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銀色ランプの精は魔法が使えないっ!?

作者:闇玲
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~プロローグ~嵐の前兆に誰も気づかない・・・。前編

 ──某月某日──
 この俺、時風月架(ときかぜげっか)は引越の用意に明け暮れていた。
というのも、俺の両親──主に親父の方──の理由で引越する羽目になってしまったからだ。
 俺の親父は警察署で警部をやっているのだが、ここ最近の頑張りが認められたらしく警察の本社とも言うべき、警視庁への異動が上から指示されたのだ。
そのため家族揃って引越することになったのだ。
母もその件に関しては、反対意見はしなかった。パートなのだが問題ないと笑顔で答えてくれた。
そして俺はというと、別段困ることなどなくそもそも断る理由が一切無いため、親父について行くと、二つ返事で了承。
だが、約一名返事を渋るのがいた。それが、俺の妹である時風結月(ときかぜゆづき)だ。
「お兄様はほんとに良いのですか?今まで一緒だった友人と別れることになるのですよ?」
と、半ば俺を説得させるような口振りで俺に考え直すように言う。つまり、結月は仲良くなった友と別れたくないようだ。
「ならお前は残ればいいだろ?何も無理して親父にくっ付いてくる必要はない」
ごく当たり前ともいえる正論を翳す。妹はそれを聞くや、小さな声で唸る。
何を考える必要がある、と問いただしたところ、こんな回答が返ってきた。
「お兄様を取るか友人を取るか、悩んでいるのです・・・」
本当に困ったように眉間にシワを寄せながらそう答えた。 
それを聞いて思い出したのだ。この妹は極度のブラコン、つまり兄であるこの俺を溺愛し尊敬しているのだと。
基本的に結月は俺がらみで悩むと延々と悩み続ける。俺が助け船を出してやらない限りずっと。
そしてその俺が助け船出さなくてはならないのにはさらに理由がある。
それは結月が俺以外の人間の言うことを一切聞こうとしないからだ。ある意味完全なダメ人間である。
仕方ないし、いつまでもここでグダグダしてると親父がしびれ切らして強制的に置いていく可能性が出て来くる。
そうなればまたややこしい事になるのは必定。俺は小さくため息を零すと毎度お馴染みの皮肉っぽい意地悪な解答をしてやった。
「そんなにお友達と離れたくなけりゃ残ればいいんじゃないか?
頼めば母さんも一緒に残ってくれるかも知れないぞ?お前を一人にできないしな」
こう言えば、結月が折れる。 結月は『お兄様は意地悪ですわ』と小さく愚痴ったあと、『だったらお兄様と一緒に行きます』と渋々とした口調でそう答えた。
「まとまったみたいだな。それじゃあ出来る限り明日には業者に荷物運んでもらうから用意しておきなさい」
と、親父が話をまとめて各自引越の準備をすることになった。
 そして翌朝。
 俺は基本的に早朝の4時に起きるようにしている。それはというと、俺は探偵に憧れなんぞを抱いている。ただ、推理するのに憧れているわけではなく、ありとあらゆる物事に動じず、冷静に対応するその力量と判断力、
おそらく、学校などではなかなか学ぶことのできない事を習得しているからである。
そして俺もそれらを習得すべく独学で調べていろいろやっている。その一巻として朝のトレーニングなのだ。
小さくあくびしたあと、洗面所で顔を洗い、トレーニングにいつも使うウィンドウブレーカーを身に纏う。
それから静かに家を出る。何せまだ早朝の4時なのだ。家族は皆、寝ている。
ルートはこの家からこの街の駅までの一直線を二往復。約二時間ほどである。
だがしかし、今日はそのトレーニングがある意味最後ではある。それからしばらくランニングをして来たあと時間を見て帰宅。
そのまま筋肉トレーニングに入る。腕立て伏せ、腹筋、背筋、スクワット。などをそれぞれ20回を3セット。
これを今までも毎朝続けてきたのだ。体力や持久力はあらゆるところで必要不可欠なものだからだ。
それらのトレーニングが終わると、シャワーを浴びて汗を流し、いつもなら制服に着替えるところだがまだ春休みは終わっていないのでその必要はない。そのため、 適当な私服を選んで着替える。
そこでようやくダイニングに向かう。流石に朝の七時ともなれば皆起きてきている。
すでに朝食がテーブルの上に並べられており、妹の結月や親父は席に座っていた。
母さんが未だ台所で忙しく動き回っていた。
「お前もよくやるよ」
月架の姿を見やるなり、開口一番にため息混じりにそんなことを愚痴る親父。
「いいだろ別に。俺の好きでやってるんだからな。親父にとやかく言われる筋合いはない」
と、やや語気強めに言い放つ。
「別に構わん。体力作りは今のうちにしておくということに関してだけはな」
 そう親父が意味深な事を言う。
 というのも、俺が探偵稼業に興味を持ち、それに憧れ、なろうとしていることに非常に快く思っていないのだ。
「いいじゃないですか。お兄様が好きにやっていることなんですし」
 と、妹の結月がなんとも頼りないフォローをする。
「それでこっちの仕事邪魔されちゃあ困る」
 そう、どういう因果か、偶然親父が捜査している案件に月架が巻き込まれ、その巻き込まれがてら、事件を月架解決してしまった。
 そんなことが何度かあった。
 その話は警察署内でも話題になっているのだと親父は以前愚痴っていた。
 かくいう俺もちょっとした実力を試す感覚でやっている。
「あまり警察のやることにちょっかい出すなよ?変な噂が流れては俺もやりづらい」
と、釘を刺すようにして言う親父。
「と、言われてもな。(こいつ)同伴じゃ俺にもどうもならねぇんだわ」
結月がトラブルメーカーだということに気づいたのはつい最近のこと。
俺の母もやれば出来る子だと説明していたがどうにも頭のネジが数本緩んでいるらしく、出来る子という割にちょくちょくドジる。
別にそういうミスはままあるため問題ではないのだが、
どういうわけか、俺が傍にいる限定でやらかす頻度が異常に増えるので始末に負えない。
「それをフォローするのが兄の義務というもんだろう?」
当たり前とばかりに親父がそんなことを言う。いちいち妹の面倒など見ようものならこっちの身が持たない。
それは結月がトラブルメーカーだと気づいたときに嫌というほど経験してわかった。
「まぁいい。お前たちが問題を起こして俺たちの仕事を増やすことだけはしないでくれ」
結局のところはそうなるわけで。
「で?引越し屋はいつく来るの?」
面倒な話題を打ち切り、本題を切り出す。いつから読んでいたのか、親父のその手には顔を覆うように新聞が大きく広げられていた。
「一応午前中、ということになっている。が、俺もいろいろ手続きがあるのでな。後のことは妻に任せている。だがまぁ、お前たちに出来ることなんて大したことはないだろ。遅くても午後までには荷物を運んでもらう。電化製品の多くは新しく買ってあるからな。こっちにあるもんはすべてリサイクルに回す。あとはお前たちの荷物だけだ。先にむこうに行くもよし、こっちで別れを惜しむもよしだ、好きにしなさい」
 そう言って、親父は新聞を綺麗にたたむとおもむろに立ち上がる。それから二、三言、台所にいる母さんに何かを言ってからバック片手に玄関へと歩き出した。
親父との会話ですっかり止まっていた箸をようやく動かして俺も冷めつつある朝食に手を伸ばす。
隣には既に綺麗に食べ終わった妹の食器だけが残されていた。どうやら俺と親父の会話の間に済ませてしまったらしい。
母さんも台所のほうが終わったのか、こちらへやってきて向かいの席に腰を降ろす。
「それで月架?あなたはどうするの?」
母さんもようやく朝食をとり始める。箸を静かに動かしながら俺にそんなことを問い掛ける。
「どうっていわれてもな。別段俺にやれることなんてないし。結月はなんて?」
おそらく、結月は母さんのところに言ってるはず。あれでも気の利くやつだ。手伝いがてら何か話していてもおかしくはない。
「ゆづちゃんのほうはあなたと一緒がいい、だって。どうあってもあなたと離れたくないみたいね。強いて言えば引越し先の近くで美術展があるからできたらそこに行きたいって言ってたわ」
うちの母さんは妹の結月を「ゆづちゃん」と呼んでいる。別に大した意味はないんだとか。
ただ、そう呼ぶほうが可愛いとかなんとか。俺からすればすごくどうでもいいことだが。
「あっそ。まぁ別にやることもないし妹のわがままに付き合わされるのには慣れてるし」
「素直じゃないんだから。暇だから行ってくる、って言えば早いのに」
なんて小さく微笑してそんな事を言う。
「うっせ」
そして俺は小さくそんな反論しかできない。
「じゃあお昼はどうする?」
もうすでに昼ご飯のことを考えている母さん。
「どうせこれからすぐに行くだろうし、向こうで済ませるよ。持てるだけの荷物持ってもうあっちに切り替えるわ」
「そ、じゃあ母さんも後片付けとか終わらせてから行くわ。多分夕方前には行けると思うから」
了解という風にうなづいてから残りのご飯を手早く平らげると箸を置いて立ち上がる。
それから洗面に寄って、妹の部屋に向かう。どうせもう用意などとっくに済ませているはず。
 この辺の行動力の良さは恐ろしいものである。
「待ってましたわお兄様」
 こちらもあらかた用意を済ませてから妹の部屋の前でノックすると、案の定すでに荷物を整えてあり、あとは俺の一声を聞くだけとなっていた。
「ほんと、お前は恐ろしいよ」
 と、苦笑を浮かべて我が妹を見やる。
「当然ですわ。この程度のこと、出来て当たり前ですもの」
 と、胸を張る我が妹。が、これができるのは俺が絡んでいるとき限定なのだから不思議である。
「それでは参りましょう?お兄様?」
 そう言って俺の腕をとり歩き出す。

 ――この時、俺たちはまだ知らない。このあとのとんでもな展開が待ち受けていることを――
 
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