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金木犀

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第三章

「お庭の草むしりもして干した洗濯もの入れてアイロンもかけて」
「うわ、主婦って大変ね」
「真面目にするとやること多いのね」
「夕食も作らないといけないのよ、だからね」
「今からお掃除するのね」
「そうなのね」
「何もしないなら自分のお部屋に戻りなさい」
 そうしろというのだ。
「わかったわね」
「はいはい、それじゃあね」
「私達は」
 娘達も応えてそうしてだった。
 野菊は何とか掃除をはじめられた、そしてその他の家事もだった。
 昼も夕方も働いて夕食を帰って来た夫と共に迎えてからだ、夫である健一に対して疲れた顔で言うのだった。
「今年は特に暑いから」
「クーラーつけないのか?」
「つけても一緒よ」
 その汗だくの顔で言うのだった。
「お昼なんで凄いから」
「四十度か」
「今日はね」
 記録的な猛暑だった、今日は特に。
 そしてだ、さらにだったのだ。
「湿度も凄かったから」
「会社の中はそうでもなかったがな」
「クーラーがんがん入れてたでしょ」
「ああ、そうだったからな」
「それならね涼しくて当然よ、それに貴方基本デスクワークだから」
 健一は経理部に所属している、だから仕事はいつも机に座っている。それでだというのだ。
「まだましなのよ、けれど家事は身体動かすでしょ」
「だからだな」
「そう、暑くて暑くて」
「うちの娘は皆料理はするがな」
 このことは父である健一も知っている、父親は娘には疎遠というが彼は娘達をちゃんと見ているのだ。それで知っているのだ。
「他のことはな」
「今もね、家にいる時はね」
「だらだらしているだけか」
「あの娘達の間で遊ぶかお友達を呼んで騒ぐかね」
「やれやれだな」
「本当によ、大荷物が四人よ」
 娘が四人いてそうなるというのだ。
「困ったことにね」
「どの娘も部活して外に出るだけましか」
「ましじゃないわよ、家にいると動かないのよ」
 それではとだ、野菊は夫に口を尖らせて話す。
「それだとね」
「そうか、しかしな」
「暑いのはっていうのね」
「夏だけだからな」
 こう妻に言う夫だった。
「もう少しだけな」
「今八月になったばかりよ」
「それでもだ、我慢すればな」
「夏は終わるっていうのね」
「言うだろ、終わらない夏はないってな」
「それは冬でしょ」
 夏とは全く違う正反対と言っていい季節だ、要するに辛い時は必ず終わるということだ。
「違うわよ」
「しかし夏もな」
「絶対に終わるっていうのね」
「だから秋になるまでな」
「恋しいわね、秋が」 
 しみじみとした口調でだ、野菊は言った。
「本当にね」
「そこまで言うか」
「言うわよ、とにかくね」
「今年の夏は暑いか」
「汗かいて大変よ」
 野菊は本当にこの夏は暑くて仕方がないと思っていた、夫と話す今もクーラーをかけていても暑かった。
 それでだ、テレビで節電を呼びかける声を聞いてもこう言うのだった。 
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