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ケロイド

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第五章

「どうだよ」
「なくなったな」
「ああ、完全にな」
「結局何もないまま終わったな」
「だから普通はこうなるんだよ」
「只の火傷跡で何もなくか」
「そうだよ、普通はな」
 ほぼ百パーセントそうなるとういうのだ。
「何もないまま終わるんだよ」
「そういうものなんだな」
「そうだよ、じゃあこの話はこれで終わりだからな」
「何もなかったってことでだな」
「そうだよ、ただな」
「ただ?何だよ」
「この前に話しただろ、合コンな」
 広樹がここで言うのはこれのことだった。
「それのことな」
「合コンな」
「本気で考えないか?俺達もいい歳だしな」
「だよな、このまま何もしないとな」
 克幸もだ、腕を組み真剣な顔になって述べる。
「本当にな」
「一生独身だぜ」
「しがないアパート暮らしのままか」
「アパートでも一人でいるより二人だろ」
「ああ、それが三人四人になれば余計にいいな」
 家族が増える理由は言うまでもない。
「それならな」
「そうだろ、だからな」
「相手を探すべきだよな」
「絶対にな、じゃあいいな」
「それじゃあな、合コンな」
 二人でこうした話をした、そしてそこにだった。
 監督が来てだ、こう二人に言ってきた。
「おい、タイムカードは押したか?」
「はい、押しました」
「そっちはもう」
「そうか、じゃあすぐに着替えてくれ」
 そうしてくれというのだ、二人に。
「いいな」
「わかりました、それで車に乗ってですね」
「今日の現場にですね」
「行くぞ」
 監督は明るい笑顔で二人に言う。
「今日も明るく安全に仕事をするからな」
「ですね、安全第一で」
「それでいきましょう」
「それじゃあな、後な」
「後?」
「後っていいますと」
「御前等今度の日曜の午後空けておけよ」
 時間と自分自身をだというのだ。
「いいな」
「日曜の午後ですか」
「何かあるんですか」
「俺の姪二人が今相手がいないんだよ」
 随分と率直な言葉だった。
「だからな、御前等を合わせてやるからな」
「可愛い娘ならいいですけれど」
「そのことは」
「可愛いだけじゃなくて性格もいいからな」
 その二つは安心していいというのだ、尚監督は嘘は言わない性格だ。このことは二人も付き合いからよく知っている。
「だからな」
「それでか」
「ああ、安心しろよ」
 こう言うのだった、二人に。
「それでお互いに気に入ったらな」
「その時はですね」
「俺達も」
「日本は今少子化で大変なんだ、若い奴はさっさと結婚しろ」
 かなり急かしている言葉だった、二人だけでなく日本社会全体を。
「いいな、だからな」
「わかりまいた、それじゃあ」
「俺達も丁度相手が欲しいって言ってたところですし」
「それなら都合がいいな、日曜の午後な」
「はい、行かせてもらいます」
「喜んで」
 二人はもう広樹の火傷跡のことは完全に忘れて笑顔で応えた、小さな怪我より大きな出会いだった。日常の生活ではそうなるものだがそれは二人も同じである。


ケロイド   完


                     2013・11・24 
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