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魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~

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それぞれの思惑

†††シャルロッテ†††

今日も今日とて私はヴィヴィオとお喋りしながら、みんなの訓練をモニター越しで見学中。てゆうかさ、「シグナムも全然訓練に参加しないよね」ってちょっと離れた位置に居るシグナムに話しかけた。

「私は、なのはやヴィータ、テスタロッサやセインテストのように論理云々で教えるのは苦手でな」

本当に私とシグナムは似てる。論理ではなく感覚で剣を振るう。いつも思ってた親近感。だから「そっか♪ シグナムってやっぱそうだよね」って笑ってしまった。

「む? お前もどちらかと言えば私と同じだろう」

「だから笑っちゃうんだよ。あまりに似過ぎていてさ・・・ホント、可笑しい」

「・・・どうした。何かあったのか、フライハイト? なにか悩んでいそうだな」

シグナムの真剣な声色での問い。シグナムの方を見ると、真っ直ぐに私の目を見つめるシグナムと目が合う。悩み。うん、最近できた。終わりが見えてきたんだ。私とルシルのこの世界での最後が。騎士カリムの預言の内容。“大罪ペッカートゥム”が何を企んでいるかハッキリと判ってないけど、私とルシルが居ようがそれでも続けるヤツらの企み。

(最強の第四の力、天秤の狭間で揺れし者4th・テスタメントであるルシルが居ても、問題にならないほどの強さを持つアポリュオンを召喚する・・・)

本来なら“絶対殲滅対象ペッカートゥム”を使って、上位の“アポリュオン”を召喚なんて聞いたことも無いから、本当に一体何を企んでいるのか不明。でも“標”がどうのって預言だし、上位連中が来るのはまず間違いない。だからストレスが溜まるのなんのって。

「ううん、ありがとう、大丈夫だから。うん、私は・・・大丈夫」

「大丈夫と言われてはもう深くは追求できないが、しかしなフライハイト。我々はお前とセインテストの力にもなりたいのだ。確かにペッカートゥムに対しては無力だが、お前たちの愚痴や悩みを聞いて心労くらいは減らせる、とは思うんだが」

「その気持ちだけで、私は十分だよ。十分すぎるよ。・・・でも、ひとつだけ、いい?」

私はシグナムに歩み寄って、躊躇いもなく真ん前からシグナムの胸に寄りかかった。シグナムはそっと抱き寄せてくれて、子供をあやすように背中を撫でてくれた。トクントクンと心臓の音がして、胸の柔らかさと温かさに安心する。

「背格好はもう大人だろうが、私からしてみればお前もセインテストもまだ子供だ。だからもっと大人を頼れ。肩だろうが胸だろうが、少しでも安らげるのなら貸してやる」

「え? それってつまりルシルにも胸を貸すっていう事?」

「バカを言え。奴には肩で十分だ。それに、胸ならテスタロッサに貸させればいいだろう」

「あはっ。その通りだ。ルシルがシグナムの胸に寄りかかったら、フェイトが嫉妬で暴れちゃうかも♪」

「その時のテスタロッサはさぞ強いだろうな」

この世界に生きているシグナムに触れることで安堵を得る。今はまだここに居る。ここに存在している。シグナムに「ありがとう、落ち着いた」ってお礼を言って離れる。とここで、ヴィヴィオがキュッと私の手を握ってきた。「どしたの? ヴィヴィオ」と抱き上げる。モニターに映るなのはとフェイトとルシルを指さして、「ママとパパのとこ行きたい」って見上げてきた。

「もうちょっと待とうね、ヴィヴィオ。ヴィヴィオのママとパパはお仕事中だから。お仕事が終わってから、お疲れ様、ってお迎えに行こうね♪」

「うんっ♪」

「くはぁ~、可愛すぎるっ❤」

ヴィヴィオを高い高いしながらクルクル回ると、ヴィヴィオは「きゃあー❤」ってはしゃぎ声を上げる。私も誰かと恋をして、結婚して、子供を産んで、孫に囲まれて。そんな幸せな生活を送ってみたかったなぁ。叶わぬ願いであり望みだと判っていても、思い描いてしまうそんな夢。だからせめて、そんな夢を叶えることが出来るみんなを守りたい。それが、私の夢であればいい。
改めてみんなの訓練風景が映るモニターを見る。これからの未来の為に強くなろうとするフォワードのみんな。その手助けをするなのは達。私は魔法を教えるだけの器用さが無いから見守るだけしか出来ない。

「――スバルとギンガの模擬戦か。姉妹であり師弟という組み合わせだな」

シグナムの言葉に改めてモニターへと視線を映す。今日からギンガ、それにマリエルさんが機動六課に出向することになった。スバルへのサプライズもかねて黙っていたけど、見事に驚いてくれたみたいだった。

「どっちが勝つと思う?」

「普通に考えるならばギンガが勝つだろう。しかしスバルとてなのはとヴィータに鍛えられいるからな、良い線までいくはずだ。お前はどうだ?」

「おんなじ意見。最近のスバル、本当に頑張ってるし、もしかするとギンガに決定打の一発くらい打ち込めるかもね」

ということで、スバルとギンガの模擬戦を見守る。ギンガのコンビネーションに押され気味のスバルだけど、それでも決定打をもらわないように防御と回避を続ける。やっぱり強いな~、ギンガ。さすがはスバルの師匠。でもスバルだって負けてない。
ギンガの一撃を強力な障壁で完全防御。それが成功したことで、戦況が変わろうとする。ギンガは決めの一撃が防がれるなんて思ってもみなかったのか、スバルが反撃に転じることを許してしまった。リボルバーキャノンの一撃を打ち、ギンガは咄嗟に防御するけど粉砕された。

「行けッ、スバル! ヴィヴィオも応援したげて」

「がんばれ、スバルさんっ」

反撃に出たスバルは攻撃の手を緩めない。拳打に蹴打の応酬が始まる。スバルは“マッハキャリバー”の出力を向上させるモード2を起動させて、さらに速度を押していく。速度で威力を上乗せされた“マッハキャリバー”の跳び蹴りを繰り出すスバル。
元より重量っていう攻撃力があるから、ただでさえ強力な一撃が速度でさらに大威力になった。ギンガは単純な回避だけでなく、ウイングロードで陸戦から半空戦へと切り替えてきた。スバルも続いてウイングロードで空に上がった。そこから始まる中空を縦横無尽に駆け回る2人の激しい攻防。

「楽しそうだね、スバルもギンガも」

「ああ。どれ、フライハイト。我々も――」

「ダメ」

「・・・即答か」

本気で残念がるシグナムには悪いけど、今は抑えてほしい。シグナムとの模擬戦は楽しいけど、ちょっと本気になり過ぎるから最近はちと辛い。そしてスバルとギンガの模擬戦も終わりを迎えた。勝敗は、ギンガの勝利。それから本日の午前の訓練は、なのはたち隊長陣とフォワード陣+ギンガによる模擬戦で締めくくられた。

†††Sideシャルロッテ⇒ルシリオン†††

「おーい!」

午前の訓練も無事に終わったところで、遠くからシャルの声が聞こえた。まったく、今日は何をしていたのか問い詰める必要が・・・今日はソレかぁ。続いて「ママー! パパー!」と、ヴィヴィオが大きく手を振りながら、私たちの元へ近付いて来る。それと同時に、ヴィヴィオが乗っている生き物も近付いて来る。その後ろにはシャルとシャーリー、ザフィーラ、マリエル技官の4人もいる。

「今日はうさぎ?かぁ」

「わぁ、かわいい♪!」

ヴィータがチラチラとヴィヴィオの乗る生き物を見る。うさぎが好きだもんな、君は。

「かわいい♪」

そう声を上げるのはキャロ。スバルやティアナ、ギンガも口には出さないが顔には出ている。私の隣に居るなのはが「ルシル君の使い魔って、ホントにいろいろな子がいるよね」と笑う。

「まあな。ああいう愛玩系の使い魔もいくらか居るよ」

ヴィヴィオと“異界英雄エインヘリヤル”の組み合わせは結構六課では有名になってきた気がする。ヴィヴィオが訓練場へ来る際、そこにシャルが居合わせると、“エインヘリヤル”登場というパターン化。
最初の頃はちゃんとどれを召喚するか許可を取りに来たが、この頃は一切なし。問題を起こさなかったこともあってそれでよし、とした。一度だけ“侯爵級ドラゴンのクロセル”を召喚しようとしたこともあり、そのときは全力で食い止めた。あんなものが現れたら、どうなるか少し考えれば解るだろうに・・・。

「なぁ、セインテスト。あのうさぎっぽいのなんて言うんだ?」

「ん? あれはバーニィ。人懐っこいから害はない」

ヴィータにそう答える。人や荷物を載せてくれる、優しい奴だ。

「ママー! パパー!」

「はーい、ヴィヴィオー♪! なのはママはここですよぉ~っ❤」

ヴィヴィオがバーニィから降りて駆け寄って来る。するとバーニィは光となって消えていく。シャルが召喚を解いたらしい。

「ヴィヴィオ~、あんまり慌てて走らないでね~」

駆けて来るヴィヴィオを待っていると、フィイトの注意もむなしく「あぅ」ヴィヴィオが転んだ。転んだヴィヴィオの元に駆け寄ろうとしたフェイトを、私は「待った、フェイト。大丈夫だ」と、なのはは「うん。綺麗に転んだし、地面だって柔らかいから大丈夫」と言って制止する。本音を言えば私もフェイトのように、涙ぐんでいるヴィヴィオを見てすぐに駆け寄りたい気持ちが生まれたが・・・。だがそれを抑え、ヴィヴィオが立ち上がるのを待つ。

「ヴィヴィオ、ケガしてないないから大丈夫だよね」

「ほら、ママ達とパパはここで待っているから。さぁ、おいでヴィヴィオ」

「ママ・・・パパ・・・」

うぐぅっ、ヴィヴィオに呼ばれて、さらに駆け寄りたい気持ちが・・・! う、まずい。ここまでヴィヴィオに愛着が湧くと、後々厄介なことになりそうだ。耐えろ、耐えるんだ、ルシリオン・セインテスト・フォン・シュゼルヴァロード。そんなことを考えながらしゃがみ込み、両手を広げてヴィヴィオを待つ。しかし結局、ヴィヴィオは、後ろから来たシャルと我慢できなかったフェイトによって抱き起こされた。

「もう、2人とも少し厳しいんじゃない? ねぇ、フェイト」

「うん、そうだよ。ヴィヴィオはまだ小さいんだから」

「ええ? それはちょっと甘いと思うよ。ね、ルシル君」

「あ~、まぁ・・・なんだ。ヴィヴィオ、今度は頑張ってみような?」

誰だ、今、逃げた、って言ったのは?

†††Sideルシリオン⇒なのは†††

午前の訓練も終わって、みんなで食堂へと来た。食堂で昼食を摂りながら、みんながそれぞれ雑談を始めている。そんな中、隣のヴィヴィオがピーマンだけを残しているのに気付いた。

「こーら、ダメだよ、ヴィヴィオ。ピーマンを残しちゃ」

柔らかく叱るんだけど、「う~、だってピーマンにがい。きらーい」って食べようとしない。お残しはなのはママが許しません。

「そんなことないよ。ピーマンってすっごく美味しいんだから」

「ヴィヴィオ、好き嫌いなくしっかり食べないと、大きくなれないぞ?」

「・・・・」

同じテーブルについているフェイトちゃんはそう言って自分の皿にあるピーマンを食べて、ルシル君もそう言ってくれる。でもシャルちゃんだけは無言。あれ? シャルちゃんなら何か言ってくれると思ったんだけど。

「あー、そうやなー。好き嫌い多いと、ママ達みたいに美人さんになれへんよ?」

「うぅ・・・・あ!」

はやてちゃんからもフォローが入ったことでヴィヴィオもちゃんとピーマンを食べるかなと思ったら、ヴィヴィオが向かいに座っているシャルちゃんのお皿を見る。私たちもシャルちゃんのお皿を――正確にはお皿の上のある食べ物を見る。

「シャルちゃん・・・・まだダメだったの、トマト?」

お皿の端っこに寄せられているのは、真っ赤なお野菜ミニトマト。昔からトマトが嫌いだったけど、今でもそうだなんて思いもしなかった。そして無言だった理由も判った。そうだよね、自分を棚に上げて偉そうなこと言えないよね。

「シャルさん、のこしてるのに美人だよ?」

「わぁ♪ ありがとう、ヴィヴィオ❤」

ヴィヴィオに、美人、って言われて嬉しそうなシャルちゃんだけど、そこは違うでしょ。

「そうじゃないだろ、シャル。君が手本として嫌いなトマトを食べなさい」

「いや、ほら・・・」

ルシル君にそう言われたシャルちゃんはヴィヴィオを見ると、2人一緒に「ねぇー♪」」首を傾げながら微笑んだ。なんかシャルちゃんの方がママ――というよりは大きなお姉さん?みたい。そんな2人は可愛いけど、可愛いんだけど。でもここで折れちゃダメだよ、私っ。

「ねぇ、シャル。なんでトマトがダメなの? すごく美味しいのに・・・」

「う~ん。だってよくたとえ話とかであるでしょ? 潰れたトマトってまるで人が――むぐっ!?」

「言わせるか馬鹿っ!」

シャルちゃんの言葉の続きを防ぐようにして、ルシル君がシャルちゃんの口を塞ぐ。ヴィヴィオは続きが気になるのか「なになに?」って興味津々で訊こうとしてる。

(潰れたトマト? 人が・・・? ルシル君の様子からしてあまりよくない話題・・・かな?)

少し考えて頭に浮かんだのは、人が転落した結果が云々っていうたとえ話・・・・。うわっ、想像するんじゃなかったよ。

「時と場所と、言う相手を少しは考えようなー、シャル?」

ルシル君の怖い微笑みを見て、シャルちゃんが何度も頷く。ようやくルシル君の手から解放されたシャルちゃんは一息。

「まぁ理由は兎も角として、トマトって昔からダメなんだよー。こればかりはどうあっても好きになりそうに――あがっ!?」

シャルちゃんが奇声を発する。原因はルシル君。ルシル君の右手がシャルちゃんの口を開けたままで固定して、左手でミニトマトを無理やり口の中に突っ込んだ。フォワードのテーブルから「おお」って聞こえてきた。はやてちゃんたち八神家もフォワード同様、そんな感じだ。

「ほら、ヴィヴィオ。シャルさんも嫌いなトマトを美味しそうに食べてるぞ」

そう言うけど、さっきからシャルちゃんの顔にモザイクがかかって判らないんですけど。たぶんこのモザイクはルシル君の魔術かなんかだと思う。ホントにいろいろな事が出来るなぁ。

「美味しいだろ、シャル?」

「トマト、トテモオイシイデス」

うわっ、シャルちゃんどうなってるの。明らかにカタコトの棒読みで怖いんだけど。でもモザイクがシャルちゃんの顔を隠して確かめられない。最終的にヴィヴィオは、ルシル君に遊んでもらえると聞いてピーマンを食べた。そしてシャルちゃんはしばらく気を失ってました。そこまで嫌いになるって、何か他に理由でもあるのかな?

・―・―・―・―・

――ミッドチルダ・スカリエッティラボ

黄色い灯りに染まる通路を、ジェイル・スカリエッティが歩を進めていた。後ろについて歩いているのは“大罪ペッカートゥム”の許されざる色欲アスモデウスと許されざる憤怒サタンの2体だ。

「スカリエッティ。地上本部とやらの襲撃の準備は出来てんのか?」

「ああ、もちろん、と言いたいところだがまだだね。私の作品が全て完成したとは言い切れない。だが整いつつあることには違いないよ」

サタンの問いにスカリエッティは笑みを浮かべつつそう答え、サタンは「そうかい」と返して黙り込んだ。

「15年前、君たちは私の夢に賛同してくれた。我々のためだけの世界の創造。まぁ、あまりにいきなりな出会いと突拍子もない話だったために少しばかり驚いたがね」

「確かに。今思えばよく信じられたわね、スカリエッティ。私たちの正体に関しても世界の在り方に関しても・・・」

「君たちの記録とやらを脳に直接流し込まれれば信じるしかないだろう? あれを見なければ私は今でも信じられなかったはずだよ」

笑い声を上げながらスカリエッティは通路を進む。

「あぁそうそう。3rd君と4th君のどちらかでもいいから生け捕りに出来ないかい?」

「生け捕り? 随分と面白いことを考えるな、スカリエッティ」

「やはり研究者としては無視できないのだよ、サタン。世界の意思を代行する界律の守護神とはあれから一度も話をしていない。私は知りたい。神と呼ばれる地位にまでいる彼らが何を思い、何を望み、何を得たいがために存在するのかを」

スカリエッティの言葉を聞いたアスモデウスとサタンは薄笑い。2体の思うことは唯一つ。“この男は何が起ころうとも折れない”、だ。

「それは今の人間としての奴らか、それとも守護神となっている奴らか?」

「私は彼らの話が聞けるなら、そのどれでも構わないよ」

「だったら全て事が終わったあとでもいいでしょう? 計画途中で下手な爆弾を抱え込むと、全てが水泡に帰すことになるわ」

「ああ。ゆっくりと話が出来る環境を整える必要もあるしね」

3人の会話はそこで一旦終わり、沈黙を保ったまま通路を進む。しばらく歩き行き着いたのは、ガジェットⅡ型が数十機と並ぶ一室。アスモデウスとサタンの2体は入らず、入り口付近で立ち止まる。そこにはすでに先客が2人。その2人を見たスカリエッティは口を開く。

「祭りの日は近い。君たちも楽しみだろう?」

「そうっスね~。ようやく武装も完成したしたことっスから、早く暴れてみたいっスねー」

洋紅色の髪を後ろで纏めた少女。首元にある装甲にⅩⅠとある。その少女・ウェンディの言葉に、スカリエッティは答える。

「君たちは最前衛用として生まれたから、誰よりも存分に暴れられるとも」

「――だってさ、ノーヴェ♪ よかったっスね~」

ウェンディの視線の先に、もう1人の少女が佇んでいた。赤い髪をし、醸し出す雰囲気は苛立ち・不機嫌といった風だ。

「んなのどうだっていいよ。あたしは確かめたいことがあるだけだし。あたし達の上に立つ王様っていう奴が、本当にあたしたちの上に立つのに相応しいのかどうか・・・」

ウェンディに話を振られたノーヴェは素っ気無く返す。スカリエッティは、ノーヴェの言葉に小さく苦笑し、止めていた歩みを進める。

「まぁよく解んないけど、それってすぐ解るんスよね?」

「ああ、もちろんだとも。祭りの準備は整いつつあるからね」

ウェンディにそう答え、スカリエッティは“レリック”が収められたボックスに手をかざす。すると“レリック”は、まるで目覚めたかのように光を放ち周囲を赤く照らし出す。話の途中でこの部屋に集まったスカリエッティの作品、ナンバーズにも聞かせるように謳いだす。

「大きな花火をこの世界に打ち上げてみせようじゃないか! 素晴らしく楽しいひと時になるのは間違いないからね!」

スカリエッティは両腕を大きく広げ、笑い声を上げる。これから自分たちがなす、祭りとやらに酔いしれるかのように。

「ふふ、今のうちに存分に楽しんでおけばいいわ。ジェイル・スカリエッティ」

「生まれ方はどうあれ、やっぱ人間はどいつもこいつも同じってわけか」

部屋の外からスカリエッティとナンバーズを見つめる二体の“ペッカートゥム”が囁く。冷笑を浮かべた2体は、静かにゆっくりとその場から離れた。

†††Sideシャルロッテ†††

はやてに部隊長室へと呼ばれた私たちは、はやてから預言の新しい解釈を聞かされた。数日後に地上本部で開かれる公開意見陳述会が、スカリエッティらに狙われる可能性が出てきたって。だと言うのに、例によってあのヒゲ親父――レジアス中将は姿勢を変えず、外の警備強化・警備参加は許しはしたけど、本部内の警備には制限を掛けてきた。

(ああもう、マジで辞めてしまえ!)

部隊長であるはやてと、両隊の隊長であるなのはとフェイト、あとシグナムしか入れないって。バッカじゃないのっ。フェイトは4人そろえば大丈夫だって自信に満ちていて、なのはもフォワードのことを、十分乗り切れるだけ鍛えたから大丈夫、って自信を漲らせた。それじゃあ私とルシルが気になるもう1つのことを聞いてみようか。

「ごめん、はやて。解読できていない預言の方はどうなってる?」

「それについては少しだけや。今は解読できてる予言の解釈で手一杯みたいでな。んで、我らがユーノ君の解読した予言の解釈はこの3つや。慟哭の涙、歓喜の絶唱、憤怒の叫び・・・よう解らんけど、良くないことやとは思う」

「そう、ありがとう」

それはそうか。今解読できている部分――地上本部の壊滅と管理システムの崩壊を防ぐのが最優先だもんね。それにその後に続く預言は、現状を防げば回避できると判断されているんだった。

「それでな、シャルちゃんとルシル君には、地上本部の外を遊撃戦力として護ってもらいたいんやけど・・・ええかな?」

「はやて、私たちに遠慮する必要はないってシャルに言われたんだろ? 私としてもそうだ。だがまぁペッカートゥムやレーガートゥスが現れたらそっちを優先したい。すまないが」

はやてにルシルがそう答える。ついでに“ペッカートゥム”連中が現れたらそっちを優先させたいとも。私も「だからと言って、地上本部とかみんなを蔑ろにするってわけじゃないよ」って続く。

「そんなん判るよ。でも・・・うん、そやね。それに対処できるんは2人だけやし、その場合はそっちを優先してもええよ」

「それまでは地上本部やフォワード陣や他の局員のフォローに全力を注ぐ」

「だから3人は中のほうをしっかりね」

「「「うん!」」」

・―・―・―・―・

深い森林の中、唯一開けた場所に、許されざる傲慢ルシファーと、人影がもう1つとあった。そのもう1人の影が、月光の降り注いでいるその場に複雑な光の紋様を刻んでいる。

「Levis est fortuna. Id cito reposcit quod dedit」

その影は地面に紋様を刻みながら、片手に持つ書物のページを開きつつそう囁く。それを聞いたルシファーは、閉じていた瞼を開きつつ空に浮かぶ月を仰ぎ見る。

「レウィス・エスト・フォルトゥーナ。イド・キト・レポスキト・クウォド・デディト。運命は軽薄である。与えたものをすぐに返すよう求めるから、か。確かフォルトゥーナ様の言葉だったか、ベルフェゴール」

「ええ」

ふくらはぎほどまである白髪を背中の辺りから三つ編みにしている若い女性、許されざる怠惰ベルフェゴールがそう返す。彼女はスッと音もなく立ち上がり、ルシファーへと振り向く。白いクロークが風に靡いて翻り、それに続いて編まれた白髪も同様に翻る。

「――で、何をしに来たの? 私の仕事に何か文句でも言いに来た?」

前髪から覗く銀色の双眸がルシファーを見据える。ルシファーは月からベルフェゴールへと視線を移した。

「明日、地上本部とやらに襲撃をかける。俺たちは三番と四番を特殊部隊の施設から引き離す役目を担った」

「それならアスモデウスから聞いた。私は現状のままミッドチルダ周辺世界での待機とされているけど・・・」

ルシファーはそれに「怠惰の化身であるお前にはちょうどいい」と苦笑した。

「でもまぁ、まさか私たちがフリとはいえ人間如きに手を貸すなんて思いもしなかった」

そのようなことを言いつつベルフェゴールが地面に紋様の続きを刻み始める。

「だが実際、なかなかに面白い。人間と同じ時間を過ごすなんてことは今までになかった。だからこそ様々な知識を得られる。必要なことから不必要なものまでな」

ベルフェゴールが地面に刻んだ紋章に左手をつき、「そのタバコもその知識のひとつというわけ?」ルシファーが口に銜えているタバコを見ながら問う。

「あぁこれか。人間が考えた嗜好品というのも悪くない」

「そう。Fortuna vitrea est; tum cum splendet frangitur」
 
地面に刻まれた紋章に左手をついているベルフェゴールがそう告げた。すると、そこに刻まれていた紋章が一瞬輝き、そして何もなかったかのように消滅した。

「フォルトゥーナ・ウィトレア・エスト・トゥム・クム・スプレンデ・フランギトゥル。運命はガラスでできている。輝くときに砕け散る・・・か。お前のそれは“標”を刻む際に必要な詠唱なのか?」

「いいえ。単に許されざる怠惰(わたし)の趣味のようなもの。深い意味はない」

ベルフェゴールは立ち上がり、月を仰ぎ見る。一息を吐いて目を閉じた。そしてゆっくりと言葉を紡いでいく。

「これで全ての準備は終了。私の仕事もようやく終わり。あなたはどうす――これはどういうつもり、ルシファー・・・?」

ベルフェゴールが目を開き見たのは、赤黒い四角柱の剣の先端を自分に向けるルシファーの姿だった。

「俺の目的には“力”が必要なんだ。ペッカートゥムとしての“力”じゃなく、な。役目を終えたお前はもう必要ない。だからその“力”は俺が有効に使わせてもらう」

「本当に傲慢ね。何を目的としているかは知らないけど、今なら許す。その剣を下ろして大人しくミッドチルダへと帰りなさい。それに万が一、あなた達がアノ守護神に敗れでもしたらどうするわけ? あの御方の命を受けている私たちは本来、守護神にちょっかいを出すべきじゃなかった。それをアスモデウスが先走って、守護神たちに自分たちの存在を知らせて・・・。今回の計画が失敗しでもしたら、私たちは絶対にあの御方に消される。何も考えなかったのか、あなた達は」

ルシファーの剣を、ベルフェゴールは手にしていた分厚い書物で叩き落とす。それでもルシファーは剣を構える。見据えるのは自分の糧となる贄のみ。ベルフェゴールは、やれやれと首を横に振りながら盛大に溜息を吐いた。

「馬鹿ね。なら仕方ない。返り討ちにして、私があなたの“力”を頂くことにする。ギブアップはいつでもどうぞ、許されざる傲慢のルシファー?」

「万が一なんてものはない。俺が三番と四番すらも取り込むからな」

「ふふ。今代の傲慢はどこまでも愚かね。呆れてものも言えなくなった。四番の本気をその身で体感すれば、そんな戯言は吐けなくなる。だから私は、あなたにこの言葉を贈る」

ベルフェゴールの手にしている分厚い書物のページが風もなく開いていく。

「Stultum facit Fortuna, quem vult perdere」

――運命の女神は破滅させたいと思う者を愚かにする――

「なら俺からも、この言葉を贈らせてもらおう、ベルフェゴール。Misce stultitiam consiliis brevem, dulce est desipere in loco」

――僅かの愚かさを思慮に混ぜよ、時に理性を失うことも好ましい――

月光降り注ぐ地にて、傲慢と怠惰の2体だけの殺戮のダンスが始まった。それぞれの思惑が絡まりあい、次元世界は人知れずただ滅びへと向かっていく。 

†††Sideルシリオン†††

「――というわけで、公開意見陳述会をいよいよ明日に控えたることとなった。明日の14時からの開会に備えて、現場の警備はもう始まってる」

ロビーに集められた私たちは、はやての言葉に耳を傾ける。はやてからこれからのシフトの指示が出された。今よりすぐに地上本部へ向かう事となったのは、スターズの隊長なのはと副隊長ヴィータ。そしてリインとフォワード陣。彼女たち先発隊に、夜間シフトで地上本部の警備となることが告げられた。

「ちゃんと仮眠とれた? みんな」

フェイトにそう訊かれたフォワードの子たちが「はいっ!」と大きく答えた。その声にビクッとするのは隣に立つシャル。どうやら立ったまま半分眠っていたらしい。シャルは昼間、夜間(ナイト)シフトと関係ないのに散々眠っていた。まぁ途中で気付いて叩き起こしてやったが。だというのに、まだ眠たいらしい。というかまだ19時だぞ、19時。

「そんで私とライトニングの隊長・副隊長は、早朝に中央入りすることになってるから、それまでの間はよろしくな」

「「「「はい!」」」」

だからビクッとするな、シャル。恥ずかしいだろ。エリオやキャロでさえしっかりしているのに・・・。

「シャルちゃん、ルシル君。2人も私らと同じ早朝出動や」

「了解した」

「りょうかいですぅ・・・・Zzzz」

いっそのことハバネロでも口に突っ込んでやろうか。とにかく解散。シャルだけは先に寮に戻らせることにして、明日出動の後発組の私たちは、これから本部へと向かうなのは達の見送りをするため、屋上のヘリポートへと赴いた。それぞれがヘリに乗り込もうとしたとき、ヴィヴィオとアイナさんが屋上に現れた。なのはもそれに気付き、ヴィヴィオの元に歩み寄っていく。

「あれ、ヴィヴィオ? 良い子で寝ようねってなのはママと約束したでしょ?」

「ごめんなさいね、なのは隊長。ヴィヴィオ、どうしてもお見送りをしたいって」

あぁそういうことか。ヴィヴィオの行為は解らないでもない。ママのお見送り。微笑ましいことじゃないか。でもなのはは「我儘を言っちゃダメでしょ」と優しく窘める。ヴィヴィオも素直に「ごめんなさい、なのはママ」と謝るが、今回は仕方ないことだろう。

「ちょっと待った。ヴィヴィオにとって、なのはの夜勤は初めてだ。だからヴィヴィオも不安になってしまったんだろう」

夜はいつも一緒だからこその不安。精神も未発達な状態なら尚更だ。なのはもハッとして、今日は外で泊まること、そして「明日の夜には帰って、ヴィヴィオとまた一緒だから」とヴィヴィオの頭を撫でる。するとヴィヴィオは少し目に涙を浮かべて「ぜったい?」と聞き返した。

「うんっ、絶対だよ。良い子に待ってたら、キャラメルミルクを作ってあげる♪ だから、アイナさん達の言う事を聞いて、良い子でなのはママ達を待っててね。ママと約束、ね?」

ヴィヴィオは「うん」と頷いて、約束の証である指切りをした。なのははもう立派なヴィヴィオの母親だが、今のところは引き取るつもりはないらしい・が、ヴィヴィオの引き取り手が見つかっても、ヴィヴィオはなのはから離れない気がする。というか絶対離れない確信がある。もうヴィヴィオをなのはの正式な養子とするのが一番だと思うっている。
そうしてヴィータやフォワードの子たちがヘリに乗り込んだのを確認したなのはは、自分もヘリへと乗り込んでヴィヴィオや私たちに手を振った。さて、ヘリも飛び立ったことだし、寮に戻って明日のために眠るとしようか。指を組んで両腕を伸ばし、首を鳴らしながら屋上をあとにした。

†††Sideルシリオン⇒フェイト†††

なのはやみんなを見送って、ヴィヴィオを連れて私は部屋へと戻った。少し早いけど明日のために休む準備を始めようとしたとき、母さんから通信がきた。私はそれに応えて、回線を開く。開いたモニターの向こうで『はぁーい、フェイト❤ こんばんは、元気だったー?』って母さんが笑顔で手を振る。

「うん、私は元気だよ。母さんも元気そうで良かった」

『もちろんよ。ヴィヴィオもこんばんはっ♪』

「あ、こんばんはっ」

母さんの挨拶に、ヴィヴィオは元気よく返す。それを聞きながら、何かあったのかな?って思って、すぐに話を聞いてみることにした。すると母さんは、明日の公開意見陳述会に参加しようかどうか迷ってるって事らしかった。
クロノも別の任務で来ることが出来ないし、本局の方もそれほど参加しないって事だ。あまり地位のある本局員が来ると、レジアス中将派の局員たちから良い目で見られないし、ちょっとしたことで軋轢が生まれるかもしれない。
だから本局員の方はそうそう地上に降りて来られないそうだ。大まかにそう言うと、母さんは『困ったものよね』って小さく溜息を吐いて、『久しぶりにあなたの顔も見たかったし、ヴィヴィオにも逢いたかったのに』また嘆息。

「あの母さん? 私は警備任務ですから逢うことが出来ませんし、ヴィヴィオも寮でお留守番ですから、逢えませんよ?」

だから母さんが来ても何というか言葉は悪いけど・・・・無駄? もし来るなら全部が片付いたあとの方が絶対に良い。

『あぁそっか、そうよね・・・。こうして連絡をしてるけど、あなたとは随分逢ってないから寂しくって~。フェイト、体調とか崩したりとかしてない?』

「大丈夫だよ、母さん。私、忙しくても体調を崩さないよう気を遣ってるし。安心して」

私だってもう子供じゃないんだから、体調管理くらいは出来るよ。それから少し話をして、母さんが『おやすみ』と言って通信を切ろうとしたとき、『あっ』思い出したように母さんがもう1つの話題を出してきた。

『そうそう、フェイト。ルシリオン君とシャルロッテさんは今、居るのかしら?』

「え? ルシルとシャル、ですか? シャルはもう部屋で休んでると思います。けど、ルシルはさっき別れたばかりだからまだ起きてる、かな・・・?」

母さんが少し真剣な面持ちでルシルとシャルの名前を口にした。話があるならルシルの方がいいと思う。シャルはすごく眠たそうにしてたし、もう寝てると思うから。

「ルシル、呼んでみましょうか?」

『そんな急ぎのことじゃない・・・こともないような・・・。実はね、ルシリオン君とシャルロッテさんにもう一度正式に管理局に入ってもらおうって。そのことについて2人と話したかったのだけど・・・』

母さんはルシルとシャルをもう一度管理局に迎えたいと言ってきた。もしそれが現実になったら、休みの日とか会える時間を作ることが出来るかな・・・。

「えっと・・・じゃあルシルだけでも呼んでみますね」

ルシルの部屋に通信を入れる。出ないから、もしかしてもう寝たのかなと思ったとき、『どうした、フェイト?』モニターにルシルが映し出された。

「あ・・・!」

ルシルの頬が上気していて髪も少し濡れてることからお風呂に行ってたんだと判った。そんなルシルを見て固まった私に、ルシルはモニターの向こうで『どうした?』首を傾げていた。

「フェイトママ?」

「あ、う、その・・・ルシル、母さんが少し話したいみたいで、よかったらこの部屋に来てもらってもいいかな・・・?」

ヴィヴィオに袖を引っ張られて再起動。ルシルに通信を入れた用件を伝える。

『リンディさんが私に話? まぁそれくらいなら構わないけど・・・。判った、すぐに行くと伝えてくれ』

通信が切れた。そして相変わらず母さんの表情は笑みだ。

「母さん?」

『ふふ、フェイトったら。さっきのお風呂上りのルシリオン君を見て惚けてたわね~。でも、そんなルシリオン君に、私も少しドキッとしちゃった♪ 何か色っぽかったわね~❤』

なんてことを言うのだろうか、うちの母は。確かに私はお風呂上り直後のルシルを久しぶりに見てドキッとした。けどそれは別にいいとして、母さんがそう言うとなんだか危険な気がする。

『ねぇ、フェイト。ルシリオン君とはどうなの? ようやく戻ってきたのだし、アプローチをしていかないとダメよ?』

「え? う、うん。でも・・・・」

母さんの言葉に軽く頷くけど、以前シャルから何とかしてあげるから待ってて、って言われたから、今のところは現状維持のつもりでいる。

「今のところはこのままでいるつもり。それに今はそれどころじゃないし、ルシルを困らせることもしたくないし・・・」

『そう。フェイトがそう言うならそれでいいのだけど・・・』

それから少し沈黙。来てくれたルシルを部屋に招き入れて、管理局の再入局について話をした。

「すいません、リンディさん。もう一度管理局に入るつもりはありません」

それがルシルの答えだった。何となくルシルはそう答えを出すと思ってたけど、やっぱりちょっと残念。

『またミッドを離れて、“やるべきこと”を続けるため・・・なのかしら?』

「そうですね。ですが以前みたいにミッドを離れての行動はしないつもりです。これからはミッドを拠点として続けるつもりですから。ですから長い時間を会えなくなるということは少なくなると思います」

ルシルの言葉に俯いていた顔を上げる。これからもミッドに居てくれるなら、逢う機会がきっと多くなるはずだ。そう思うとすごく嬉しい。

『あら~そうなの? それは良かったわぁ♪』

「え? 何が良かったんですか?」

『いいのよ♪ これからもフェイトのことをよろしくお願いね、ルシリオン君♪』

「はあ・・・?」

ルシルは母さんが何について話しているのか解らないせいで力なく返事。母さんとの通信も終わって、それから「おやすみ」と挨拶を交わして就寝・・・のはずだった。

「それじゃあ、私は戻るよ。おやすみフェイト、ヴィヴィオ」

「うん。おやすみルシル」

「ルシルパパもいっしょにねよ?」

「「・・・・」」

流れる沈黙が痛い。ルシルは完全に動きを止めてるし、私も同じだ。

「ごめんな、ヴィヴィオ。さすがに無理だ」

「ふぇ・・・?」

即断られたヴィヴィオの目に涙が浮かぶ。あー、なんかデジャヴ。10年前にも私がこれでルシルを困らせたことがある。

「な、泣かないでくれ、ヴィヴィオ。フェイト、君からも何か言ってくれると助かる」

ルシルからの救援要請。私は少しだけ考えて、その考えた末の結論を口にする。

「ヴィヴィオもこう言ってるし、今日くらい一緒に寝よ?」

私の言葉にルシルは目に見えてガックリと肩を落とした。その反応はちょっと傷つくよ、ルシル。

「ルシルパパ・・・」

「・・・なぁフェイト。10年前にもこんなことなかったか? 確かあの時も私が折れて一緒に寝た記憶があるんだが・・・。今回もそのパターンだ。私が折れないとヴィヴィオの反応が怖い」

涙目のヴィヴィオに袖を掴まれたルシルは陥落。それから3人でベッドに入って就寝。ヴィヴィオは嬉しさのためかなかなか寝付かず、ルシルはそれで困ってた。私もそうで、すぐには寝付けずに起きていたけど、いつの間にか眠ってた。そして朝。起きてみるとそこにルシルの姿はなく、置手紙が1枚だけ残ってた。

――やっぱり無理。2人が寝入ったのを確認して退室させてもらった。ヴィヴィオには適当に誤魔化してもらえると助かる――

私はその置手紙を見て苦笑。そして置手紙の通りヴィヴィオへの誤魔化しの言葉を考える。でもよく考えてみたら、ヴィヴィオが起きる時間にはもう私たちは出動してるんだけど・・・。

†††Sideフェイト⇒シャルロッテ†††

ぐっすりと眠って体調万全で地上本部の警備を始めた私とルシル(ルシルは何か微妙だけど)。一応ということで管理局の制服を着ることになったけど・・・いいの、本当にこれで? 元管理局員であり現協力者な私たちが制服を着るっていろいろとまずい気がする。

(ま、私服や騎士甲冑姿で変な注目を浴びるよりかはマシか)

んで、一緒に来たはやて達は、フォワードの子たちにデバイスを預けて中へと入っていった。

「お、始まった」

そんなことを考えながらのんびり構えていると、ようやく陳述会が始まった。モニターに映し出されている陳述会で繰り広げられている論争を聞きながら、私のデバイスである“トロイメライ”をそっと指で撫でる。“キルシュブリューテ”は、“ペッカートゥム”や“レーガートゥス”以外に使えない。そのための“トロイメライ”。マリエルさんに頼んできっちりメンテナンスもしたから絶好調だ。

「ふわぁ。ねむひ」

それから何事も起きずに昼を過ぎ、・・・辺りは夕日に染まってオレンジ色だ。そして陳述会も終わりへと差し掛かりそうなところまでいってる。このまま何も起こらないことを祈りつつ、地上本部へと視線を向ける。

「開始から4時間ちょっとですね。中の方もそろそろ終わるはずですよ」

私の隣に居るティアナが腕時計を確認して現時刻を告げる。4時間、かぁ。結構無駄な時間を過ごしたかも・・・。

「あとちょっとでも油断は出来ないよ、みんな。だから、最後まで気を抜かずに、しっかりやろうねっ!」

「「はい!」」

スバルとエリオとキャロのそんなやり取りを見ていると、自然と笑みが浮かんでしまう。まるで昔の私たちを見ているみたいだから。ふと隣に立つルシルを見てみると、ルシルも似たような表情をしてる。これはこれで無駄な時間じゃなかったかもね。

・―・―・―・―・

「ドクター。ナンバーⅢからナンバーⅩⅡまでのナンバーズ全機の配置が完了しました」

スカリエッティのラボの一室、ナンバーⅠウーノが自身の周囲に展開されている、まるで鍵盤のようなキーボードを打ちながら、背後にいる自分たちの主たるジェイル・スカリエッティに報告する。彼女の前に展開されているいくつかのモニターには、ナンバーズやゼストとアギト、そして腕を交差したルーテシアと、隣に立つ許されざる嫉妬レヴィヤタンが映っている。
左端のモニターに映るⅢと刻まれた装甲を持つ紫色の女性トーレから、ルーテシアとレヴィヤタンとゼストが配置についた事が終わったという報告が入る。新しく展開されたモニターに映るクアットロからも準備完了の報が入った。ウーノはキーを打ちながらもそれに「ええ」と応じた。

「ふふふ、いよいよだ」

彼女の背後の椅子に座るスカリエッティから抑えられた笑い声が漏れ始める。

「楽しそうですね、ドクター」

「当り前だよ、ウーノ。何せこの私の意志と手によって世界の歴史が今より変わるんだ。心が躍らないわけないじゃないか。君もそう思うだろ、ウーノ?」

スカリエッティの言葉にウーノは笑みを返すことで肯定の意を告げる。そしてスカリエッティは椅子から立ち上がり、計画実行の合図を告げる。

「さぁ見せてやろうじゃないか。我らの思いと研究・開発の成果をスポンサーである彼らに! 楽しい楽しい祭りの始まりだぁ!」

ウーノが複数のキーを同時に打ち、計画が実行に移された。
ナンバーⅣクアットロは、自らのIS“シルバーカーテン”で地上本部のシステムに干渉、C4ISR機能をダウンさせる。
ナンバーⅥセインは、IS“ディープダイバー”によって、地上本部の指揮管制室の天井から室内に進入。特殊ガスが仕込まれたハンドグレネードを投下し、管制室の局員を無力化。
ナンバーⅤ、銀髪、右目に眼帯を付けた小柄な少女、名をチンク。彼女は地上本部の内部施設――魔力炉を、IS“ランブルデトネイター”で破壊。地上本部の防壁の出力を減衰させた。
そしてルーテシア。彼女の遠隔召喚によって地上本部周辺に無数のガジェットを展開。地上本部へと襲撃をかけさせる。
ナンバーⅩディエチは、地上本部から遠く離れた場所より固有武装“イノーメスカノン”による砲撃を実行。

「始まったな」

地上本部より少し離れた海上、そこに居たのはナンバーⅢトーレ、そしてナンバーⅦ、桃色の長髪をした少女、名をセッテの2人。援軍として現れた地上航空隊の魔導師部隊を悉く撃墜していく。
それらをただ傍観する3つの影。1つは大鎌を構え、1つは腕を組み、1つは刀身が赤黒い四角柱の剣を構えている。表情はどれも冷笑を浮かべていた。

†††Sideルシリオン†††

それはあまりに突然のことだった。陳述会もあと僅かの時間で終わると思われたとき、警備に当たっていた部隊に緊急の全体通信が流れた。内容としては“管制システムが乗っ取られた”というもので、すぐに通信が切れた。

「あまりに早かったな、陥落するのが・・・」

地上本部の防壁は鉄壁とか言われていたが、実際はあまりに短時間での陥落だった。これなら私の持つ電子戦用術式ステガノグラフィアでも容易く落とせる気がしてきた。

「くそっ。いくぞ、テメェら!」

「「「「はいっ!」」」」

それからすぐに私たち六課は行動を開始。襲撃を受けた地上本部へと走る。

「――散布されたガスは麻痺性であって命に関わるものじゃありません。今、防御データを送るです!」

先程からリインが撒かれたガスの成分を解析していて、その効果を割り出した。フォワードの子たちのバリアジャケットに、対ガス用の防御が施される。ちなみに私とシャルにそういったものは必要ない。ガス程度でどうにかなる防御力ではないからだ。

「通信妨害がキツい・・・。聞こえるか、ロングアーチ!」

『はいっ。地上本部への外からの攻撃は今のところは収まってますが、中の状況は以前不明です!』

ロングアーチから報告が入る。いくら魔力が強くともフェイト達はデバイスを持っていない。そんな状況でもし戦闘になったりでもしたらまずい。

「副隊長! あたし達が中に入ります! 隊長たちのデバイスは、あたし達に任せてくださいっ」

スバルの言葉に他の3人が頷いて応える。ヴィータは少し考えているようだが、もう心のうちでは決まっているはずだ。

『待ってください。・・・これは、地上本部へ航空戦力の接近を確認。ランクは推定・・・オーバーSランクです!』

次から次へと面倒事が増えるな、本当に・・・。

「ヴィータ。私とシャルで外のガジェットを殲滅する」
 
「セインテスト・・・。わりぃ。ロングアーチ! 空はあたしとリインが対処する! 外はセインテストとフライハイト、中には新人どもが行く!」

『了解しました!』

ヴィータからの指示に、私とシャルはガジェットの迎撃に。ヴィータとリインは新たな航空戦力対処へ、フォワードの子たちは中にいるフェイト達を助けるため、それぞれに行動を開始。私とシャルはヴィータ達と別れて、ガジェットの出現が多い場所へと来た。視界に入るのは、地上本部の障壁に張り付いて、AMFの効果で突破しようとしていたガジェット群だっだ。それにしてもガジェットの数が半端じゃなく、その上まだ増え続けている。

「うわっ、なんかすごいことになってる」

「無駄話はあとだ。さっさと片付けてしまおう」

周りに局員がいないことを確認して臨戦態勢に入る。

「うん。トロイメライ、いくよ」

≪Jawohl, Meister. Explosion≫

“トロイメライ”がカートリッジをロードする。シャルは“トロイメライ”を軽く振って、4機のガジェットⅢ型へと突っ込んでいく。

「こっから先は通行止めで~~~すっ!」

――光牙月閃刃(シャイン・モーントズィッヒェル)――

≪Schein Mondsichel≫

シャルの方は問題ないだろう。私も私のやれることをやるのみだ。そうだな・・・障壁に張り付いているガジェットの殲滅する。まずはそれからだ

「我が手に携えしは友が誇りし至高の幻想」

引き出す複製術式は、実妹・拳帝シエルの固有魔術。そして私が持ちえても制御しきれない属性を利用した一撃だ。術式発動に達しようとすると、周囲に“ギンッ”と鈍い音が一瞬だけ響く。シャルが効果範囲にいないことを確認して・・・発動する。

「・・・墜ちろ」

――圧戒(ルイン・トリガー)――

術式発動と同時に、障壁に張り付いていた約20機のガジェットが地面に叩き落された。そのまま地面にめり込んでいき、かけられた“重力”に耐えられず次々と爆散していく。

「ちょっとルシル。拳帝の固有魔術を使うの止めてほしいんだけど。大戦のトラウマが甦ってくるから」

離れてガジェット群を真っ二つにしていっているシャルがそう文句を言ってきた。

「シエルと君との間に何かあったっけか?」

「うそ、もしかして憶えてないの? 私の心慧騎士団の過半数は、拳帝の圧戒(それ)で壊滅したんだけど・・・」

そんなことあったような、なかったような・・・。

「・・・あ、もしかして“アルグレーンの戦い”・・・か?」

「そう。あの戦い。天光騎士団の初陣だったのに・・・あんな簡単に・・・。ああもう思い出したら泣けてきた・・・」

シャルは“トロイメライ”も地面に突き刺して、両手で顔を覆った。いやいやいや、そこまでガジェットが来ているんだが・・・。

「・・・なんてね。もう過ぎたことだし、戦争だから仕方ないことだったよね」

シャルは再び“トロイメライ”を手に取り、向かってきたガジェットのⅠ型とⅢ型、計19機を瞬殺。その目には、私が想像していた涙はなかった。

「でも、そんなに使わないでほしいのはホントだから」

シャルはそう呟いて、再びガジェットの群れへと突っ込んでいった。シャルのあんな悲しそうな顔を見た以上は、彼女の前ではもう使えない。

「仕方ないか・・・」

腰のホルスターに納められた“星填銃オルトリンデとグリムゲルテ”を手にする。銃口は全てガジェット群に向ける。魔力を流し、弾丸を精製。

「1機残らず撃墜といこうか・・・」

引き金を引いて、魔力弾をガジェットへと撃ち込んでいく。
 
 

 
後書き
C4ISRのことは書かないといけません・・・・ね?
Command, Control, Communications, Computers, Intelligence,
Surveillance and Reconnaissance
指揮・統制・通信・コンピュータ・情報・監視・偵察の頭文字を取ったものです。
軍事力を効果的に発揮させるために不可欠な機能のことですね。
簡単に管制システムと書いたほうが良かったかもしれません。

それと、アルグレーンの戦い、ですか。
ANSURの戦いの一つで、シャルの率いる騎士団の大戦初陣となった戦場の名前です。
“すべて緑”という意味を持つ島です。そこでシャル率いる騎士団が、アンスールの拳帝シエルと殲滅姫カノンの率いる部隊と交戦、シエルの圧戒でほぼ壊滅といったものでした。
 
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