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少年少女の戦極時代Ⅱ

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オリジナル/未来パラレル編
  第28分節 強さ⇔弱さ



 その日も光実は勤め先の神社で忙殺されていた。

 裏方はとかく気を回さねばならない事柄が多い。今日は特に、神前結婚式がある日なので本殿の飾りつけや設営で忙しかった。

「――あ」

 拝殿の正面口のガラス越しに見えたものに、光実は手を止めた。

「どうしたの、ミッチ」

 巫女服で作業をしていた舞が、朱三宝(銚子や杯を載せる台)を置いて光実の横にやって来た。

「雨が降ってきたみたいです」

 灰色の空から落ちた水滴が、徐々に玉砂利を濡らしていく。

 神道は自然の一つ一つに神を見出し、その恵みに感謝するのが特徴である。雨もまた感謝すべき自然の恵みだと、神社に勤めてから漠然と分かってきた。

「ほんとだ……あたし、ちょっと行ってくる。もうご親族の方、下に着いてるだろうから。傘持ってくよ」
「袴の裾、泥が撥ねないよう、気をつけてくださいね」
「ん、ありがとっ」

 舞が本殿の脇戸から出て、草履に履き替えて走っていくのを笑顔で見送り、光実は改めて空模様を見上げた。

「――イヤな雨」

 一言だけ呟き、舞が置いた朱三宝を代わりに運んだ。

 ………

 ……

 …

『やああああああっっ!!』

 双刃を両手に構え、月花は戒斗に向けて駆けた。

 戒斗はニヤリと笑ってオーバーロード態に変身した。

 降りしきる雨の中、月花と金色のオーバーロードが切り結ぶ。

 例え戒斗が相手でも、月花が簡単に弾かれることはない。昔なら力で負けていただろうが、9年に渡って戦い続けた咲の腕力と膂力は成人男性とほぼ変わらなかった。

 一度離れて踊るように連撃する。今度の彼は回避行動をとらず、杖剣で地面を突いた。
 すると突如として、野外劇場の隅に生えていたヘルヘイムの蔦が急成長し、金色のオーバーロードの正面で編み込まれて盾を形作った。

『そんな小細工!』

 月花は双刃で蔦を斬り裂こうとした。しかし、振り下ろした双刃の片方で、蔦は、切れなかった。
 逆に蔦はもっと伸び、腕に絡みついた。驚いて、その驚きの瞬間を、月花は隙としてしまった。

 金色のオーバーロードが月花の前に立ち、月花の顎を下から蹴り上げた。

『ギッ…イ゛、あぐ!』

 蔦がほどけて、その場に崩れ落ちた月花。その月花の背を金色のオーバーロードは踏みつけた。
 腕の支えが間に合わず、月花は地べたに這いずる形となる。
 このままでは骨を折り砕かれる――!

 横ざまからソニックアローが飛んだ。
 金色のオーバーロードはそれを避け、月花から離れた場所に立った。


『咲、大丈夫か!?』

 駆けつけてきた鎧武が月花を支え起こした。

『コウタ……』

 ()()()()()()()()。また一つ苦さを伴って思い出す。月花が、咲がピンチの時は、必ず葛葉紘汰が来てくれた。

『――、下らん』

 月花と鎧武は同時に金色のオーバーロードを見返した。
 だが、臨戦態勢のこちら側とは裏腹に、戒斗は白い祭服の人間態に戻った。

「貴様らは弱くなった。葛葉紘汰、さっき俺を射ようと思えば射られたはずだ。室井咲を助けることを優先しなければ。そして室井咲。攻撃中に別のことに気を取られるなど、強い弱い以前の問題だ。あるいは貴様らであれば俺の脅威となるかと考えたが、見込み違いだったな」
『そう……そんなにあたしたちに負けるのがこわかったの』

 戒斗が眉を潜める。

『ちがった? だからわざわざ2回もあたしたちにセッショクして、しかも1()()()()()()()()()()()んじゃないの? 弱いのはどっちよ。えらそうにコーシャクたれないで。この、弱虫』

 戒斗は射殺さんばかりの眼光を月花に向けた。月花も、パルプアイ越しながら睨み返した。

「……好きなだけ吼えろ。どの道、貴様らに時は残されていない」

 戒斗が踵を返した。歩いていく先に、迎え入れるようにクラックが開く。

『待て!! 戒斗!!』
「止められるかは、お前ら次第だ」

 戒斗はほんの微かにふり返った。横顔には薄い笑み。小馬鹿にしたとも、期待いているとも取れる。

 今度こそ戒斗は前に開いたクラックに入って行った。クラックは戒斗が潜るや閉じ、追うことは叶わなかった。 
 

 
後書き
 わざわざ知らせに来てくれた戒斗さんマジ戒斗さんww
 自分が滅ぼされるかもしれないのにあえて紘汰にも咲にもトドメは刺しませんでした。ごていねいに解説付き。果たして強者の余裕か、最後の良心か。これが自分の中の戒斗像です。 
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