| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

Fate/magic girl-錬鉄の弓兵と魔法少女-

作者:セリカ
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

A's編
  第八十五話 管理局との契約 後編

「ではまずは現時点で決まっている契約内容の確認から始めよう」

 クラウンの言葉に全員が頷き、既に確定している内容の認識に齟齬がないか、確認が始まる。

 現状、衛宮士郎と管理局に交されている契約はそれほど多くはない。

 一つ、衛宮士郎が義務教育を終えるまでの六年間を時空管理局嘱託魔導師とする事。
 一つ、衛宮士郎とその契約者である元夜天の書の管制融合騎、リインフォースに専用のデバイスの提供し、性能調整などのサポートを行う事。
 一つ、元夜天の書の管制融合騎、リインフォースに対し闇の書事件の責任追及を行わない事。

 今後の話としては、契約の期間と管理局からのデバイスの提供しか決まっていないのだ。

「お互い、認識に齟齬が無いのなら次に進むとしよう。
 それと契約期間は六年となっているが、契約期間の更新や正式な管理局局員への雇用希望はいつでも受け付けているから、その気になったらいつでも連絡をしてくれ」

 次に進むといいながら契約の更新、又は正規局員への雇用という未来を考えてくれという遠回しな発言をするクラウン。

 士郎としても必要に応じてその必要も考えているので

「ええ、その時はお願いします」

 その発言を受けいれる。

 士郎の返答に満足そうに頷いて見せるクラウンだが、その言葉を素直に受け入れるほどあまく考えてはいない。
 管理局にとって現状もっとも恐れている事は六年後。
 すなわち契約が満了したら姿をくらます事である。

 魔導師とは違う魔法陣が出ない秘匿性の高い魔法技術。
 さらにその技術を持った者の技量が本局のエース級であり、確認されている武装の中には魔導師の天敵の様な武器も確認されている。

 それでもまだ手の内は全て晒されていないのだ。
 仮に敵となり戦闘となった場合、どれだけの手札を持っているのかすらわからない相手と戦う事はあまりにもリスクが高い。
 ゆえに管理局としては衛宮士郎をロストする事だけは絶対に避けなければと考えている。

 そして、管理局としては幸いなこともある。
 魔術師としての矜持か、士郎の人柄かまではまだ断言出来ていないが、契約期間中に姿をくらます可能性は低いと判断していることである。

 六年という期間は士郎にとっては管理局を見極め、その後の身を振り方を決める期間であると同時に、管理局にとっても士郎の情報を集め、その後の勧誘のための下準備期間なのである。

 通常であれば下準備に六年など長過ぎる期間である。
 だが士郎にとっては自分だけでなくなのは達の事にも関係すること故に妥協する気はない。
 そして死徒という桁違いな人生の中で六年という期間はわずかな時間でしかない。

 管理局にとっても士郎が管理局という組織を見極める気でいることには気がついている。
 だからこそあせらずゆっくりと時間をかけるという選択をしたのだ。

「それで今後だが、衛宮君は嘱託魔導師となるので当然、配属先を決めるわけなのだが、その前に伝えておきたい事がある」

 クラウンの言葉にわずかに首を傾げる士郎。

「現在、衛宮君にリンカーコアが存在するという報告は受けているが魔導師ランクを含め、君の適性もわかっていない。
 まずは適性検査、デバイスの準備、魔導師ランク試験を受けてもらう事になるが、構わないかな?」
「勿論です。
 私としてもその方がいい。
 ましてや魔術に非殺傷設定というモノはありませんから、必要な事でしょう」

 士郎自身、己の魔導師適性など知るはずもないのでこの提案を拒むことはない。

「それはよかった。
 さて、配属先だが魔術という特殊な技能を持つ君はレアスキル持ち扱いだ。
 さらに魔術師が今後も現れる事も想定される。
 そのため魔術スキル持ちの部署を新たに立ち上げることにした。
 部署の総括は君も面識があるギル・グレアム提督を予定している」

 クラウンの言葉にようやく、ここにグレアムがいる事の意味を悟る士郎。

(なるほど。
 管理局の提督とはいえ今回の一件もある。
 いざという時切り捨てることが可能な人材が丁度出て来たわけか)

「勿論、君とグレアム提督の間に問題があったのも承知している。
 だが衛宮君と面識が全くない相手では何かと不便だろう。
 一応、候補としてはリンディ・ハラオウン提督とレティ・ロウラン提督の名前もあるがどうする?
 これは衛宮君の意志を尊重するつもりだ」

 いざという時、仮に戦闘になった場合に一番最初に切り捨てられる、または士郎の刃が向く事になる人間であることはグレアムにもわかっている。
 ましてや士郎とグレアムにはリーゼロッテの傷の事、シグナム達への攻撃、フェイトのリンカーコア強奪など軋轢は多い。

 だが士郎にとってもこれは好条件である。
 士郎自身、組織と反りがあまり合わない事は理解している。
 当然、士郎と管理局のトラブルの場合、一番面倒をかけるのは士郎が所属する部署の統括である。

 リンディやレティでは士郎とて遠慮してしまう。
 しかしグレアムならば話は変わる。

(リンディさん達に負荷をかけるわけにはいかない。
 グレアム提督なら闇の書の借りもあるから遠慮はいらないだろう)

 士郎にとっても一番面倒をかける事に遠慮する必要のない相手である。

「グレアム提督で問題ありません」
「承知した。ではこのまま話を進めよう。
 部署の統括はギル・グレアム提督、所属メンバーは嘱託魔導師、衛宮士郎。
 その守護騎士、リインフォース」
「守護騎士……ですか?」

 クラウンの守護騎士という表現に首を傾げる士郎。

「夜天の書の元融合騎という事だが、現状、ユニゾン機能が正常に動くのかはっきりしていない。
 そのため書類上は守護騎士としている。
 今後のデバイス準備や調整でユニゾン機能があれば融合騎とする予定だ。
 他に呼び方に要望があれば変更するが?」
「いえ、特に必要ありません」
「なら続けさせてもらうよ。
 デバイスの準備、魔導師ランクの取得が完了次第、能力や適性にあわせて出向という形で嘱託魔導師として動いてもらう事になる。
 ここまでいいかな?」
「はい、問題ありません」

 管理局としても士郎の魔導師としてのランクと得意分野がわからなければ何をしてもらうと明確には言えない。
 士郎としても魔導師として管理局に扱われる事に反発する必要はないのであっさりと話がまとまる。

「嘱託魔導師としての契約の話は以上だ。
 その他、何かある者は?」

 クラウンが全員を見渡すが、士郎もその他の局員も静かに首を横に振る。

「では私から最後に衛宮君に質問があるのだが良いかな?」
「ええ、構いません」
「魔術について、嘱託とはいえ仲間になる我々に教えてもらえないか?」

 その一言にわずかに部屋の空気が重くなる。
 その他の局員にも伝えていなかったのだろう。
 顔を見合わせて、驚いた表情を浮かべている。

 そして、士郎はうまいと思っていた。
 嘱託魔導師の契約が固まるまで魔術の事には一切触れず、契約が固まったら仲間という事を利用して踏み込む。

(魔術の事の話はあると思っていたが、契約が確定した直後とは予測が外れたな。
 だがリインフォースの事といいかなり無茶な要求に応えてくれた。
 俺の魔術ではなく魔術というモノについては教えてもいいか)

 わずか数秒であるが瞼を閉じ思考を奔らせ、再び瞼を開く。

「魔術回路というモノがあります。
 魔導師にとってのリンカーコアであり、それを持つか否かが魔術師としての前提になります」

 士郎が話しだした魔術の話に管理局の面々は驚くと共に聞き洩らす事のないように真剣に耳を傾ける。
 クラウンは士郎が本局にいた時に聞いていた話だが、オフレコの会話であるがゆえに静かに話を聞く。

「魔術とは学問であり自身の魔術は研究の成果であり他者に明かさず、後継者に受け継がせていく。
 代を重ね血を重ねて極めていく、根源に至るために」
「……根源?」

 魔術師という魔導師のあまりに違うあり方は士郎が管理局に来ているときの会談で知っている。
 とはいえ局員たちも全て理解できるとは到底思っていない。
 その中で誰ともなく初めて聞く『根源』という言葉がこぼれる。

「根源とは世界の外側にあるとされる、あらゆる出来事の発端となる座標。
 万物の始まりにして終焉、この世の全てを記録し、この世の全てを作れるという神の座。
 こちら側ではアルハザードが近いでしょうか。
 そして、至るために概念、魂魄の重みを重視します。
 魔術とは過去に疾走し、科学は未来に疾走するとは昔知り合った者の言葉ですが」

 淡々と話す士郎とは裏腹に管理局の面々はここに来て混乱していた。
 無理もない。
 科学技術と共に発展してきた魔導技術。

 それとは逆行する技術。
 そこまでは理解していた。
 だが

(理解が出来ないわけだ。
 向っているベクトルが、考え方が違うとは思っていたが、そんな話ではない)

 クラウン自身、新たな情報が明かされることに内心喜びはした。
 しかし

(根源、アルハザードに至るための学問にして技術など根本の理から余りに違いすぎる)

 厄介な情報に内心では頭を抱えながら、表面的に表情を崩さないので精一杯であった。

「それと私は純粋な魔術師からは外れてはいますが、あくまで嘱託魔導師です。
 自身の秘儀を明かすつもりはありません」
「衛宮君の好意に感謝する。
 衛宮君が情報を明かしたくない気持ちもわかるから無理には尋ねることはしない。
 だがあまりに我々の魔法と違う、また質問をする事になるかもしれないが、構わないかな?」
「答えられる範囲ならば問題ありません」
「感謝するよ。では今日はここまでとしようか?
 デバイスの準備など本格的に動き出すのは年明けになる。
 それまで今回の事件の疲れをゆっくりと癒してくれ」
「はい、ありがとうございます」

 クラウンと士郎の言葉に頷き、それぞれが立ち上がり

「では改めて同じ職場の仲間としてよろしく頼む。衛宮君」
「こちらこそ、よろしくお願いします。クラウン中将」

 二人は握手を交わし、全ての話が終わったと思った時

「ああ、少しここをお借りできますか?
 グレアム提督と少し話したい事があるので、今後の事など二人だけで」

 士郎の言葉に困惑をする。
 少なくない軋轢に、事件直後の二人きりという状況。
 最悪の事態という考えが浮かばないはずがない。
 だがグレアム本人が無言で頷いた事により、士郎とグレアム、そして使い魔の二人を残して全員が部屋をあとした。

 そして、クラウンは二人きりという状況で最悪の事が起きない事を願いながら、自身の執務室に戻るため歩きながら魔術の事を改めて考えていた。

(今回、彼が話してくれたのは我々を仲間と認めたわけじゃない。
 デバイスや闇の書の融合騎の彼女の事など彼の要望を受け入れたことに対する対価だ
 貴重な情報なのは確かだがどう扱うべきか……)

 士郎が渡した情報が基本中の基本であることはクラウンにもわかっている。
 だが、その時点で余りに違う魔術と魔導。
 だからといって、この異質な技術を無視できるはずもない。

(純粋な魔術師とは違うと言っていた彼の言葉がわずかな可能性だな)

 今後、本当に信頼を得た時に話してくれるというわずかな、本当にわずかな可能性を信じることしか今は出来なかった。

 そして、会議室に残った士郎とグレアムはというと椅子に座ることなく、机を挟み静かに向い合っていた。

 先ほどまでとは違う張り詰めた空気。
 その中で

「よく残る気になりましたね」

 士郎が最初に口を開いた。

「今後は嫌でも顔を合わせる事になるんだ。
 少しでも関係の改善をしたいと思うのが悪い考えとは思わないよ」
「例え私がここで貴方を殺す気だったとしてもですか?」

 士郎の言葉に二人のやり取りをグレアムの後ろで見つめていたロッテとアリアがグレアムを守る様に前に出て構える。

「やめなさい、二人とも」
「ごめんなさい。その命令は聞けない」
「大丈夫、私達は負けないよ。
 士郎、あんたも本調子じゃないんだろう?
 歩き方に違和感があった。
 そんな状態でやる気かい?」

 構えを解かないアリアとロッテに士郎は構えをとる事すらしない。

「確かに本調子とは程遠いがそれだけで勝てると考えるのは浅はかだな。
 ロッテ、君とてゲイ・ボウの呪いで衰弱しているだろう?」

 士郎の言葉に撫でるように傷に手をやるロッテ。

「ふん、このくらいなんともないよ」
「そうか、なら先に排除するか」

 何の気負いもなく当然の様につぶやかれた士郎の言葉に二人は警戒を強める。

 本当の事を言えばグレアムも闇の書事件での責任として魔力の大半を封印されている状態であり、当然その使い魔である二人も少なくなった魔力の供給では戦闘は難しい。

 だがリーゼ達以上に士郎はまともに戦闘すらできる状態ではない。
 にも関わらず戦いを挑む事があまりに無謀である事を突きつけられる事になる。

 士郎はグレアム達との間にあるテーブルを飛び越える気もなく、視線を逸らさないまま歩き始める。
 その一歩目を踏み出した瞬間

「「「ッ!!!!」」」

 三人は声にならない悲鳴をあげていた。

 その中で体を労わる様にゆっくりと歩く士郎の靴音だけがしっかりと聞える。

 全身に纏わりつく何かに全身が震え、口の中が渇く。
 それでいて全身は流れ出た冷や汗に濡れていた。

 わずか数秒、だが三人にとっては永遠にも近い時間の中で自身に纏わりつくモノの正体に気がつく。

 過去の戦いの中で浴びた事がある。
 しかし、そんなモノとは比べ物にならない位に圧倒的で濃密な殺気。

(出来れば戦いたくない相手などではない。
 戦ってはならない相手だ。
 超えてきた場数があまりに違う)

 グレアムはわかってしまった。
 管理局として、一対多ならまだしもこの状況では勝つことなど奇跡に等しいという事に

 戦う? 戦ってならない相手に挑む事自体無謀。
 逃げる? 全身が震えまともに動く事すら叶わない状況では無理だ。
 交渉? 彼を止めるだけのカードを所有していない。

 イメージの中で何回も、いや何十回も殺され続けている中で自身に残された選択肢が『死』しか存在していない事を理解してしまう。

 士郎はグレアム達の前に辿り着き、その右手にはいつの間にか無骨なナイフが握られていた。

「今後、はやて達とはどうするつもりだ?」

 グレアム達に喋れせるためだろう。
 士郎の殺気が薄れ、グレアム達は肩で大きく息を吐き出し、ようやく生きているという事を実感していた。

「はあ、彼女の生活の支援を続け、一人で羽ばたける時全てを話すつもりだ」

 乱れた呼吸を整えながら、士郎の問いかけに答える。

「そうか」

 士郎の言葉にナイフは霧散し、部屋を覆っていた殺気が霧散する。

「今夜、リンディさん達と話す場を設ける。
 そこではやてに全てを話せ。
 はやては貴方が思っている程、弱くはない」

 踵を返し、ドアに向かう士郎。

「今回は犠牲者が出ることなく終わった。
 最後に血を流す必要はない。
 故に見逃す。
 だがそれも最後だ。
 それとリーゼロッテ、ゲイ・ボウの呪いは消した。
 時間はまた連絡をする」

 士郎は淡々と伝え、ドアの向こうに姿を消した。

「……見逃してもらったという事か」

 椅子に体を預け、グレアムは大きく息を吐く。

(私にできることなど限られている。
 その中で私が出来る事をやっていくしかない)

 グレアムは静かに誓いを胸に秘め、椅子から立ち上るのであった。 
 

 
後書き
皆さま、ご無沙汰しております。

リアルが忙しく1カ月も更新が滞ってしまって申し訳なかったです。

一応、二週間に一度の更新にこれから戻してまいります。
次回はなのは達と士郎の魔術の話です。

ではまた再来週にお会いしましょう。

ではでは 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧