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魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~

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十字架を背負いし神意の執行者 ~Truth~

――ミッドチルダ中央区 機動六課隊舎前海上

「私を・・・私たちを召喚した・・・?」

「クスクス。そう、私が、あなたとシャルロッテをこの次元世界に召喚したの。10年前のジュエルシード。アレをユーノ・スクライアに発掘させたのは私。プレシア・テスタロッサにジュエルシードの情報を与え、貨物船を攻撃させたのも私。ジュエルシードを地球という世界に落とし、高町なのはとユーノ・スクライアを出会わせたのも私。そしてあなたとシャルロッテを喚んだ。高町なのは、ユーノ・スクライア、フェイト・テスタロッサ、アルフ。そして時空管理局と出会わせたるために」

“絶対殲滅対象アポリュオン”における実力の序列2位たる終極のテルミナスから語られた真実。テスタメント・ルシリオンとテスタメント・シャルロッテ、なのはとユーノ、フェイトとアルフ、時空管理局との出会い。その全てがテルミナスによって仕組まれた事だと。

「バ、バカな・・・そんな事が出来るわけが――ぐあっ!」

(ルシル!? もうやめて! これ以上ルシルを、私の手で傷つけさせないで!!)

あまりの内容にショックを受け、動きを止めたことでフェイトの一撃を受けてしまったテスタメント・ルシリオンだったが、運よく致命傷にはならず、すぐに負ったダメージが修復される。

「クスクス。そして夜天の魔導書も八神はやての元へと転生するようにしたのは私。グレアム提督とかいう人間に、八神はやての元に魔導書があることを教えたのも私。そしてルシリオン達と八神家を出会わせたのも、もちろん私。全て私。クスクス」

再度超高速の攻防戦が始まった。そんな中でもフェイトの口を借りて余裕で語り続けるテルミナス。

(そ・・・そんな・・・)

「レリックとジェイル・スカリエッティの一件。それも私。だからペッカートゥムを、観察用と界律干渉の紋様を描かせるために送りこんだの。結局、あまり役に立たなかったし、果てには裏切り者も出てくる始末。あとカリム・グラシアの預言者の著書プロフェーティン・シュリフテンの、預言の内容を考えたのも私。聖王のクローンであるヴィヴィオ。あの子もまた私の駒たちによって生み出された。あーそれと、ここ2年間と最近の契約も私の監修。どうだったルシリオン? つまらない契約の数々、楽しめた? クスクスクス」

「何を・・・何故そこまでして!?」

フェイトの“スティンガー”を“第四聖典”で捌きつつ問い質す。今の彼には戸惑いしかなく、動きも速さも、その全てがフェイトを下回るようになってきた。次第に増えていく傷、傷、傷。

「クスクス。それこそ私の目的のため! 優しい優しいルシリオンのことだから、10年もこんな楽しく幸せな時間を過ごせば、きっとその心は満たされているはず! そこに、その心を根こそぎ破壊するような出来事が起これば、あなたはきっとまた霊長の審判者(わたしたち)の仲間になる!」

つまりテルミナスの最終目的は、テスタメント・ルシリオンを斃すことではなく・・・

「そのために高町なのはやフェイト・テスタロッサ達と出会わせ、楽しい時間を与えたの。あなたの心を満たすためだけの時間を! そして今、この時、その全てを奪い取って、あなたの心を修復不可能なまでに破壊する!」

次元世界を滅ぼすのもまた本当の目的ではなく・・・

「全ては、ルシリオン! あなたを玉座にいる本体ごと完全な亡失アーミッティムスにするため! そのために! 私は! あなたにこの世界での10年を与えたの!!」

テスタメント・ルシリオンの心を破壊することで再び天より堕とし、完全にアーミッティムスとする事。

(っ!)

「・・・そんな・・・私は・・・始めから踊らされて・・・いた・・・?」

(ダメ! 避けてルシル!!)

次々と明かされる真実に、ついにテスタメント・ルシリオンの心にヒビが入った。目が虚ろになり、焦点の合わない目で空を見上げる。そんな隙だらけな彼に攻撃を加えるなど息をするよりも簡単だ。案の定、フェイトの強力な一撃がその胸に直撃した。

「ぁがっ!?」

(いやぁぁぁぁーーーーーーッ!)

「ぅ・・ぐ・・・!」

“スティンガー”の2つの刃がテスタメント・ルシリオンを貫いた。彼は真正面に居るフェイトの両腕を取り、自身の体を貫く刃を抜こうとする。

『っ! 来た!』

そのとき、テルミナスの弾んだ声がこの場にいる全員の耳に届く。

「ぐっ!?・・・おおおおああああああああああ!」

フェイトを突き飛ばし、何かに耐えるように体を抱き、叫びを上げる。曇天より雨が降り始め、彼の頬に伝う雨粒はまるで涙のようだった。

(ルシル!? ルシル!)

「くそ・・・やめ・・・ろ・・・!」

――ミッドチルダ界律より天秤の狭間で揺れし者へ
契約執行を妨害せし人間 緊急時につき それらの抹殺を契約に追加
直ちに妨害者を殲滅し 招かれざる破滅の使徒・終極を討て――

「いや・・・だ・・・!」

“界律”よりテスタメント・ルシリオンへと下される契約執行に、妨害するフェイト達の抹殺命令が追加された。彼はそれを否定してしまい、その意識の支配権を“界律”に奪われようとしていた。

『クスクスクスクス。やっと来た。さぁルシリオン。その手で愛おしき者を殺し尽くし、その心を完全に失って!!』

「っ! それが・・・貴様の狙い・・・だったのか・・・! 私に・・・親しくなった・・・フェイト達を・・・殺させることで、・・・私の心を破壊する。そのための10年・・・。ふざけた・・・真似を・・・!」

――彼の者が下せし定めには如何なるものとて逆らえず
かくして現し世に滅びが為の使徒が満ち足りん
その滅びが()断つたるは、遥かに貴き至高の座より舞い降りたる者
十字架を背負いて、其に仕えし使徒と相見えん――

ここまで預言通り。テルミナスの書いたシナリオ通りに事が進んでいた。そしてテスタメント・ルシリオンとフェイトが動きを完全に止めたことで、なのは達も再び戦闘に参加する。まず行動を再開したのはスバル達フォワード。

「クロスミラージュ、モード2!(もう・・・いや・・・)」

≪Set up. Dagger Mode≫

ティアナも・・・

「行くよマッハキャリバー!(なんで・・・こんな・・・)」

≪All right buddy. A.C.S. Standby≫

スバルも・・・

「キャロ、サポートお願い。ストラーダ!!(もう・・・いやだ)」

≪Form Drei. Unwetterform≫

エリオも・・・

「うん! 猛きその身に、力を与える祈りの光を。ブーストアップ・ストライクパワー!(ルシルさん・・・こんなのいや・・・)」

キャロも。テルミナスに操作され、テスタメント・ルシリオンとの強制戦闘によって彼女たちの心もまた傷を負っていた。

「エリオ・・・キャロ・・・スバル・・・ティアナ・・・」

ウイングロードを疾るスバルとティアナ。フリードリヒに乗り接近してくるエリオとキャロ。

「ダメだ・・・逃げ・・・ろ。逃げろ!」

テスタメント・ルシリオンが4人に「逃げろ」と叫ぶ。次の瞬間、彼から強烈な干渉が発せられ、スバル達4人は大きく弾き飛ばされた。彼は苦しみに耐えながらも4人を強制転移させ、シグナムたち同様、干渉牢へと閉じ込める。

「くっ・・・!」

意識を“界律”に乗っ取られないよう耐える中、彼を包囲するのはなのはとフェイト、ユニゾン中のはやてとリインフォースⅡの3人。

――プラズマランサー――

――アクセルシューター――

フェイトと少し離れた位置に居るなのはの射撃魔法が、テスタメント・ルシリオンを強襲する。必死に“界律”に逆らいながら空を翔け、2人の射撃魔法を回避し続ける。

「遠き地にて、闇に沈め。デアボリック・エミッション!」

「っぐぅぅぅぅ・・・!(手加減は無しか・・・!)」

そこに、はやての放った広域空間殲滅魔法がテスタメント・ルシリオンを直撃する。彼の干渉防御とはやての魔法がお互いの干渉を食い合う最中に、デアボリック・エミッション内部で防御に専念する彼へとさらに追撃弾が襲い掛かる。

≪Divine Buster≫

≪Plasma Smasher≫

テスタメント・ルシリオンを挟撃するように、彼の両側よりなのはとフェイトが砲撃魔法を放った。ブラスタービット4基と“レイジングハート”からの同時5連砲撃。フェイトの前面に展開された黄金のミッドチルダ魔法陣からの雷撃砲。彼は干渉防御を貫かれる前に、右腕を犠牲にし位相転移。3人の攻撃から離脱。すぐさま右腕を修復して、意識が落ちそうになりながらも3人を檻に閉じ込めようとした時・・・

――プラズマアーム――

「っ!? ヴィヴィ――がはぁっ!」

(((ヴィヴィオ!?)))

かつてと同じように聖王の姿となったヴィヴィオが、習得していたフェイトの魔法を発動。その雷撃を纏った拳をテスタメント・ルシリオンの胸部へ叩き付けた。

「クスクス。この子もまた私の支配下なの。当然よね。ある種、私が生みの親なのだし(ルシルパパ! ルシルパパ!)」

テルミナスがヴィヴィオの口を借りそう告げる。ヴィヴィオの猛攻は止まらない。位相転移行使の隙を与えないように高速かつ連続で、その雷撃を纏った拳打をテスタメント・ルシリオンの張る干渉防御に叩き付ける。

(やだ! ルシルパパを傷つけないで!)

「くっ・・・!」

一瞬の隙を突き、ヴィヴィオの攻撃範囲から逃れるために位相転移。しかし、やはり逃れた先にも攻撃の手がすでに用意されていた。

「刃以って、血に染めよ。穿て、ブラッディダガー!」

術式名の通り血の色をした短剣が、40発以上という物量を以ってテスタメント・ルシリオンを強襲。それを高速機動で回避するも、今の彼以上の速度を持つ黄金の閃光、フェイトが追撃する。

――ソニックムーブ――

「フェイト・・・!」

「クスクス。その何とも言えない、複雑な感情が混じる表情ぉ♪ あぁすごく、すっごくドキドキするの♪ やっぱり私の長年の計画は確かだった。あなたは優しいの、すごく。だから・・・だからこそ界律の守護神(テスタメント)はあなたの居場所じゃないの」

「それ以上フェイトの口から言葉を発するな、テルミナス!」

――プラズマランサー――

“スティンガー”による直接攻撃と魔法による援護射撃。

――殲滅せよ(コード)汝の軍勢(カマエル)――

テスタメント・ルシリオンは“第四聖典”と魔術によって、フェイトの攻撃を捌いていく。

『クスクスクス。もうひと押し』

テルミナスの声が響く。

「ヴィヴィオ!?」

彼はフェイトの猛攻を防ぎつつ、ヴィヴィオの様子が変わった事に気付き、彼女の名を叫ぶ。ヴィヴィオはテルミナスの干渉能力によって作りだされた剣を手にしていた。そして、その剣先を自らの胸に向けていた。

(((ヴィヴィオ!!)))

「やめろ、やめろ・・・! やめてくれ・・・! 頼む、やめてくれぇぇぇぇーーーーッ!」

≪クスクスクス・・・。えいっ♪≫

自らの胸へと干渉能力の剣を突き立てるヴィヴィオを見て・・・

「あ・・・あ・・・ヴィヴィオ・・・ヴィヴィオ・・・? あははは・・・ヴィヴィオ・・・あ・・ああああああああああああああッ!」

((ヴィヴィオーーーーーーー!))

剣が胸に突き刺さるヴィヴィオを見て、テスタメント・ルシリオンは頭を抱え絶叫。なのは達もまた、声には出せないがヴィヴィオの名前を叫ぶ。

「はぁぁぁぁーーーーっ!(あぶない! 逃げてルシルパパ!)」

――インパクトキャノン――

「っ!? っがぁっ!」

はるか上空から急速降下し、テスタメント・ルシリオンの左頬へとゼロ距離射撃を撃ち込んだのだヴィヴィオだった。ヴィヴィオの衝撃的な姿、“界律”からの意識乗っ取り、今までの精神疲労によって何もすることが出来ずにまともに受け、彼は再度海面と叩き付けられ、再び海に沈んだ。

『クスクスクス。今のは偽者でした♪』

テルミナスが弾んだ声でそう言うと、剣を自らに突き立てたヴィヴィオが消滅した。そう、先ほどのヴィヴィオはテルミナスによって作られた偽者だったのだ。干渉能力の応用力がひと際高いテルミナスにとって、人間ひとり創ることは容易いものだった。

「レイジングハート、スターライトブレイカー。(っ! 集束砲!? そんなの受けたら今度こそルシル君が!!)」

≪All right. Starlight Breaker ex fb, Standby≫

ブラスタービット4基と“レイジングハート”が、なのはの最強の魔法スターライトブレイカーを放つため、周辺に満ちる魔力を集束していく。

「響け終焉の笛・・・(なっ!? あかん! そんなんあかん!)」

はやてもまた、彼女の最強の魔法ラグナロクを放つための準備に入った。

「バルディッシュ!(いや! いや! もういやぁぁぁぁーーーーッ!)」

そしてフェイトは、“ライオットザンバー・スティンガー”を1つにし、大剣“ライオットザンバー・カラミティ”へと変える。それは必墜の一撃を誇る重攻撃用の完全攻撃型形態だった。

「はぁはぁはぁはぁ・・・っ!」

『クスクス。もう限界のようね、ルシリオン。さっきの偽者くらい、普段のあなたなら見分けられたはず。相当参っているようで、私はすごく嬉しいの♪』

――プラズマアーム――

(やだぁぁぁッ!)

海上へと上がり、再びヴィヴィオの連続攻撃から離脱する事が出来ずに防戦一方となっているテスタメント・ルシリオンは目の当たりにした。目の前で拳打を繰り返すヴィヴィオが、最強の砲撃を放とうとしているなのはが、同じく砲撃準備をしているはやてが、そして・・・

「はああああああああああああああッ!!!!」

大剣“カラミティ”を脇に構え、高速で接近してくるフェイトが、ボロボロと涙を流しているのを。彼は歯噛みする。全てが自分を原因としてそこに在った10年間。楽しかった時。苦しかった時。様々な時を、全てテルミナスによって与えられた。それもこの与えられた悲劇の戦いの果て、彼が全てを殺し、壊し、滅ぼすためだけに。

――ソニックムーブ――

高速でテスタメント・ルシリオンの背後へと回り込んだフェイト。彼女はそのままの勢いを殺さず、“カラミティ”で彼を背後から貫いた。

「あ゛っ・・・!」

彼の背中から胸へと突き貫ける黄金の雷剣。

「(あ・・あ・・・あああ・・・いやだ・・・こんなの・・・ルシル・・・こんなの)いやぁぁぁぁぁーーーーッ!」

『なに!? 私の精神操作を自力で解いた!?』

絶対の支配を、下位の人間が自力で解いた事に驚愕の声を上げるテルミナス。

(ルシルパパ!? うそ・・・うそ・・・やだ、ルシルパパーーーーッ!)

ヴィヴィオが追撃の必要性が無いとでも言うように、テスタメント・ルシリオンから距離を取る。

「スターライト・・・」

「ラグナロク」

「「ブレイカァァァァァーーーーーーーーッ!」」

((逃げてフェイトちゃん!! ルシル君!))

(ルシルさん! フェイトさん!)

(ルシルパパ! フェイトママ!!)

時空管理局屈指の威力を誇る砲撃が、テスタメント・ルシリオンと彼に縋りつくフェイトに向けて放たれた。

「・・・フェイト・・・!」

「ルシル!? ダメ! ルシ――」

テスタメント・ルシリオンは力を振り絞ってフェイトと自分を貫く“カラミティ”を強制転移させる。

「(私の大切な存在(ヒト)を操って、戦わせ、傷つけ、泣かせた。貴様は、貴様だけは絶対に許すものか!!)っテルミナァァァァァァァァァァァァァァスッ!」

テスタメント・ルシリオンが絶叫した直後、5つのスターライトブレイカーとラグナロクが彼を直撃した。彼を中心として大爆発が起きる。衝撃波が海面を吹き飛ばし、海水が雨に混じって降り注ぐ。

「「「「いやぁぁぁぁぁぁーーーー!!」」」」

『クスクスクス・・・ウフフフ・・・アハハハ・・・ハハハハハハハ!! アーッハッハッハッハハハハハ! ハーッハッハッハッハッハッハッ!!!』

――慟哭の涙、歓喜の絶唱、憤怒の叫びの音が乱れ流れるその終の果て――

『さあ! 界律から解き放たれて、人間共々世界を滅ぼしなさいルシリオン!』

――狂いたる真の黒き者によりて、現し世は真に終極へと進まん――

†††Sideシャルロッテ†††

「あとは、クロノ達を元に戻せばいいだけね」

私の干渉によって空で拘束されているクロノ達を見上げる。このたった数十分の間に、私の事をほとんど知られた。もう死んでいることとか。多くの命を奪ってきたこととか。

(何でこんなことになっちゃったの・・・?)

ゆっくりとクロノ達を降ろす。“ペッカートゥム”のクズ野郎を斃したけど、テルミナスの支配はまだ残ってるはず。そこに注意しながらゆっくりと、慎重に降ろしたクロノ達に近寄る。

「がぁっ!?」

私の体を背から貫く水色の魔力刃。これは「クロノのスティンガーブレイド・・・!?」だった。油断した。まさか、干渉拘束されているクロノがまだ攻撃してくるなんて。操られているとはいえ、これはさすがに反則・・・。私の干渉拘束が弱まるのが判る。これはかなりまずい。“ペッカートゥム”とクロノ達に力を使い過ぎた。

「デュランダル」

≪OK Boss≫

「悠久なる凍土、凍てつく棺のうちにて永遠の眠りを与えよ」

干渉拘束から抜け出したクロノが“デュランダル”を手にして詠唱を始めた。

(まずい! 確かこの詠唱は、闇の書の時の・・・!)

10年前の聖夜を思い出す。アレは結構レベルの高い凍結魔法だ。正直な話、今の弱った私に防ぐ術はない。意識が飛ぶと、契約執行に問題ありと見なされて“界律”に体の支配権を奪われる。そうなると、私の手でクロノ達を殺すことになる。

「冗談じゃない・・・!」

急いで私を貫いている魔力刃を破壊しようとした時・・・

「「フープバインド!」」

「(また! またユーノとアルフの拘束魔法が私を拘束するの!?)づぁ!?」

クロノの持つ“デュランダル”が私に胸に突き刺さる。ゼロ距離からの、内部からの凍結魔法。これを受けたらさすがに終わる。

「・・や・・・いや・・・やだ・・・やだよクロノ!」

名前を呼んだところでどうにもならないのは解ってる。

「エターナル・・・」

「いや!!」

内部が侵食されるのが判る。最悪の未来が訪れてしまうことに私は目を瞑ったところで、「コフィ――ぶっ!?」耳に変な音が。目を開けると、「・・・え?」クロノが“デュランダル”もろとも吹っ飛んでた。助けられた? 誰に? 今の状況で味方と言えばルシルくらいのもの。でも、そのルシルはここにはいない。

「今度はわたしが助ける番」

「え・・・、レヴィ!? ルーテシア!!」

いつの間にかユーノとアルフがバインドのような物で雁字搦めにされて倒れていて、その側にルーテシアとレヴィが立っていた。それにルーテシア。あの様子からして、もうテルミナスから解放されているようだ。どうしてレヴィが居るのか、とかいろいろと話を聞きたいけど、今はクロノ達を解放することが先だ。

「クロノ・・・ごめんね」

気絶したクロノを抱きしめて干渉を流し込む。思いっ切り攻撃を受けた所為か、頭にタンコブが・・・その・・・ごめん。

「ユーノもごめんね」

今度はユーノ。ホント、ルシルと同じように童顔ていうか女顔というか。昔から可愛い顔をしてるよね。

「・・・アルフ。わざわざ地球からごめんね」

テルミナスか“ペッカートゥム”のどちらかに連れてこられたか・・・。どっちにしても迷惑をかけたことには・・・。

「エイミィたち大丈夫かな!?」

殺されたと考えるのは早計だとは思う。私を、友達たちと戦わせるためにわざわざ操ったテルミナス。だからきっと向こうも大丈夫なはずだ。

「・・・これでよし。ありがとう、レヴィ。それにルーテシア。にしても、まさかレヴィに助けられるなんて思いもしなかったよ」

3人からテルミナスの意思が消えたのを確認。私の後ろで待っていてくれたレヴィとルーテシアに礼を言う。

「わたしはシャルロッテとルシリオンに命を繋げてもらった。これくらい何のお返しにもならない」

「わたしは・・・ただ操られて、シャルロッテを傷付けただけ。お礼じゃなくて、怒られるのが・・・だから、ごめんなさい」

レヴィはかなりボロボロにされているけど命に別条は無し。ルーテシアは気まずそうに、私から視線を逸らして俯く。

「怒らないよ。謝るのはこっち。巻き込んだんだもん、あなたを。姉妹たちも。でも良かった、ルーテシアとレヴィが無事で。でもさレヴィ。一体どうやってルーテシアを解放し――っ!?」

ビリビリと肌に感じる強大な神秘。この感じはまさか・・・。

「ルシル!?」

機動六課のある方角を見据える。ここからすごく距離はあるけど判った。あのルシルが落とされたことが・・・。

「まずい・・・まずい! 界律が・・・ルシルを支配する!」

・―・―・―・―・―・

泣きわめく声が海上に響き渡る。終極テルミナスから用済みとされ、彼女たちは絶対操作から砲撃着弾と同時に解放されていた。そのためフェイトが、なのはが、はやてが、リインフォースⅡが泣き叫ぶ。ヴィヴィオは解放されたことで元の子供の姿へと戻り、なのはに抱えられて気を失っていた。
そして、テスタメント・ルシリオンの干渉牢が消滅し、シグナム達もまた自由となり、荒れる海上をただ呆然と見ていた。二大砲撃によって起こった爆発で、未だに彼の生死は確認できない。雨脚も次第に強くなり始め、空では雷鳴が轟いている。

「ルシルぅぅーーーーーーーッ!」

「ダメ、フェイトちゃん! 危ない!」

フェイトがテスタメント・ルシリオンを探しに行こうとするのを羽交い絞めにして止めるなのは達。次第に高濃度の霧が晴れていき、海上の様子が視認でき始める。そして、彼女たちの目に映ったのは、海に大穴が開いているという凄絶な光景だった。

「・・・っ! ルシル!?」

テスタメント・ルシリオンの姿を捉えたのか、フェイトが穴の中心へと飛翔する。はやては「フェイトちゃん!?」と戸惑いながらも、急いでフェイトに続く。なのははヴィヴィオをシャマル達に預け、フェイトとはやての後を追う。

「ルシル・・・!」

テスタメント・ルシリオンのいる大穴を目指すフェイトは、何度も何度も「ルシル!」と呼び続ける。

「ルシル!?・・・ルシ――っ!・・・いや・・・いやぁ、ルシルぅ・・・」

直径2km程の大穴。その上空に来たことですぐにテスタメント・ルシリオンを見つけられたフェイト。しかし、彼の変わり果てた姿を見て、彼女は海底へと降り立つと同時に全身から力が抜けてしまい、その場にへたり込んだ。

「ルシルく――っ! うそ、や・・・いやや・・・こんなん・・・いやや・・・!」

「フェイトちゃん!? ルシル君は――うそ・・・こんなの嘘だよね・・・?」

そこに、はやてとユニゾン中のリインフォースⅡ。そして少し遅れて来たなのはが降り立つ。なのはとはやては、フェイトと同様に変わり果てたテスタメント・ルシリオンを見て、慟哭の声を零す。

「私が・・・ルシル君を・・・殺したんだ・・・」

「なのはちゃん・・・。ちゃうよ。私もや。私も・・・ルシル君を・・・」

『リインもです・・・。リインも・・・リインも!』

彼女たちは自らの行いを責め始める。しかしその行為を誰も止めない。その場に流れる沈黙。泣き声と雨音だけがその場を支配する。

「ルシル・・・・」

フェイトが四つん這いのまま、テスタメント・ルシリオンへと近付いて行く。ゆっくりと、想いを寄せる彼に近付いて行く。

「クスクスクス。結構派手にやられちゃったね、ルシリオン」

そこに、ローズピンクの長髪を波打たせたテルミナスが音もなく姿を現した。

「「「「っ!!?」」」」

テスタメント・ルシリオンを挟み、フェイト達とテルミナスの視線が交差する。しかし今度は怯むことなく、しっかりと意識を保ち、彼を守るように覆い被さるフェイト。なのはもはやても“レイジングハート”と“シュベルトクロイツ”を構える。

「よくも・・・よくもこんな・・・!」

精いっぱいの怒りと恨みを込めた視線を向けるフェイト。テルミナスはただ笑みを浮かべ、「クスクス。早くルシリオンから離れないと・・・死ぬよ?」そう静かに告げた。

「え・・・? なに・・・キャァッ!?」

「「フェイトちゃん!?」」

突如テスタメント・ルシリオンの体から発せられた銀色の閃光。その閃光によって、彼に覆い被さっていたフェイトが弾き飛ばされ、なのはとはやてに受け止められた。

「クスクス。次元世界を閉じる終極の鐘の音が、今鳴り響くの」

それを合図とするように、テスタメント・ルシリオンの体が浮き上がる。消滅していた両腕、下半身が瞬時に修復される。その光景に絶句するなのは達。

「さぁルシリオン。あなたの持つ力で、この世界の総てを滅ぼして」

テルミナスのシナリオが最終段階に入る。契約執行中、“界律の守護神テスタメント”の行いを妨害する者がいる場合、または守護神自身に問題が発生した場合、守護神は契約主である“界律”にその意識を乗っ取られることがある。それこそテルミナスが望んだ事。テスタメント・ルシリオンと親しくなった者、今回はフェイト達。彼女たちを契約執行の妨害者に仕立て、その妨害者である彼女たちを彼に殺させる。

「そして自身の心を壊すの。クスクスクス・・・!」

そして、彼がその行為に絶望し、心を完全に壊し、暴走することで再び亡失アーミッティムスと堕ちる。世界の滅亡なんてものは、それの単なる通過点に過ぎなかった。テルミナスが何百年とかけ何度もシミュレーションし、ついに実行した計画。
それが今回の、ルシリオンとシャルロッテが次元世界へと召喚された契約の真実だった。目を閉じていたテスタメント・ルシリオンが、その瞳を露わにする。焦点の合わない紅と蒼の瞳。彼から発せられ続ける銀の閃光。

「ルシルーーーーッ!」

「フェイトちゃん! 危ない!」

「フェイトちゃん! 今行くんは危険や!」

フェイトがテスタメント・ルシリオンに近付こうとするのを必死に止めるなのはとはやて。そして強まる銀の閃光に応えるかのように大きな地震がミッドチルダを襲う。

「もう少し。あと少しで、またルシリオンと一緒にいられるようになる。クスクス。嬉しいなぁ、すごく嬉しいなぁ♪」

両頬に手を添え、紅潮しながら嬉しそうにほほ笑むテルミナス。

「こんの・・・バカがぁぁぁぁ!」

「ぐごぉっ!?」

「「「「「っ!?」」」」」

テルミナスを含むその場の全員が絶句する。何故ならテスタメント・ルシリオンを頭上から強襲し、思いっ切り踏みつけたテスタメント・シャルロッテが現れたからだ。

「バカバカバカバカバカ・・・このカバがッ!じゃなくてバカがッ!」

“第三聖典”でテスタメント・ルシリオンをボコボコのズタズタのギタギタにするテスタメント・シャルロッテ。銀の閃光が次第に治まり始める。

「そんな・・・こんな馬鹿な事が・・・!」

テルミナスがうろたえる。あまりの力技で計画を阻止されようとしているからだ。すぐさまテスタメント・シャルロッテを止めようと動くが、テルミナスの背後から完全解放された“キルシュブリューテ”が襲撃してきた。

「ふざけないで!」

テルミナスはそれに気付き、振り向きざまに“キルシュブリューテ”の剣先を真っ向から殴り飛ばして粉々に破壊する。しかし、その動作で生まれた隙を見逃さなかったテスタメント・シャルロッテは、全力の干渉攻撃を放ち・・・

「沈めぇぇぇぇぇぇっ!!!」

テルミナスを――いや、テルミナスの幻影を粉砕した。相手が幻影だからこそのテスタメント・シャルロッテの勝利だが、もし本体であれば彼女が返り討ちにあっていたのは言うまでもない。

『クスクス。折角書いたシナリオを潰してくれちゃって。はぁ、仕方ないなぁ。なら、私自らがこの世界とそこの人間共を滅ぼして、ルシリオンに絶望を抱かせる。それまで、最後の時間を楽しみなさい。クスクスクス』

消滅する瞬間にそう言い残したテルミナスの幻影。それと同時にテスタメント・ルシリオンから放たれる銀の閃光が完全に消失。ミッドチルダ全体を揺るがす地震も治まった。何はともあれ最初の世界の危機、予言の成就は防がれたが・・・。

「・・・次はテルミナス本体が来るわけ、か・・・」

テスタメント・シャルロッテの言う通り、序列2位たる終極テルミナスの本体が、時間を置いて来る。

「ルシル!」

フェイトが倒れているテスタメント・ルシリオンへと駆け寄り、何度も彼の名前を呼び続ける。

「・・・く・・・あ・・・フェイ・・・ト・・・?」

うっすらと目を開け、彼女の名を口にするテスタメント・ルシリオン。それを聞き、今度は悲しみの涙ではなく嬉し涙を流して、フェイトは彼に抱きついた。

「ルシル! ルシル! ルシル! ルシル!」

その光景を離れたところで見ているなのは達。彼女たちも嬉し涙を流し、安堵の表情を浮かべている。

「・・・もう黙ってるわけにはいられないよね。ここまで巻き込んだ以上は話すよ。私とルシル、テルミナスが何なのか。全部、その真実を教えるよ・・・」

決意した表情のテスタメント・シャルロッテがなのはとはやてに振り向き、そう告げた。自分たちの隠してきた正体、その真実を語ると。
 
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