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八条学園怪異譚

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第五十四話 コンビニの前その十二

「他にも唐代の皇帝でもね」
「そうした人がいるのね」
「そうみたいなの」
「お薬は間違えると怖いからね」
「そうよね、食べるものに入れるのもいいけれど」
 医食同源だ、中国からの考えである。
「水銀なんか飲んでるとね」
「絶対に死ぬわよ」
「うむ、水銀は論外じゃ」
 実際にこう言う博士だった。
「漢方医学も様々な試行錯誤があったのじゃ」
「それで水銀もですか」
「飲んでいたんですね」
「水銀の金属から液体に変わる性質に不思議さを見てそれで丹薬としたのじゃが」
「そうしたら水銀中毒ですか」
「それで死んだ人もいるんですね」
 始皇帝にしろそうだ、始皇帝にしてみれば常に不老長寿の薬を飲み永遠に生きるつもりだったのだ。それはそれで大変なことになったであろうが。
「何か本末転倒ですね」
「そんなことって」
「うむ、しかし医学はそうした一面があるのはじゃ」
 これは漢方医学だけではないというのだ。
「西洋医学でも一緒じゃ」
「そういえば何か歯が万病の基っていうことを言ったお医者さんいたそうですね」
「そんな人も」
「うむ、ルイ十四世の医師でな」
 こうしたことを主張する医者は実在した、それでルイ十四世はどうなったかというと。
「ルイ十四世の歯を全部抜いたのじゃ」
「全部ですか?」
「歯をですか」
「そうじゃ、一本残らず麻酔なしでな」
 これは史書にある通りだ、その医師は王の歯を全部抜いたのである。
「そして後は焼きゴテで傷口を塞いだのじゃ」
「何かお話を聞いてるだけで痛そうですね」
「麻酔なしで最初から最後までって」
「それで歯が一本もなくなってな」
「後も大変そうですね、歯がないと」
「それって」
「噛めなくなったのじゃ」
 歯がないから当然だ、噛むことは歯がないと出来ないからだ。
「それで流動食の様に何時間も煮たものしか食べられなくなり口の中には食べ残しが集まり常に腐臭を発してな」
「いいことないですね」
「最悪ですね」
「うむ、しかも口と鼻がつながってのう」
 悪いことはまだあった。
「それで鼻から食べたものを出して慢性的な消化不良にまでなり常にズボンが汚れておった」
「そのヤブ医者のせいですね」
「無茶苦茶なことを言う人の言うことを聞いたせいで」
「ルイ十四世はその後半生は随分苦しんだのじゃ」
 そうなったのである、不幸なことに。
「西洋医学にもこうした話があるのじゃ」
「医学って試行錯誤なんですね」
「それの歴史なんですね」
「ペストにしろそうじゃ」
 これについてもだというのだ、西洋を幾度も襲った疫病も。
「あれもじゃ」
「あれってユダヤ人のせいにされたのよね」
「そうそう、それでユダヤ人への迫害とか虐殺にもなったのよ」
 欧州では何かあると異邦人であるユダヤ人のせいにされた、その為多くの血生臭い惨事が起こってきたのだ。
「不潔にしてたからペストになったのよね」
「街にゴミや鼠が一杯で」
 当時の欧州は道の端に糞尿なりゴミなりを捨てていた、そしてそこを鼠が動き回って極めて不潔な状況にあった。
 その鼠からペストが流行った、だが当時はそのことは知られていなかったのだ。
「あれも原因がわからずな」
「酷い話になったんですよね」
「原因がわからないせいで」
「色々言われておったが原因がわかってな」
「それでペストがなくなったんですね」
「今みたいに」
「病気は原因がわかればどうということはない」
 後は治療出来るからだ。
「もうペストは発生しても何とかなる」
「今でも時々出てきますけれど」
「それでもですね」
「うむ、医学は試行錯誤じゃよ」
 そして発見である。
「わしも医師の端くれじゃからわかる」
「そうなんですね、勉強になります」
「今日も有り難うございました」
 二人は博士に医学のことも教えてもらいそのことにお礼を言ってからそれぞれの家に帰った、そしてまた次の泉の候補地に向かうのだった。


第五十四話   完


                     2013・10・16 
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