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少年は魔人になるようです

作者:Hate・R
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第86話 少女は急展開するようです


Side 夕映

「あ、ユエ!」

「あ……どうもです、コレット。」

「皆と一緒に下の街でお夕食しない?折角の外出日だしさ!」

「いえ、私は図書館に行ってまた調べ物を。まだまだ知りたい事ばかりですので。」


学校の廊下を歩いていると、褐色肌の金髪美少女・垂れ犬耳メガネっ娘が私に走り寄ってきます。

コレット・ファランドール、私の一番・・・と言うか、今はこの子しか私には友達がいないです。

外にはクジラ型の航空力学を無視した船がゆったりと航行し、杖で飛ぶ学生服の女の子達。

そう、ここは私のいた旧世界ではありませんです。


「……何か、思い出した?」

「いえ……何一つ。」


コレットが心配そうに私に聞いてきます。・・・彼是、20日弱前になります。

転移ゲートで謎の少年一派に襲われて、アルビレオさんの緊急転移魔法が失敗して、

ここ"魔法学術都市 アリアドネ―"に飛ばされて―――


―――19日前

「じゃあ力を抜いてぇ。ちょっと刺激があるわよ。」

「んっ……。」

『検査中♪検査中♪』


私の頭の周りをナース姿の小さな精霊様なモノが飛び回り、何か診察を始めます。

転移ゲートから飛んだら、出た所にコレット――後ろに控えている子です――が魔法の練習を

している所で、更にそれが記憶操作系の呪文だった事を利用して、私は半分記憶喪失のフリをしてここに

潜入をしました。今は、その検査と言う事です。


『異常なしデッス♪』

「大丈夫なようね。体も頭の中身も問題ないわ。やっぱり、頭部を強く打ったショックによる

一時的な健忘だと思うわ。暫くすれば失われた記憶も戻ってくるはずよ。」

「ど、どうもです先生。」

「じゃあ先生、ユエの頭はもう大丈夫なんですね?名前以外の記憶も戻って来るんですね!」

「ええ。ただし……記憶消去の魔法をかけられた可能性は否定出来ないわ。

私ではそれを確かめる術は無いのだけれど。」


保険医の先生の言葉に、二人で固まる私とコレット。まぁ、隠し事してますからね、お互いに。

私は、自分の名前とこの世界に来た理由以外を全て忘れています。

ですが、ここに来てからは記憶に引っかかるような事がありますから、ふと思い出せる事もあるでしょう。


「一応身元を調べて貰ったけれど、残念ながら分からなかったわ。と言う事は、何らかの事件に

巻き込まれた可能性もあるわ。」

「………。」

「不安でしょう、自分の名前以外何も思い出せないなんて。でも安心して、ユエ。

このアリアドネ―は学ぼうとする意志と意欲を持つ者なら、例え死神でも受け入れる、どんな権力にも

屈さない世界最大の独立学術都市国家よ。記憶が戻るまでは、安心してここに居なさい。」

「あ……ありがとう、ございます。」


保険医の先生の言葉に、思わず体が反応しますです。事件に巻き込まれた事を言い当てられたのもありますが、

何か・・・そう、"死神"。何か引っかかる言葉です。いつか、あちらの世界で聞いたような・・・?


「さて、いつまでもコレットの部屋に泊まってるのもアレでしょう。今日からは別の部屋を用意して――」

「いえ!大丈夫ですっ!ユエは私の部屋で引き受けます!」

「あらいいの?発見者と言うだけでそこまでする事は――「いいんです!私達友達になりましたから!

ユエの記憶が戻るまでは私が責任もって面倒を見ます!」

「そ、そう?エライわ、コレット!」


・・・冷や汗を流したコレットのゴリ押しで、またこれからもこの子の部屋にお泊りする事になりました。

そう、ですね。どうせ、記憶が戻るまではここに居るしかないのですし・・・。


「あの、学ぶ気のある者は誰でも受け入れると言ったですよね?

私の記憶が戻るまでの間、私もコレットさんと同じ魔法騎士団候補生の授業を受けられないでしょうか?」

「で、でもユエ、それは~~……。」

「ふむ……いいわ、OKよ!向学心旺盛な子はいつでも大歓迎よ!掛け合っておいてあげるわ。」


………
……



とまぁ、そんな経緯で授業を受けてはいましたが、実の所ここ二週間でほぼ必要と思える記憶を

思い出してはいるです。それと言うのも、ここが魔法世界で、この学校の授業が全て魔法に関係する物

だからです。


「以上の様に、南の古き民と北の新しき民は様々な確執を持っていた訳ではありますが、20年前の

『大分裂戦争』時点においても、全面戦争に至るほどの理由はどこにもなかったのであります。

全面戦争が両陣営にとって何ら益を齎さない事は、旧世界のここ百年の愚を見るまでもありません。」


・・・どうやら私は勉強好きであった様ですが、この歴史の授業――と言うかこの先生が嫌いです。

私の居た地球(此方では旧世界と言うようですが)の事を馬鹿にしたような態度を取る事が多いからです。

まぁ、教師としては優秀なようですが。


「この戦争には、世界を欺き両者を裏から操って私腹を肥やそうとした悪党達の姿があったのです。

両陣営の中枢にまで潜り込んでいた彼らは、不安と混乱を煽り、怒りと憎しみを醸成させ、戦火を拡大

させようとしました。その彼等こそ――」


――『完全なる世界(コズモエンテレケイア)』。この名は、この授業で数多く聞きます。

そして、この名は学園祭で聞いたのを覚えていますです。超さんが言っていた、彼女の組織とその計画名。

そのリーダーであるのが、恐らく愁磨先生・・・。彼女の言葉を信じるなら、ですが。


「この組織の壊滅と、王都オスティアの犠牲を以って大戦は終わりを告げ、最悪の事態は避けられました。

そして大戦末期、その全ての真相を暴き世界を滅亡の危機から救った英雄こそ、皆さんも良くご存じの

ナギ・スプリングフィールドと『紅き翼(アラルブラ)』なのであります。」


・・・やはり、何度聞いても信じられないです。ネギ先生のお父様が世界を救った英雄なんて。

まぁ、それなら彼の異常さも説明がつくのですが。10歳であの戦闘力・・・と言うか、あの才能ですね。

世界を救った勇者様の子供・・・今更ながら、いよいよゲームじみて来ました。


「そして彼等と共に戦い、絶大な力で戦場を切り裂き、敵の首領を討ち世界を救った者こそ……

魔法世界始まって以来最悪最強、伝説の犯罪者であり、初代『大魔導士』と同じ時代を生き、

英雄ともなった"皆殺しアーカード"・"白帝"等の呼び名を持つ『愁磨・P・S・織原』です。

しかし彼は『大魔導士』に力を封じられ旧世界に送致されていた筈なのですが―――」


更には、私達の担任である愁磨先生が英雄の一人で最悪の犯罪者・・・複雑な上にありえないです。

しかしそれなら、あの理不尽な強さの説明がつくです。あぁ、こうして見ると私達は本当に有り得ない

環境に身を置いていたですね。今思えば、麻帆良自体が有りえない事だらけですし。


「さて、大戦末期の魔法災害によって居住困難となり、廃都と呼ばれるようになったオスティアですが、

環境は復活して来ており、来月には戦後20年を機に人種・国家・宗教を超えた大祭典が開かれる予定です。

この祭りでは『紅き翼』の名を冠した拳闘大会も開かれます。皆さんには関係無い話……と言う事でも

ありません。」


先生の話に、静かだった教室が俄かに騒めきます。・・・話半分に聞いていたのでうろ覚えなのですが。

オスティアで開かれるお祭りが私達と関係ない?いや、だってここの生徒は基本出歩く事も許されてないです。

祭りに行くなどと言う理由で外出許可が出る訳もありませんし。


「アリアドネ―戦乙女騎士団より、候補生としてオスティア記念式典における警備任務に就く者を

各学年から二名ずつ募集すると言う書状が届きましてね。詳細は廊下の掲示板に張り出されていますので、

志願者は放課後までに職員室へ用紙を持って来るように。」


それを聞いた瞬間、堅物委員長までもが飛び跳ねて喜びます。授業にならない事を悟っていたのか、先生の

姿は既にありません。ですが、私には関係ないですね。

………
……


「(ナギ・スプリングフィールド……どの書を見ても故人です。いえ、同じく故人扱いのアルビレオさんと

ゼクトさんが生きていますし、もしかしたら……。)」

「なーに見てるのユエーーーー!」

「ぅはうわぁっ!?」


考え込んでいたせいで、騒がしい気配を持つコレットに背後を取られてしまいます。

不覚・・・!たった数週間の学園生活ですっかり鈍ってしまってますです。なんだか、修業していた頃が

懐かしいです。出来る事ならあの頃に・・・・・・・絶対戻りたくはないですね、ええ。


「えーーっ!?なんだ、ナギの事調べてたの!?それなら早く言ってくれればいいのに!!」

「えっ、いえ、これは別に……。」

「実は私も大ファン!!ナギグッズならたくさん持ってるよ~~~!ホラ、ナギ抱き枕にナギフィギュア――」


・・・人の話を聞きましょうよ。と言うか"も"ってなんですか、"も"って。

と言うか、そんなグッズまで販売されてるですか。羨ましいと言うよりは憐れに思えます。


「極めつけはコレ!ナギファンクラブ会員ナンバー96077番!」

「……それはスゴイのですか?」

「そりゃすごいよ!5桁台なんかなかなかいないよ!」


5桁台は貴方も入れて10万人居る計算なのですが。と言うかその分だと6桁7桁もいるのでは・・・?


「そうそう、ナギが好きならコレにも興味あると思うなー!」

「何ですコレは。録画……?」

「グラニクスって街の拳闘士なんだけどねー!」


そう言いつつ、コレットが見せて来た手紙状の・・・ビデオテープ?が再生されると、

きわどい衣装の女性と―――


『どうもー☆ナギさん絶好調デスねー♡やはりオスティアへの出場は視野に入れておいでで?』

『……もちろんです。』

「な、ナギ……!?」

「じゃなくて、今話題のそっくりさん!いいでしょー!」


映し出されたのは、資料よりも少々若いナギ・スプリングフィールドのそっくりさんでした。

いえ、何と言うか・・・優しそう?いえ、頼りなさげと言うか・・・そう、馬鹿っぽくないです。

いやいや、これは・・・私の推測が正しければ!


「(年齢詐称魔法を使ったネギ先生…!ええ、もしそうならそっくりさんと言うのも頷けますし、

この頼り気無い感じは先生を大きくしたまんまです!)コ――」

「フン、相変わらず情報が遅いですわねコレットさん!」


またしても背後に現れたのは、漫画なら背後に花でも舞ってそうな登場をした委員長でした。

・・・正直苦手なのですよね。居高々と言うか偉そうな人と言うのは。

そして、コレットと何やら言い争いを始めます。会員番号78とかどーでもいいのです。


「フン、あなた達の様な落ちこぼれコンビが試験で私に勝てる筈無いですしね!

精々高嶺の花でも愛でているのがお似合いですわ!」

「ぬぐぐぐぐぐぐ!ファンである事に落ちこぼれとかは関係ないでしょーーー!

それに私達は別に出る訳じゃ―――」

「いいえ、コレット。私達も出ましょう。」

「「へっ?」」


唐突に挟まれた言葉に、二人揃ってクエスチョンマークを浮かべます。・・・実は仲が良いのでは。

私の目的は決まった事ですし、何より―――


「こう馬鹿にされていては、私だって黙ってはいられないです。」


あそこまで修業した私を、あんなに苦労した私を馬鹿にする委員長に、一泡吹かせてやりますです。

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