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ケロイド

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第四章

「というか急にこんな形になるなんてな」
「気付かなかっただけだろ」
 広樹自身がそのことにだというのだ。
「これまでな」
「それだけか」
「ああ、そうなんだよ」
 克幸はこう広樹に返す。
「ただな」
「気にしてないとわからないんだな」
「何でもそうだろ、怪我の形だってな」
「随分と変わった形だけれどな」
「それでも気にしていないとわからないさ」
 それでだというのだ。
「何でもな」
「そうか」
「まあそれでもな、その怪我な」
「何度も言うけれど動いたりしないからな」
「面白くないな」
「動かなくて何よりだよ、けれど気持ち悪いからな」
 やはり人の顔の形に見える火傷跡が自分の身体にあるとだ、それで広樹もムズ浮かしい顔でこう言ったのである。
「早く治って欲しいな」
「そうか」
「ああ、とっとと治ってな」
 またこう言う広樹だった。
「全く気にならなくなりたいよ」
「解放されたいってか」
「その通りだよ」
 まさにそうだというのだ。
「こんな訳のわからない跡とはな」
「じゃあ痛いの痛いの飛んでけってか」
「いや、痛くないからな
 それは言わないというのだ。
「別にな」
「それも面白くないな」
「そうそう楳図かずお先生の漫画みたいなことがあってたまるか」
 今のホラー漫画よりも遥かに怖い漫画を描く巨匠の名前も出た。
「火傷跡が笑うとかな」
「そういうのがいいんだけれどな」
「だから見ている分にはだろ」
「まあそうだけれどな」
「そんなことあってたまるか」 
 何度でも言う広樹だった。
「それで冒険に出る紋章とかもな」
「いいんだな」
「何で只の現場作業員が人面瘡に悩まされたり世界を救う冒険の旅に出ないといけないんだよ」
「平凡な日常が急に変わったりとかな」
「ないない、絶対にない」
 広樹はムキになって否定した。
「あってたまるか」
「じゃあこのままでいいのかよ」
「いいんだよ、もっと言えば嫁さんも貰ってな」
「嫁さんなあ、俺もな」
 克幸もその話題になると難しい顔で言った。
「欲しいな」
「ああ、本当にな」
「誰かいないかね」
「合コンでも出るか?」
「そうだな、肉体労働だから身体は強いってな」
「そういう売り込みでな」
 こうした話をしつつ昼飯を食べる二人だった、そして。
 この日から数日後だった、広樹は朝会社に来るともう出社していた克幸に会社の事務所で自分の左手の甲を見せてそのうえでこう彼に言った。 
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