| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

十字架を背負いし神意の執行者 ~Wail~

――ミッドチルダ中央区 機動六課隊舎前海上

「紫電一閃!!」

拉致された際に負ったダメージを修復されたアギトとユニゾンを果たし、二対の炎翼を背負うシグナム。その彼女の持つ炎の魔剣“レヴァンティン”の刀身には紅蓮の炎が燃え盛り、テスタメント・ルシリオンへと迫る。

「もうやめてくれテルミナス!」

“レヴァンティン”の一撃を半身引いて回避し、終極テルミナスへ何度目かの叫びを上げるテスタメント・ルシリオン。だが返事は来ることはなく、その代わりとでも言うようにシグナムはすぐさま切り返し、再度“レヴァンティン”で彼の首を狙う。

「くっ、シグナム・・・!」

シグナムの剣速は確かに疾い。が、それ以上の剣速を持つ相手と幾度と闘ったことのあるテスタメント・ルシリオンにとって、彼女の一撃を紙一重で回避することは容易くなくとも可能だった。

「レヴァンティン!」

シグナムは鞘へと“レヴァンティン”を納め、カートリッジを1発ロード。その構えを見知っているテスタメント・ルシリオンはすぐさま距離を開けた。

「クスクス。ダメよ。もっと踊ってくれないと、私寂しいの」

――クラウ・ソラス――

しかしテルミナスが、はやての口を借りてそう告げる。はやてはリインフォースⅡとユニゾンを果たし本来の力を得、そしてテルミナスから干渉能力とポテンシャルの底上げを加えられていた。それにより、はやてを始めとする六課の隊長陣の実力はもはや人間の領域を超えていた。

「私を滅ぼしたいのなら終極(キサマ)1体で十分だろう!!」

――轟き響け(コード)汝の雷光(バラキエル)――

はやてから放たれた砲撃を、蒼雷の砲撃で相殺していく。お互いの干渉により、爆発することなく綺麗に消えていく幾条もの砲撃群。

『猛れ、炎熱!』

『「飛竜・・・・一閃!!」』

抜き放たれた“レヴァンティン”はシュランゲフォルムとなり、砲撃級の魔力付与斬撃としてテスタメント・ルシリオンを狙う。刃が到達する前に、彼は位相転移を行い、射線上より退避。だが転移先には、ヴィータがすでに待ち構えていた。

「アイゼン!!」

≪Raketen form≫

「いっっっけぇぇぇぇーーーーッ!!」

――ラケーテンハンマー――

ヴィータに応え、強襲形態であるラケーテンフォルムへと姿を変えた“グラーフアイゼン”。遠心力を十二分に利用した突撃。一瞬でテスタメント・ルシリオンとの距離を詰め、その強力な一撃が振るわれる。

「っづ!・・・ぐぅぅっ・・・!」

ただでさえ強力なヴィータの一撃。“第四聖典”を盾として掲げ、その一撃を防御。彼女の重い一撃に干渉が上乗せられたことで、その威力はテスタメント・ルシリオンの全力の中級術式クラスのものと同等以上になっていた。“第四聖典”を押し切ろうとする“グラーフアイゼン”。接着点から激しい火花が散る。

「「おおおおおおおおおッッ!!」」

テスタメント・ルシリオンの足元にスバルのウイングロードが走る。その上を疾走して彼に接近して来るのはスバルとエリオ。気合の入った雄叫びを上げ、足止めを食らっている彼へと接近。

「「ストライク――」」

スバルの“リボルバーナックル”による拳打と、エリオの“ストラーダ”の電気を纏う斬撃による連携同時攻撃。カートリッジを共に1発消費し、2人のデバイスは同時にテスタメント・ルシリオンが防御のために翳した右手へと吸い込まれていく。

「「ドライバァァァァーーーーーーッッ!!」」

右手の平に展開されている干渉防御と激しく衝突する。

「っ! これは・・・・振動拳!? (ぐっ、これはまずい・・・!)」

テスタメント・ルシリオンの表情が苦痛に歪む。振動拳。スバルの戦闘機人としての先天固有技能・“振動破砕”を利用した攻撃法だ。かつての訓練時、なのはの防御を突破することをも可能とした絶対破壊の一撃。

(干渉防御が・・・貫かれる!)

その次の瞬間、干渉防御が砕かれ、ヴィータとスバルとエリオの攻撃が彼の頭部と胸部、腹部へと入った。

「っがはぁ・・・!」

テスタメント・ルシリオンは直撃を受け、体勢を整えることが出来ずに海面へと叩き付けられ、そのまま海底へと沈んでいった。そこへ、さらに彼を追撃するために3人の影が海面に映る。

「レイジングハート」

≪Blaster 2nd. Excellion Buster. Stand by≫

なのはがリミッターを解き放ち・・・

「バルディッシュ」

≪Trident Smasher. Set up≫

フェイトが左手を翳し・・・

「クロスミラージュ、モード3」

≪Mord3. Blaze Mode≫

ティアナは“クロスミラージュ”を銃身の伸びた遠距離砲撃用へと変えた。そして・・・

――エクセリオンバスター――

――トライデントスマッシャー――

――ファントムブレイザー――

「「シュート」」

「ファイア」

テスタメント・ルシリオンへと同時砲撃を放ったその直後・・・

(((っ!?)))

3人は意識を取り戻した。が、砲撃はそのまま海底に沈んだテスタメント・ルシリオンへと向かう。3つの砲撃は海を貫き、大爆発を引き起こす。3人の脳裏に先ほどまでの戦いの記憶が浮かび、自分たちが今何を攻撃したのかを思い知る。

「レイジングハート、ブラスター3(え、うそ・・・ルシル君!? ちょ、待って、レイジングハート!)」

≪All right. Blaster 3rd≫

「バルディッシュ、真ソニックフォーム。いけるね(いや・・・いや、こんなの・・・ルシルぅぅーーーッ!)」

「スバル、エリオ、キャロ。行くわよ(あ・・・あ・・・あたし・・・あたし・・・!)」

なのは達を皮切りにはやて達も次々と意識を取り戻していく。

「あれだけで死ぬとは思えへん(うそや、こんなん。ホンマに・・・ルシル君を・・・!?)」

(いやです・・・。こんなの・・・リインはいやです!)

「アギト、火龍一閃で決めるぞ(か、体が言うことを聞かん・・・!)」

「おう!(くそっ、何なんだよこれ!? 勝手にあたしを動かすな!)」

『こっちも随分早い覚醒なのね。クスクス』

この場にいる全員の頭の中に第三者の声が響く。もちろんその声の主は、彼女たちを操るテルミナスだ。

『クスクス。でも、まだ私とルシリオンのダンスに付き合ってもらうから』

「了解。(じゃねぇぇぇぇ! ふざけんな! テメェ!)アイゼン」

≪Gigant form≫

“グラーフアイゼン”が巨大なハンマーヘッドを持つギガントフォルムへと形を変えた。

(やめろアイゼン! くそっ! やめろって言ってんだろ!)

『クスクス。ほら、ルシリオンが姿を現すから、全員攻撃準備』

テルミナスがそう告げたと同時に海面からではなく遥か上空から「テルミナァァァァス!」テスタメント・ルシリオンが現れた。海底から上空へと位相転移をし、負ったダメージを回復していたのだ。その背には22枚の蒼翼が展開されていた。彼は空戦形態・瞬神の飛翔コード・ヘルモーズとなっていた。

「クラールヴィント、お願い(ダメ! やめてクラールヴィント!)」

≪Ja≫

――戒めの鎖――

“クラールヴィント”のワイヤーによる拘束魔法がテスタメント・ルシリオンを捕えんと迫る。しかし彼は、迫るそれらを自慢の神速機動で回避し、戒めの鎖は残像を捕えるだけとなった。

「おおおおおおおおおッ!(やめろ!)」

――鋼の軛――

ザフィーラの雄叫びに応えるように、彼の魔力光である白の拘束条がテスタメント・ルシリオンを貫こうと伸びる。彼は拘束条から逃れるために回避行動を取ろうとした時・・・

「フリード、ブラスト・レイ!(ダメ、フリード! 撃っちゃダメ!)」

「キャロ!? っぐぅぅぅぅ・・・・ッ!」

キャロとエリオを背に乗せたフリードリヒから火炎砲撃が放たれた。タイミングが完璧だったこともあり、テスタメント・ルシリオンは回避できずに直撃を受けた。

(いやぁぁぁぁぁぁぁ! ルシルさん! ルシルさん! ルシルさん!!)

炎に包まれながら落下するテスタメント・ルシリオンを見て、キャロは自分たちの仕出かしたことに心の中で泣き叫ぶ。

「彼方より来たれ、やどりぎの枝。銀月の槍となりて撃ち貫け。(あかん! そんなん受けたらルシル君が!)」

(ダメです! リインでも止められません!! このままじゃ・・・このままじゃ!)

はやての頭上にベルカ魔法陣が展開。周囲に6、中心に1つの閃光が生まれる。

「石化の槍、ミストルティン!」

落下を続けるテスタメント・ルシリオンへ向けて閃光の槍が7つ放たれた。直接攻撃力は弱く、て射程も短いが、生体細胞を凝固させる石化の効果を持つ砲撃魔法。7つの槍が一直線に落下する彼へと向かい、全弾直撃し彼を石化させた。

「命中です(ルシル・・・さん・・・。こんな・・・こんなことって・・・あんまりです!)」

「追撃します(いや! やめて! もう動かないであたしの体!)」

ティアナがガンモードへと戻した2挺の“クロスミラージュ”の銃口をテスタメント・ルシリオンへと向けた。それに続き、ヴィータもギガントフォルムの“グラーフアイゼン”を構える。

「クロスファイア・・・(ダメ、クロスミラージュ!)シュート!!」

32発の誘導弾を一斉掃射。石化し落下するテスタメント・ルシリオンを全方位から襲撃。1発と外れはなく強襲したのをヴィータは見届けて・・・

「轟天爆砕!(やめろぉぉぉぉーーーーッ!)ギガント・・・シュラァァァーーーーク!」

所々が砕けたテスタメント・ルシリオンへと、かつての戦いと同じように“グラーフアイゼン”を振り下ろし、彼に直撃を食らわせた。海面へと降り注ぐ、粉々に砕けた彼の無残な姿にヴィータが「よし!」とガッツポーズを取った。

(・・・あ・・・ああああああああああああああ・・・!)

ヴィータが心の中で悲鳴を上げ、テスタメント・ルシリオンだった残骸がポチャポチャと海に落ちる様子に途方に暮れる“機動六課”の魔導師たち。

「クスクス。下手なお芝居は結構なの。姿を現してルシリオン(な・・・!?)」

自分の口から出るテルミナスの言葉に、ただ信じられないと思うはやてを始めとした彼女たちは、テルミナスに操られるままに、2人1組で背を向かい合わせにするように周囲を警戒し始めた。

「すまない。シャマル、ザフィーラ」

「「なっ・・・!?」」

その直後、テルミナスの言葉通り、傷1つとして負っていないテスタメント・ルシリオンが姿を現す。シャマルとザフィーラの間に干渉を撃ち込みその場を破砕、シャマルとザフィーラが体勢を崩したその隙を突いて干渉による檻を発生させ、2人を閉じ込めた。

「クスクス。ほら! やっぱり無事だった!(ルシル君・・・・なんで・・・!?)」

今度はなのはの口を借りて喋るテルミナス。

「クスクス。位相転移と干渉によって組み上げられた囮。それくらい出来ないと界律の守護神(テスタメント)の第四は語れない・・・」

テルミナスの言う通り、テスタメント・ルシリオンはミストルティンの直撃の0,00000001秒前に、自身に重なるように囮を作りだし、それに紛れて位相転移。そうすることで敗北を逃れていた。

「申し訳ありません、テルミナス。(ごめんなさい、セインテスト君。ありがとう、止めてくれて)」

(すまぬ、セインテスト・・・)

まずはシャマルとザフィーラが戦闘行動を停止させられた。

「剣閃烈火(まずい! 躱せセインテスト!)火龍一閃!」

(やべぇ! もう止められねェッ!!)

シグナムの左手に剣を模した炎が立ち上り、シグナムはそれを横一閃に振るった。襲い来る炎の斬撃に
テスタメント・ルシリオンは、「我が手に携えしは友が誇りし至高の幻想!」と、かつての戦友が有する術式や武装を取り出すための呪文(スペル)を唱えた。

「借りるぞステア。吼えろ、劫火顕槍・・・シンマラ!」

かつての戦友、“白焔の花嫁ステア”が保有していた神造兵装・“劫火顕槍シンマラ”を取り出す。あらゆる焔を支配することが出来る、白炎に燃える穂を持つ黄金の三叉槍。その“劫火顕槍シンマラ”で、シグナムの放った火龍一閃の炎を全て吸収した。

「すまない・・・!」

「「っ!((消え――))」

そのまま位相転移を使いシグナムの背後へと回った。しかし「アイゼン、第四形態(フォルム・フィーア)!」そこにはヴィータが待ち構えていた。

≪Jawohl. Zerstörungs form≫

“グラーフアイゼン”のリミットブレイク、ツェアシュテールングスフォルム。かつて“聖王のゆりかご”の圧倒的な防御力を有した駆動炉を破壊した際の形態。

「ツェアシュテールングス・・・ハンマァァァァーーーーーッ!」

テスタメント・ルシリオンの頭上からヴィータの最強の一撃が迫る。しかしそれを読んでいた彼は再び「すまない」と謝り、“第四聖典”を振るって、コアを傷つけないように注意を払い、“グラーフアイゼン”のハンマーヘッドを粉砕、ヴィータを撃墜した。

「う!? ぅあああああああッ!(少しは手加減しやがれッ!)」

そして衝撃で落下するヴィータを干渉でふわりと浮かせ、シャマルとザフィーラ同様の干渉牢に閉じ込めた。

「レヴァンティン!」

≪Bogen form≫

「翔けよ、隼!(くっ、セインテスト・・・!)」

『もう1発! 烈火刃いくぜぇぇぇッ!(冗談じゃねぇぇぇッ!)』

≪Sturm falken≫

テスタメント・ルシリオンのヴィータ撃墜に要した僅かな隙に、シグナムは“レヴァンティン”を遠距離狙撃用のボーゲンフォルムへと変え、直射型射撃のシュツルム・ファルケンを射った。その威力は融合騎・烈火の剣精アギトのおかげもあり、かつての闇の書事件で使用した時より数倍に膨れ上がっている。
超高速で飛来する矢をテスタメント・ルシリオンは、「どれだけ謝っても許されないのは解っている」“劫火顕槍シンマラ”を消したことで空いた右手を使い、迫ってきたファルケンを掴み取った。さらに右手に力を込め、シュツルム・ファルケンを粉砕。

「「((っ!))」」

それを見て、シグナムとアギトの表情は驚愕に染まる。その隙を突き、再度シグナムの背後へと位相転移するテスタメント・ルシリオン。彼の今の表情は、地球でアリサとすずかの2人と別れた時とは比べるまでもなくやつれていた。

「すまない。シグナム、アギト」

「「っぐ・・!」」

シグナムとアギトに干渉を撃ち込み撃墜。そして干渉牢に閉じ込めた。守護騎士ヴォルケンリッターを全騎撃墜。が、戦いはこれでは終わったわけではない。

「はぁぁぁぁーーーーッ!」

テスタメント・ルシリオンへと迫る黄金の閃光。その速さはすでに空戦形態の彼と同等、若しくはそれ以上。

「フェイト!? くっ、疾い・・・!」

フェイトのリミットブレイク・真ソニックフォーム。機動力に全てを注ぎ込むことで、防御力がゼロに等しくなったものの、その速度は他の追随を許さない。彼女が手にする“バルディッシュ”はライオットザンバー・スティンガー。細みの片刃剣となったザンバーの二刀流とも言える形態。フェイトの機動を邪魔することなくその威力を発揮する彼女の切り札。

「クスクス。その気になっていればもっと簡単に、そして早く倒せたのに。やっぱり私の計画通りに随分と優しく健気になったのね、ルシリオン(やめて! もう私の中から出てって!)」

「計画通りだと!? 貴様の真の狙いはなんだ!」

海上を超高速で翔る蒼と黄金の2つの閃光。そのあまりの速さに、テルミナスによってポテンシャルが人間以上にまで高められたなのは達ですら手を出すことが出来ないでいた。

「クスクスクス。預言の内容を知らないの? そっか、うん。なら教えてあげる。私が一体何を望んでルシリオンを、ついでにシャルロッテをこの次元世界に“召喚”したのかを」

・―・―・―・―・―・

――ミッドチルダ北部・廃棄都市区画

「あ~あ、今度こそダメか。ま、よく頑張った方さ」

“大罪ペッカートゥム”の視線の先、そこには両腕と左足を粉砕されたテスタメント・シャルロッテが氷漬けにされていた。ユーノとアルフの補助。ギンガとルーテシアの遠近距離からの支援攻撃。そしてクロノの氷結の杖“デュランダル”による凍結。それに加え、上空から浴びせられる艦載砲の雨。
果てにはクラウディアに搭載されていた“アルカンシェル”という、反応消滅と空間歪曲による対象を殲滅する魔導砲。テスタメント・シャルロッテは、それら全てを防ぐために干渉を使い、クロノ達を巻き込むまいとして盾となった瞬間、護ったクロノ達からの集中砲火を受け、ついに沈黙した。

「任務完了(シャル・・・。僕は・・・。僕たちは・・・こんな・・・!)」

操られながらも途中で意識を取り戻し必死に抵抗したものの、その手でテスタメント・シャルロッテを凍結したクロノ。その彼の瞳から涙が零れる。操られているからという言い訳はせず、自分の不甲斐無さを、無力さを、愚かさを呪って涙する。それはユーノもアルフもギンガも同様。あのルーテシアですら自分の無力さに涙している。

「・・・随分と仲良くやってたわけかぁ。悪ぃな、これも仕事でさ」

(ふざけんな! あたしらの友達にこんな酷い事を!)

アルフは必死に“ペッカートゥム”を睨みつけ襲いかかろうとするが、体が言うことを聞かない。

「おい、そこの。止めを刺せ」

そう命じられてしまったのはギンガだ。テスタメント・シャルロッテ共々覆っている氷を粉砕しろ、と言外に命令された。

「はい(いや! やめて! もうやめてください!)」

抵抗するが、言われるがままにテスタメント・シャルロッテへと近付くギンガ。左手に装着された“リボルバーナックル”が唸りを上げる。

(((シャル!!)))

ギンガが構え、テスタメント・シャルロッテを粉砕しようとした時、「これ以上私の友達を泣かすな!」自らを覆っていた氷を粉砕し、復活を遂げた彼女はすぐさま砕けて消滅していた両腕と左足を修復する。目と鼻の先で粉砕された氷の破片にギンガがたじろぎ、その隙を突いてテスタメント・シャルロッテがギンガを抱きしめる。

「ごめんね。こんなことになって、こんなことさせて。ホントにごめん」

「あ・・・シャル・・・さん・・・ごめん・・・なさ・・・」

干渉能力を使い、テスタメント・シャルロッテはギンガに巣食うテルミナスの意思を消滅させた。ギンガはテルミナスの操作から解放され、深い眠りについた。そのまま干渉による強制転移で、施設組の姉妹たちと同じく先端技術医療センターに送られた。

「・・・大罪。楽に死ねるとは思うな。ゆっくりとその体を端からバラバラにしてやる」

最大の殺気を“ペッカートゥム”をぶつけるテスタメント・シャルロッテ。それにたじろぐことなく“ペッカートゥム”は指を鳴らし、6隻の戦艦に攻撃命令を送った。しかし「・・・あ?」一切の反応が無い。この場の指揮権は全て“ペッカートゥム”に与えられている。
ゆえにテルミナスの駒でも支配できる。それなのに駒である戦艦から一切動きが見えない。何故なら、テスタメント・シャルロッテは氷漬けにされていた間、操られた局員ではなく、戦艦の攻撃管制などの全システムを干渉によって乗っ取ったからだ。

「一体何が――しまっ・・・ぐっ!」

つい上空に視線を向けてしまった“ペッカートゥム”。もちろん、その隙を見逃すはずもないテスタメント・シャルロッテは、位相転移で“ペッカートゥム”の真横へと移動し、“第三聖典”を横一閃。その体を両断しようとしたが、咄嗟に気付いた“ペッカートゥム”は干渉によって組み上げられた剣で受け止める。

「チッ。今のを受けていれば、貴様をもっと苦しませて逝かせられたものを・・・!」

「そりゃねぇよ三番。俺ともう少し踊ってくれよ・・・!」

激しい鍔迫り合いの最中、“ペッカートゥム”は余裕を見せる。たとえ引っ張ってきた戦艦が使えなくなろうとも大した被害ではないからだ。

「俺ばっかりに注意してるとさ、滅ぶぜその体!」

――チェーンバインド――

「っ! ユーノ・・・!」

(シャル! くそっ、くそっ! もうこんなのは嫌だ!!)

テスタメント・シャルロッテを捕えたのは緑色の鎖。それは彼女にとって、この世界に来てから初めて出来た親友の1人、ユーノによるものだった。

「うぐっ・・・! やっぱり堅い・・・!」

ただでさえ補助系魔法に優れたユーノ。その彼の魔法に干渉能力が上乗せされ、その効果はさらに強固なものとなっていた。

「ザマぁねぇよな。あの剣戟の極致に至りし者が。・・・ハッ、生前は何だっけか? あー、剣神だったな、全ての剣士の頂点に立ったっつう。ハハ、そのお前が今ではこうして下位の人間によって拘束されるってか。そそられるねぇ」

(((生前・・・?)))

「黙れ!!」

「生前は戦争っつう大義名分の中、幾多の命を奪い、界律の守護神(テスタメント)としてもまた数千年という時間の中で殺戮し・・・」

「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れぇぇぇぇーーーーーッ!」

「それを黙って、そこの人間どもを騙して、楽しい楽しい日常に溶け込む、か。なぁ三番よ。そんなんが許されるのか? 人間の嫌う存在である人殺しのお前に?」

(((シャル・・・?)))

「っ!・・もう・・・やめて・・・お願い、だから・・・聞きたく・・・ない・・・。日常を・・・平穏を・・・幸せを願って何が悪いの!? 解ってる! 私にそんな権利が無いことくらい! それでも望みたい、日常を! 願いたい、平穏を! 手にしたかったんだ、幸せを!」

“ペッカートゥム”の言葉に、ついに心に大きな傷を入れられたテスタメント・シャルロッテ。膝が折れ、ただ迷子になった子供のように泣きじゃくる。

「・・・すでに死んでいるお前には度台無理は話さ」

「っ! もう・・・もうユーノ達に聞かせないでぇぇぇぇーーーーっ!」

テスタメント・シャルロッテから強烈な干渉が全方位に向けて放たれる。それはある意味暴走に近い状態。知られたくなかった事ばかりユーノ達に聞かれての精神錯乱。

「ぐぉっ!?」

指向性の無いテスタメント・シャルロッテの干渉を受け、下半身が一瞬で光の粒子となり消滅した“ペッカートゥム”は、彼女から逃げるように上半身だけのまま転移した。

「何をしている! 俺をサポートしろよ!」

「「「はい(((冗談じゃない!)))」」」

だが、未だにテルミナスから解放されない3人は為す術なく、テスタメント・シャルロッテへと攻撃を仕掛ける。

「悠久なる雪土の爪牙、彼の者を穿つ刃となれ」

≪Icicle Blade Execution Shift≫

「行けッ!(まずい! 逃げろシャル!)」

クロノより放たれる無数の氷の剣。暴走するテスタメント・シャルロッテを貫こうと一斉に翔る。

「ぅああああああああああ・・・!」

干渉が上乗せされたアイシクルブレイド・エクスキューションシフト。しかし、今のテスタメント・シャルロッテの干渉の前には無意味な攻撃だった。クロノの攻撃が弾き飛ばされ、彼女はそのままユーノのチェーンバインドを粉砕、“ペッカートゥム”の背後へ位相転移する。

「ペッカートゥムゥゥゥゥゥーーーーーッ!」

その怒りの全てを“ペッカートゥム”に向けるため、“第三聖典”放り捨て、生前からの相棒“断刀キルシュブリューテ”を完全解放した状態で取り出す。

「貴様だけはぁぁぁぁぁぁ! っぐ・・・!?」

――フープバインド――

――チェーンバインド――

ユーノとアルフの拘束魔法が再びテスタメント・シャルロッテを捕えた。

(ごめんよシャル! でも、体が・・・!)

(僕は・・・・。シャル!)

「はぁはぁはぁはぁ・・・。ごめん。ごめんなさい。ユーノ、アルフ。クロノも。泣かないで・・・ごめんね・・・本当に・・・ごめんなさい・・・」

(((シャル・・・・)))

涙を流し続ける3人に優しい笑みを見せるテスタメント・シャルロッテだったが、その笑みは泣き笑い。彼女もまた涙を流し、必死に笑顔を作っていた。

(冷静になれ。まずはクロノ達をテルミナスから解放することが優先だ。それに、さっきから姿を見せないルーテシア。あの子は一体どこに・・・?)

テスタメント・シャルロッテは怒りを理性で無理やり抑え込み、現状を再確認する。ギンガを元に戻せたことから、クロノ達も元に戻すことは可能。そしてルーテシア。彼女だけが先程から全く姿を見せなくなった。

(それにレヴィは? ルーテシアが1人だけなんて・・・。ダメ、最悪の事しか考えられない)

レヴィの死亡。その単語が脳裏に過ぎる。ルーテシアと姉妹たちが居て、レヴィが居ない。その状況がレヴィ死亡を思わせた。

「・・・ペッカートゥム」

「お? 頭冷えたか?」

“ペッカートゥム”は下半身を修復し、意気揚々と捕縛されたテスタメント・シャルロッテへと歩いていく。

「レヴィは・・・どうした?」

「レヴィ? あー、裏切りの先代嫉妬か。どうしたっけか? 確か、わけの解らん力を使って、アギトっつう小っこいのを護るために必死こいてたな」

「っ! ・・・で、どうしたの?」

「んんーー、ある程度ボコって・・・。あーわりぃ三番。どうしたか忘れたぁ。ハハ、ハハハ・・・ハハハハハハハハハハハハッ!」

笑い声を上げる“ペッカートゥム”。それだけでテスタメント・シャルロッテは理解した。ルーテシアを好きだと言って自ら荊の道を選択し戦い、そして勝利と自由を掴み取って、幸せそうに笑うことが出来るようになったレヴィ。その彼女がもうこの世界に存在しないということに。

「どこまで・・・」

「あ?」

「どこまで貴様らはぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーッ!」

先の暴走以上、しかし今度は指向性のある干渉を周囲に巻き起こし・・・

「「「っ!?(((うあああああああ!)))」」」

クロノ、ユーノ、アルフの三人を吹き飛ばして上空で拘束した。

「今、解放するから、少し待ってて。真技・・・!」

――飛刃・翔舞十閃――

取り出した鞘へと“キルシュブリューテ”を納め、抜刀と同時に真技である飛刃・翔舞十閃を放つ。テスタメント・シャルロッテの強力な干渉によって身動きが取れなくなっていた“ペッカートゥム”は、無理やり転移することで左半身の犠牲だけで完全消滅を免れた。

「逃がすか! 真技・・・牢刃――」

彼女は位相転移によって“ペッカートゥム”背後へと回り、もう1つの真技――牢刃・弧舞八閃を発動。鞘に納められた“キルシュブリューテ”を抜刀する。

「弧舞八閃・・・!」

桜色の剣閃が8つ。その全てが“ペッカートゥム”の残り右半身を通過した。

「・・・あー、また・・・俺の・・・敗け・・・か・・・よ」

「そのまま楽に逝かせない! 真技! 飛刃・翔舞十閃!」

“ペッカートゥム”が消滅する前にさらに真技、飛刃・翔舞十閃を叩き込み・・・

「我が剣神の魂(キルシュブリューテ)の前に敵は無し・・・」

その手で完全に大罪ペッカートゥムを消滅させた。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧