に、先ほどとはまた別の意味でバタバタと周りが騒々しくなる。おそらくはついさっき鳴った爆音が偽物だと気づいたのだろう。ここに警察が入ってくるのも時間の問題だ。
「あらやだ、せっかくの計画があなたのせいで台無しだわ」
そしてまた困ったようにため息をつく。だがその声は困ったような感じはない。むしろこの状況下でも楽しんでいるようだった。
「その台無しついでに捕まってくれや」
と、一歩前に出る俺。
「それは嫌よ」
そう答えるメインには最初と同じような余裕が戻っていた。
「ここで問題です。なんでもお見通しな単なる学生の時風月架クン。これもお見通しかしら?」
そう楽しそうな声で彼女は服の中に隠していたであろう煙玉をおもむろに地面に叩きつける。
「しまっ!?」
瞬く間に視界が白い霧に包まれる。
迂闊だった。まさか自分で持っていた発煙筒を使ってくるとは。考えなかったわけじゃないがあまりにも単純だっただけに失念していた。
「また逢いましょう?坊や?また、近いうちに・・・」
そう怪盗メインが言い残す。徐々に足音が遠ざかる。追うことができないのが悔しいが動けないので仕方ない。むやに白い霧の中を動くのは得策ではない。
そして、煙を探知して煙探知機けたたましく鳴り響く。その音を聞いて警察が入り込む。怪盗の足音とは違う複数の人間の足音が徐々に大きくなる。
「おいっ月架!大丈夫かっ!!」
いち早く区画に入ってきたのは俺の親父だった。
振り回されてた割に意外とお早いご到着だった。
が、未だ煙玉の霧が晴れておらず、親父の探している必死な声だけが酷く煩く聞こえる。
「いるよ、すぐ近くに。そしてやられた。逃げられたよ」
ひとまずは安心の買うべく声をかける。ちなみに結月は怪盗と対峙してる間ずっと俺の裾を握ったままだった。なので引っ張られる感覚だけで何とも言えないがおそらくはそこにいるだろう。
「今はそれどころじゃない。お前がいるってことがわかればいい。怪我はないか?」
さすが父親、そのへん心配すんのは当たり前か。それには問題ないの一言を返答。
「そうか。で、一つ聞きたい」
少しずつモヤが晴れる。僅かではあるが親父の輪郭が見えてくる。そして後ろを振り向けば妹の輪郭も見える。ちゃんとそこにいたらしい。
「俺の足元にあるであろうガラスはなんだ?怪盗の仕業か?まさか怪盗が狙ってたのはそこにあったクロスダイアモンドなのか?」
そう、それはまさしくクロスダイアモンドを飾るのに使われていたショウケースのガラスだ。せっかくとっ捕まえる直前までやったんだ。ここは相手に罪をなすりつけておくか。意味不明な自己解釈してから口を開く。
「そうだよ。そのところで俺に見つかってな。向こうが動く前に俺がクロスダイアモンドを回収した。ちゃんとハンカチに包んであるから指紋一つない。んで、不利と見て煙玉で逃げた」
「そうか。てっきりおめぇがやったんじゃないかと思ったがそうでないならいい。ならこの霧が晴れたら一応主催者に渡しておけ。事情は俺から説明しとく」
こういう時だけ割と勘の鋭い親父。そのセリフに苦笑が漏れるが霧のおかげでばれずに済んだ。
そうしてその霧も晴れてくると、そこにいる親父と妹をこの目で確認。それから主催者に怪盗から盗られそうになったクロスダイアモンドを返す。
「よくわかったな。あの予告状にはそんなこと書いてないぞ?そもそも専門家ですら解読できなかったんだからな」
「なんとなくだよ。説明は面倒だから割愛」
そうして、怪盗の事件は幕を閉じる。しかし、それを目撃していたのが一名。
「いやー、いいもの撮れたわ。時風月架くんか。そういえばこっちに越してきたとか言ってたわね。うちの学園だといいな。なんにしてもこれはネタとしては最高だわ。くくくっ、彼がうちの学園に転校することを祈って記事をかいちゃお♪」
そう笑いを殺しながら美術館を後にした。 
 

 
後書き
こんな感じでいかがでしょう?

国語力余りに足りないのでいろいろ誤字脱字その他間違い等々見受けられると思います。
そうならないように頑張って書いたつもりです。
見つけたらご報告していただけると助かります。
修正していきたいと思います。

まだまだ序盤です。このあとから少しずつタイトルと意味がつながってきます。

過度な期待はしないでください。

 
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