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母の怪我

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第四章


第四章

「周りも同じこと言ってるのかよ」
「最近よく言われるのよ」
 こう彼に答えた。
「何でかね」
「っていうか御前何か引き締まったし」
「そうかしら」
「雰囲気がな。何かこうな」
 具体的に手をあれこれと動かす。それは何処か陶器を作る時のそれに似ている。
「引き締まってな。顔なんかな」
「引き締まったっていうの?」
「表情がよくなったんだよ」
 これが彼の言葉だった。
「きりっとしてな。しかも目の光も強くなったし」
「それ言われたことあるけれど」
「メイクとか明るくしたわけじゃないよな」 
 会社の同僚のOL達と同じことを言ってきた。
「別にそういうのじゃないよな」
「メイクは今まで通りよ」
 彼にもこのことを話した。
「変えるつもりもないし」
「それでそんなに変わったのかよ」
「スポーツはじめたわけでもエステしてるわけでもないし」
 そうしたことはしていない。お金も時間もないのでそんなことをしている余裕がないということもある。何しろ今は会社の仕事と家の仕事でてんてこまいなのだから。
「習い事もしてないし」
「じゃあ何でなんだ?」
「さあ」
 問われても首を傾げるばかりだ。
「強いて言うならね」
「何かあるんだな?やっぱり」
「多分違うと思うけれどうちのお母さん怪我して入院してるじゃない」
 このことはもう彼にも話している。それで彼も何度か見舞いに行っている。外見はちゃらちゃらとしているところがあるが意外としっかりしているのである。
「それで私が家事やって」
「それで?」
「そのせいで毎日疲れてるからよく寝れるの」
 考えながら述べた言葉だった。
「寝る時間は短くなったけれど眠りは深くなったわね」
「それか?」
 靖久は彼女の言葉を聞いてそれかと考えた。
「それのせいか?」
「そうじゃないかしら」
 まだ首を傾げている美佳だった。
「よくわからないけれど」
「まあ寝るのっていいことだよな」
 靖久はそのことはいいことだとした。
「それってよ。まあよ」
「何?」
「奇麗になったのはいいことだよ」
 彼は素直にこのことを喜んでいた。
「俺だってな。彼女が奇麗だったら」
「いいのね」
「美人が彼女で嬉しくない奴なんていねえよ」
 これはその通りだった。やはり彼女がいればその彼女が美人であれば尚更いい。人間とはそういうものなのである。
「だからな」
「美人になってよかったのね、私が」
「ああ。それじゃあな」
 ここで自分が飲んでいるお茶を飲み終えて立ち上がった靖久だった。そのうえで美佳に顔を向けて言ってきた。
「次何処行くんだ?」
「ジェットコースターがいいかしら」
「あれさっき乗っただろ?」
「それじゃあお化け屋敷行く?」
 少し考えてから彼に述べた。
「あそこまだ行ってないわよね」
「そうだったよな。じゃあお化け屋敷な」
「ええ」
 靖久の言葉に頷いて応える。
「じゃあ行きましょう。今からね」
「行こうぜ。楽しくな」
「うん」
 この日はこうして楽しく二人で過ごした。その次の日その喜びを残した顔で明るい顔で母の見舞いに行くと。いきなりこう言われたのであった。
 
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