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Element Magic Trinity

作者:緋色の空
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真夜中討伐戦


ここは魔導士ギルド、化猫の宿(ケット・シェルター)
ネコを模したテントを中心に集落が存在する。

「みんなー、大変だァー!ニルヴァーナがここ向かってるぞ!」
「何!?」
「連合軍の作戦は失敗か!?」
「あのジュラやエルザ、ティアもいたというのに・・・」

慌てた様子で駆け込んできた男の言葉に、ギルドのメンバーは騒然とする。
剣を背負った別の男が奥に座る老人に声をかけた。

「マスター!」
「なぶら」

マスターと呼ばれた老人はコプコプ・・・とテーブルに置いたグラスに酒を注ぎ、ごぎゅごぎゅと飲んだ。

「えーーーーーーーっ!」
「ラッパ飲みすんなら注ぐなよ!」

グラスではなく、瓶に入った酒をラッパ飲みした。
グラスの酒は一滴も減っていない。

「なぶら」
「てかニルヴァーナが向かって・・・」
「何!?誠か!?」
「飲み干してから喋ってくれ!」

化猫の宿(ケット・シェルター)のギルドマスター『ローバウル』は目を見開いて口を開いた。
が、酒を完全に飲み干していなかった為、口からぐばーっと滝のように流れ出ている。
思わずメンバーの1人がツッコみを入れた。

「ニルヴァーナがここに向かって・・・これは運命か偶然か、なぶら・・・」
「ウェンディもアランもココロも無事だといいんだが・・・」
「ああ・・・いざって時はオレらじゃ役に立てねえし・・・」

不安そうに呟くメンバー達を余所に、ローバウルは瓶の酒を飲み――――――

「安心せい」
「飲めってちゃんとー!」

再びぐばーっと吐き出した。
それには構わず、ローバウルは天を指さす。

「光の魔力は生きておる。なぶら大きく輝いておる」
『オオッ!』

その言葉に歓声を上げるギルドメンバー。
が、やはり完全に不安が取り除けた訳ではない。
ニルヴァーナが動いている限り、安心はやってこないのだ。

「けど、これは偶然じゃないよな」
「オレ達の()()を知ってる奴がいたんだ」
「だからここを狙って」
「なぶら・・・」
「長ェ付き合いだが、未だに『なぶら』の意味が解らん」

先ほどからローバウルが呟く『なぶら』の意味は、どうやら誰にも解らないらしい。
ざわざわとギルドがざわめき出した。

「マスター、避難しようぜ!」
「ニルヴァーナは結界が防ぎきれねえ!」

逃げようと提案するギルドメンバー達。
すると―――――

「バカタレがァ!」

くわぁっと目を見開き、ローバウルが喝を飛ばした。
その気迫にギルドメンバー達はビクッと震える。

「アレを止めようとなぶら戦っている者がいる。勝利を信じる者は動く必要などない」

ローバウルの言葉に、ギルドがしんと静まり返る。
コト、と小さく音を立て、ローバウルは酒瓶をテーブルに置いた。

「なんてな・・・」

そして、呟く。
どこか悲しそうな表情で。

「時が来たのかもしれん。ワシ等の罪を清算する時がな」










重々しい音を立て、ニルヴァーナが1歩1歩足を進める。
そのニルヴァーナの中央、1番背の高い建物の上、王の間にナツ達はいた。
現在、ニルヴァーナの止め方を必死に探している所である。

「止めるって言ってもどうやって止めたらいいのか解んないんだよ」
「壊すとか」
「またそーゆー考え!?」
「こんなでけーものをどーやってだよ」

真面目な顔をしてハッピーに答えるナツの提案は呆れた表情のルーシィとグレイによって却下された。

「やはりブレインに聞くのが早そうだな」
「簡単に答えてくれるかしら」
「あ、それなら問題ねーぞ」
「は?」

ジュラとシャルルの会話にアルカが割って入る。
不思議そうな表情を浮かべる全員に、アルカはぐいっと腕を引いてティアの肩を掴んだ。

「こっちにゃ物を聞き出すのが上手いティアがいる。相手が隠してる事全部暴露したくなっちまう、コイツにしか出来ねェ技があるんだよ」
「何で私がそんな事しないといけないのかしら?」

不機嫌そうに眉を寄せるティア。
アルカの言葉を聞いた妖精メンバーは思った。
『ああ・・・脅すんだな・・・』と。

「もしかして、ジェラールなら・・・」
「ウェンディっ!ジェラールさんの話は今・・・」
「あっ・・・」

アランに言われ、ウェンディは慌てて口をつぐむ。
ジェラールを見たナツやハッピーの反応からして、ナツ達がジェラールの事をよく思っていないのは知っている。しかも、エルザに酷い事をしたという事も。

「ウェンディ、何か言った?」
「ううん・・・何でもない」

首を傾げるルーに、ウェンディは首を横に振る。

「私・・・ちょっと心当たりあるから探してきます」
「ウェンディ!待ちなさい!」
「おい!」

グレイが呼び止めるが、ウェンディと彼女を追うシャルルはすぐに王の間から姿を消した。

「ったく・・・!僕達がウェンディを追います!」
「ナツさん達はここにいてください!」
「アラン!ココロ!」

それを追ってアランとココロも飛び出して行く。

「どうしたんだろ?」
「うむ」
「・・・」
「どーしたのティア」
「別に」

不思議そうに王の間の入り口をルーシィとジュラは見つめる。
表情が険しいティアにルーが声を掛けるが、ふいっと目線を逸らした。

(ウェンディ・・・今、ジェラールって言った?何でアイツが・・・)

耳に飛び込んできた名前は、かつて敵対した男の名前。
エルザを傷つけた大悪党―――だが、ティアが重要視しているのはそこじゃなかった。
自分達を庇って死んだ男を思い出し、ティアはぎゅっと拳を握りしめる。
すると、声が響いた。

〈皆さん、聞こえますか?〉
『!』

響いてきた声に反応を示す。

〈私デス、ホットアイデス〉
「リチャード殿!?無事なのか!?」
「念話!?大勢に」
「誰だ!?」
「・・・」
〈残念ながら無事ではありませんデス〉

聞こえてきた声の主はリチャード。
唯一『リチャード』としての面識がないナツは戸惑ったような声を上げる。

〈ミッドナイトにはやはり叶わなかった。皆さんの力を合わせてミッドナイトを倒してください。奴を倒せばニルヴァーナへの魔力供給が止まり・・・この都市は停止するハズ〉
「生体リンク魔法で動いてやがったのか・・・」
「ふえー」

リチャードの言葉に納得する一同。
が、その中で唯一ティアだけが射抜くような瞳で空を睨んでいた。

〈奴は王の間の真下にいマス。気を付けてください・・・奴はとても、とても強いデス〉
「リチャード殿・・・」
「この真下!?」
「おし!希望が見えてきたぞ」
「強い奴か・・・燃えてきたぞ」
「ナツ・・・止める為だよ」

何か間違っているナツにハッピーがツッコむ。
そんな中、ティアだけはヒラヒラと手を振っていた。

「はいはい、いってらっしゃい」
「は?」
「え?」

面倒そうというか何というかの態度にナツ達の目線がティアに向く。
ティアはタン、と軽い足取りでヴィーテルシアに跨ると、呟いた。

「ウェンディ達を追うわよ。ヴィーテルシア、飛べる?」
「問題なしだ・・・やっとティアを乗せて飛べるな」

バサッと翼を生やし、一瞬で宙へと飛ぶヴィーテルシア。

「おいティア!今から強い奴倒しに行くんだぞ!?」
「だからアンタ達だけで行きなさいよ。私は自分から落とし穴に引っかかるほど不用心じゃないんでね」
「は?どういう・・・」
「それじゃあ!」

ナツの言葉にティアは意味不明な一言を残すと、ウェンディ達を追うべくヴィーテルシアと共に飛んで行った。

「・・・よく解んねぇけどさァ、オレはエルザ探しに行ってくるぞー」
「アルカ殿!?」
「ん?だってよォ、エルザ探してこの真下連れてった方が戦力になるだろ?だから」

パチン、と指を鳴らす。
すると、アルカの背中に熱気を纏う紅蓮の翼が広がった。
悪魔を思わせる翼を軽く揺らし、地面を軽く蹴る。

「んじゃ、そっちは任せたぞ!ルー!」
「OK!」

そして下へと落下していった。
建物すれすれをアルカは飛んでいく。

「という訳で、とりあえず・・・」
「行くぞ!」

ルーの言葉に続けるように、ナツが叫ぶ。
こうしてナツ達はリチャードからの情報を頼りに王の間の真下へと向かっていった。









「6つの祈りは残り1つとなりマシタ。必ず勝って・・・ニルヴァーナを・・・止めるのデスヨ」

ナツ達に念話を送っていたのは、リチャードではなかった。
ジュラに敗れた――――ブレインだったのだ。

(くくく・・・ただではやられんぞ。ただではな・・・)










まさか念話の主がリチャードではなくブレインだとは思いもしていないナツ達は、ブレインの言葉通りに王の間の真下へと向かっていた。

「あそこか!」
「扉だっ!」
「よーし!」

階段を下っていると、巨大な扉が見つかった。
一同は扉へと駆け出す。

「出て来い、居眠りヤロォ!」

先頭を走り、1番最初に扉の前へ辿り着いたナツが躊躇う事無く扉に手を掛け、開く。
勢いよく開かれた扉から――――――目も開けていられないような、眩い光が溢れる。

「え?」
「これって・・・!」
「罠だーーーーーーー!」

ジュラが叫んだ、瞬間――――







――――――――王の間の真下で、大爆発が起こった。











「今の爆発は」
「王の間の方だ」

ジェラールと行動を共にするエルザは、突然響いてきた爆発音に、王の間の方に目を移す。
そこに、つかつかと歩み寄る黒い影。

「父上も人が悪い・・・ボクの楽しみを奪ってしまうんだからね」
『!』

笑みを浮かべ、歩いて来るのは最後の六魔。
イヴ、レン、リチャードを倒したミッドナイトだった。

「もう君達が最後のエモノだ。楽しませてほしいな」

ミッドナイトを睨みつけるエルザ。
すると、その前にスッと腕が伸ばされる。

「下がっていてくれ、エルザ」
「ジェラール」

笑みを浮かべるミッドナイト。
エルザを下がらせたジェラールは、鋭くミッドナイトを睨んだ。










「うう・・・痛え・・・」
「生きてんのか・・・オレ達・・・」
「あい」
「何とか~・・・」
「どうなってるの・・・?あたし達、あんな大爆発を喰らって・・・痛!」

ブレインの罠に引っかかったナツ達は、あれほどの大爆発を喰らいながらも無事だった。
立ち上がろうとしたルーシィは、ゴツンと天井のようなものに頭をぶつける。

「オレ達、埋まっちまって・・・」
「ち・・・違うわよ・・・コレ」
「アルカの魔法・・・?いや、違うか・・・」

ルーシィが頭をぶつけたのは、岩のような防壁だった。
それを見たルーは土を操る魔法を扱うアルカを思い浮かべるが、アルカは別行動をとっている為その考えは消える。

「ぷはー!」

ナツは岩を突き破り、顔を出す。
そして・・・目を見開いた。





そこには――――――――両腕を広げて立つ、ジュラがいた。






まるで、ナツ達を守るかのように。





「オッサン!」
「ジュラ・・・」
「まさか・・・あの爆発を、1人で・・・」
「あたし達を守って・・・」

建物の壁を簡単に破壊するほどの大爆発。
それからナツ達を守り、岩の壁を作り、爆発をたった1人で受け止めた。

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」
「おっちゃ~ん!」

ナツが叫ぶ。
ジュラの口角が上がった。

「元気がいいな、若い者は」

そして、フラッと倒れ込む。

「無事・・・で・・・よか・・・った・・・」

ドサッと、ジュラが倒れる。
それを見たルーシィ達は慌ててジュラへと駆け寄った。

「オッサン!」
「しっかりしてー!」
「ジュラー!」
「くっ・・・大空治癒(アリエスヒール)!」

が、駆け寄った時にはジュラは完全に意識を手放していた。
自分の魔力残量を確かめ、ルーは顔をしかめながらもジュラの傷を治癒する。

(ダメだ・・・今の僕の魔力の量じゃ、傷を薄くする程度・・・意識までは回復できない!)

悔しそうに唇をかみしめるルー。

「・・・くそーーーーーーーー!」

その部屋に、ナツの怒りの叫び声が響いた。










「やっぱり、化猫の宿(ケット・シェルター)に向かってる!」
「ウェンディ・・・悪いけど、これ以上は飛べないわ」

ナツ達と別れたウェンディは、シャルルに抱えられ上空からジェラールを探していた。

「うん!ごめんねシャルル。歩いて探そう、ジェラールを」
「あんたとココロ、鼻いいもんね」

魔力切れによりこれ以上飛べないシャルルに無理をさせないよう、2人はゆっくりと降下し、地面へ降り立つ。

「ウェンディ!」
「どうだった?」

そんな2人を、地上で待っていたアランとココロが迎えた。

「やっぱりニルヴァーナは化猫の宿(ケット・シェルター)に向かってるよ」
「となれば・・・一刻も早くジェラールさんを探し出して、止める方法を聞かないと」
「うん!」

ニルヴァーナを止める方法は、ニルヴァーナの封印を解いたジェラールが知っている。
そう判断したウェンディ達はジェラールを探し始めた。

「でも・・・あのジェラールは、私の知ってるのとは少し違うニオイがする」
「え、そうなの?」
「私はまだ会ってないんだけど・・・どういう事?」

ウェンディの言葉にアランとココロは首を傾げる。

「と・・・とにかく、ジェラールを探すのよ!そいつなら止められるかもしれないんでしょ?」
「うん!」
「行こう!」

シャルルの言葉に3人は頷き、駆け出す。

(無事でいてね、ジェラール。あなたは私の事忘れちゃったみたいだけど、私はあなたの事、忘れた日なんて1日だってないんだよ)










「・・・いないわね」

上空から鋭い睨みを効かせる少女が1人。
身の丈を超える翼を生やした狼、ヴィーテルシアに跨るティアだ。

「ティア」
「何」
「・・・言いにくいのだが、そろそろ魔力が危うい。今日は流石に飛び過ぎた」
「そう。じゃあ適当なトコで降りて」
「了解」

ティアの言葉にヴィーテルシアは軽い足取りで降り立つ。

「・・・にしても、ティアは目がいいな」
「は?」
「上空からウェンディ達を探すなど、普通の視力では無理だろう。距離もあるし、第一アイツ等はまだ小さい」

ヴィーテルシアに言われ、ティアは暫し黙り込む。
が、すぐに口を開いた。

「ま、視力には自信があるからね。さ、早くアイツら探すわよ」
「了解だ」

ニルヴァーナ内をティアは駆ける。
その表情は、晴れていなかった。

(気づかれてないはず・・・ただ、ヴィーテルシアは『普通より目がいい』と思ってるだけ・・・)











エルザの目が見開かれていた。
その目に映るのは、ジェラールとミッドナイト。
もっと詳しく言えば―――



――――――ミッドナイトに敗北し、ボロボロになって倒れるジェラールと。


――――――掠り傷1つない状態で立つ、ミッドナイト。




「哀れな道化師」

倒れるジェラールに目を向け、ミッドナイトは呟いた。 
 

 
後書き
こんにちは、緋色の空です。
はい、解ってますよ言いたい事は・・・。
「何でナツとティアが別行動なのーっ!?」って事でしょう、そうなんでしょう!?
何故か・・・そんなの決まってるじゃないですかっ!

ティアは自分から落とし穴に引っかかるほど、不用心じゃないんですよ!

・・・理由になってるだろうか。

感想・批評、お待ちしてます。
ゼロとの戦い・・・ナツとティア共闘もいいけど、ティアの力は次の過去編で出す予定だしなぁ・・・。 
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