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水辺の菖蒲

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第三章

 自転車でその池に行く、源氏池に。
 池に行ってそうしてだった、菖蒲を探す。満月の灯りのお陰で暗くはない、それで菖蒲を見付けることが出来た。
 それでだ、菖蒲を手に取るとすぐにその場を去った、だが自転車に乗って池を後にする時に。 
 後ろで音がした、それで咄嗟にそちら、つまり池の方を振り向くと。
 誰かが池の方、今まで光弘がいた方に向かっていた。それを見て彼は思った。
「僕以外にも告白したい人がいるんだな」
 それが誰かまでは考えずに家に帰った、そうして。
 次の日だ、光弘は確かな顔でこう雅道から言った。
「これでね」
「ああ、菖蒲取って来たんだな」
「うん、じゃあこれで」
「後は告白するだけだな」
「この菖蒲を相手に差し出してだね」
「ああ、告白すればな」
 絶対に成就するとだ、雅道もこのことを言う。
「そうなるさ」
「そうだね、じゃあ」
「それで何時告白するんだよ」
「今すぐにでも」
 思い切った顔で言う光弘だった。
「言うよ」
「じゃあ行けよ、ただな」
「ただって?」
「こういうことは何が起こっても驚くなよ」
 こんなことも言う雅道だった、光弘に対して。
「それはな」
「振られるとか?」
「結局は言い伝えだからな」
 実際のところはそうしたものだというのだ。
「絶対にそうなるかとはわからないんだよ」
「言われてみればそうだね」
「俺もその言い伝えは信じてるけれどな」
 だがそれでもだというのだ。
「結局それが本当かどうかは誰にもわからないんだよ」
「実際にやったのは僕がはじめてとか?」
「そうかも知れないな」
 実際にだというのだ。
「こうした言い伝えは何処でもあるしな」
「特にこの学校はね」
 八条学園にはというのだ。
「多いね」
「怪談とかも多い学校だろ」
「だからだね」
「実際はわからないんだよ」
 彼にしてもだというのだ、だがそれでもだというのだ。
「けれど頑張れよ」
「告白自体はだね」
「そうだよ、健闘と勝利を祈るからな」
「うん、じゃあ行って来るね」
 光弘は確かな顔で頷いてそうしてだった、登校してすぐに。
 クラスを出て相手のところに向かった、すると。
 廊下を暫く歩いたところでだった、その前に。
 美里が出て来た、前から駆ける様にして来てだった。
 光弘にだ、今にも死にそうな顔でこう言って来た。
「あの、今から時間ある?」
「えっ、まさか自分からって」
「自分からって?」
「何でもないよ」
 驚きを何とか抑えて美里に返す。
「ただ、今から夏目さんにね」
「私に?」
「用があってね」
 こう美里に言う。
「それで今夏目さんのところに行こうって思ってたんだ」
「私もなの」
 美里は顔を上げて光弘の顔を見たまま言う。
「白川君に用があって」
「それでなんだ」
「あの、それでね」
 美里は死にそうな顔で光弘にさらに言ってくる。 
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