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八条学園怪異譚

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第五十二話 商業科の屋上その十六

「そういえばそんなお話も」
「そうよね」
 聖花は愛実のその言葉に頷いて応えた。
「聞いたか読んだかね」
「それでね」
「そんなお話もあったわね」
「そうよね」
「封印といっても簡単だ」
 日下部は言う。
「泉を見つけたなら塩や松脂等を泉全体に撒けばいい」
「あっ、どれも魔を退けますね」
 聖花は塩や松脂と聞いてすぐにその辺りの事情を察した。
「そうでしたね」
「知っているな」
「はい、魔はどの国のものでも塩を嫌いますね」
「西洋でも悪魔を召喚する時に大量の塩を用意したりする」
「それで悪魔を大人しくさせるんですね」
「そうだ、魔神も塩には弱い」
 ソロモンのレメゲトンに出て来る七十二柱の魔神達ですらだ。彼等は魔王、魔界の君主達とされる実力者達だがその彼等でもなのだ。
「塩には絶大な効果がある」
「その塩を撒けばですか」
「あくまで清めた塩だがな」
 塩といってもただの塩ではないというのだ。
「普通の調理に使う様な塩では意味がないが」
「それでも塩を撒けばですか」
「松脂等もな」
「そうすればなんですね」
「泉は封印出来る、そしてだ」
 泉を封印すればというのだ。
「泉がなくなれば幽霊も妖怪もこの学園に出入り出来なくなる」
「じゃあここの妖怪さんや幽霊さん達は」
「基本この学園にいることになる」
 この八条学園にだというのだ。
「そうなる」
「商店街とかには行けてもですか」
「この学園にいることになる」
「けれど学園の外には校門から出入り出来るわよ」
 ミレッラも二人に話す。
「だから泉を封印してもね」
「特に変わりはない」
「そうなるんですね」
「そうよ、けれど泉を封印したいならね」
 二人がなら、というのだ。
「すればいいんじゃないかしら」
「ううん、別に泉を封印しても」
「そうしても」
 二人は話を聞いてそして言うのだった、考えつつ。
「何の意味もないわよね」
「そうよね」
「妖怪さん達が出入り出来なくなるっていうのもね」
「よくないわよね」
「この学園に最初に入るには泉からでないと駄目だ」
 日下部は幽霊や妖怪達が最初に学園に入るには校門からでなく泉からでないと駄目だということも話した。
「そして学園を去る時もだ」
「じゃあ泉がないと皆ここに来られないんですね」
「そして去ることもですね」
「そうだ、出来ない」
「じゃあよくないですよ」
「泉を封印したら」
 二人はここまで聞いて二人共同じ結論を出した。
「泉はこのままじゃないと」
「皆困るじゃないですか」
「幽霊や妖怪達がか」
「はい、別に見つけるだけでもいいですよね」
「探検するだけでも」
「探検は何故するか」
 このこともだ、日下部は二人に述べた。
「そこに理由はいらないな」
「はい、山があれば登る」
「知らない場所に行く、ですね」
「それで充分だ」
 何故探検家や冒険家が探検し冒険をするのか、それはそこに未知のものがありそれがどういったものか知りたいからだ。
 だからだ、彼等は行くのだ。そして二人もまた。
「私達も結局そうだと思います」
「ですから」
「そういうことだな、ではだ」
「はい、それじゃあ」
「見つけることにします」
 それだけでいいとだ、二人はいいとわかった。そうしてだった。
「じゃあ次は空手部の道場に行きます」
「あそこに」
「行って来てね。私は基本ここにいるから」
 ミレッラはにこりと笑って二人に告げた。
「そういうことでね」
「はい、それじゃあ」
「私達は探します」
 二人もミレッラににこりと答えてだった、そうして。
 二人は次の泉の候補地に向かうのだった、泉の候補地はまだあるがそれは次第に少なくなってきていることも確かだった。
 それでだ、愛実は帰り道に聖花にこう言ったのだった。
「あと少しだから」
「諦めないでね」
「泉見つけようね」
「ええ」
 聖花は愛実のその言葉に笑顔で頷いた、そして愛実に皆が言う様な母親気質も見出したのであった。そのことにも笑顔になる聖花だった。


第五十二話   完


                          2013・10・1 
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