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Element Magic Trinity

作者:緋色の空
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聖十のジュラ


ブレインが目を見開き、ジュラを見る。
表情1つ変えず、ジュラはブレインを睨みつける。

「強ェェ!」
「凄い!」
「ほぇー・・・」
「オイオイ・・・ジュラってこんなに面白れぇ奴だったのか!?」
「これがマスターと同じ聖十の称号を持つ者・・・」
「一瞬にしてこれ程の魔法を・・・」
「ジュラさん、凄いです・・・」
「・・・」
「う・・・うぷ・・・」

初めて見るジュラの実力。
それを目の当たりにしたグレイとルーシィは声を上げ、ルーは呆然と呟き、アルカがいつもの調子で驚き、ハッピーとヴィーテルシアがゴロンと体制を変え、ココロが瞬きを繰り返し、ティアは少し目を見開いたまま己の身を抱き、ナツが苦しそうに呻いた。

「なるほど・・・少々驚いたが、聖十の称号は伊達じゃないという事か」

口元の血を拭いながら、ブレインは立ち上がる。

化猫の宿(ケット・シェルター)より近いギルドはいくらでもある。わざわざそこを狙うからには特別な目的があるからであろう」
「これから死ぬ者が知る必要はなかろう」

そう言いながら、ブレインは持っていた杖を掲げた。
その先に怨霊のような魔力が集まり始める。

「あの魔法は!」
常闇回旋曲(ダークロンド)

ルーシィが叫ぶ。
放たれた魔法は迷う事無く真っ直ぐにジュラへと向かっていく。

「岩鉄壁!」

ジュラが叫んだ。
それと同時に地面から複数の岩の柱が現れ、身の丈を遥かに超える壁を造り出す。
大きな音を立てながら岩の壁はブレインの魔法を完璧に防いだ。

「おおっ!」
「凄いっ!」
「かかったな」

それを見たグレイとルーは歓喜と驚愕の混じった声を上げるが、いつの間にかブレインはジュラの背後へと回っていた。

「やばっ!」
常闇奇想曲(ダークカプリチオ)!」

続けて放ったのは回転するレーザーのような魔法。
対するジュラは先ほどの壁を作っていた岩の柱の1つを操って曲げ、ブレインの魔法を防ぐ。

「岩が曲がった!?」
「そんな事が・・・!」

ハッピーとヴィーテルシアが驚愕する。

「無駄だ!常闇奇想曲(ダークカプリチオ)は貫通性の魔法!そんな岩ごと貫いてくれるわァ!」
「!」

ブレインの言葉通り。
ガリガリと音を立てて常闇奇想曲(ダークカプリチオ)はジュラの岩を削っていき、ズゴォッと貫通してジュラの目の前まで迫る。

「ふん!」

ジュラは右手を地面に当てた。
貫通した岩はぐにゃっと曲がり、常闇奇想曲(ダークカプリチオ)の軌道を無理矢理上空へと変える。

『!』
「!」

まさかの回避方法に妖精メンバーもココロもブレインも目を見開く。
ティアは信じられないものを見るかのようにゆっくりと瞬きをした。

「はァ!」
「ぐおっ!」

ジュラが左掌を向ける。
するとガードに使っていた岩が分解され、砕けて出来た複数の岩がブレインへと直撃していく。
しかし・・・ジュラの攻撃はそれだけで終わらない。

「がっ!はぐ!な・・・何だ、これは・・・!?」

ブレインに直撃する岩。
その1つ1つが磁石に張り付く砂鉄のように、ブレインに纏わりついていく。

「・・・!」
「岩で閉じ込めちゃった・・・」
「何するつもりだろ・・・」

声すら零れない程に、ブレインは岩の中へと閉じ込められる。
それを見たルーシィとルーは呟く。
鋭く前を睨むジュラは―――両手を合わせた。




「覇王岩砕!」




「うあ゛あ゛あ゛あ゛っ!」

ブレインを閉じ込めた岩が中から爆砕する。
回避不能の攻撃に、ブレインは断末魔の叫びを上げて吹き飛ばされた。

(リオンが『さん』付けで呼ぶ訳だ・・・)

プライドが高いというか、自分こそ最強だと思い込むというかな性格のリオンが『さん』付けで呼ぶほどの実力を目の当たりにし、グレイの表情には笑みさえ浮かんでいた。
ルーシィとルーは言葉すら出てこないのか目を見開いている。

「スゲェ・・・何だよ、これ・・・」
「相変わらず強いわね・・・ジュラさん」
「相変わらず?どういう事だよ、ティア」

呆然と呟くアルカは、隣で声を零すティアに目を向ける。
その言葉にティアはゴクリと唾を呑み込んで口を開いた。

「・・・去年くらいだったかしら。私、マスターとギルドマスターが集まる食事会に行ったの。その時ジュラさんも来てて、少し手合わせをする事になったんだけど・・・勝てなかった。あんなに一方的な敗北は初めてだわ」

アルカは目を見開いた。
ティアはギルド最強の女問題児と呼ばれ、実力より先に起こした問題が目立ってしまう為印象が薄いが、その実力は単純な攻撃力だけならエルザと並ぶ(エルザは鎧で防御出来る為、総合的にはエルザの方が強い、とアルカは思っている)。
そして彼女はプライドが高い。己の敗北を己が認めるなんて、ナツが乗り物に乗って酔わないのと同じくらいにありえない事。

(オ、オイオイ・・・ティアが負けを認めるだと?マジかよ!?)

ウソだろー、とか、信じらんねーとか呟きながらアルカはジュラに目を向ける。
ドッと落下したブレインは力なく倒れた。

「やりやがった!コイツ六魔将軍(オラシオンセイス)のボスだろ!?」
「あたし達勝っちゃった!」
「うわぁい!やったぁ!」
「やれやれ・・・これで帰れんな。さぁて、次はミラとどこデートすっか・・・」
「随分気楽ね・・・あと1人残ってるのに」

歓喜の声を上げるルーシィ達に対し、ティアは呆れたように呟く。

「さあ・・・ココロ殿達のギルドを狙う理由を言え」
「ねえ・・・これ・・・止めればいいんじゃない?」
「オレの為にも・・・ぜひ・・・」
「アンタの為じゃないわよ、バカナツ」

ジュラは倒れるブレインに目的を吐かせようとし、ルーシィが口を開く。
相変わらず酔っているナツにティアがツッコみを入れた。

「ま・・・まさかこの私が・・・やられる・・・とは・・・ミッドナイトよ・・・後を頼む・・・六魔は決して倒れてはならぬ・・・6つの祈りが消える時・・・あの方が・・・」

そう言い残し、ブレインは気を失った。

「あの方?」
「!」
「?どーしたティア」
「・・・別に」

ブレインの言葉を繰り返したジュラの言葉を聞いたティアが小さく反応した。
アルカが顔を覗き込むが、ティアはふいっと目線を逸らす。

(・・・違う。アイツの言った『あの方』はあの人じゃない・・・違う・・・)

脳裏に流れた映像にぎゅっと拳を握りしめる。

「つーかコイツの顔・・・今、模様が1コ消えなかったか?」
「確かに・・・最初に会った時より線が少ないね」
「ぶ・・・不気味な事言わないでよぉ~、夢に出そうじゃない・・・」

グレイとルーの言葉にルーシィは震えながら己の身を抱く。
すると、3つの足音が聞こえてきた。

「みなさーん、大変です~!」
「やっぱりこの騒ぎはアンタ達だったのね」
「シャルル・・・それは少し失礼なんじゃ」
「ウェンディ!?アラン!?」

たったったっ・・・と駆け寄ってくるのはウェンディとシャルル、アランの3人。
ウェンディは目に涙を浮かべている。

「この都市・・・私達のギルドに向かってるかもしれません!」
「らしいが、もう大丈夫だ」
「え?」
「は?」

グレイの言葉にウェンディとアランは顔を見合わせ、首を傾げる。
アルカはスッと地面を指さした。

「ひゃっ!」
「うわっ!」

そこで初めて倒れるブレインに気づき、小さく悲鳴を上げる。

「ヘビ使いも向こうで倒れてるし」
「じゃあ・・・」
「おそらくニルヴァーナを操っていたのはこのブレインよ。それが倒れたって事は、この都市も止まるって事でしょ」
「そっか・・・よかった・・・」

グレイとルーシィの言葉に2人は安堵の笑みを浮かべた。
そんな中、シャルルは唯一不機嫌そうな表情を浮かべる。

「気に入らないわね。結局、化猫の宿(ケット・シェルター)が狙われる理由は解らないの?」
「まぁ深い意味はねえんじゃねーの?」
「偶然だよ、きっと」
「気になる事は多少あるが、これで終わるのだ」

ジュラの脳裏には先ほどのブレインの言葉『6つの祈りが消える時・・・あの方が・・・』が流れていたが、ブレインが倒れた今それは気にしなかった。

「お・・・終わってねえよ・・・早く・・・これ・・・止め・・・うぷ」
「ナ、ナツさん・・・しっかりして・・・ください・・・うぅ・・・」
「ナツさん!ココロちゃん!まさか毒に・・・」
「ヴィーテルシアさんも!」
「オスネコもよ!だらしないわね」
「あい」
「くっ・・・」

乗り物酔いと毒のコンボで苦しむナツ、毒に苦しむココロとハッピーとヴィーテルシア。
それを発見したウェンディは大急ぎで4人の解毒に取り掛かる。

「デカブツが言ってたな、制御してるのは王の間だとか」
「デカブツじゃなくてリチャードだよう」
「あれか!?」
「あそこに行けばニルヴァーナを止められるんだ」
「したら全部終わり・・・ってか」

確認するかのようにそう言うと、一同は王の間へと向かっていった。











リチャードはミッドナイトと対峙していた。
彼の前には仰向けに倒れるミッドナイトがいる。

「ボクは・・・夢を見る」
「!」
「君も夢を見る」

全身傷だらけ、至る所から血が流れている。
それでもミッドナイトは呟きながら、ユラッと、ゆっくりと立ち上がった。
そして―――――その口角が、上がる。


「真夜中に」


その瞬間―――――――

「ぐああああっ!」

リチャードの体の至る所に切り傷が刻まれた。
ミッドナイトはリチャードに触れていないのに、である。

「あ・・・あ・・・」

激痛が身体を襲う。
そんな中、リチャードは気づいた。

「ボクに魔法は当たらない」

笑みを浮かべ、そう言い放つミッドナイト。

(ミッドナイトのキズがない・・・!?)

先ほどまでボロボロだったその体は、時が戻ったかのように傷がない。
血の一滴も流れず、掠り傷1つなく、立つ事すら簡単な、戦う前のミッドナイトに戻ったかのようだ。

「ボクは父上をも超える最強の魔導士なんだ」

口角が上がる。
その笑みを目に映しながら、リチャードは倒れていく。

(私の祈り・・・弟よ・・・もう1度お前の顔を・・・見たかった・・・)











大の字になって倒れるブレイン。
その顔の模様がまた1つ、消える。

「5つ目の祈りが消えた・・・ミッドナイトよ・・・うぬは決して消えるな・・・」

薄く目を開け、ブレインは呟く。

(それが私の祈りだ・・・)











「どうなってやがる・・・」
「何これ・・・」
「む・・・」
「オイオイ・・・」
「えー・・・」

王の間へとやってきたルーシィ達。
だが、その場にいる全員の表情に笑顔はない。

「何1つそれらしきものがねえじゃねーか!」
「ど・・・どうやって止めればいいの?」

そう。
王の間までやってきたはいいものの、そこには壊れた柱数本とヒビが入った床、先が大きく欠けただけの柱数本があるだけだった。
因みにすべてナツが原因である。

「ぬぅぅ・・・」
「くそ・・・ブレインを倒せば止められるモンかと思ってたけど・・・」
「甘かった・・・止め方が解らないなんて」
「ここまで来たのに、そんなぁ・・・」
「チッ・・・やっぱ拳でどうにかするしかねーのか・・・」

ルーシィ達が頭を捻らせる中、ウェンディはナツ達4人の解毒を行っていた。
ウェンディの天空魔法の効果は素晴らしく、既にココロとハッピー、ヴィーテルシアは完治している。
が、残る1人が問題な訳で。

「どうしよう?解毒の魔法かけたのにナツさんが・・・」
「おおお・・・」
「効いてない・・・訳じゃなさそうだし」

解毒の魔法をかけたにも拘らず苦しむナツにウェンディとアランは困ったように首を傾げる。
すると、ティアが呆れたように口を開いた。

「ナツは乗り物に弱いのよ・・・まともに喋れなくなるくらいにね」
「え、そうなんですか?」
「情けないわね」
「乗り物酔い?」

シャルルの言葉に軽く頷くティア。
そして呆れたような目をナツに向け、溜息をついた。

「だったらバランス感覚を養う魔法が効くかも」

ウェンディはそう言うと、両手に淡い光を集める。

「トロイア」

呟き、光をナツへと流し込む。
すると、ナツの目がパチッと開いた。

「!おお!?」

起き上がり、しゃがみ、床に手を付けてみる。
変わらずニルヴァーナは動き続けている状態だ。
そして、その場で飛び跳ねてみる。
・・・酔わない。

「おおおおおっ!平気だっ、平気だぞっ!」

先ほどまでのまともに喋る事すら出来なかった状態はどこへやら。
地面に立っているかのようにナツは本調子を取り戻した。

「よかったです、効き目があって」
「すげーなウェンディ!その魔法教えてくれ!」
「天空魔法だし、ムリですよ」
「あれ?ルーさんの魔法って・・・」
「あー・・・僕は回復できるけど、それがメインじゃないからね。乗り物酔いは専門外☆」

首を傾げるココロにルーは楽しそうにウインクしてみせる。

「これ・・・乗り物って実感ねーのがあれだな。よし!ルーシィ、船とか列車の――――――ごべばっ!」
「はしゃぐのは好きになさい・・・ただし、空気は読む事ね」

今さっき毒と乗り物酔いから回復したばかりだろうと容赦なし。
飛び蹴りを決めたティアは冷たい瞳でじろりとナツを睨みつけた。

「止め方が解らねぇんだ。見ての通り、この部屋には何もねぇ」

グレイの言葉を聞き、ナツは真剣な表情で起き上がる。
それを聞いたウェンディが俯いた。

「でも制御するのはここだってリチャードが言ってたよな?」
「リチャード殿がウソをつくとも思えん」

リチャードと行動を共にしていたジュラとアルカが言う。
すると、ティアが心底呆れたように深いため息をついた。

「どーしたんだよ、ティア。溜息つくと幸せ逃げるぞ?」
「そんなの今はどうでもいいでしょ・・・にしてもアンタ達、ここまでバカだとは思いもしなかったわ」
「んだとコラー!」

そしてナツが突っ掛かる。
が、ティアはそれを手で制すと、口を開いた。

「普通に考えれば解る事よ。ここでニルヴァーナを動かすとして、操縦席のないこれを、無人でどうやって動かす訳?操作していたのがブレインだったとして、その方法が遠距離通信系の魔法だったとしても、奴はもう倒れてる。それなのにニルヴァーナがまだ動いてるって事は、結論は1つでしょ」

その通り。
思いつく限りのニルヴァーナ停止方法は全て試し、全てクリアしている。
というのにニルヴァーナは今も重々しい音を立てながら、目的地である化猫の宿(ケット・シェルター)へ1歩1歩足を進めているのだ。

「まさか、自動操縦!?既にニルヴァーナ発射までセットされて・・・」
「えぇっ!?それって・・・防げるの!?」

目を見開いたグレイとルーが口を開く。
それを聞いたウェンディとココロはぶるぶると震え始めた。
アランは震えてはいないが、その顔は今にも泣きだしそうに歪んでいる。

「ウソだ・・・そんな・・・」
「私達の・・・ギルドが・・・」
化猫の宿(ケット・シェルター)が・・・みんなが・・・」

目に涙を浮かべるウェンディとココロ。
信じたくないというように俯くアラン。
そんな3人に、ナツが口を開いた。

「大丈夫!ギルドはやらせねえ。この礼をさせてくれ。必ず止めてやる!」

ナツの力強い言葉。
ウェンディ達3人は、そんなナツに期待の目を向けたのだった。








「ニルヴァーナは止まらない」

倒れるリチャードに背を向け、ミッドナイトは歩く。
その口角を、薄く上げて。

「このボクがいる限りね」 
 

 
後書き
こんにちは、緋色の空です。
いやー・・・困った困った。
ウチのパソコンのマウスのスクロールが使えなくなってるーっ!
小説書くのにはあんまり使わないけど、いやはや不便だ・・・。

感想・批評、お待ちしてます。 
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