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不老不死の暴君

作者:kuraisu
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第三十六話 神都

キルティア教会直轄領神都ブルオミシェイスにて。
このブルオミシェイスはキルティア教の総本山である。
そもそもキルティア教とは今から約2000年前にオーダリアで予言者キルティアが始めた宗教である。
古来、イヴァリースでは平和と自由を象徴する女神への信仰が多数存在していた。
開祖キルティアはをその女神を光の神ファーラムと規定、オーダリア各地の民族宗教を二元論で体系化しキルティア教が成立した。
その後、開祖キルティアは布教の旅を続け、晩年はブルオミシェイスに身をよせ、教えを広めていった。
開祖の死後も教えは広められ、後に信者達によって神殿も築かれている。
要約するとこの神都ブルオミシェイスは偉大なるキルティア教の創始者が没した聖地なのである。

「キルティア教の大僧正アナスタシス猊下げいかがおわす神都ブルオミシェイスは、神に最も近い安息の地。あなた方の魂にも平安がもたらされますよ」

入り口にいたキルティア教徒が難民達にそう言っていた。
そして難民達は安堵の表情を浮かべている。
確かにキルティア教会は諸国と不可侵条約を結びキルティア教が迫害されない限り、内政不干渉を貫いている。
その為、余程のことが無い限り神都は諸国の軍隊に襲われる事は無い。
それに僧兵団が魔物退治もしているので魔物に襲われる心配も無い。

「神都は万人の魂が安らぐ地。貴方達に神の加護あれ・・・ファーラム」

キルティア教徒が難民達に話をしているとこを通り抜けると避難してきた難民達のテントで溢れかえっている。
そしてその奥の少し高いところにキルティア教の神殿がある。
セア達はそのテントの間を通り抜け、神殿の方に向かう。

「オレはナブラディアの生まれなんだ。2年前の戦争で村を焼かれてどうにかここまで逃げてきたんだ」
「そうか、俺達はランディスって国から避難してきたんだ」
「たしかランディスってバレンディアにあった国の名前か?」
「ああ、今から10年以上前にアルケイディアに滅ぼされた小国の名前さ」
「はぁ、ある意味オレはランディスが羨ましいよ」
「なんでだ?」
「だってさ、ナブラディアは文字通り跡形もなく無くなっちまった。ランディスは占領されてだけじゃねぇか」
「・・・それもそうだな」

と、失った祖国のことを話している避難民もいれば、

「まったく、どいつこいつもしけてやがんなぁ。金目のもんがありゃしねぇ」
「おいっ!!そこのバンガ!!俺の金返せ!!!」
「やべっ!!」
「何の騒ぎだ!!」
「あ、僧兵団の方ですか?あいつを捕まえてください!!俺の金を盗んだんです!!」
「なにっ!!!」

と、避難民相手に盗みを働いている奴もいれば、

「ここは厳しい土地だけど毎日暖かい飯が食えるいいとこだよ」
「まったく、シークならキルティア教徒がやってる力仕事手伝えよ」
「手伝っても手伝わなくても暖かい飯は毎日貰えるよ」
「こんな豚が大勢いるからキルティア教会は財政難なんだな」
「まぁまぁ、そんなことはどうでもいいだろ!お前がまだ生きてるのってキルティア教おかげだろ?」
「そうだけどさ。ずっとこのままでいいのかな?もしどっかの国が攻め込んできたら・・・」
「こんな大して豊かでもないヤクトの辺境をキルティア教を敵に回してまで欲しがる馬鹿な国なんかねぇだろ」
「その通り!!お偉い大僧正アナスタシス様のひとにらみで王様も皇帝もたちまちふるえあがるって話だ」
「それならこんな山奥にこもってないで、戦争に夢中な連中をどうにかしてほしいですよ」
「違えねぇ!!」

と、キルティア教会に助けてらってるくせにキルティア教会を批難する駄目な奴等もいる。

「どうした馬鹿弟子?」

セアはなにか不機嫌そうなヴァンに声をかけた。
まぁなんで不機嫌なのかは想像できるが・・・

「だってさこいつら自分で何もして無いくせになんで偉そうにして・・・」
「そうだな。昔の馬鹿弟子みたいだな」
「はぁ!?」
「だってそうだろ?自分で何も出来ないから末端の帝国兵相手にスリしまくってた頃のお前と大差ないだろ」
「で、でもオレはちゃんとミゲロさんの店で働いてたぞ!!」
「そういえばミゲロさんから聞いたんだが、お前はよくサボってたらしいな?」

ヴァンはその言葉を聞くと黙り込んだ。
そしてセアは神殿の方に目をやった。

(しかし、俺が17の時に神都に来た時のことを思い出すな)

セアはそう思い、瞼を閉じて神都に来た時のことを思い返す。
17歳の頃のセアは国王として即位したばかりで、年の終わりごろに巡礼でブルオミシェイスを訪れていた。

「いや、本当に神に一番近い地と言われることはあるな。なんとも美しい」
「そうですね」

セアの隣にいる女性が答える。
その女性の身なりはよいが、容姿は人並みでどこか不機嫌そうな表情である。

「どうした? なにやら顔色が悪そうだが?」

心配そうにセアがその女性に声をかける。

「クライス陛下・・・いえ、セア。あなたには私とこの景色のどちらが美しいのですか?」

真剣な声で女性はセアに問いかけた。
だが、当時の自分はそっち方面というか女性関係には疎かった為、

「・・・どういう意味かな?」

などという質問を返してしまった。
すると女性は眉を顰めて、言い返した。

「いえ、ただあまりにも他人行儀ではないですか。愛する男性にそういう態度をとられるのは悲しいです」
「は!?」

セアは素っ頓狂な声をあげ、暫く考えた後に問いかけた。

「・・・・・・・・なんていった?」
「愛する男性と言いました」
「本当に?」
「神に誓っても構いません。それに貴方の妻になってもう2年ではありませんか?」
「い、いやそうだけど・・・」
「まさか私はそういう対象では見てなかったのですか?」

見てたとも見てなかったともいえない。
確かに着飾った姿を見て綺麗だなと思った事は何度かあるが恋愛など自分ができるはずがないと思い込んでいた。

「い、いや。そ、そういう意味では。その、ほらだって・・・俺たちの結婚は父上達が勝手に決めたことじゃないか?」
「だったら夫を愛してはだめなのですか?」
「あ、そういう意味では、その、え~っと・・・・・」

あまりの気恥ずかしさにセアの顔は真っ赤になり、頭から煙が出ている。

「セア、その大丈夫ですか・・・?」
「ふぇっ?・・・・・・」

その後セアの頭は限界を迎え、気を失った。
セアは後にも先にも精神的な理由で倒れたのはあれだけだったなと微かに微笑んだ。  
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