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不老不死の暴君

作者:kuraisu
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第五十四話 船旅

ソトートスに来ていた旅商人ヘブライ達から武器を購入した翌日。
セア達はダルマスカの港町サマルス行きのガレオン船に乗り込んだ。
船はかなり広く、個室まで用意されている。
そしてメインマストに掲げられている旗は2つ。
ひとつはこの船を所有しているバート交通公社の社旗。
もうひとつはバート交通公社が所属するアルケイディア帝国の国旗だ。

「出航だ!帆を広げろッ!!」

船長のその声と共に帆が張られ、船はソトートスの港から離れ始めた。

「なぁ、セア」
「ん?」

ヴァンの声にセアは振り向いた。

「乗り物酔いは大丈夫なのか?」
「飛空挺が駄目なだけだ。俺が操縦するなら話はまた別なんだが……」

セアの答えにヴァンはとある疑問を持った。

「なんで船は大丈夫なのに飛空挺だと酔うのんだ?」

イヴァリースでは船酔いする人は大抵飛空挺に乗っても酔う。
どちらか片方でしか乗り物酔いしない人間など稀だ。

「船は昔から乗ってたから大丈夫なんだが、飛空挺は……最近できたものだろ」
「最近って……飛空挺は数世紀前にモーグリ族の機工師が発明したものだからかなり前だろ」

セアの答えにヴァンはやや呆れながら言った。
その様子にセアは唇の端を僅かに歪める。

「流石空賊を目指してるだけあって飛空挺に関する知識だけは豊富だな」
「だけは余計だって」
「じゃあ他にどんな知識を持ってるんだお前は?」

セアは純粋に疑問に思って聞いた。
するとヴァンは

「あーうー」

あまりに難易度の高い問いにヴァンは言葉にならない声をあげていた。
セアはその様子に呆れて意味もなく船内を歩く。
するとバッシュの姿が見えた。

「帝国兵も乗り込んでるな」

バッシュが船に乗っている帝国兵数十人を視界に収めながら言う。

「そういえばどこかでバート交通公社は帝国軍と契約結んでいて資金援助と引き換えに部隊の一部を護衛として使っているって話を聞いたな」

バート交通公社はアルケイディア帝国領や友好国の都市間を飛空挺や船で繋ぐ帝国最大の交通会社だ。
一応、聖ヲルバ騎士団国やビュエルバといった中立国にもこの会社は進出している。
事実イヴァリースの東半分でこの交通会社に頼っていけない場所はないといっても過言ではない。
更に各都市にあるターミナルもこの会社が運営している。
帝国の艦隊の停泊も請け負っている為、会社の収入はかなり高いのだという。

「正直、俺はソトートスから直接アルケイディア帝国本国領のバーフォンハイムに行ってもよかったと思うだけどな」
「あの港町は本国領とはいえ、自治都市だ。バーフォンハイムにロザリアから密偵が送り込まれていても干渉できないから当然アルケイディアはバーフォンハムから出る人間を警戒しているだろう」
「バーフォンハイムには何度か行ったことがあるがあそこの人間が帝都の人間に従順とは思えないがな」
「ならば余計警戒しているだろう」

セアはバッシュの言葉に思うところがあった。
バーフォンハイムはアルケイディア帝国本国領南東端にある港町だ。
ならばバーフォンハイムから東へ行って本国領を出、北上した後、西へゆけば本国領に入れる。
そうセアは考えて提案していたがアーシェやバッシュやバルフレアの慎重さかからこの提案は却下された。
セアはそれに対して文句を言う気はないが自分の考えが間違っているとは思えないのだ。
なぜならバーフォンハイムには2年前に帝国に雇われて傭兵としてナブラディアで暴れていた時に出会ったあの男がいる。
あの男は帝都の人間にも顔が利くのでバーフォンハイムに確固たる自治権を確立していることだろう。
だから大丈夫だとは思うのだが無用な軋轢を生んでも仕方ないので黙りこむ。
なんとなしに海をみると小さな船影が見えた。

「なんだ、あの船?」

セアの言葉にバッシュも目を細めて海の果てを睨む。
小さくてよくわからないがどうも軍船――いや、武装商船のようだった。



船長室に一人の船乗りが駆け込む。
そして息を切らしながら船長と水軍士官に報告した。

「船長、不審船が一隻こちらに接近してきます」

その報告を聞いて船長は飲んでいたワインのグラスを机の上に置く。

「旗は掲げているのか?」
「ええ、紋章官によるとシーランド公国の紋章だそうです」

船乗りの報告に水軍士官が眉を潜める。

「シーランドだと?」

シーランドはバレンディア大陸の北東に位置する島国である。
国土全域がヤクトで海に囲まれている為、国外に出るには船を用いるしかない。
そういう理由から優れた造船技術を持っており強力な海軍も持っている。
事実、48年前のアルケイディア帝国との戦争で勝利したことさえある。
数的は圧倒的優位にあった筈であるにも関わらず敗北したこの戦いは帝国水軍に対する嘲りとしてよく使われている。
シーランドの名前を聞いた水軍士官が胸中に複雑な思いを抱くのも致し方ないことだろう。

「それで?どこが不審なんだ?」

水軍士官は不機嫌そうに問う。

「武装商船のようですがこちらに気づいた途端に進路を変えてきたので……」

この報告を聞いて水軍士官と船長は顔を見合わせる。
現在この船はヤクトの領域にいるのだ。
シーランドの武装商船が海賊の類の可能性が高い。

「船長、念のため救援信号の用意を。それと客員に個室に戻るよう伝えてください。私は部下達を配置につけます」
「あ、ああ、わかった」

船長は震えながら頷くと水軍士官は暗い笑みを浮かべながら船長室から出て行った。



一方、シーランドの旗を掲げた武装商船。
そこには全く統一性のない武器を持った男たちが乗っていた。
彼らからは潮の匂いとむせ返るような血の匂いを纏っている。

「船長、バートの客船を襲っちまって大丈夫なんですかい?」

一人の男が船長に震えながら尋ねる。
すると船長はその男にらみつけて言った。

「なんだ貴様、恐いのか?」
「い、いえ。そういうわけでは……」
「だったらおとなしくしていろ!!」
「へ、へい」

男は逃げるようにして船長の傍から離れた。

「お前は相変わらず容赦ないな」

船長の横にいた男が抑揚のない声で言った。
その男の言葉に船長は頭を抱える。

「ギャンス、俺はお前の方がよっぽど容赦がないと思う」

船長は半ば呆れ、半ば恐怖の声でギャンスに言った。

「そうか?」

ギャンスは首を傾げた。
その様子を見て船長はかつての親友に対して恐怖と寂しさを感じた。
船長もギャンスも元はシーランドの海軍士官で心通わせる親友だった。
ある日の海の魔物退治に突然ギャンスが突然新兵達を海の底に放り投げたのだ。
魔物に食われていく新兵を見ながら狂ったように笑い出したのである。
当然、ギャンスは軍法会議にかけられて監獄に入れられた。
それが切欠で周りからギャンスの親友ということで白眼視されて自分も軍を辞め、商船の護衛の仕事をするようになった。
それから数ヵ月後の航海中に再びギャンスが現れて武装商船に乗っていた人間を血祭りにあげた。
そして返り血を存分に浴びたギャンスは自分にこう言ったのである。

「一緒に海賊しないか?」

ギャンスへの恐怖から自分は頷いた。
船長はその時の自分の決断が間違っていないとはかけらも思わない。
海賊になったからギャンスが理解不能な殺戮をしているところは見たことがない。
しかし船長には時折、ギャンスが人ではないなにか見えるのである。
どうしてこうなったのだろうと思いながら船長は首飾りを弄っているギャンスを眺める。
ギャンスの首飾りは朱色の宝石ついており、その宝石には巨蟹宮の紋章が刻まれていた。  
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