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東方虚空伝

作者:TAKAYA
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第三章   [ 花 鳥 風 月 ]
  三十六話 嵐去った後……

 負傷し意識を失っていた紫と幽香を神社へと運びそれぞれ別室で治療を施し紫の方は栞に、幽香の方はさとりとこいしに後を任せ僕は神奈子と共に居間に移動しこれまでの経緯を神奈子に説明した。
卓袱台に頬杖を付きながら僕の話を口を挟まず無言で聞いていた神奈子が僕の話が終わると同時に口を開く。

「なるほどね、それでどうするつもりだい?」

 余計な事は省きただ要点だけを聞いてくる。どうするつもりか、神奈子が聞きたいのは七枷の祭神として郷を破壊した幽香への対処の事だろう。さとりとこいしとの幽香を助けるという約束は僕個人がしたものでありこんな事態になった以上、郷の責任者として幽香に何らかの処分を与えなければならない。お咎め無しにするには被害が大きすぎた。

「考えはあるよ、後は郷の正確な被害状況によるけどね」

 僕の返答に神奈子は納得したのか少しだけ笑いながら、

「まぁそこの所はあんたならきちんとするだろう、心配はしてないよ。それでこの後はどうするんだい?」

「悪いんだけどまた出かけるよ、花畑の方に戻ってルーミア達を迎えに行かないとね」

 ここから花畑までは距離がある為少し急がなければ日が暮れてしまう。大ちゃんが居れば問題は無かったのだが流石に連続で能力を使ったのが堪えたのか神社に一緒に付いてきた後倒れてしまい今は別室で横になっている。

「あぁ後さっきも話したけど地子って子を送り届けてくるから僕の帰りは遅くなるかもしれない」

「分かったよ、こっちはあたしと諏訪子で対処しとくから」

 神奈子と少し打ち合わせをしそれが終わると僕は花畑に向け里を後にした、眼下に広がる破壊の後を眺めながら。




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 一枚の符が霊気を纏い刃の様に熊の顔を持つ人型妖怪の胸元に突き刺さり激しい光を放ちながら爆散し、二メートルを越す巨躯だった妖怪の上半身を跡形も無く吹飛ばした。
 続けて背後から襲い掛かってきた先ほどと同じく人型妖怪が振るってきた手爪を、相手の手首を右手で払いながら無防備になった相手の脇腹に左の手刀を突き入れ霊気を流し込み内側から破裂させる。妖怪は声を上げる事も無くゆっくりと灰と化していく。
 残心を取りながら周囲を警戒する僕に声がかかる。

「へぇーやるじゃない綺羅、予想以上よ」

 木々の向こうから大剣を手にしたルーミアさんが現れそう賞賛した。

「恐縮です、そちらも終わったようですね」

 僕がそう聞くとルーミアさんは「まぁ余裕ね」と大剣を消しながら答え、もう一人の方へと視線を向ける。視線の先では数体の氷漬けになっている妖怪達の中心で勝鬨(かちどき)を上げるチルノさんの姿があった。
 虚空さん達が花畑を立たれた後、僕の張った結界に触れる多数の妖怪の気配が現れその事をルーミアさんに報告した所「外でうろうろされると面倒だし片付けてくるわ。」と言い結界の外に向かおうとしたので僕は助勢を買って出たのだ。この方が御強いのは砦で見ているので疑ってはいないがもしもの事を考えての発言だった。
 最初は遠慮していたが僕が引かないと悟ると同行の許可を出し結界の外へと向かおうとする僕達に今度は目を覚ましていたチルノさんが「あたいも付いて行く!」と言い出し少しの問答の末共闘する事になったのだ。
 
「チルノあんたもやるわね、妖精なのに」

 基本妖精は特殊な力は持っていても戦闘能力は高くは無い。それ故に時に人によって売り物用に捕獲される事もあるという。
 ルーミアさんにそう賞されたチルノさんは満面の笑顔で両手を腰に付けながら声高々に、

「あーたりまえ!なんたってあたいはサイキョーなんだか…ら…じゃなくて幽香の次だから、つまりサイキョーから二番目なんだから…うん…二番目…うん…二番…」

 最初の方は元気一杯だったのだが最強の辺りから急に元気を無くし最後の方では顔を青くし震えていた。彼女の過去に一体何があったのか非常に気になる。

「そういえば綺羅、貴方達これからどうするの?」

 「…これからですか…」

 チルノさんの方に目を向けていた僕に唐突にルーミアさんがそんな事を問いかけてくる。これからどうするか、実は正直困っていた。このまま百合と共に住んでいた集落に戻ろうか、とも思っていたのだがもしかするとあの連中に目を付けられ集落に迷惑がかかるかも知れない。再び百合を危険な目に遭わせてしまうかもしれない、等と思ってしまい決められないのだ。
 問いに答えず押し黙った僕にルーミアさんが優しく声をかけてくる。

「もし良かったら七枷の郷に来なさい、歓迎するわよ」

「…いいのでしょうか?もしかしたら御迷惑をお掛けするかもしれません」

 ルーミアさんの申し出は在り難いのですが恩人である虚空さんやルーミアさんに迷惑は懸けたくはない。しかし七枷の郷なら今の状況から考えれば一番安全だ。甘えてしまってもいいのだろうか?

「大丈夫よ、面倒事は全部虚空がなんとかするでしょう。あいつの事だからお願いすれば二言返事で了承するわよ」

 ルーミアさんは笑いながらそう言った。そうですね虚空さんが帰っていらしたら聞いてみよう。それにしても、

「ルーミアさんは虚空さんの事を信頼なさっているのですね」

 先ほどの台詞からそう感じたので言ってみたのだがルーミアさんは、

「……止めてよ気持ち悪い」

 何と言うか心底嫌!みたいな表情でそう答える。お二人の関係がよく分からない。そんな事を思い苦笑いしていた僕の目がこちらに向かって飛んでくる影が移り、警戒して凝視した後それが虚空さんだと気付き警戒を解いた。
 僕達を確認し目の前に降りてきた虚空さんは少し不思議そうに尋ねてくる。

「どうしたの結界の外で?」

 虚空さんの問いにルーミアさんが答えようと口を開こうとした時、突然自分の発言で消沈していたチルノさんが叫び声をあげた。

「あー!妖怪ヤロー!まだいたのか!」

「「「 えっ? 」」」

 僕達が視線を向けた時にはチルノさんが両手を上げその先では三メートル近い氷塊が作り出されており、チルノさんは()()()()に向けその氷塊を躊躇無く投げつける。
 そして森に氷が砕ける甲高い音と虚空さんの悲鳴が響き渡った。




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「…ごめんなさい…。」

「いいよ、そんなに気にしてないから。あとルーミア笑い過ぎ」

 氷塊を投げ付けてきたチルノの誤解を解くと意外なほど素直に謝罪してきたので僕はそう言って許しているのだが、さっきの僕の悲劇が余程面白かったらしくルーミアはお腹を抱えて笑っている。正直に言えば滅茶苦茶痛かった、こっちは笑い事ではない。結界の中へと戻りながらそんなやり取りをしていると綺羅が問い掛けてきた。

「そういえば虚空さん、大妖精さんは御一緒ではないようですがどうしたんですか?」

「あぁあの子は疲労で動けなくなっちゃったから家で寝かせてきたよ」

「大ちゃん倒れたの!大丈夫なの!」

 綺羅に問われそう答えた瞬間にチルノが僕に飛びつき胸倉を掴み前後に激しく揺さぶってくる。大切な友人だからだろう相当心配みたいだ。

「お、お、落ち着いて、本当に寝てるだけだから。この後ルーミア達と一緒に郷に行って顔を見に行けばいいよ」

「うん!分かった!ルーミア!」

 僕がそう言うとチルノは勢いよく僕を突き飛ばし今度はルーミアへと飛び掛るが流石はルーミア先生、飛び掛ってきたチルノの襟首を掴みその突進を止めてしまった。ちびっ子の扱いが手馴れてらっしゃる。

「全く少し落ち着きなさい。じゃぁ虚空私は郷に戻るけどあんたはどうするの?」

「僕は地子を送り届けてくるよ、流石にこれ以上先延ばしには出来ないしね」

「分かったわ、あぁそれと綺羅と百合の事なんだけど行く宛てが無い様だから郷に住ませてもいいわよね。」

 ルーミアがそんな事を言ってきたので僕は綺羅の方に向き直りながら、

「そうなの?全然構わないよ」

 と声をかけると何故か綺羅とルーミアは互いに顔を向き合わせた後声を上げて笑い出した。はて?何か面白い事を僕は言ったのだろうか?

「綺羅、言った通りでしょ二言返事だって」

 ルーミアが笑いながら綺羅にそう言うと綺羅も笑いながら「そうですね」と答え、僕の方に向き直りながら頭を下げてくる。

「御迷惑をお掛けするやもしれませんがお世話になります」

 この子は本当に真面目だね、そういう事だったら伝えておかないと。

「ルーミア、ちょっと郷の方に問題が起きてるんだ。だから二人は暫く神社に住まわせるって神奈子に伝えてもらえるかな?」

 それを聞いたルーミアは真面目な顔付きになり問い返してくる。

「…そういえば聞いてなかったわね、結局どうなったの?」

「うん、実はね―――」

 僕は郷の現状を伝え、先ほど言った様に地子を送り届ける為にルーミア達と別れた。別れ際に綺羅から念の為結界を出入りするのに必要な符を預かり、郷に向け飛び立つルーミア達を見送った後地子の家を目指し飛び立つ。辿り着いた先であんな目に遭うとは露知らず。




□   ■   □   ■   □   ■   □   ■   □   ■




「この悪漢め!思い知ったか!」

「だからお父様違うんです!違うんですってば!話を聞いて!」

「分かっている!この変態が人間の皮を被ったみたいな奴に何か吹き込まれたんだろう?この汚物め!」

「だーかーらー話を聞いてってば!」

「地子、怖かっただろうもう安心だ!すぐにこやつを成敗するからな!」

「駄目ですってばーーー!!」

 僕の前で微笑ましい親子愛?が繰り広げられており、縄で縛られ芋虫の様な格好で地面に転がされてる僕はそれを生暖かい視線で見ていた。そして視線を空へと向け「あぁ空が青いな。」と現実逃避を始める。
 どうしてこんな風になったんだっけ?確か地子の案内で住んでる町に辿り着き地子に言われるままその町の神社の方に向かうと神社の境内で数人の人物が何やら言い争っていて、その内の一人の男性が近付いていた僕達に気付くと「地子!無事だったのか!」と叫び声を上げながら駆け寄り地子を抱きしめたのだ。
 黒髪のツーブロック、黒い瞳でこの神社の関係者なのか白衣と浅葱色の袴を身に着けている。年齢は見た感じだと綺羅と同じ位かな?
 まぁここまでは感動の再会みたいな感じで良かったのだが、男性が僕に視線を向けて言い放った言葉が、

「貴様か!俺の可愛い娘を(かどわ)かしたのは!」

 その叫びと共に放たれた見事な飛び蹴りで僕は吹飛ばされあっという間に簀巻きにされたのだ。そして今に至る。
 今尚僕を断罪せんとする男性に必死になって「待った!」をかけている地子達の喧騒を聞きながら空を眺め今日起こった事を思い返してみる。只山菜を取りに行っただけなのにルーミアに蹴られ、郷を壊され、チルノに氷塊をぶつけられ、飛び蹴りをくらい、罵詈雑言を浴びせられ、簀巻きにされて芋虫状態。「今日の僕って不幸だよね、泣いてもいいよね」なんて事を考えていた。あ、そういえば山菜集めた篭を置いてきちゃったなどうしよう。

弦州(げんしゅう)、地子が見つかったと聞いて来たのですが……これはどういう事ですか?」

 僕が負の感情に襲われている所に新たな人物が現れる。茶髪のリラックスストレート、深い緑の瞳をした女性で服は黒袍(くろほう)に八藤丸文大文白の袴を身に着けておりこの神社の責任者だと思われる。
 弦州と呼ばれた地子の父親や周りの人物が礼を取り現れた人物に敬礼する。

名居(ない)様!こやつは我が娘を拐かした悪漢です「違います!助けてくれた恩人です!」と何やら地子に吹き込んでいるようで今から断罪する所なのです!「だから駄目だってば!名居様!話を聞いてください!というかこのアホお父様を止めて下さい!」俺の地子にこんな穢れた言葉を言わせるとは!もう許さんぞ!この薄汚れたボロ雑巾が!」お父様言い過ぎ!絶対後で後悔するから!」

 地子とその父の漫才にも見えるやり取りに名居と呼ばれた女性や周りの者達も若干引いていた。というか色々言われ過ぎて流石の僕の心も砕けそうだ。

「…とりあえず落ち着きなさい弦州、地子話を聞かせてもらえるかしら?」

「名居様!なりませ「お父様はもう黙ってて!実は――――」

 名居と言う女性のお陰で何とか誤解は解けそうだ。それにしてもあぁ本当に今日は空が青いな、それに比べて今の僕の心は傷ついて血の色みたいに真っ赤だよ。

「……それは新手の遊びか七枷?」

 突然声をかけられ視線を向けると意外な人物が僕を見下ろしていた。

「これが遊びならどんなに幸せな事か…お願いこの縄解いてよ月詠」




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『誠に申し訳ありませんでした!!』

 神社の社務所の奥の広間に名居と呼ばれていた女性を始めとするこの神社の関係者が上座に腰掛けている月詠の隣に居る僕に向かって深々と土下座をし謝罪の言葉を搾り出す。特に地子の父親は知らなかったとはいえあれだけ罵詈雑言を吐いた事を気にしているのだろう、畳にめり込むんじゃないかと思う程に頭を床に擦り付けている。
 隣りに居る月詠は肘掛に体重を預けながらこの状況が可笑しいのだろう、口を押さえて笑い続けていた。あの後地子から僕の事を聞かされた名居達は蜂の巣を突いたかの如く慌てふためき大混乱に陥ったのだが、月詠が見事に鎮め僕を客としてこの広間に通させた。
 この神社は月詠を祀っている神社の一つで今日は偶々此処に居たのだそうだ。そして名居と呼ばれていた女性は『名居 穂波(ない ほなみ)』と言ってこの神社の神官の責任者で、地子や父親の『比那名居 弦州(ひなない げんしゅう)』は彼女に仕えている一族であり神官ではないらしい。

「恩人であり七枷神社の祭神様でもある貴方様に我が家に連なる者が御無礼を働き誠に持って申し訳なく責任者として如何様な処罰も受ける所存です!ですので今回の咎は私一人が償いますゆえ一族の者達には寛大な御処置を!」

「なりません名居様!これは私が被るべき罪です!七枷様咎は私にございます!娘を助けて頂いておきながら御無礼の数々怒り心頭とは存じますがどうか!どうか!処罰は私だけになさってください!名居様や一族には何ら罪はありません!お願い致します!」

 穂波や弦州、その他の者達が責任は自分が取る!と主張し部屋が喧騒に包まれる。正直に言えば怒っても気にしてもいない。いや気にはしてるかな?ちょっとだけ。
 僕がどう言おうか迷っているのに気付いたのか月詠が口を開く。

「静まれお前達!七枷は寛大だ、今回の事はお咎め無しだと言っている。反論は許さん享受しろ」

 月詠の一声に部屋にいた全員が一瞬で口を閉ざし静寂を造り出した。穂波や弦州などは納得は出来ていない様だが月詠の命令には逆らえないらしくこれ以上何も言わなかった。

「それはそうと七枷、私の眷属が世話になったな礼をいうぞ」

 視線を穂波達から僕の方に移しながら月詠が頭を下げた。

「気にしないでいいよ成り行きだから、君達も気にしない事」

 僕が月詠と広間に居並ぶ穂波達にそう言葉をかけると、月詠は小さく笑い穂波達は再び頭を下げる。まぁこの話はこの辺りで終わらせないとこの人達は引きずりそうだね。

「でも此処で月詠に会えたのは在る意味運が良かったよ、実は相談したい事があるんだ」

 僕がそう言うと月詠は何かを察したのか穂波以外の者達に退室を命じた。そして最後の一人が退室し部屋の戸を閉めたのを確認すると改めて僕の方に向き直り口を開いた。

「お前が真面目なのも珍しいな。一体何があった?」

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 月詠達に僕が此処に来るまでの経緯を説明すると、案の定というか何というか月詠が暗く嗤いながら怒りを露にした。神を謀ろうとした柳杉屋、七枷の郷の破壊を手引きした百鬼丸、そんな連中と繋がっている思われる各都の警邏や行政、これだけ揃えば神として許容できるはずがない。

「先ずはその柳杉屋、だったかそこを潰すか!その次に腐った役人共!最後はふざけた真似をしてくれた妖怪共だ!名居!すぐに用意をしろ!」

 月詠は立ち上がるとそんな叫び声を上げ穂波に命令を飛ばすが、僕はそれに待ったをかける。

「月詠ちょっと待って、その件については神奈子と話し合っって決めてる事があるんだ」

「決めている事だと?」

「うん、やるからには“徹底的に潰す”ってね。悪いんだけど月詠には別に頼みたい事があるんだ」

 僕は月詠に幽香の花畑に拘束している妖怪達を回収して知っている情報を吐かせてほしい、と頼むと月詠は快く承諾してくれた。まぁこんな機嫌が悪い月詠に拷問される妖怪達は哀れだな、なんて同情をしてみるが結局は自業自得か。
 花畑の場所は地子が知っている事を伝え結界が張っているので出入する為に綺羅から預かった符を渡し、僕は神社を後にして七枷の郷に向け日が傾き始めた空へと飛び立った。
 
  
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