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Element Magic Trinity

作者:緋色の空
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緋色の空


「ジェラール・フェルナンデス。連邦反逆罪で貴様を逮捕する」

ガシン、と。
重々しい音を立て、ジェラールの手首に長方形の手錠が掛けられる。
その様子を連合軍一同は呆然と見つめていた。

「待ってください!ジェラールは記憶を失っているんです!何も覚えてないんですよ!」

恩人が目の前で逮捕されるのを黙って見ていられない。
ウェンディが目に涙を浮かべながら叫ぶ。

「刑法第13条により、それは認められません。もう術式を解いていいぞ」
「はっ」

が、ラハールはあっさりと言い返す。
近くにいた部隊の人間に術式の解除を言い渡し、言われた人は解除を始める。

「で・・・でも!」
「ジェラールは私達の・・・!」
「いいんだ・・・抵抗する気はない」

それを聞いても尚、ウェンディとココロは異議を唱える。
その2人の言葉を遮って抑えたのは、ジェラール本人だった。
ウェンディとココロは目に涙を浮かべ、唇を噛みしめる。

「君達の事は最後まで思い出せなかった。本当にすまない。ウェンディ、アラン、ココロ」
「このコ達は昔、アンタに助けられたんだって」

俯く3人の代わりにシャルルが呟く。

「そうか・・・オレは君達にどれだけ迷惑をかけたのか知らないが、誰かを助けた事があったのは嬉しい事だ」

どことなく嬉しそうな笑みを浮かべ、ジェラールは呟く。
そんな中、ナツはふとエルザに目を向けた。
目線を下げ悲しげに沈黙するエルザを、ナツは見つめる。

「エルザ」

そんなエルザに、ジェラールが声を掛けた。

「いろいろありがとう」

エルザは答えない。
ただ辛そうに目を伏せ、沈黙する。

(止めなければ・・・私が止めなければ・・・ジェラールが行ってしまう・・・)

高ぶる感情を抑えているからか、足が震える。
痛いほどに握りしめた拳も震え、ナツは唯一それに気付く。

(せっかく悪い夢から覚めたジェラールを・・・もう1度暗闇の中へなど行かせるものか!)

歯を食いしばり、エルザは決心する。
2人の部隊の人間に連れて行かれるジェラールはラハールの前で足を止めた。

「他に言う事はないか?」
「ああ」
「死刑か無期懲役はほぼ確定だ。2度と誰かと会う事は出来んぞ」

放たれた冷徹な言葉。
それにもジェラールは納得しているかのように何も言わない。

「そんな・・・」
「いや・・・」
「ジェラールさん・・・」

手が届く距離にいるのに、その距離を伸ばされ、2度会えない遠くへと連れて行かれる。
その言葉にルーシィは愕然と呟き、ウェンディは目からボロボロと涙を零し、アランは悲しそうに表情を歪めた。

(行かせるものか!)

目の前を鋭く睨む。
エルザが行動を起こそうとした、瞬間――――――――





「行かせるかぁぁっ!!!!」






先に動いた奴がいた。
両手で相手2人の顔面を掴み、奥へと進んで行こうとする―――ナツが。

「!」
「ナツ!」
「相手は評議員よ!」

ナツの突然の行動にエルザとジェラールは目を見開き、グレイとルーシィは叫ぶ。

「貴様・・・」
「どけェっ!」
「ぐぁっ!」
「うごっ!」

止めようとする評議員を体全体を使って押し退け、先へと進もうとする。
人数差が大きすぎて1歩進むのにも苦労するが、ナツは諦めない。

「そいつは仲間だぁ!連れて帰るんだーーーーー!」

あれほどに毛嫌いし、六魔将軍(オラシオンセイス)のアジトで目の前に現れた瞬間殴りかかったジェラールを『仲間』と呼び、行動を起こす。
仲間を助けるのに、ナツは評議員さえも敵に回した。

「ナツさん・・・」
「よ・・・よせ・・・」
「・・・」

涙を流しながらウェンディは口に両手を当て、ジェラールはか細く呟く。
暴れるナツを、ティアは感情の篭っていない、ただ目の前の光景を反射して映すだけのガラスのような瞳で見つめていた。

「と・・・取り押さえなさい!」

ラハールの命令で、数人の評議員がナツへと向かっていく。
その手には全員杖のようなものを持っている。
評議員達にナツが目を向け―――――――

「行け、ナツ!」
「コイツ等はオレ達がどうにかする!テメェにゃジェラール任せっぞ!」
「チッ・・・仕方あるまい。邪魔する奴は消すに限る!」
「ぐほっ!」
「グレイ!アルカ!ヴィーテルシア!」
「こうなったらナツは止まんねえからな!」

ナツに1番近づいていた評議員目掛けてグレイが体当たりし、アルカが鋭い蹴りを決めた。
更にヴィーテルシアがタックルする。

「気に入らねえんだよ!ニルヴァーナを防いだ奴に・・・一言も労いの言葉もねえのかよォ!」
「しかも人の目の前で死刑だの無期懲役だの言いやがって!胸糞悪ィったりゃありゃしねえ!テメェ等はもっと面白れぇ事言えねえのかよ!ア!?」
「そいつがどれだけの罪を犯したのか俺は知らん。だが、ナツがここまで真剣になる相手なら俺にとっても真剣に戦う理由がある!」

その表情に怒りを浮かべながら、グレイとアルカとヴィーテルシアも評議員を攻撃していく。
エルザの鼓動が、大きく音を立てた。

「それには一理ある。その者を逮捕するのは不当だ!」

がしっと左手に右拳を当て、ジュラは怒りのオーラを放ちながら加勢する。

「悔しいけどその人がいなくなると、エルザさんが悲しむ!」
「うわ!」
「何かいい匂い!」

未だにマッチョ状態の一夜も加勢する。
いい匂いがするのは香り(パルファム)のおかげだろうか。
エルザとジェラールは顔を背け、小刻みに震えていた。

「もうどうなっても知らないわよ!」
「あいっ!」
「後先考えないぞーっ!」

ルーシィがポカポカと握りしめた拳を振るい、ハッピーが爪で引っ掻き、ルーが喚きながら全身フルで動かして攻撃する。

「お願い!ジェラールを連れて行かないで!」
「その人は、私達の大切な人なの!」
「僕達の恩人に・・・やっと会えた大好きな人に、死刑なんて言わないでください!」

評議員に腕を掴まれながらも、ウェンディとココロは涙を流して懇願する。
2人の腕を掴む男にアランは一撃決め、続けざまに肘打ちを放った。
格闘系の魔法を使うからか、格闘術は得意なようだ。
シャルルもその鋭い爪を振るう。

「来い!ジェラール!」

評議員に囲まれながら、ナツが叫んだ。
距離はゆっくりと、それでも確かに縮まっている。

「お前はエルザから離れちゃいけねえっ!!!!」

必死に腕を伸ばす。
だが、まだ足りない。

「ずっと側にいるんだ!!!!エルザの為に!!!!だから来いっ!!!!」

目を瞑り、ジェラールは震える。
出来るならナツの手を掴んでエルザの傍にいたい。
だけど、自分は罪を犯した。それも、人の命を奪う程の重い罪を。
その罪は償わなければならない。
それを受け入れているのに、それでもナツ達は必死に救いの手を伸ばす。
それが嬉しくもあり、辛くもあった。

「オレ達がついてる!!!!」

グレイが拳を決め、ハッピーが評議員の髪の毛を強く引っ張る。
アルカが顎に蹴りを決め、アランが手刀を放った。

「仲間だろ!!!!」

ジュラの拳が相手の顔面に決まる。
グリードウィング―――翼のように進化したヒレで空を飛ぶサメのモンスターだ―――に変身したヴィーテルシアは上空から突撃していく。
ルーシィはありったけの力を込めて膝蹴りをし、ルーはがむしゃらに腕を振るう。

「全員捕えろォォォ!公務執行妨害及び逃亡幇助だー!」

ラハールが叫ぶ。
それと同時に、さらに多くの評議員が動く。
ナツとジェラールの距離が伸びていく。

「ジェラーーーーーール!」

それでもナツは手を伸ばす。
ジェラールの手を掴む為に。
その時―――――――








「豊穣神フレイに命じる。“何でもいい。そこらの植物で妹と罪人以外拘束しろ”」









声が、響いた。
それと同時に、地面に銀色の魔法陣が展開する。
そして、

「ぐっ!」
「うあっ!」
「くっ!」

その場にいたティアとジェラール以外、ナツ達やラハール達全員が突然伸びてきた植物に拘束された。

「この魔法は・・・」

見覚えがあるのかティアが呟く。
すると、コツコツと足音が響いてきた。




「よぉラハール。なぁんか楽しそうな事してんじゃねーか」




軽い声。
この空気に驚くほど似合わない軽い調子のテノールボイス。
その声の主は、ただ笑みを浮かべていた。

「クロノ!」
「兄さん」

クロノヴァイス=T=カトレーン。
ティアにとっては異母兄弟の兄であり、評議院の第一強行検束部隊の隊長を務める、部下からの信頼も厚い男だ。

「クロノヴァイス・・・」
「だーからクロノでいいって。んな人の長ったらしい名前フルで呼ぶ必要ねえよ」
「そんな事はどうでもいい・・・なぜ私達まで拘束する」
「え?あ、そういやそうだな。ティアの事で頭いっぱいだった。よし」

実はこちらもシスコン気質か!
それはともかく、クロノは再び詠唱する。

「豊穣神フレイに命じる。“評議院の人間の拘束を解け。ギルドの奴等はそのままだ”」

ふわっ、と。
軽い動きで植物の拘束が解かれる。
が、ナツ達の拘束はそのままだ。

「クロノ!こっちも解け!」
「生憎だがお断りだ。こっちからしたら、罪人逮捕邪魔されて迷惑なんだぞ?」
「そいつは仲間だ!罪人じゃねえっ!ジェラールだ!」
「・・・はぁ」

クロノは溜息をついた。
超あからさまに。
そして、呟く。

「・・・ナツ」
「ア?」

その声に、軽さはない。
ただ、真剣そのもの。
そう、彼は―――――――()()()()()()()()





「これ以上ジェラールを庇うなら、オレは本気でお前を潰すぞ」






本気。
その青い目にははっきりとした闘志と殺気。
氷の女王(アイスクイーン)の異名をとるティアの兄であるクロノも、また冷酷だった。
そうであるのが当然のように。

「オレだって昔世話になったギルドの仲間を傷つけたかぁねえさ。だがな、オレの1番の仕事は罪人を捕らえる事なんだよ。お前らの弁護は書類確認に書類提出に日々の訓練に・・・って色々あるうちの10番目くらいにやるべき事だ」

普段の言動が軽くても。
ジークレインとウルティアの計画を知っていながら黙っていたとしても。
彼は部下や部隊の人間に慕われる、“評議院の人間”なのだ。
だが、クロノに譲れない物があるように、ナツにも譲れない物がある。

「・・・仲間なんだ。助けんのは当然だろ」

ブチィ!と。
自力で拘束をブチ切る。

「仲間を目の前で連れて行かれそうだってのに黙ってられっかよ!オレだって本気で潰す。かかってこいやコノヤロウ!」

ナツの闘志に火が付いた。
あまりの気迫に、周りの評議員も後ろへと下がる。
それを見たクロノは一瞬目を見開き、微笑んだ。

「そうか、それならいいんだ。本気を出して潰しちまっても、文句はねえよなァ!」

そして、右手を前に突き出す。
目を閉じて、口を開く。

「雷神トールに命じる。“お前の鉄槌をオレに貸せ。短い柄は魔力で伸ばせ”」

その手に握られたのは鉄槌。
北欧神話にて雷神トールが振るったとされる、雷を象徴する武器、ミョルニル。
伸縮自在、投げてもブーメランのように戻ってきて、何をどのように打っても決して欠ける事はない強力無比な鉄槌の唯一の欠点『柄が少し短い事』を自分の魔力で補い、クロノは握りしめる。

「こうやってお前と戦うのは何年ぶりだったか・・・オレの“神話ノ語リ部(カミガタリ)”も強くなってんだって事忘れてねえよな?」

神話ノ語リ部(カミガタリ)
神話をモチーフに使用する、使い方によっては様々な手段が取れる魔法。
クロノは雷神トールのミョルニルを“借り”、ナツと対峙する。

「来い」
「行くぞォ!」

ナツがクロノに向かって駆け出した。
その時――――――――




「もういい!!!!そこまでだ!!!!」





エルザが叫んだ。
ナツの動きが止まり、クロノが眉をピクリと上げる。
その場にいる全員の視線が、エルザへと向く。

「騒がしてすまない。責任は全て私が取る」

ざわっと空気がざわつく。

「ジェラールを・・・」

ラハールとジュラはエルザを見つめる。
ウェンディは涙を流す。
一夜は倒れた評議員に凭れ掛かるようにしてエルザに目を向ける。

「つれて・・・いけ・・・」

消え去りそうな小さな声で、エルザは呟く。
その言葉に、ジェラールが薄い笑みを浮かべた。

「エルザ!」
「チッ」

納得いかない、と言うようにナツが叫ぶ。
が、エルザの表情は長い髪に隠れて見えない。
クロノは小さく舌打ちをし、ミョルニルをトールに“返した”。
そして、ジェラールはエルザに背を向け―――――

「そうだ・・・」
「!」

何かに気づいたように、ジェラールが呟いた。
顔をエルザに向け、微笑む。



()()の髪の色だった」



その言葉に、エルザは目を見開いた。
緋色の髪が、風に靡く。

「さよなら、エルザ」

告げる。
この別れが、永遠の別れと繋がる可能性は高い。
それでも、エルザは止めなかった。

「ああ」

ただ一言呟いて。
その返事を待っていたかのように、重い音を立てて扉が閉まった。










連合軍は、勝利に沸くはずだった。
だが、そこには歓声どころか笑顔もない。
勝利の後の別れは、喜びを消し去るほどに大きかった。

「エルザ・・・どこ行ったんだろ・・・」

ハッピーが呟く。
あの後エルザは1人でどこかに行ってしまったのだ。

「しばらく1人にしてあげよ・・・」
「あい・・・」

ルーシィの言葉にハッピーはしゅんとしたように答える。
そんな中、ティアは無言で立ち上がった。

「ティア」
「!」

それを、ナツが呼び止める。
先ほどまで寝っ転がっていたナツは起き上がっていた。
ティアは怪訝そうな表情を浮かべる。

「何よ」
「何で黙ってたんだ」
「・・・何が」
「ジェラールが連れて行かれそうな時」

そう。
その場にいた全員がジェラールの為に動いたあの時、ティアだけは動かなかった。
ただ、黙ってそれを見つめているだけ。
その問いにティアは溜息をつき、ゆっくりと口を開く。

「・・・ゼロとの戦いは正直言って不利だった。だからジェラールを利用させてもらった。目的達成の為なら何だって利用する。それが偶然ジェラールだった。それだけよ」
「意味解んねえ」
「アイツを利用するのはゼロとの戦いが終わるまで。それが終わった今、利用する理由も庇う理由もない。罪人は罪人のいるべき場所へ・・・違う?」

淡々と正論を述べる。
仲間の為と言う理由の後に聞くと冷酷に聞こえる、正論を。

「ジェラールだって仲間だろ!何でお前はいつも捻くれてんだよ!ニルヴァーナを止める為に戦ったのに変わりねえだろうが!」
「アイツの犯した罪はニルヴァーナを止めるなんていう“たった1つの善”で消えるほど軽いものじゃないでしょ」
「だとしてもジェラールはエルザの側にいるべきだろ!」
「罪人が傍にいて、エルザは喜ぶかしら」

ああ言えばこう言う。
その言葉通り、ナツが何か言えばティアが正論を返していく。

「ジェラールがオレ達を信じたんだ!オレ達だってジェラールを信じるべきじゃねえか!」
「・・・」
「ティア?」

突如、ティアが沈黙した。
不思議に思ったナツが首を傾げる。
すると、ティアは口を開いた。

「だったら何?アンタはあそこでジェラールを逃がして一時の幸せをエルザに与えようとしたとでも言いたいの?幸せなんて簡単に崩れるのよ。一時的なモノは特に脆い。それを失った時のエルザの辛さまでアンタは考えたの?結果としてエルザはジェラールを失う。早いか遅いかの問題なのよ。そんな仮初めの幸せを誰が望むの?それともアンタはその仮初めの一時的な幸せでもジェラールが傍にいて笑顔を浮かべるエルザが見たかったの?その後にジェラールを失って涙を流すとしても?」

一気に、捲くし立てるように放たれる。
その言葉にはナツだけじゃなく、その場にいた全員が呆然とした。
ティアの言葉はそれだけじゃ終わらない。

「解らない?ジェラールの居場所はこの世界に存在しないのよ。ゼレフの亡霊に取り憑かれ魅入られたその時から!自らの立てる居場所を自らの手で潰したの!その結果がこれ、自業自得よ。私は罪人を庇う為に己を罪人にはしたくないわ。自分勝手だと言いたければ言うといい。あれほどの罪の犯した大悪党を庇う人間なんてアンタ達くらいなものよ」

ティアの言葉が鋭い刃のようになり、休む暇なく放たれていく。
その頬に赤みが差し、ティアとしてはあり得ないほどのスピードで感情が高ぶっていく。

「ティ・・・」
「触らないで!」

様子がいつもと違うと気づいたナツが手を伸ばす。
が、ティアはその手を勢い良くはたいた。

「アンタには解らないわ・・・()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

荒れる海のように荒々しく、叫ぶ。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

青い瞳にありったけの怒りや苛立ち、殺気や憎しみを宿し、ナツを鋭く睨みつける。
表現するとすれば『キッ』より『ギッ』の方が似合うだろう。
これ以上ないくらいに鋭い睨みに、ナツは思わず半歩下がった。

「っ・・・」
「ティア!」

ティアは一瞬しまったと言いたげな表情を浮かべると、その場から逃げるように駆け出す。
その背中はすぐに見えなくなり、ヴィーテルシアは不安そうに瞳を揺らした。










ナツ達のいる場所で小規模な騒ぎが起きているとは知らないエルザは、少し距離のある丘の上にいた。
表情が見えない程に俯いたエルザの脳裏に、とある記憶が流れていく。






『ジェラール・フェルナンデス』
『うわー、覚えづれぇ』

楽園の塔、奴隷時代。
奴隷になってすぐ、自己紹介をしている時の事だった。

『そういうお前も、ウォーリー・ブキャナンって忘れそうだよ』
『エルザ、お前は?』
『私はエルザ。ただのエルザだよ』

困ったような笑みを浮かべ、幼いエルザが答える。

『それはさみしいな』

それを聞いた幼いジェラールは小首を傾げる。
すると、ジェラールはエルザの背後に回り、さらっとした緋色の髪に触れた。

『おおっ』
『ちょ・・・何よぉ』

突然髪を触られ、エルザは戸惑ったように頬を淡く染める。

『綺麗な緋色(スカーレット)・・・そうだ!エルザ・スカーレットって名前にしよう』
『名前にしようってオマエ・・・そんなの勝手に・・・』

ウォーリーは呆れたようにツッコみを入れる。
確かに人の名前を勝手に決めるのはどうかと思うが――――。
エルザは嬉しそうだった。
自分の髪に触れ、小さく呟く。

『エルザ・・・スカーレット・・・』

ジェラールは笑う。

『お前の髪の色だ。これなら絶対忘れない』










エルザの目から、涙が溢れる。
お前の髪の色だった―――――その言葉の意味はナツ達には解らなかった。
だけど、エルザには解る。

「ジェラール・・・」

エルザは膝を抱え顔を埋め、1人で涙を流した。








その日の朝焼けは、今まで見た事のないくらいに、美しい緋色に染まっていた。




エルザの髪の色のように、あたたかく情熱的に。




顔を上げれば、美しい空が広がっているのに。




顔を上げれば・・・ 
 

 
後書き
こんにちは、緋色の空です。
ええはい・・・私の名前はこの話から取らせてもらってます。初めて読んだ時本気で泣いたので。
もう何でエルザとジェラールは一緒にいられないんだよーっ!一緒にいさせてあげたいよーっ!と思い続けております。

そういえば、感想板の方にとあるご意見いただきました。
ナツとティアの件で私がこの2人をくっつけたがらない為、いろいろ策を考えて下さったようです。
ありがとうございます。

その中に「ハーレムにしてしまう」というものがあり。
面白そうだなー、と思う一方、相手っぽいのがライアーくらいしか出てこないという・・・(汗)。
そしてハーレムなるものを書いた事がないのです。
でも初挑戦してみたい!と考えています。

誰かいませんかね・・・ティアの事好きになりそうな人・・・。
勿論クロスは論外ですよ!?
あとグレイもか。別作品とはいえ、鬼神の操手が怖い・・・そしてジュビアも怖い。
ギルド違うとかめったに出てこないとかお構いなし!
この人だったらティアの事好きになりそうだなって人を教えてくださいっ!
ハーレムになるかは未定ですがっ!初挑戦してみたいのですっ!

感想・批評、お待ちしてます。
あとナツはわざわざ言わなくて大丈夫です。
ナツOKにしたらナツだけで意見が埋まる気がするので・・・それ以外で誰かいませんかね? 
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