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闇夜の兵士達 ~戦争の交響曲~

作者:SOP
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第1部
第1楽章 内乱
  第1話 後方基地 

 
前書き
3/16日。
修正を加えました。 

 
 山田絢一等軍曹は戦闘服を身に付けると宿舎を出た。戦闘服はデジタル迷彩だ。財務省曰く、マルチカムは高すぎる為に却下、だそうだ。
 この基地はなだらかな山に沿うように作られており、そこから街が見えた。もちろん市民もだ。そんな所に基地があれば、門前で人間の鎖などと言う訳の分からない変な物が出来そうだが、それを行いそうな人間は、すでに“夜の霧”によって行方不明になっていた。
 この“夜の霧”とは、敵性工作員、及びその協力者をあぶり出し、影で葬り去っている者達の事と言われ、まるで神隠しにあったように人が消えていた。
 彼らが所属している組織は二つ在ると言われ、一つは国防省、もう一つは内務省だ。
 内務省は国内の治安を維持する為に、自前の軍事組織を有しており、それらは内務省国内軍と呼ばれていた。彼らの代表的な活動を挙げれば、防諜と治安維持を主としており、彼らによって国防省の高官が処刑されることもあった。その人物が本当に敵と繋がっていたかは、今となっては分からないが……。まぁ、内務省の徹底した監視のお陰で、機密情報が外部に持ち出されることは無い。
 だが、内務省と国防省の関係は劣悪で、実際に軍事衝突したこともあった。また、戦争と共にさらに悪化し、味方の中の敵、と言っても過言ではない。
 絢は何時も疑念にしていた事があった。義父は内務省の人間だが、どうして私を彼が敵対している連邦軍の幼年学校に入学させた事だ。間諜や牽制の意味合いも考えたが、その幼年学校に裏は無かった。全く、分けが分からないよ。
 そう思いながら、絢は宿舎を出てランニングをしていると、後ろから部下達が走ってきた。

「おはようございます、一等軍曹!」
「おはようございます!」
「おはようございます、姉御!」
「おはようございます、鬼婆殿!」
「おはよう、諸君!!
 そして、最後に姉御と鬼婆って言った奴、後で車庫裏に来いやっ!!
 誰が姉御と鬼婆だ!!!!
 たっぷりしごいたる!!!!!!!!!」

 絢は後ろから走ってきた部下達に、挨拶を交わしながら抜かれて行く。元々、彼女はゆっくりと走るのが好きだったからだ。必死に走るのは銃弾に追われている時だけで十分だ。
 もっとも、彼女は18歳だったが、追い抜いていった部下達は皆、彼女より年下の志願兵達であり、基礎訓練しか受けていない。それだけでも一応使える兵士になるのから恐ろしい事だ。
 だが、まだ若い為か色々と面倒を起こす。先ほどの事もその一つにしておこう、うん。後で徹底的に訓練してやる。まぁ、あいつ等と比べたらマシだ。絢はそう思いながら、宿舎へと向かう。

「はぁ……」

 絢は溜息を吐きながら目の前を見た。閑散とした宿舎。当然だ。殆どの兵士は朝の自主訓練をしている筈だ。だが、例外が二人。少女はそう思いながら宿舎へと入り、目的の部屋へと向かう。
 絢は静まり返った刑務所の廊下を、死刑執行人が歩くように足音を響かせながら進む。すると、微かに二人の少女の声が聞こえてきた。
 やっぱりか……。そう思いながら絢は声の聞こえる扉の前に立った。その声の主を彼女は知っていた。自分の部下なのだから当然だが。
 相も変わらず、片割れの寝起きが悪いようだ。相方が必死に起こしているが効果なし、と。そう思いながら絢は静かに部屋の中へと潜入した。

「優ちゃん~、もう朝だよ~。早く起きないと山田さんに怒られるよ~」
「やだよ~、冬ちゃん。もうあと一年……」
「どれだけ寝る気なの!?」
「う~ん……。じゃあ、十年~……」
「増えてる!?
 逆に増えてるよ!?」
「ほう、仁野一等兵……。君は永眠したいようだな……」
「あっ……。ぐ、軍曹殿…?」

 ギギギ、と言う音が響き渡りそうなほど、起こしていた少女の頭がぎこちなく動き、絢のほうに向く。その表情には何時の間に、と言う驚愕と、これから行われる刑の恐怖が入り混じっていた。

「篠宮特技兵、君は相方を起こそうとしていた様だが、駄目だったようだな。怠惰な事だな。同罪だ」

 絢は、布団から出てこない優ちゃんこと仁野優奈一等兵と、彼女を起こしていた冬ちゃんこと篠宮冬香特技兵の後ろに立ち、握り拳を振り下ろした。
 
「「ギャ~ッ!」」

 凄まじい音と少女達の悲鳴が、宿舎へと響き渡った。彼女達の頭から白い煙が立ち上りそうなほど良い音が響き、打撲痕が見事に出来上がる。彼女の打撃力には定評があり、その拳骨は良く知られていた。

「さっさと起きないのがいけないのだ、この馬鹿もん!!
 とっとと動け!!!」

 絢はそう言いながら仁野一等兵の掛け布団に手を掛けて剥ぎ取った。だが、仁野一等兵のシャツは脱げかけており、実にけしからん光景が広がっていた。絢はとっさに掛け布団を投げ返し、怒鳴りつける。

「さっさと着替えて食堂に来い!
 もうすぐ朝食だ!!」

 絢は顔を真っ赤にさせて、逃げるように部屋を出て行く。なお、彼女に恋愛経験は無い。一方、その二人は呆然としていた。

「軍曹殿は、どうしたんだろうね?」
「わかんない……。シャツが肌蹴ていたから?」
「あぁ、成る程~」
「でも、彼女は“未だ”だね……。“記憶”の反応とまるで違う。もう少し“時間”が必要」

 和やかに話していた二人の少女の雰囲気が変わる。例えるならば、徐々に水が溢れてくる感じだ。

「うん、彼女は“出来上がって”はいない。でも“時間”はもう無い……」
「私達は最善を尽くすだけだよ……。さぁ、軍曹に怒られるのは御免だから準備しよう!」
「あとだけ3年寝る~……」
「だぁ~っ……」
  
 結局、二人が食堂に着いたのは、食堂の閉まるほんのギリギリ前であった。それでも残さずに食べたのだから恐ろしい。 
 

 一方、山田絢一等軍曹は考え込みながら宿舎を歩いていた。先ほどの二人に関してだ。 
 
「はぁ……アイツの脱ぎ癖をどうにかしなければ、夜這いするような輩が現れるぞ……。ひゃぅ!?」
「お疲れだな、山田一曹。ほれ、おごりだ」
「あ、ありがとうございます」

 少女は驚いたように自分の上官―――三村隼也少尉から程よく冷やされた缶コーヒーを受け取る。
 
「どうだ、彼らの様子は?」
「ええ、古参と新兵の溝もだいぶ無くなってきたと思います。ただ、まだ連携が……」
「ほんの少し前まで、お前もピカピカの新人だと俺は思っていたんだが、それが今では、我が小隊の一等軍曹殿だ。まぁ、幼年学校から見込みはあるとは思っていたがな」
「そう言うのはどうかと思いますが、教官殿?」
「これは失礼したな」
 
 三村はそう言うと豪快に笑った。だが、その笑みには明るさは無かった。絢にとって彼は幼年学校からの教官であり、第5師団からの上官だった。第42師団の時の戦友はもう居ない……。

「少尉、補充は未だですか?
 いい加減、遅いと思うのですが……」
「ああ、分かっている。もうすぐ補充が来る」
「それにしても、だいぶ減りましたね……」
「ああ、お前が来た頃には、小隊本部に8名、8名の編制の小銃分隊が3個、支援分隊が12名で44人全員が揃っていたが、今となっては定数より二人少ない小銃分隊、半分になってしまった支援分隊。定数通りなのは小隊本部だけで今では32人。しかも殆どが新顔とは笑えるね」
「ええ、何時も殿を勤めた所為で、この旅団は損失が大きかったですから。お陰で、この旅団は再編制中ですよ。一つの大隊が壊滅するとは思いませんでしたけど……」
「あぁ……、アレは酷かった……。脱出できたから良かったものの、包囲されたからな……。押し潰される寸前だったらしい」
「私はそんな目に遭うのはごめんですね。誰もがそうでしょうけど……。そう言えば、衛士の死の八分間が、普通の歩兵にも通用するとの噂を、少尉殿は聞いた事がありますか?」
「ああ、あの初の実戦から、8分間生き延びれば生きて帰れる、って言う衛士のあの話か?
 全く、人間と言う存在は、どうしてそんな事を容易く信じ込むのか……。どの兵科に居るにしろ、結局はマーフィーの法則だよ。自分の起こした行動の結果、敵に狙われ、命を落とす事になる。死神は皆、平等に訪れるのさ。衛士の場合は戦闘開始から8分間の間で戦死するのが多いが、それだけ戦闘が激しいからだ。その分、8分間で生き残る衛士は全てを学ぶんだ。
 まぁ、全ての兵科に共通して言える事は、一度実戦を経験すれば訓練は無用だ。それでも、熟練兵士でも死ぬときは死ぬ。死の八分間を乗り越えたって、生きて帰れる保証はないのに、な……。戦場を渡り歩くという事は、生と死の狭間を綱渡りしているのと同じだ」 

 三村はそう言うと再び哀しそうな表情を浮かべた。死んだ仲間達のことを思い出しているのだろう。彼は幾多の仲間の死を見てきたのだ。
  
「そうだった。食事の後にブリーフィンだ。俺達の出番らしい。どうやら旅団は“仕事”に出るようだ……」
「任務なんてまだ無茶ですよ。まだ再編制中です!?」
「その通りだ。ある程度の安全を保証ができるそうだが、詳細は不明だ。無事に帰れると良いが……。どうやら、我々は司令部にとって、大きすぎず、小さすぎずのお手頃な兵力らしい。一仕事して欲しいようだ。部下を纏めといてくれ。すぐに出発するかもしれない。全く迷惑な事だ」
「分かりました。旅団とは言っても、三分の二程度の兵力でしょうね」
上層部(連中)の考えている事は分からん。反政府勢力殲滅計画の一環みたいだし、補充兵を実戦に馴らす為じゃないか?
 まあ、八百万の神のご加護があらんことを」
「神だけでは足りませんよ、悪魔の加護すらなければ、ね……。では、野戦レストランに居ますので」
「それもそうだな……。んじゃ、また後でな」

 三村はそう言った後、屋上へと続く階段を登っていった。少女はそれを見送ることなく、その場を去った。行き先は食堂だ。絶望に打ちひしがれながら、絢は歩みを進めた。野戦レストランは数少ない楽しみの一つだが、今はそんな気にはなれなかった。経験則で言えば、この任務は外れだ。


 三村俊也少尉は外へと出ると、櫓の中に入った。兵士達が中で街を監視している。特に問題はないようだ。
 兵士達が三村に向かって敬礼すると、彼は少し哀しそうな表情を僅かに浮かべ敬礼する。櫓の兵士はまだ訓練を終えたばかりのヒヨッコだった。まだまだ戦争に出すには早すぎる。

「緊張しているのか、新兵諸君?」
「いえ、自分らは大丈夫です。少尉殿」

 兵士の一人がそう言ったが、彼にはそれが虚構だと分かった。兵士達の目には落ち着きが無く、呼吸も荒い。前線に配備されたての案山子の表情だった。
 
「嘘だな。少し手が震えており、呼吸が荒いぞ。ここに来て何日目だ?」

 三村がそう言うと兵士達は少しビクつき、また一人が口を開いた。見ているだけで心配になってくる連中だ。

「三日目になります、少尉殿」
「そう緊張するな。そんなに硬くなっていたら、すぐに集中が途切れる。精々、武装勢力の攻撃くらいさ」

 三村はそう言いながら笑うと、装甲板の影から双眼鏡を覗く。そして蘇る物量の波。
 奴らの兵力は圧倒的だった。こちらが一個師団で守っていたとすれば、敵は最低でも3個師団を差し向けてくるような有様だった。
 2機の戦闘機が基地の上を飛び越えて、戦場へと向かっていった。
 生憎と機種は分からなかったが、2機編成と言う事は分隊、つまり中間地帯手前の哨戒任務と言う事は察しがついた。
 高度を上げすぎて敵のレーダーに捕まらなければ良いが……。三村はそう思うと基地の中に戻っていった。レーダーに捕捉されて堕ちた航空機を、彼は何度も見てきた。自分自身も堕ちた事があるのだから当然だった。

 
 

 
後書き
3,4話を統合しました。 
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